撃墜
シンが乗るOVER DOLL ネロスは、ソニックブームを発生させることなく音速を超えた。
「間に合うか?」
〈十分です 30秒後に接触〉
「警告をした方が良いか? 地球人ならそうするだろう」
〈先ほどから日本の自衛隊通信に偽装して何度もやっています しかし 相手は今 武器をオンラインにしました 攻撃以外考えられませんね〉
「やるしか・・・無いな。大した武器を積んでないぞ。戦えるか?」
〈腕部小型レーザー砲一門あれば十分です〉
「見えた・・・あれか・・・。姿はOVER DOLLに見えるな・・・。俺がネロスに乗る前に乗っていた物にかなり似ている 色はあんなに派手じゃなかったけどな」
ネロスの前面モニターに映っている飛行物体は人型だった。それも、ニュースでやっていた戦車を想像させる重そうなロボットではなく、シンが乗るネロスに良く似たスリムな形だ。ネロスと良く似た頭部の大きなアンテナは、強力なセンサーもしくは狡猾なジャミングをするステルス装置に使われるのだろう。気体が塗装されずに銀色のままなのは、センサーに引っかからないと言う自信の表れなのか。
〈インターセプト完了〉
その銀色の機体は、正面にネロスがいるというのに気がつく様子もなく突き進んでくる。ネロスも当然高度なステルス性と、さらには光学迷彩によって映像には捕らえられないようになっている。
「まったく気が付いていないな。姿を現して威嚇するか?」
〈それはいかがなものでしょう 機体はあれだけではないかもしれません 私達木星人が地球にいることを出来るだけ隠したほうが良いと考えられます〉
「暗殺者に徹すると言う事か。それではこれからは木星人と言うことを学校でも隠すとしよう」
〈ふふふ クラスメートにはあれだけ言ったのですから手遅れだと思いますよ と 言いたいところですが 誰も信じていないので大丈夫でしょう〉
「右腕部レーザー砲用意・・・・ん?」
銀色の機体の各部のシャッターが開いた。そこからいくつもの弾頭が見える。
「動きを止めるのは後だな。両腕部のレーザー砲門全て開け」
銀色の機体の両腕、両足、胸から一斉にミサイルが発射された。一本一本は1m程度と小型ながら、100本近くの数が飛び出す。この距離で撃つと言う事は、十分東京の中心部まで届くという事であろう。
シンはモニターに映っているミサイルを、視線を動かす事によって全てロックした。
「発射」
ミサイル群の正面から、何も無いはずの空中から突如光の線が現れた。それが横切ると、ミサイルは次々に爆発していく。爆発起動をする前に打ち落とされた高性能の高出力ミサイルは、驚くほど小さな音だけを残して消えた。
シンはすばやく右手で小さなキーボードを叩く。
〈私がやりましょうか?〉
「腕は落ちてない。むしろ、プラモデルを作っていて器用になったくらいだ」
ネロスの腕から一本のレーザーが出た。それは、銀色の機体の腰部を貫通した。
〈火気管制システム破壊成功 これで相手はただの飛行機です〉
銀色の機体はあたりを警戒するような動きをしていたが、システムのダウンを感じ取ったようで向きを180度変え、高速で西に向かって発進した。
「では遊園地に帰るとしようか」
〈止めを刺すか、鹵獲することを強く推奨しますが〉
「無駄に殺したり捕まえたりしなくていい。また来たら追い払うだけだ」
〈木星人っぽくない意見ですね 邪魔だと感じたものはその瞬間に消し去るのが良いのでは?〉
「俺はいま地球人だからな。学校にも通っている」
〈ふふふ シンは木星より地球の方が好きになってきたのではありませんか?〉
「そんな事は無い。所詮原始人達の星だ」
〈では 今も羽月の事を原始人だと言えますか?〉
「・・・・・・」
〈羽月はあなたに好意を抱いていますよ〉
「そんな訳は無いだろう。俺は一言も好きだと言われていない」
〈地球人 特に女性の方からは言い出しにくい物なのですよ〉
「ふん・・・。俺をだます気だろ? そんな嘘に乗って俺は羽月に告白したりはしない」
〈おや 好きだと認めるのですか?〉
「違う! ・・・俺は木星人だ。好きならすぐに伝える」
〈木星人と地球人の壁・・・ですか? 祖先を同じくする人間なのにおかしな事ですね〉
「ふぅ・・・。お前は本当に良く喋る。帰ったら技術部に改良を加えるように伝えておこう」
〈木星に・・・帰るのですか?〉
「・・・・行くぞ」
ネロスは光学迷彩と大気の摩擦で美しく一瞬輝きを放ち、飛び立った。
遊園地ではひときわはしゃぐ羽月の姿があった。
「ねえ! ねえ! またあれ乗ろうよ!」
「ふえぇぇぇ。もう美鈴は疲れちゃったぁ。光美ちゃん行ってきてぇ」
「私ももういいわ・・・。朝9時から今は16時前。さすがに・・・」
「もうっ! 根性なし! それじゃああの二人は?」
「とっくにゲーセンに逃げていったわよ・・・」
「じゃあ一人で行ってくるもーんだ」
羽月は閉園間際で自分達以外にほとんど人がいなくなった遊園地を、ジェットコースターに向かって駆けていった。それを寂しそうな目で見ながら光美はため息を付いた。
「から元気ね・・・。切ないね」
「シン君どこ行ったんだろう・・・。戻って来ないね。本当に怒って帰っちゃったのかなぁ・・・」
「そんな怒り方する人じゃないと思ったけど・・・。腹に据えかねていたって事もあるかもだね・・・」
光美がまたため息を付くと、美鈴も同じようにする。
「恋愛って難しいね・・・。美鈴はまだ・・いいやっ!」
「私もまだ彼氏いらないー」
二人は笑うと、視線を下げてしばらく押し黙った。
「おわぁ! 見てよ光美ちゃん! 羽月ちゃんが先頭だよ。おまけに誰も乗ってないよぉ」
美鈴は、建物の影から現れて上っていくジェットコースターに気がつき、それを指差した。羽月だけを乗せたコースターでカタカタと音を響かせて上って行く。
「そりゃそうだよ。もう遊園地閉まっちゃう時間だからね。従業員さんも早く終わりたかっただろうね、あはは」
「あはっ! でも一番先頭なんてうらやま・・」
[ズガーン ガシャーン]
「きゃぁぁぁ!」
「いやぁぁっ!」
突然響いた大きな音に、美鈴と光美は耳を塞いでしゃがみこんだ。何か大きな金属音の後、破壊音がした。
「何・・・。雷?」
光美は恐るおそる顔を上げ、立ち上がって周りを見回す。美鈴はいまだかがんだ姿勢のままで震えている。
「うそ・・・。うそ・・・・。うそだ・・・。・・・っ、きゃぁぁぁぁ! は・・・羽月!」
その声で顔上げた美鈴は、真っ青な顔をしている光美を見た。気が強く、普段動揺などを見せることのない光美はひどくうろたえている。
「どうしたの・・・光美ちゃん・・・」
「あ・・・あ・・・あそこっ!」
光美は美鈴に抱きつくと、空中を指差した。
「きゃぁぁぁぁ! は・・・羽月ちゃ・・・・・・・・・・・・・・」
「美鈴!」
光美が抱きしめていた美鈴から突然力が抜けた。気を失ってしまったようだ。




