<第一部 マンハッタン島編 第五章『ラフ・メンバーズ』シーン4-2>
シーン4-2)
「…君に荷物を預けるのが礼儀なのか?それとも…」
デモスは、エリスの姿を認めて質問した。エリスはにこやかに答える。
「訊いてくれてありがとう。ボクは荷物係じゃないよ。チームメンバーだ」
「そうじゃないかという気がした。気を悪くしないでくれ。ラファエロ・デモスだ」
「いいよ。日常だ。エリス・C・ダベンポート」
握手する二人。
それは良いが、ほかの2人が来ていないことを解決せねば。
「どこではぐれた?ミスター・サイディスとミスター・アイゼンバーグとは、いっしょに汽車で来たのだろう?」
「マンハッタンまでは同じ汽車で来たのですが…」
グランドセントラル駅で見失ってしまったという。大司教の葬儀があるためか、人が予想以上に多かったことも災いした。
「バーナビーさん、『白の組織』かもしれません!」
アーロンが騒ぎ出した。真剣な顔で。
「…なんの話だ」
「拉致されそうになったんですよ!木曜日、先週の、サンクタムの前で!」
『白の組織』、南部の白人至上主義結社。バーナビーが記憶から情報を取り出しているうちにもアーロンが騒ぎ続けている。
「ロッジ議員との面会の後です!“君をスカウトしたい”みたいな…議員の計画を知っているみたいで、セナさんといっしょに走って逃げたけど」
「まず落ち着け」
「あ、そういえばセナさんは?メンバーでしたよね?」
話のころころ変わるやつだ。と、思う間もなく、アーロンの口を手で塞がなくてはならなくなった。
「興味深いお話ですねぇ」
入室してくる紳士。
「ンモガ、モガ?」
とアーロンは一瞬だけうめいて、すぐに黙ってくれた。
午後3時45分。
オグデン・ミルズ・リードが、この作戦部室にもやってきたのだ。
「ミスター・デモスから聞きましたが、つぎの日曜に出航だそうですね?ヨーロッパはまだ戦争中だというのに、外交官の育成、急いでらっしゃるんですね~?」
――バーナビーは、デモスに目で問い詰めてみる。
「エレベーターの位置を尋ねたら、親切にもこの部屋まで案内してくださって…バーナビーさんとはお知り合いとのことでしたので、問題ないかと思ったのですが…?」
事情をある程度察したのか、デモスも気まずそうだ。
「彼はマスコミだ」
もっとも簡略な説明だが、これで十分のはずだ。
「それに、ミスター・サイディスというのはあの神童サイディスですか?ますます興味深い…さらに『白の組織』まで絡んでいる、と」
マスコミの権化であるオグデンは、獲得した情報をその頭脳の中でつなげているようだ。
「まだ名前の教えてもらっていないそちらの彼は」
アーロンを手のひらで指してオグデンは、
「『白の組織』に敵対的買収を仕掛けられたらしい…。つまり、共和党ロッジ議員の秘書であるバーナビー氏の外交官育成計画とやらによって損失をこうむるのは、『白の組織』かあるいは『組織』と親密そうな何者か…」
滔々と推理を披瀝する。バーナビーと調査団メンバーたちは黙ったまま見守る。
「まぁ。単純に考えればウィルソン大統領でしょうけど」
オグデンの推理はすぐに結論に至った。秘密計画の目的を半分言い当てられている。バーナビーは無表情を保ったまま思案を巡らせる。
オグデンは記者であり編集者であるが作家ではない。伏線を張り巡らせた奥にある意外な真実など求めていない。大衆に分かりやすい表面的事実があれば、それを分かりやすく報道するのが使命だ。だから、下手な言い訳は逆効果になる。
そもそもニューヨーク・トリビューン紙は共和党の敵ではなく味方だ。ロッジ議員の味方で、バーナビーの味方だ。取引の仕方によっては調査団計画に巻き込むことも可能だが…。




