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番外編 ショコラの国(前編)

番外編です。

本編よりもう少し経った頃のイメージですが、せっかくバレンタインの時期なので



 私は服装を整え、鏡の前で白いとんがり帽子をしっかりと被りなおした。

 そう、今日は待ちに待った大切な日なのだから……!!



 ホテルのロビーに下りて外に出掛けようとした時、視界に見知った金髪が見えた気がした。

 ……うん、気のせいだ。たまたま、同じ金髪の人がいるだけだろう。

 私は足早に外へ出ようとした瞬間、その金髪は私のすぐそこまで近づいてきた。



 「おはよう、青藍。今日はずいぶん早起きなんだね」

 「……おかしいな、私ってばまだ寝ぼけてるのかしら。リオールがこんなところにいるわけないじゃない」

 「まだ寝ぼけているの??それじゃあ、目覚めのキスをしてあげる」

 「わー本当にリオールだー夢じゃなかったー」



 そこには正真正銘、美しい金髪に吸い込まれるような青い瞳をして、キラキラと輝くような笑顔を私に向けている男――リオールがいた。

 私はまさかこんな場所で出会うとは思っていなかったので、思わず距離を取って身構える。



 「何の用??冬降ろしはちゃんと成功させてるし、環境省の副大臣に文句を言われる筋合いはないわよ」

 「うん、相変わらず素晴らしい冬降ろしだね。街の人も喜んでるし、自然災害も起こらないだろうね」

 「……は??ならどうして」

 「そんなの決まってるでしょ。青藍に会いたいから会いに来たんだ。今回は仕事でここに来たわけじゃないんだよ」

 「そんなに環境省って暇なの??」



 今回の冬降ろしも失敗なく例年と同じ、安定した冬を呼び込むことができている。

 だから、リオールになにか言われる身に覚えはない……と思っていたら、リオールはただ私に会いたいから来たらしい。

 むしろ、なんで私がこの国にいる事がわかるんだろう??



 「それよりもショコラのお祭りに行くんでしょ??僕も一緒に行く」

 「来ないで。これは遊びじゃないのよ。欲しいショコラを的確に、素早くゲットしないといけないんだから」

 「ふーん??でも、全部のベースに行くなら僕も」

 「結構よ。こういうのは1人で周ったほうが動きやすいの。」

 「あれ、青藍は知らないんだ??じゃあ、あとで僕に泣いて縋ることになるよ」

 「何のこと??って、もうこんな時間!!じゃあねリオール!!」



 私は今回、ショコラが有名なこの国で3年に一度開かれる最大規模の”ショコラフェスティバル”に参加しようとしているのだ。

 毎年この時期にショコラのお祭りはあるのだが、3年に一度開かれるこのフェスティバルでは珍しいショコラや、ショコラティエが丁寧に作った限定の繊細なショコラを楽しむことができる。

 しかも、会場では試食も沢山用意されるので甘い物が好きな私にとっては天国のようなお祭りだ。

 


 次はこの街に行って欲しい、と課長からの指令の手紙を見た時は思わずその場で大きくガッツポーズをしてしまった。

 それからというもの、少しずつお金を節約してショコラを買う資金を集めていたのだ。

 今回ばかりは本気なので、リオールに構っている暇はない!!



 リオールと別れて意気揚々と会場に着いた私はお目当てのショコラのお店を周って行く。

 多くの人々で賑わっていて、ほとんどが女性客だった――恐らく私のように自分用にショコラを買っている人も多いはず!!

 だが、とあるブースに行こうとしたところでイベントの関係者らしき男性に止められてしまった。



 「すみません。ここ先のブースは条件を満たした方だけが入場できるんです」

 「条件??そんなことパンフレットに書いてありましたか??」

 「ちょっと印刷ミスで小さく書かれてしまったんですよ。……ほら、この端っこの方に」



 なぜ止められたのか不思議に思っていると、男性は丁寧に説明してくれた。

 私は持っていたパンフレットを隈なく見るがそれらしきものは見当たらない……男性がパンフレットの端の方に書いてある小さな文章を指差した。

 


 「”こちらのブースはパートナーとご一緒の方だけが入場できます”……??」

 「ええ、このお祭りは”大切な人に気持ちを贈る”という趣旨のイベントですので。今年は男女のパートナーだけが入れるブースを作ろうという事になり、新たに設置したんですよ」

 「……そうだったんですね」

 「はい、なのでパートナーの方がいらっしゃらない方は入れられないんです……申し訳ありません」

 「……わかりました」



 私は俯きながらその男性から、そして行きたかったブースから背を向けて歩き出した。

 だが、もう一度パンフレットを見ると、美味しそうなショコラの写真に丸が付けられている。

 その丸は何個もあって、昨日わくわくしながら気になったショコラに手あたり次第印をつけたのだ。


 そうだ、私はこのショコラの為にここにいる……もう手段は択ばない。

 何が何でも欲しいものは手に入れる!!




 「というわけで、とても、すごく、言いたくはないんだけど、今日だけ……いや、数時間だけパートナーの振りをしてくてない??」

 「もちろん。青藍のほうから恋人になって欲しいって言われたら、断るわけないだろう??」

 「いや、振りだから。パートナーの”振り”だからね!!」

 「はいはい。じゃあ行こうか――僕のお姫様」



 ホテルへ戻り、まだロビーで優雅にコーヒーを飲んでいたリオールの元に戻ってきた。

 恐らく、リオールはこうなるとわかっていたんだろう……とても勝ち誇った笑みをしている。

 その表情にカチンとしたが握った拳はまだローブの裾に隠したままだ――堪えろ、私!!

 だが、なんとかあのブースに行くことが出来そうだ!!



 私の肩に馴れ馴れしく手を回してきた手を払ったが、すぐにまた肩に手を回してきた。

 上機嫌で微笑む素敵スマイルに、街の女性たちがうっとりとしながらこちらを見てくる。


 我慢するのよ、私……!!

 全てはそう、ショコラの為なんだから!!



 再び甘い香りのする会場に戻ってくると、真っ先に例のブースの入り口へと向かう。

 私の隣にいるイケメンを見た先ほどの男性は快く中に入るように言ってくれた。



 「やった!!入れた!!」

 「よかったね、青藍。さぁ、どこに向かうんだい??」

 「そうね……まずは反時計回りに回るわよ!!」



 私は興奮気味にお目当てのお店に行こうとしたが、いまだに肩に置かれているリオールの手が私を引き留める。

 すると、手に持っていたパンフレットをリオールに奪われる。



 「僕、このお店に行きたいんだ。あとで一緒に来てくれる??」

 「え??ああ、いいわよ。でも、私のショコラを優先にしてもいい??」

 「もちろん。時間指定があるからそれまでに行きたいんだ」

 「わかった。ほら、早く行こう!!」



 私はリオールが指差したショコラのお店をちらりと軽く見てから了承する。

 まぁ、リオールがいなかったらこのブースには入れなかったし……それぐらいなら付き合ってあげよう。

 その後、なんとか自分のお目当てのショコラを買う事ができたので、私の気持ちはホカホカしていた。



 「ああ……ショコラがこんなに沢山!!幸せだわ……」

 「……」

 「リオール??どうかした??」

 「いや、何でもないよ。僕の行きたいお店にそろそろ行こうか」



 なんだか先ほどより静かになっていたリオールに声を掛ける。

 ……少し疲れたような顔をしているリオールにまだ口を付けていない紅茶のボトルを渡すと、弱く笑いながらお礼を言って受け取った。



 「人ごみに酔ったの??体調が悪いならホテルに戻ろうよ」

 「平気だよ。それより行こう」



 よく見ると、色白な顔がそれ以上に白くなっていた。

 ホテルに戻ろうとしたが腕を掴まれて、リオールが行きたいというお店へと向かう。



 リオールが足を止めた場所はとある可愛らしい建物の前だった。

 看板には”パティスリー”と書かれている……どうやらケーキ屋さんのようだ。

 だが、お店の中のショーケースに商品は並べておらず、エプロン姿の女性が沢山いるのが見える。

 お店のドアには”ショコラスイーツレッスン教室”と書かれた紙が貼られていた。



 「えっと、君がお菓子作りするの??」

 「まさか、青藍が作るんだよ」

 「……は??」


 リオールが行きたいと言っていたのでお菓子作りに興味があるのかと思ったのだが、どうやら私をレッスン教室に行かせるようだ……なんで??

 私は思わず回れ右をしようとしたが、リオールに肩を掴まれてお店の中へと押し込もうとしてくる。



 「なんで私が!?」

 「僕はね、青藍の手作りのショコラが食べたいんだ。だから、作ってくれるよね??」

 「私の作ったものより、お店で売ってるのを食べたほうが美味しいってば!!」

 「そんなことないよ。青藍の気持ちが込められた物が僕にとって何よりうれしいよ」



 抵抗しようと足を踏ん張ったが、男性の力に敵う訳もなく。

 最終的に持ち上げられて、私は問答無用でお店の中に入れられた。

 お店に入ってきた金髪のイケメンにお店の中にいた女性たちは釘付けになって、顔を赤らめている。



 「え、えっと、レッスン希望者の方ですか??」

 「はい、彼女が。……それじゃあ、終わる頃に迎えに来るから頑張ってね」

 「ちょっと、リオール!!」



 顔を赤くした受付の女性ににこやかに言うと、リオールは足早にお店を後にした。

 イケメンがいなくなると、周りの女性達から残念そうなため息が聞こえてくる。



 「……では、こちらにお名前を書いていただけますか」

 「……はい」



 受付の女性が無表情で私に名簿の紙とペンを差し出してくる。

 私は大人しく、自分の名前を書いた。



 私で定員が一杯になったのか、すぐにレッスンが始まった。

 ふわふわの白いローブととんがり帽子を取って、貸してもらったエプロンと三角巾を付ける。

 お店の中の厨房に入ると、5人のパティシエが待機していている。

 軽い挨拶と作るスイーツについての説明を受けてから実習が始まった。



 「では、皆さんには前の黒板に書かれているメニューから好きなものを選んで作っていただきます。特別な工程は無く、簡単に作れるので安心してください。」

 「何かわからないことがあれば近くを巡回しているパティシエに気軽に聞いてくださいね。では、始めましょう」



 黒板に書かれているメニューは生チョコ・トリュフ・ブラウニー・ガトーショコラ……レシピも書かれているので、どれがいいかを考える。

 どれを作るか迷っていると、1人のパティシエが近づいてきて話しかけてきた。



 「えっと、青藍さん??どれを作りますか??もしよければ、追加で材料を追加してもいいですよ。相談してくれれば私達がレシピを調整して教えますので」

 「いいんですか??……それじゃあ、痺れキノコ入れてもいいですかね」

 「し、痺れキノコ!?誰かを暗殺しようとしてます!?」



 材料を追加してもいいと言われたので、ふと思いついたのが痺れキノコだった。

 チョコでキノコの味が誤魔化せるし、ナイスアイデア!!、と思ったがパティシエに止められてしまった……腹いせとしてリオールをしばらく動けなくしてやろうと思ったのに。



 「でも、私こういうの苦手なんです。センスが無いというか……いつも地味な出来上がりになるし。私みたいな素人が作ったショコラよりもプロが作ったショコラの方が素敵だし美味しいのに」

 「……大丈夫です。こういうのは相手を思って作ることに価値があるんです。気持ちがこもった物を渡せば青藍さんの気持ちはちゃんと相手に伝わりますよ」

 「相手を思って作ること……。あの、私――」



 ふと、リオールの顔を思い浮かべて、私はパティシエの人にとあるお願いをする。

 少し驚いた表情をしていたが、パティシエは笑顔で私のお願いを聞いてくれた。



 

私も自分用に沢山チョコを買いました。

バレンタインっていいな・・・ずっとバレンタインのチョコ売って欲しい

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