砂漠の王様
私は今……とんでもない量の汗をかいている。
なぜかというと、砂漠に囲まれた国に来ているからだ。
国に来る途中に海の上に流氷を発見して、なんだか珍しいなー涼しげだなーと思っていたあの時に戻りたい。
先程お城の人に聞いたら今日は35度だという……だが、この砂漠の国ではまだ涼しいほうなんだとか。
だが、私がこれほどまで汗をかいているのは気温のせいじゃない。
王座にふんぞり返って座る王様に、私はもう一度申し上げた。
「あの、お気持ちは分かります……。でも、冬降ろしをしないといけないんです」
「何度言われても余の気持ちは変わらん!!冬なんて来なければいいのだ!!」
かれこれ1時間はこのような会話をしている。
だが、いくら言っても王様は駄々……いや、冬を拒絶してくるのだった。
事の始まりは一時間前……。
訪れた場所は砂漠に囲まれた大きな国だった。
大きな砂漠、周りは山と海に囲まれていてなんだか不思議だ。
国の中心には大きな川が流れていて、海から流れてきて再び海へと流れ出ていくという。
その川を眺めながら訪れた国はとても栄えていた。
見ている限り、大富豪が住んでいるような豪華な作りの住宅が所狭しと並んでいる。
だが、国の端のほうにはボロボロの家が見える――貧富の差が相当あるようだ。
無事に入国も済んで、さっそく国王様に会いに行ったのだが、私が冬使いだというのを聞くと王様はいきなり不機嫌になってしまった。
「余は冬が嫌いだ。だから、冬降ろしをするな!!いいな!?」
「あなた、いくら何でも冬をなしにするなんていけませんよ。この冬は5年に一度やってくる貴重な冬なのですから」
「なぜだ!?余の言葉は天の言葉、神の言葉と言ってもよい。そんな余の言葉が聞けないなんて神に背いているも同然!!この冬使いを牢屋へ入れてしまえ!!」
「あなた!!」
牢屋に入れろ、と言われた時は焦ったが、王様以外は呆れたような顔をしていて私を本当に牢屋へ入れようとしなかった。
王様の隣にいた王妃様が必死に説得して、なんとかこちらの話を聞いてもらえることになった。
「私達、季節使いはちゃんと意味があって季節を届けています。今回だって、何かがあるからこの国へ来たのです」
「では、意味とは??何かがあるとは何があるんだ??」
「そ、それは私にもわかりませんが……。ですが、季節のプロである私達の上司がちゃんと考えて、私をこの国へ行くようにと命令したんです」
「お主でもわからないだと??……とにかく、冬はいらん!!それとも金か!?金を出せば冬は無くなるのか!?」
まともに話せるようになったのに王様は大層お怒りになり、再び頬杖をついてそっぽを向いてしまった……。
これはもう私ではどうにもできない……こうなったら最後の手段!!
「あの、課長に――上司に電話して相談してもいいですか??」
私は弱弱しく手を上げて王様に提案した。
こうなったら課長から、この我儘王様にガツンと言ってもらおう!!……伝えるの私だけど。
***
「うんうん、なるほどねー。いるんだよね、そういう困ったさん。夏嫌いーとか、寒いのいやだからーって駄々こねる馬鹿王が」
「な、なんてこと言っちゃうんですか!!馬鹿王なんて言っちゃだめですよ」
「青藍さん、近くに人いない??その馬鹿王って聞かれたら流石に不敬罪だからあっという間に首ゴロンだよ」
「ええ!!……えっと、大丈夫です。誰もいないので……」
課長からあの王様も納得するビシッとカッコいい言葉がもらえるかと思ったらそんなことなかった。
思わず私も馬鹿王と言ってしまったが、首ゴロン、という単語を聞いて冷や汗がどっと出た。
「しかもー、最終的にお金で解決しようとしてるんですよー」
「やだねー、お金持ちは。でも、これ以上は青藍さんの身が危険になるね」
「でも、冬降ろしたほうがいいんですよね……ほんの少し内緒でやっちゃいます??」
「……いいえ、冬降ろしは中止です。こうなったら馬鹿王からお金をたんまりもらってください」
「え!?いいんですか!?」
「こんな機会なかなかありませんからね。金貨1000枚くらい貰っちゃいましょうか」
課長は案外あっさり、冬降ろしを中止にすると言った。
そして王様に請求する金額を聞いて、私は思わず受話器を落としそうになる。
「そんなにお金要求しちゃっていいんですか!?」
「いいですよ。恐らくこれぐらいの金額なら、あちら側からしたら端金レベルらしいですので」
「金貨1000枚が端金……いつか、この国が滅びそう」
「そして、その金貨は青藍さんが持っていてください」
「はい!?」
とんでもない金額に頭がフラフラしていたが、それを私が所持する??
それを聞いて頭の中は大爆発しそうになった。
「そんな大金、持ちたくありません!!それなら早々に課長の元へ……!!」
「いいえ、青藍さんが持っていてください。使いたいなら使っていいですよ。その代わり、青藍さんが正しいと思う使い方をしてくださいね??」
「正しいと思う使い方??それって……」
「それから、本当に危険だと思ったらすぐにその国を離れるように」
「危険??どういう……って切れちゃった……」
課長からなんだか意味深な言葉を言われたので追及しようとしたが、すぐに電話は切れてしまったので聞けずじまいだ。
とりあえず、受話器を置いて再び王様の元へと向かい、先ほどの会話を伝える。
「あの、上司と話したんですが……お金を……えっと、金貨1000枚出してくれるなら冬降ろしは中止にしていい、と言われました……」
「なんだ、そんな端金でいいのか。ならば払おう」
私はビクビクしながら王様に金貨の事を言ったのだが、あっさりと差し出してきた。
本当にこの金額を端金ってどうなってるんだろう。
目の前に用意された金貨の山を見て、なんだが私まで金銭感覚がおかしくなりそうだ。
「あなた、ちなみにそのお金はどこから出すんですか??」
「ん??うーむ、そうだな。貧乏人への支援金からだそう」
「そんな……!!あれが無くては貧民街の者達がひもじい思いをしてしまいます!!」
「そうは言っても、1か月分だろう??1か月ぐらいなら多少貧しくても我慢させろ。死にはしないだろう」
そう言って王様は豪華な椅子から立ち上がると、話は終わったとばかりにどこかへ行こうとする。
王妃様は考え直してもらおうと、必死に王様の腕にすがりついていた。
「いいえ、考え直してください!!」
「ええい!!うるさいやつめ!!お前は黙って余の言う事を聞いていればいいのだ!!」
「あなた……!!どうか、民を見捨てないでください!!」
謁見の間には悲痛な王妃様の声が響き渡る。
……これはとんでもないことになってきているのかもしれない。
とんでもない量の汗でローブがびっしゃりな事に気づいたのは、謁見が終わって部屋へと通された時だった。
外は少し暗くなっていて、窓からは昼間と違うひんやりとした風が入ってくると、汗が冷えて寒かった。
私は使用人の方から渡された異国風の白い布の衣装を着ていた。
この暑さで、ふわふわのローブを着るのは自殺行為だったのでありがたい……。
使用人さんが、「このお召し物、王妃様から冬使い様へお渡しするように言われたんです」と言われ、あんな状態なのに気を使って頂いて申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「それにしても、課長は何を考えてるんだろう」
私はベッドに横たわりながら、すぐそばに置いた鞄へ目を向ける。
いつもなら適当に置いておくのだが、この中には金貨1000枚というとんでもない大金が入っている。
「うーん……もう眠いし、明日考えよう……。お休み、鞄くん」
そうして私は初めて、鞄を抱きしめながら眠ることになったのだった……。
今年の冬は暑かったり異常・・・皆様、体調にお気をつけて。




