キュリア6
二人目の娘、リメアが生まれてから五年がたった。
ついにエクスカリバーも手に入れ、遠征に同行する者たちにも十分な魔力武具がそろった。
アリサが十五歳になるまであと二年しか無い。
「ギャーッ、お母様ストップ!!」
ブランコに座っているアリサが悲鳴を上げる。
「これで最後だ」
私はかけ声と共に魔力操作で勢いを付けてブランコを漕いだ。
二人を乗せたブランコはロープがつながっている木材より高く上がり、そのまま木材の周りをくるんと一回転した。
「お、お母様なんて大っ嫌いだ!」
少しやり過ぎたようだ。
アリサはブランコの勢いが弱まると飛び降り、側で私たちを眺めていたリメアに抱きつきながら睨んできた。
私はブランコから降り、二人の側まで行ってしゃがむ。
「悪かった。今度はゆっくり漕ぐからもう一度乗るか?」
「絶対いや!」
「お姉ちゃんが乗らないなら私がお母様と乗る」
アリサに拒否されたので今度はリメアとブランコに乗った。
さすがに私も五歳の娘相手に大回転のような大技は使わない。
常識的な速度でゆっくり漕いだ。
楽しそうに笑うリメアを見てアリサが何かブツブツ呟いていた。
その後少し機嫌の悪いアリサにおやつを多めに切り分けて機嫌をとる。
明日、魔王討伐に出発する。
魔王が封じられている場所へたどり着くには、犠牲を無視して強行すれば半年もかからないだろうが、全員の生還を目指すならおそらく一年はかかるだろう。
そして魔王を倒せたとしても今いるモンスターが消えるわけでは無い。
帰りはあの子を連れて森を抜ける事になるから帰ってくるのにも一年は必要だ。
今までは遠征と言っても頻繁に領地に帰ってきていた。
二年も会えないのか・・・
私は二人を抱きしめた。
時は止まること無く流れ、必ず朝がやって来る。
「本当に行くのかいキュリア・・・」
「ああ旦那様よ、私は行かねばならぬ。この子たちの為にもな。しばらく留守を頼むよ」
「二人のことは任せてくれ」
私は旦那様と抱擁を交わし、次は娘たちの前でかがんだ。
「アリサ、リメア、旦那様の言うことをよく聞いてよい子で留守番しているのだよ」
「・・・」
「お母様いってらっしゃい、無事に帰ってきてね」
リメアは笑顔を浮かべ、アリサはそっぽを向いた。
「アリサ、アリサはいってらっしゃいと言ってはくれないのか」
私はアリサの頭をなでながら問いかける。
「それってお話に出てきた良くないフラグなのでしょ。だから言わない」
そっぽを向いたままうつむいてしまったアリサをリメアと共に無言で抱きしめる。
私は必ずおまえたちの元に返ってくる。約束だ。
私はそれを声には出さず、ただ抱きしめていた手に力を込めた。