謀略編・第四十話
謀略編・第四十話、更新します。
今回は能登が舞台になります。
永禄五年(1562年)八月、能登国、七尾城、明智光秀――
七尾城は僅か半日で陥落した。と言うのも、一揆勢によってかなり攻め込まれていたからである。武田家の到着が数日遅れていたら、全滅していても不思議はなかったほどに。
ただ一揆勢も加賀武田家に敵対するほどの蛮勇は無かったらしく、あっさりと武器を手放して投降してきた。
『畠山家の支配は嫌だ。でも加賀守様に歯向かって根切りも嫌だ。どうか民にはお優しいと聞く加賀守様の下で田畑を耕して暮らしたい』と主張してきたのである。
加賀守様はあっさりと無罪放免にされた。家に帰ってよし。もし生活が辛くなれば、加賀へ逃げてこい、と申し付けた上でだ。
これなら結果がどう転んでも、加賀武田家に損はない。民の減少は税収入の減少を意味する。これを補うために増税しないといけないが、それをすれば民が逃散するのだ。それは能登の弱体化を加速させる。
税を抑えれば軍の編成は難しくなる。結果、戦力は減少し、能登は弱体化する。
善政を敷こうにも、加賀守様を超える善政など、簡単には出来ん。つまり能登は詰んだのだ。
その上で、温井、三宅の両名は汚れ役を見事に果たしてのけた。畠山家当主義綱と先代当主義続は、衆寡敵せず乱戦の中で討ち死。首だけは取り返した、という筋書きだ。
首実験に差し出された二つの首は、無念極まりないとばかりに両目を開いていた。顔にも幾つか切り傷が見受けられる。確かに斬り合いの最中に命を落としたのだろうな。
主父子を守る為に七尾城に残っていた対馬守(長続連)殿は、押し寄せてくる一揆勢を抑える為に最前線で指揮を執りながら奮闘していた為、運悪くその場に居合わせる事が出来なかったという。
加賀守(武田信親)様は『夏場故に御遺体が傷むのが早い。御二人も傷んだ御体を見られたくは無かろう。御遺体は焼酎で清めた後に御家族と面会。その後、すぐに菩提寺で弔ってさしあげよう』と仰せになられた。
対馬守殿は加賀守様の御判断に涙を流しながら御礼の言葉を申し上げられていた。
対馬守殿も、主君の死に不審を抱いているのは間違いない。そもそも温井と三宅は追放された立場なのだ。恨み骨髄で当然なのは馬鹿でも分かる。
だが、それを口にはしない。しても意味が無いと判断しているのか、それとも堪えて時機を見るべきと判断しているのか。ただ葬儀が終れば、加賀守様が動き出されるのは間違いない事だけは断言できる。
そして長兄弟の案内による六角承禎殿の姫君である艶姫様の救出は無事に終わった。一揆勢が奥へ侵入する前に、武田家が来たからである。まさに間一髪という状況であった。
ただ夫と舅は討ち死。子供はまだ幼く八歳。不安に苛まれておられても、全く不思議はない。
御遺体との面会を済ませた後、すぐに加賀守様と御正室である艶姫様との間で話し合いが行われ、艶姫様は御子様とともに御実家の近江へ避難される事になった。艶姫様から見ても、能登畠山家はあまりにも危険すぎるとの事である。舅や夫に対する家臣団の不満が尋常では無かったそうだ。
このままでは子供の命も危うい。どうかお助け戴きたい。あまりにも実直な物言いではあるが、それほどまでに追い詰められていたのであろう。加賀守様と実父である承禎殿とは良く知る仲である。その御方の娘御と御孫殿を御救いするのは当たり前の事である、と返して艶姫様の信用を勝ち取られた。
そして能登の地は加賀武田家預かりとなって治められる。将来的に能登が落ち着いた頃に後継ぎの嫡男が戻ってくる事も宣言された。能登の状況次第では、元服前に帰国する事もあり得る、と。この決定に能登畠山家家臣団は素直に従ったのである。
確かに武田家の支配下に入るのは間違いない。だが武田家の治世は安定している事で有名だ。厳しい面はあるが、しっかりと内政を行う御家としても名高い。これまでよりは安心できる、恩恵に預かる事が出来る、と判断したのかもしれない。
加えて加賀守様と、後継ぎの外祖父である六角承禎様との繋がり。これも良い方向に働いたのだろう。
家臣団に対して、加賀守様からの加賀武田家の仕置や俸禄制についても説明が行われた。その上で、彼等には選択の自由が与えられた。
所領を返上して俸禄を受けとり、暫くは加賀武田家で手柄を挙げるか?それとも領地に拘る代わりに、自ら内政に邁進するか?である。
返上された領地は加賀武田家で管理し、内政を進める事になる。そして後継ぎである次郎(畠山義慶)殿が戻った後は、能登畠山家直轄領として組み込まれる事になる。あくまでも加賀武田家は、一時的に所領をお預かりするだけに過ぎないのだ。
「やれやれ、これである程度は篩にかける事が出来たな」
白湯で喉を湿らせながら、加賀守様がのんびりとした口調で呟かれた。
此度の騒動以前から、能登国内に溜まっていた不満。重臣達を始めとした国人衆全ての希望を聞き届ける為に、数日という時間が必要だったからである。
近習である河田(河田長親)殿が毎日、御傍に控えて目通りの内容を書き留めていく。
性格も真面目で忠義者。私に娘がいたら嫁に出していただろうな。
「温井、三宅は旧領回復に加えて所領の追加を願ってきたな。まあこちらの予想通りではあったがな」
「こう申しては何ですが、図々しくは御座いませぬか?」
「構わんさ。十兵衛(明智光秀)、俺の目論見をどう見る?」
私としては、加賀守様の御配慮に賛成の立場だ。
温井も三宅も、欲を出した故に首を絞める事になるのだから。
「温井も三宅も、目の前の褒美に目が眩んで先を見る事を怠りました。正直に申し上げますと、此度は所領を返上する方が正解。所領を持ち続けるのであれば、相応の苦労――政に励む事が要求されましょう」
「そういう事だ。長親、分かるか?」
「……もしや、民、で御座いますか?」
河田殿の答えに、加賀守様は満足そうに頷かれた。
そう、加賀武田家は人頭税が基本なのだ。温井や三宅は、その事を失念している。欲に目が眩んだばかりに。
「弱小の者達、実入りが悪い土地の者達、逃散により民が激減した者達はこぞって所領を返上。俸禄制を志願してきましたが、そこまでお考えになられていたので御座いますか?」
「そういう者達は加賀武田家に忠実に仕えるだろう?手柄を挙げれば、それまで以上の領地を得られるという希望が残されているのだからな。そして能登に未練があるのなら能登に所領を、未練がなければ加賀に所領をくれてやれば良い。俺としてはどちらでも構わんのだからな。もっとも俺が彼等の立場なら、加賀で手柄を挙げる事に賭けるがな」
「加賀守様の仰せの通りに御座います。ところで河田殿、此度の加賀守様の策、他にも利が有る事に気づかれたかな?」
私の問いかけに考え込む河田殿。
一方で加賀守様は、面白そうに私に顔を向けておられた。
どうやら私の読み通りだったようだ。
「国人衆が加賀武田家に移る……もしや、反乱を防ぐ?」
「御見事。これより暫くの間、能登国から能登畠山家の血筋が消える事になる。下剋上を起こして、国を奪う最適の機会。当然、自らに同調させて国人衆を自分の味方につけねばならない訳だが、その国人衆が軒並み加賀武田家に移っていたら?」
「率いる兵が少なくなります」
そういう事だ。私はしっかりと頷いて見せた。
反乱を起こす側の兵が減れば、それだけ反乱が失敗に近づく事になる。或いは反乱そのものを断念せざるを得なくなるだろう。
「そして反乱を起こしうる、不満分子となりうる者達を河田殿はどう見る?」
「温井に三宅?」
「欲にまみれた者達なら、動こうとしても不思議はない。だが与えられた所領に住んでいる民が少なく、人頭税が思ったよりも集められない。兵は常備兵を義務付けられているとなれば……分かりますかな?」
租税の少ない土地で常備兵の義務化。思うように兵を集められないのは当たり前だ。
何より贅沢な暮らしを営もうとすれば、そちらにかまけて、常備兵にかける銭を削るしかなくなる。
つまりは兵が少なすぎて、謀反を起こしたくても起こせなくなるのだ。
「兵を集める国人衆が消え、その所領は加賀武田家の管理下。ここから兵を強制的に集めるのは不可能。加賀武田家から代官が派遣されているのだからな、すぐにばれる。ならば、民を徴兵すれば?」
「河田殿、お忘れかな?加賀守様は一揆勢に対して、許可を与えておられるのだぞ?加賀への逃亡許可をな」
「そうで御座いました!」
自領の民を強制的に徴兵すれば、間違いなく逃亡者が出る。それらの者達は近場の加賀武田家直轄領の代官に、事の次第を報せるだろう。
そうなれば、加賀武田家に連絡が入って加賀守様による制裁が始まるだけだ。
反乱を企てた者達は、文字通り皆殺しになる。
「或いは、他に所領を持つ者達に声をかけて連携を図るという方法が御座いますが」
「難しいだろうな。温井も三宅も、祖父が専横してきたのだ。専横による被害を受けた側にしてみれば、温井と三宅の復帰は内心では面白くないのは間違いない。更には所領復帰という恩義を受けた加賀武田家に弓を引こうとしている。彼等を信じて謀反を起こそうなどと思うかな?」
「思いませぬ。少なくとも某なら、加賀へ事の次第を報せます」
そういう事だ。
加賀守様は常々、人こそ宝と考えておられる御方だが、こういう面からもそのお考えを理解する事が叶う。
人とは武将だけではない。兵や民すらも人である。だからこそ、能登から民を減らす事により、謀反を防ぐという思考に至る事が出来るのだろう。
文字通り、政によって相手の機先を制しておられるのだ。まさに今荀彧の面目躍如と言う所だろうな。
それでもあの二人が動くとすれば……その機は分かっている。何も心配はいらん。加賀守様なら気づいていて当然だからだ。
「城持ちの者達は誰も所領返上を申し出てはおりませんが、これについてはどう致しますか?」
「何もせずとも良い。彼等には自領の内政に邁進する御役目があるのだからな。戦に引っ張り出さないのだ、それぐらいはして貰わんとな」
城持の者達は、皆、領土の維持を希望してきた。長家も例外ではない。だが対馬守殿は当主の立場を嫡男である九郎左衛門尉(長綱連)殿に譲り、自らは三男の宗顒殿とともに加賀へ参ると申し出てこられたのだ。
これには加賀守様も驚いたようであった。当主の座を譲るだけならともかく、まさか加賀にまで来るとは思ってもいなかったのだろう。
「少し想定と違ったが、まあ仕方あるまい。対馬守には七尾の城代を命じるつもりであったのだがな」
「どうされるのですか?」
「十兵衛。城を預かるに相応しい者がいないのであれば、いっそ城を破却するというのはどうだ?」
破却!?まさか本気か!?
「冗談だ。とりあえずは藤吉郎を入れる。同時に藤吉郎には能登の内政を行わせよう。加賀北部と越中を前田に任せる。能登国内の安定は長家と蜂須賀に任せよう。蜂須賀には常備兵もつけてやる。あとは風の諜報も継続して行わせるぞ」
「身中の虫ですか」
「温井、三宅は裏切ると見ている。恐らく、長尾との火蓋が切られた時にな。温井、三宅も領土欲は満たされただろうが、内政は自分でやらねばならん。藤吉郎の内政は当たり前の事だが直轄地優先だ。領土の質に差が出るようになってから不満を覚えるだろうな。長家には謙虚に生活するように申し付けてある。身中の虫に目をつけられぬようにして、内政は藤吉郎に相談せよ。虫の駆除はいずれ其方にやって貰う、とな」
永禄五年(1562年)八月、能登国、穴水城、長続連――
「……と言う事だ。加賀守(武田信親)様の御意志に従い、しばらくは身を慎みつつ力を養え。あの御方は長家に期待されておられる」
「はい、それは某にも理解出来ました。特に宗顒(長連龍)の事は評価されたようです」
「それなのだが、どうして加賀守様は宗顒を評価したのか、理由は聞いておるか?」
そこが気になる。確かに宗顒は優秀だからこそ、戦になる度に寺から借りだしていた。
だがそれは親として傍にいたから分かる事である。隣国の加賀守様が、さすがにそこまでご理解されていたとは思えぬのだが。
「軍配者の明智様にお伺いした所、まず父上の気概を気に入られたそうです。次に宗顒が年若い上に僧形であるにも関わらず、長家の戦に参加している。これは身内贔屓を加味したとしても、相応の実力があるからこその対応であろう、と。かつて面識のあった今川家の雪斎崇孚を思い出されたようで御座います。あとは長家に限らず、能登の情報を加賀守様は以前から調査されておられたようです」
「なんと。あの今川家の軍師太原崇孚雪斎殿を思い出したとは光栄な事よ……それにしても噂に聞く武田の三つ者かな?或いは加賀守様の子飼いの者かもしれぬが。だがどちらにしても、納得はできた。ところで肝心の宗顒はどうしておる?」
「寺に戻った後、身の回りの物を纏めてすぐに七尾城へ戻りました。何でも次郎(畠山義慶)様に懐かれてしまったようで、すぐに戻ってきてくれ、とせがまれたそうで御座います」
御裏方様救出の為に、二人は案内役となって七尾城へと攻め込んでいた事は聞いている。
その際に御裏方様とともに嫡男の次郎様もお助けしたのは当然の流れ。だが、それで懐かれたか。
「九郎左衛門尉(長綱連)。御家存続の為にも互いに励むぞ?幸い、儂は加賀守様の下で部将待遇で仕える事が許された。春先に家老の柴田殿が越中に赴任後、空く事になる高松城の城主を命じられたからな」
「能登との国境で御座いますか。思惑が良く理解出来ます」
「うむ、期待しておるぞ」
加賀守様の思惑は良く分かる。
能登が加賀武田家の支配をすんなりと受け入れた、とは欠片ほどにも思ってはおらぬのだ。明らかに内紛――裏切り者の存在を想定している。
温井に三宅。儂が不在の隙を衝いて、御先代様と御屋形様を弑した裏切り者。その首を持参する事で、忠臣面をしているのだ。
一度裏切った者が二度目が無い、等と誰にも断言は出来ん。だからこそ、加賀守様は警戒されておられるのだろう。
「温井に三宅。奴らが動いたら、其方が相対し儂が後詰に入る。能登は常備兵化によってすぐには今まで通りの兵を用意する事は出来ん。だからこそ、予め常備兵を与えられている儂による後詰、七尾城の城代が連れて来るであろう常備兵の存在が大きくなる」
「ははっ。某も政に励みます。ですが、本当に宜しいのですか?」
「何をだ?申してみよ」
九郎左衛門尉は、周りを警戒するように周囲を見回す。
それは余人に聞かれてはならぬ事。という事は、気づいておるのだろうな。
いつもより声を潜めて囁いてきた。
「操られる人形には、操り手が必要で御座います。そしてその操り手の存在、父上が考えなかった筈が御座いませぬ」
「……勿論、考えはした。十中八九、そうであろうよ。そもそも人形めが今までどこに庇護されていたのか?それを考えれば分かる事だ」
そう。温井と三宅。あの二人に御先代様を御屋形様を弑するように指示をしたのは、恐らく加賀守様なのであろうな。
能登畠山家家臣たる身としては、温井に三宅に限らず、加賀守様も仇として討つべきなのは明白だ。
ただ加賀守様を討って何になる?その後の能登をどうするのだ?後継ぎである次郎様は近江の地に避難して不在。主なき加賀国を誰が治める?新しい加賀の支配者が、大義名分を得て能登の完全支配に乗り出してきたら、どうするのだ?
「それに此度の大義名分と、あくまでも能登を預かるだけという主張。能登畠山家次期当主であらせられる次郎様がいずれ戻ってくる、という言い分を考慮すれば、今動くのは愚かな事。故に、今は様子を伺う。その言が偽りであれば、儂がそれを正そう」
「心得ました。しかし、そうなるとあの御方は能登を自らの物にしようという欲が無いのでしょうか?」
「……そうかもしれんな」
ならば何の為に能登へ来たのだ?
確かに現状は加賀武田家預かりの状況だ。だが次郎様が帰ってくれば、次郎様に返されるという。それでは加賀武田家が損するだけだ。内政にかかる銭も、決して少なくは無いのだからな。
そうなると、他に理由が?
「……あの御方は決して愚か者ではない。知恵者である事は断言できる。そのような御方が、本拠地である金沢城にほど近く、兵も糧食も蓄えられている高松城に儂を入れた。あり得ぬ判断よな。そうは思わんか?」
「某も父上と同じ思いで御座います。となると、父上が裏切る事は無い、と判断されたという事で御座いますか?それだけの根拠を、あの御方はお持ちだと」
「儂が裏切らぬ根拠、か」
それは次郎様を蔑ろにしない事。この一点に尽きる。
儂の忠誠心は能登畠山家にあるのだ。その忠誠心が加賀武田家に向けられているのは、ひとえに能登畠山家存続という希望があるからこそ。
まさに話に聞いた事のある、駿河今川家と三河松平家の関係だ。
「そうであれば、あの御方は能登畠山家復興を視野に入れている、という事になる。それは武田家で支配する気が無い、という事だ」
「……父上。ふと思ったのですが、あの御方は背後の安全を欲したのでは御座いませぬか?それが確保できれば、能登は勝手にせい、と考えられたのでは?」
「背後の安全?」
加賀国は能登国、越中国、越前国と国境を接している。その内、二つが武田家の勢力下になれば、残る一つは越中国。
つまり加賀武田家は越中侵攻が本命という事か。
越中国における勢力は、武田家寄りの神保家と、長尾家寄りの椎名家。そうなると椎名家を狙う事になるが、そうなれば長尾家と争う事に……
「それで背後、か?確かに儂の考え通りなら、能登を放っておいたまま戦を始めるなど有り得ぬ事ではあるが」
「……父上や某の役目は、人形どもが動き出した時の征伐です。奴らが動き出すとすれば、どのような状況が考えられるでしょうか?」
「そんな物は一つだけだ。加賀武田家の目と兵が、能登から完全に離れた時」
そうか!やはりそういう事なのだ!
加賀守様はあの裏切り者が馬脚を現すのは、加賀武田家が越後長尾家と戦になった時だと見ているのだ。
その時、加賀武田家は全力を投じている必要が有る。能登で何かあった時、留守居の兵を動かせるとは限らん。
そうなればあの裏切り者を長家が旗頭となって征伐せねばならん。その時、長家には兵が必要になる。欲を言えば、裏切り者が弱体化していれば有難い限りでもある。
「分かったぞ。何故、あの御方が長家の所領の政について、自らの片腕と呼ばれる井伊殿に相談しろと言ったのか。長家の所領を富ませ、常備兵を増やせと申しているのだ。幸い七尾城城代を務める井伊殿は、内政における加賀守様の右腕と呼ばれるほどの実力者。謙虚に御教授願えば、長家の兵力は周囲と比較して頭二つは抜きんでるだろう」
「もしそうなら、あの二人に与えられた所領は」
「民が少ない地であるかもしれん。加賀国には能登国から逃散した民が流れたと聞いているからな。どこから逃げてきたのか?それを聞き取っていれば、どこの土地なら民が少ないから、そこをくれてやれ、と判断も出来る」
戦で不覚を取らぬよう、すでに今の時点から布石を打たれておられたのだ。
長家に謙虚に。そう申し付けられたのも、布石の一つであったのだ。
今後、長家は加賀武田家の覚えが良いのだと、周囲は間違いなく判断する。結果として、長家の事を『主家を捨てた裏切り者』として口に出す輩も出て来るだろう。
妬み嫉みは世の常。これは仕方がない事。だが放置しておいては面倒な事になる。
だが、そこで長家が身を慎み、謙虚にしていれば話は変わってくるのだ。
周囲の評価は、長家に対してゆっくりとではあるが好意的に変わっていくだろう。
一方、あの裏切り者が天狗になり、派手に振舞い、政を疎かにしていれば周囲が距離を取ろうとするのは自然の流れだ。
「味方を増やし、敵を減らす、か。一体、どれだけ先を読まれておられるのやら」
背筋に流れる汗とともに、儂は恐怖を感じていた。
今回もお読み下さり、ありがとうございます。
まずは能登国。明智光秀視点より。
【七尾城陥落】
一揆勢の数が多すぎて、陥落寸前にまで追い込まれておりましたw長続連がいなかったら、文字通り能登畠山家は血族皆殺しになっていてもおかしくなかったです。
【能登国地獄編】
加賀と同じルールにしないと民が逃散していなくなるので、強制的にルール変更となりますw
ルール変更すれば租税減少。変更しなくいと納税者減少により租税減少。どちらに進んでも地獄絵図w
主人公も理解しているので、さすがに救済措置は用意しています。
【長続連】
光秀さんから見ても、黒幕は主人公であるとバレてるだろうなあ、という感じです。と言うか、気づかない方がおかしいw
【畠山家跡取り】
史実だと次郎君(畠山義慶)と、幼名不明の弟・義隆の兄弟。
ただしこの兄弟、同一人物説もあるとの事。拙作では同一人物にしました。
そして正室の艶姫さん、ストレスが溜まり過ぎて実家へ避難を選択。その為、能登国は加賀武田家預かりとなります。
本来なら傀儡政権にする筈だったんですけど、急遽変更。当分は加賀武田家で管理して、将来的には次郎君を七尾城へ戻して、後見人に主人公が就くという思惑になりました。
【所領返上して俸禄制にする?】
救済策その一。
主人公の謀略で、能登の民は減っています。なので所領経営に赤信号が生じている者達もおります。なので、その人達への救済。
彼らにしてみれば、内政しなくても食っていけるし、手柄挙げればもっと良い土地を貰えるかも、という期待。
主人公にしてみれば、しばらく厳しいが長い目で見れば直轄地増えるしな、という目論見。
あと国人衆減少は、謀反が起きた時に敵兵力減少に繋がるという強みもあります。
【光秀パパ視点】
娘さん(玉=ガラシャ)は、多分、お腹の中にいる状況ですw
【温井・三宅】
旧領回復&所領の追加。
主人公は気前良く、くれてやってます。だって、欲しいんだよね?という所。
でも民が減って、人頭税への強制変更。どう考えても苦労しかないw常備兵制度のおかげで出費も嵩む。
そうなれば……
【戦に引っ張り出さない】
能登国はしばらく手伝い戦に呼びません。
これが救済策その二。代わりに内政に励めよ、という所。
なので真面目にやるだけなら、常備兵は後回しにして、国防は加賀武田家にぶん投げて内政重視。これで数年励めば状況が良い方向へ変わってきます。
【長家の動向】
長男は新当主就任。
親父と三男は加賀へ。勝家が越中に赴任するので、新しい城主が欲しかったのです。
【七尾城城代】
藤吉郎就任。能登の内政を任せる事に。まずは『直轄地からね』という条件です。
軍事は陪臣の蜂須賀担当。非公式の軍事補佐役は……
次は長続連視点より。
【雪斎崇孚】
坊主で戦の才有り。どう考えても連想しますわw特に主人公は関りがありましたからね。
【長続連の役目】
勝家の入っていた、能登と加賀の国境近くの高松城に入ります。
七尾城に藤吉郎&蜂須賀(常備兵赴任予定)。
七尾城北西方面の穴水城に長綱連(常備兵へ移行準備開始)。
能登に近い加賀国境の高松城に長続連(常備兵滞在)。
明らかに反乱想定の布陣ですwスタート時点での兵力に差があり過ぎですが。
【長続連の思惑】
やっぱり気づいてます。
でも、今立ち上がっても負けるだけ。
それに能登は次郎様不在の間、預かるだけ。次郎様が戻ってくる事も宣言している。不在の間、能登の内政も進めておく、という事も聞いている。
国人衆の所領を返上させて俸禄制に切り替えるのはどうかと思うが、生きていけないでは仕方がないし、返上された所領は次郎様が戻ってくれば次郎様の物。それは畠山家の強化に繋がる。
加えて忠臣面している裏切り者の件もある。しかも暗に奴らに警戒しろと言われたも同然の状況……暫くは様子を見るか、という所です。
【主人公の思惑】
越後との激突に備えて、背後の安全を確保する事。それさえ確保できれば、能登は誰が支配しても構わん。何なら能登畠山家でも構わんぞ、という所。
だから能登の仕置は、こんなあり得ない物になっています。
それに気づいた続連さん。主人公の思惑を悟り、敵対したらやばいわ、と改めて自覚します。
それでは、また次回も宜しくお願い致します。




