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謀略編・第三話

 謀略編・第三話更新します。


 今回は北条家が舞台になります。

 その為、新キャラ複数登場。北条家と言えば、お分かりですよね?


 それとやっとラスボスを誰にするか決めました。答え合わせはしませんが、遊び心を発揮してみようかと考え、補足資料のように別に挙げてみました。

 良かったら挑戦してみてください。いずれラスボスが判明した際に正解しておりましたら、御自身の先見の明を誇って下さいw

永禄四年(1561年)四月、相模国、小机城、北条宗哲――



 昨年、武田家の今荀彧から届いた報せ。そこから越後・長尾勢が上野経由で関東へ攻め込んでくると考えた御本家は、昨年の内に稲の種蒔き直後から、兵を集めて臨戦態勢を整えておくように指示を出していた。

 主に武蔵国や支配下にある上野国が対象だ。

 これらの国の百姓兵が先発隊として、越後から来た長尾勢とぶつかる事になる。


 越後は関東よりも雪深い土地。となれば雪融けも遅く、結果として長尾勢が進軍してくるのも後ろへずれ込む。

 ならばそれより先に兵を配置するのは当然の決断であった。

 ただ予想外であったのは、長尾勢の早さ。

 風魔によれば、四月上旬には箕輪城に入城したというのだ。

 正直、五月になると見ていたのだが、どうやら甘かったようだ。もしかしたら三国峠の雪を掻き分けて進んできたのかもしれん。もし昨年の内に指示を出していなかったらと考えると、背筋に寒気が走る。


 そして我らも後詰の為に城を出ようとしていた時の事である。

 加賀国から客が来たという報告があったのは。

 儂が最初に思ったのは『そんな予定があっただろうか?』という疑問であった。

 すでに年は七十だが、記憶に不備はない。家督を譲ったばかりの新三郎(北条綱重)も、首を傾けておる。やはり儂の記憶は正しいのだろう。


 「新三郎。儂の記憶が正しければ、客は先触れ無しで来たことになる。何故だと思う?」

 「単純に考えれば急用、と某は考えます」

 「まあそれもあるだろうが、相手はあの『今荀彧』であるのだぞ?」

 そう、来客は儂が文を遣り取りしている相手である武田加賀守信親からの使者であったのだ。

 幼い頃から文の上での遣り取りだけはしてきた。以来、はや十五年。相手は日ノ本にその名を轟かすほどの知恵者として名を馳せるまでに成長した。

 ある意味、北条家としても警戒せねばならぬ相手だ。


 「まあよい。まずは会って用件を聞こうか」

 「はい、父上の申す通りに」

 やがて使者が姿を見せる。使者は二人。

 先頭を歩く若く覇気に満ち溢れた男と、その後ろに続く顔を伏せ気味の男。

 薄手の絹だろうか?頭から被って、顔が確認出来ん。

 しかし城中で手を繋いでいるとは、衆道か?下座に控えた家臣達も、あまり良い顔はしておらぬ。

 当然と言えば当然か。使者として赴いた場に、衆道の相手を連れてくる等、普通は有り得ぬわ。


 「良く御越しになられた。儂が北条駿河守宗哲である。隣が当主の新三郎綱重だ。出陣前で忙しい故に、丁寧な対応が出来ぬ事は我慢して貰いたい」

 「こうしてお会いして戴けただけで十分に御座います。某、加賀武田家家臣、前田慶次郎利益と申します。どうかお見知りおきを」

 筋骨隆々な若者が、体を窮屈そうに丸めながら挨拶をしてくる。どう考えても戦向きの男だ、どう考えても使者には不向きな男にしか思えぬ。


 「そしてこちらが」

 「武田加賀守信親と申す。駿河守(北条宗哲)殿、常日頃から文の遣り取り、感謝しております」

 はらりと取り払われる絹。俯けていた顔には、黒地に白の目一つの意匠が施された眼帯。

 一瞬の間。直後、座がどよめいた。新三郎も目を丸くしておる。儂も驚愕を押しとどめ、驚きを気取られぬように取り繕った。

 敵対しておらぬとは言え、こうも堂々と他家の城へと乗り込んでくるとは。肝が鋼で出来ている、という評価は正しいと言えるな。


 「噂に名高い今荀彧殿自らの御来訪とはな。儂に何の御用かな?」

 「話が早くて助かります。駿河守殿、武田家は公方の仲介の為に、長尾と三年の同盟を結んでいる事。その為、表立って北条家に助力できない状況にあります」

 ふん。それは知って居る。だが、本当に公方の仲介か?確かに公方の命令なのは事実であろうよ。それは儂も疑ってはおらん。しかし公方を動かした者がおっても不思議はない。そしてそれが武田家ではない、という証拠はない。

 あくまでも推測に過ぎないがな。


 「そこで武田家としては、北条家に対して兵糧の提供と諜報の手伝いを行わせて頂きたく存じます」

 「……それならここではなく小田原へ赴くべきではなかったかな?」

 「某としてはそれでも構いません。しかしながら、某には駿河守殿との伝手が御座いました。ならば折角の伝手、使わない理由も御座いませぬ」

 という事は、相手は北条家であれば誰でも良かった、という事らしいな。儂を選んだのも本当に伝手があったから、に過ぎないようだ。

 ではこ奴の目的は何だ?兵糧の提供。仮に兵糧に小細工をしたとする。それは北条家に害を為す、という事だ。確かに北条家が弱体化すれば、武田家は関東に攻め込んでくるだろう。

しかしそれは同時に長尾、佐竹、里見、宇都宮も雪崩れ込んでくる状況を意味する。関東は大混乱となるな。武田としては美味しい状況になる。なるのだが……


 「加賀守殿。兵糧の提供と言う事だが、その真意は?」

 「確実に長尾を追い返すなら、小田原城に籠るのが正解と考えました。であれば、兵糧は必須となるでしょう。もっとも、上野国で追い払えれば、それが最上でしょうが」

 「上野国か、まあ北条としてもそれが有難いのう」

 上野国は関東管領に与する者達が多い国だ。そこで戦えば敵は多いが、北条家は自領を荒らされずに済む。

 ついでに田畑を荒らせれば、長尾に重荷を背負わせる事も出来る。

 もしも、だ。北条の領内へ攻め込まれれば、国人衆は北条に形勢不利と見て長尾に着くだろう。

 であれば、やはり上野を戦場としたい所ではある。


 「それに国人衆は強い者に靡きます。長尾が有利な間は長尾に、北条が有利な間は北条に味方するでしょう」

 「おやおや、武田家は国人衆の信を得ておらぬのかな?それとも、少々、殺し過ぎてしまったのではないかな?」

 「駿河守殿。敵とは皆殺しにすべきものです」

 今荀彧め、知恵者の評判の割に暴君でもあるか。若い頃の信虎を思い出させるわ。いや、あの男より遥かに冷酷だ。感情で殺すのではなく、理性で殺すのだ。敵に回すと厄介よ。風魔にも調べさせたが、民や武田家家臣団からの評価は高いという報告を受けている。全く、これが味方であれば頼もしい限りなのだがな。

 何の憂いも無く、御本家の軍師として推挙していたわ。そうすれば、儂も今頃、隠居生活を楽しんでいたのだろうが。


 「まあその辺りは、今はどうでも良い事。重要なのは長尾による関東侵攻への対策。駿河守殿は某が産まれるよりも前から戦場に立っておられた。であれば、戦とは自分が思うように進まぬ事もある、と言う事も身をもって理解されておられるでしょう」

 「否定はせんよ。だから兵糧、か」

 「はい。いくら越後の軍神と言えど、冬前には帰還せざるを得ないかと。関東で越年した日には、収穫の問題が御座いますからな」

 それは言えるな。越後兵は精強な百姓兵。田畑の事を考えると無理は出来ん。秋の収穫前には帰るだろう。

 さすがに小田原城まで攻め込まれるとは思えぬが、領内の田畑を荒らされる事は想定せねばならんだろうな。ならば兵糧は用意しておくべき。田畑を荒らされた民への施しも考慮しなければならん。そして時の経過に従って、兵糧の値段は上がっていく。

 それは兵糧の確保が難しくなる事を意味している。

 それを考えれば、確かに兵糧の提供は有難いのだが。


 「武田家としては北条家には関東を制してほしいのです。今、北条家に何かあると、武田は背後も用心しなければならなくなる」

 「……我ら北条家は武田家と盟を結んだ覚えはないがな?」

 「結ばずとも、互いの事を理解していれば、下手に潰し合う事も無いでしょう」

 簡単に同盟を結びたいとは言って来んな。そうなると理由は二つ。高く売りつけるか、或いは必要ないか。

 恐らくは後者であろうな。此度の関東侵攻、長期になればなるほど北条家は疲弊する。それは長尾も同じだ。国人衆は北条家と長尾の間を行ったり来たりするだろう。言い換えれば三者全てが疲弊するのだ。そして最終的には長尾は越後へ帰還。残されたのは荒れた田畑のみ。そこへ戦力を温存していたであろう佐竹・里見が立ち上がる。北条家にとっては貧乏籤以外の何物でもない。

 上策は上野国での撃退。ただしそれがならなかった時は、最悪、小田原城で籠城戦。となれば、兵の損失は少しでも減らす必要がある。

 兵を維持するには、兵糧も見合う分が必要。

 となれば、やはりこの申し出は必要なのだが……


 「……腹が立つな。今荀彧はそこまで見通しておるか」

 「最悪の事態は考えておくべきでしょう。駿河守殿、貴殿にとって最も大切な存在は、小机城ではない。小田原城と御見受け致しました。正確には御本家である、と」

 「分家とは本家を支えるもの。それは加賀も同じであろう?……そうか、今荀彧!其方の狙いは!」

 読めたわ!


 「加賀武田家は分家!その立地は本拠越前の東!越後からの盾となるべき地!其方は軍神の手の内を暴く事が目的か!」

 「さすがは北条家の長老と名高き駿河守殿。我が目的は神を殺す策を練る為の情報。その対価は兵糧と情報。北条家長老、北条駿河守宗哲殿!返答はいかに!」

 これは……まさかの狙いよ。関八州全ての争乱。気が遠くなるほどの命が散っていくというのに、この男はそれらを対価にして情報だけを求めるのか。

 だが。これは断れぬ。いや、断る事は出来よう。だが意味が無い。断って、何になる?得られる兵糧無くして、籠城戦が出来ると言うのか?北条家が支配するのは伊豆、相模、武蔵に上野の一部、およそ百二十万石。兵を動員するなら三万五千は可能。問題はそれだけの兵を食わせる兵糧だ。最近は飢饉が続き、兵糧の確保も思わしくない。つまり貯えが少ないのだ。そこへ最悪の場合は、秋の収穫が無い上に、佐竹・里見と連戦になる可能性も考えられる。それを考慮すれば翌年分までの兵糧は確保する必要がある。それどころか民への施しも考えれば、必要な兵糧は尋常な量ではない。

 その兵糧を、飢饉の領内から集める?馬鹿な、不可能だ!


 「……良かろう。儂が小田原で話をつけてくる」

 「父上?」

 「構わぬ。この申し出は受けぬと北条が危うい。新三郎!ここが北条家存亡の時!最悪、来年秋まで収穫無しで戦に明け暮れる事を覚悟せよ!その為には、武田からの兵糧は必須!」

 今荀彧の表情からは何も伺えぬ。何とまあやりづらい男だ。

 亡き父上から若い頃に太田道灌殿との交渉が難儀した時の事を聞かされた事があるが、その時もこのような気分だったのだろうか?

 

 「加賀守殿も御同行なされるか?」

 「折角の機会ですからな、北条家御当主相模守(北条氏政)様と、御隠居なされた左京大夫(北条氏康)様にもお会い致しとう御座います。同時に風魔衆への協力についてもお話致しましょう」

 「ついて参られよ、すぐに小田原に向かう」

 やれやれ、これから出陣と思っていた所に、小田原へ舞い戻るとはな。

 仕方ない、後詰は新三郎に任せるとするか。


 「さて、では案内頼むぞ、慶次郎。今度は小田原の男見物だ。楽しみであろうが、槍を向けるなよ?」

 「いやいや、加賀守様。あの時の事を蒸し返さないでくだされ。今でもゆき様に凄い目で睨まれる時があるのですぞ?某、戦場でも平然と放尿できますが、あの目で睨まれると殖栗が縮みますわ!」

 「あれは其方が悪かろうに。ゆきの前で俺を殺そう等と揶揄うからだ、このヤンチャ坊主が。蔵人(前田利久)殿の胃に穴があくぞ」

 ……この主従、豪胆すぎるわ。どこに他国の城主の前で、下世話な冗談を言い合う輩がおると言うのか。



永禄四年(1561年)四月、相模国、小田原城、北条氏康――



 「……と言う次第に御座います」

 北条家長老、北条駿河守宗哲からの報告に、儂は唸りながらもその言を受け入れる事しか出来なかった。

 隣に座っている新九郎(北条氏政)は聊か反応が鈍い。せめてもう少し考えを巡らせてほしいものだ。


 「話は分かった。確かに武田家からの申し出は受けるべきだろう。今の報告を聞く限り、最悪、二年は戦い続ける必要がある。それも領土防衛の為にな。儂が佐竹や里見なら、此度の騒動に乗じて漁夫の利を狙うわ」

 当たり前の戦略だ。乱世は弱い事が罪。隙を見せたら食われる。それは常識なのだ。長尾景虎と言う災厄に出会ってしまった北条家が悪いのだ。


 「それで加賀守殿。武田家はどれほどの兵糧を提供してくれる御積りかな?」

 「まずは一万石と言った所です。ですが船が足りないので、できれば駿河まで船の援軍をお願いしたい所に御座います」

 「分かった。それについては小田原からも船を出そう」

 二年で必要な量には足りないが、それは向こうも理解しているだろう。

 足りない分は追って送る。だからこそ、船の応援を頼んできているのだ。

 これぐらいは手伝わねばな。出入りしている御用商人達にも手伝わせるか。


 「長尾の目が無い時を狙って、追加で運び入れます。その際には北条家の旗印を利用させて頂いても宜しいですか?」

 「構わぬ。後で渡そう」

 「心得ました。幸い、小田原城は海に面しております。一方で長尾には水軍が無い。ただ里見の水軍がちょっかいをかけてくる事は考えられますが」

 「連中はこちらで排除しておく。安心して貰いたい」

 さすがに海まで囲まれては堪らぬからな。北条家の面子が潰れるし、兵の士気にも関わる。海さえ確保できれば、小田原を落とすのは不可能だ。


 「あとは風魔衆との協力に御座います。こちらは上野の箕輪長野家に忍びを紛れ込ませております。そこから侵攻目標等の情報を集めます。これについてはそちらにお渡し致しますので、接触して下されば渡すように指示は出してあります」

 「分かった。こちらもそれを念頭に動くとしよう。それで対価だが、駿河守(北条宗哲)の申した通りで良いのだな?軍神の手の内を暴く、で」

 「はい。不愉快な言い方で申し訳御座いませぬが、身も蓋も無い言い方をすれば戦見物になります。軍神の戦の差配を研究したいのです。評判が事実であれば、あの男は己の得意とする舞台では無敵の男でしょうから」

 今荀彧とまで呼ばれた男が、そこまで評価するとはな。だが長尾が西進するなら、武田家は避けては通れぬ。いずれはぶつかる。そう見ているという事だな。

 だからこそ、軍神の差配に関する情報を求めておるのだろう。


 「何の用意も無く、勝てる相手では御座いませぬ」

 「……随分と弱気だな?皆殺しの殺戮者とまで呼ばれた男とも思えぬわ」

 「何を仰せになられますか。某、とても弱気な男で御座いますぞ?」

 駿河守が睨むように加賀守を見ているわ。内心では『この大ウソツキが』と言った所だろうな。

 当然よ。伊勢長島の一夜二国越えの奇襲攻撃。上洛戦での公方への挑発。しかも風魔の調査によれば、帝相手に春齢女王様との婚姻を一度は断ったと聞く。どれだけ肝が図太いやら、想像もつかん。

 しかし護衛役の男、確か前田、と言ったか。堪えきれずに噴出しておるな。主が主なら、家臣も家臣よ。肝が鋼で出来ておるわ。


 「これ慶次郎。笑うでない。其方の主は実に気弱な男であると説明して差し上げよ」

 「これはまた無理難題を仰せつかったものに御座います。家臣たる身が、どうして主を貶めるような発言が出来ましょうか?褒め称える事なら幾らでも出来ますが」

 「おお、慶次郎。其方、いつの間に世渡りを身に着けたのだ。それが嫌で私を殺そうとしたのではなかったのか?」

 「いやあ、加賀守様の事がすっかり気に入りました故」

 ゴホンゴホンと咳払いする駿河守。いい加減にしとけよお前ら、と言った所か。それにしても仲の良い主従ではあるな。

 周りは……すっかり毒気を抜かれておるな。やれやれ、警戒心を無くしておる。これではいかんな。露骨なまでの敵意には反応できても、そうでなければ反応できぬか。これは聊か困りものではある。


 「分かった、分かった。加賀守殿は弱気という事にしておこう。それで加賀守殿は長尾はどれほどの兵を率いると見ておられるのかな?」

 「そうですな、直接率いる兵は五千から六千。蘆名に対する備えが必要ですからな。あとは上野を中心に国人衆を束ね、佐竹や里見が様子見も兼ねて長尾に合流。最終的に十万に届くと見ております」

 「多いな。しかし佐竹や里見が向こうに着くと、加賀守殿は見ておるのか」

 「露骨に敵対しては、矛先が自らに向くかもしれませんからな。旨い所を食らうのは、長尾が北条家を潰して越後に帰還してから。そう考えましょう」

 確かに考えられる。御家の安泰と損得を考えれば、長尾がいる間は長尾に味方し、長尾が帰国後に独自に暴れる、というのは正しい判断だ。

 儂なら長尾が帰還後に、冬の間に三国峠を封鎖する。

 そうすれば関八州は文字通り草刈り場だ。


 「ただし、問題も御座います。兵が多くなる分、兵糧と言う弱点を抱える事になるでしょう。国人衆は間違いなく、兵糧自己負担で参戦を余儀なくされるでしょうからな。しかも関東は飢饉。国人衆は無理な出費を押し付けられ、弱体化を余儀なくされる。となれば、お分かりですな?」

 ああ、そういう事か。チラッと駿河守を見れば苦々し気に加賀守殿を見ておる。目の前の策士の言いたい事を理解したからだろう。

 だが言い分には賛同という所か。儂も正直、問題は無いと判断する。

 それよりも遥かに頭が痛いのは、駿河守以外に気づいておりそうな者がいない事だ。


 「全く、隠居した親父に初々しい娘の真似事をさせようとは、趣味が良くはないのう?」

 「面白い事を仰いますなあ。別にお相手は御当主様でも宜しいのでは?」

 ブフオッと新九郎が噴き出した。

 全く、何を考えておるのだ。少しは頭を使わぬか。


 「落ち着かんか、新九郎。加賀守殿は飢えに苦しむ国人衆の胃袋を支配しろ、と申しておるのだ。戦う必要は無い、とな」

 「なるほど、そういう意味で御座いましたか」

 「長尾が撤退したからと言って、国人衆の田畑が回復する訳では無い。兵糧で手なずけて支配下に組み込むか、或いはこれ幸いと滅ぼすか。それは北条家の都合次第だが、まあそういう事であろう?」

 『然り』と同意する今荀彧。確かに知略は大したものではある。必要な米の量は尋常では無いが、武田にとって軍神の差配という情報は、それより価値があると判断したのだろう。

 良い。ならばこちらも武田家を利用させて貰うまでよ!


 「あともう一つ、北条家では陣借りの御予定は御座いますかな?」

 「それは、行うつもりだが?」

 「ではこちらにいる慶次郎、あくまでも素浪人として雇い入れて戴きたいのですが、いかがでしょうか?討ち死にしても文句は申しませぬので」

 ……は?この男、何を申しておるのだ?


 「慶次郎は三度の飯より戦が好きな男でしてな、丹後の戦では、本家の鬼美濃が認めるほどの手柄を挙げた程でした」

 「ほう?あの噂に名高い鬼美濃が?」

 「ただ問題なのは、丹後にも後詰に来た山名にも将はいても強者はいなかった事が不満だったそうです。であれば、今度も同じ。だったら北条家で強者揃いの長尾相手に思う存分暴れさせて貰えぬか?と相談されましてな」

 チラッと駿河守を見れば……呆れておるわ。どちらに呆れておるかは分からぬが。ただ悪い話ではない。これほどの武士、そうはお目にかかれん。体つきを見ただけでも、戦慣れした猛将という事ぐらいは理解出来る。


 「こちらとしての条件は、手柄を挙げたらその内容を記した記録をこれに持たせて戴きたい。褒美はこちらで用意しますので」

 「問題は無いが、本当に良いのか?」

 「構いませぬ、なるべく手柄を挙げられる危険地帯に放り込んでやって戴きたい。そう簡単にくたばる男では御座いませぬので。強いてお願いする事があるとすれば、多少の軍令違反は目を瞑って戴きたく願います。手のかかるヤンチャ坊主故」

 ……何度見ても間者働きが出来るような男には見えん。そもそも今の北条の情報を武田に流した所で、大した意味はない。


 「分かった。陣借りを認めよう」

 「感謝致します。慶次郎、改めて御挨拶をせよ」

 「そうですな、では偽名を……尾張の住人、後田ひょっとこ斎とでもしておきましょうか。前田は少々名が売れておりますので」

 少なくとも度胸だけはあるわ。北条家家臣が揃っておるこの状況で、これほどの軽口を叩くとはな。

 駿河守、落ち着け。其方も歳なのだ、こんな事でポックリ逝かれて貰っては儂が困るのだ。

 今回もお読み下さり、ありがとうございます。


 まずは小机城から。


 【長尾勢侵攻は四月】

 北条家は雪融け後に来るだろうから、五月だろうな?と想定していた所に、四月に襲来。念の為に準備だけは進めておいて良かったわ、と一安心しております。

 これ主人公が報せてなかったら、間違いなく五月までに武蔵国は落とされていたと思います。


 【今荀彧襲来】

 という訳で、加賀の評定(三月)が終った後で、主人公自ら相模までやってきました。同行者は慶次郎&奥村(控室で待機)の花の慶次コンビ。あとは護衛として鐘捲通宗と兵が若干と言う設定。慶次郎以外は次話で登場します。

 それにしても主人公、かなりの強行軍。雪融け始まった頃に加賀へ帰還→評定→小田原。ゆっくり休む暇もないw

 ちなみにゆきがいないのは理由があります。これはその内書きます。


 【衆道疑惑】

 主人公、悪戯心発揮。慶次郎なら間違いなくノルw

 主人公⇒ちょっと度肝抜いてやるか、主導権取れるしな。

 慶次郎⇒加賀守様もヤンチャ坊主ですなあw

 妖怪爺⇒お前らいい加減にせいよ!


 【越後勢は秋には帰る】

 主人公と宗哲(幻庵)は、普通に判断しております。その意味では業正さんは一枚、上を行っています。主人公も自分の言が、こうも裏目に出るとは思わんでしょうね。

 もっとも裏目に出ても、武田家に実害は無いんですがw


 【小田原籠城】

 北条にとっても、長尾にとっても、嫌な展開。北条は領地荒らされるし、長尾は兵糧切れで撤退余儀なくされるし、という所。

 ただ北条側は武田家からの兵糧提供があるので、持久戦となれば形勢有利に。

 そして業正さんの失策ポイントでもあります。

 『来年春に小田原包囲を目論んで進軍』という事は、ほぼ一年と言う時間を北条に与えているんですよね。

 業正さんは主人公が裏で暗躍しているのを知りませんから。この点で主人公側が一枚、上。


 【宗哲さんの加賀守殿⇒今荀彧と呼び名の変化・追記】

 一言で言えば感情の激発。つまり冷静さが吹っ飛んだ、という事です。

 最初は憤怒。ここまで北条家の窮地を読まれている怒り。

 次は相手が自分と全く同じ、本家第一主義を貫き、それも若いという事に対する驚き、です。

 なので冷静になれば、すぐに加賀守殿呼びに戻ります。


 【分家とは?】

 長老なだけはあり、主人公の思惑を見抜きます。だからこそ、今の武田家は利用できると判断して呼応する事に。

 そりゃ軍神の差配見られたところで、北条にとっては痛くも痒くも無いですからね。

 しかも武田が長尾との激突を想定しているとなれば、その状態で北条に牙を剥く事も考えられない訳ですし。

 ただでさえ、武田家は西日本進出で忙しいのですから。


 そして小田原城。


 【宇野】

 北条家御用商人であり、主に薬の売買をしながら、代官やったり御馬廻衆務めたり、と半武士半商人のような方だったらしいです。

 他にも塩の売買をしていた長谷部、小間物や木綿の長野と言った方が出入りしていたようです。

 そして『本物』の北条家の旗印が今荀彧の手に渡る……(伏線です)


 【接触は風魔衆から】

 ぶっちゃけて言うと、これは主人公が風を少しでも守る為の策でもあります。

 情報漏洩に気づいた時、一番、監視されるのは出入りの連中ですからね。百姓兵、全てを監視なんて物理的に不可能だし(現時点で一万弱の軍勢ですし)。

 竹中さんに届ける分は必要だけど、北条に伝える分は取りに来てよ、という所。主人公というか武田家側にしてみれば『情報はくれてやる。ただし取りに来い。黙って隠れ蓑に使わせて貰うからな?』と言った所。

 北条側が竹中さんの存在を知らない限り『竹中経由で情報よこせ』なんて言えないですから。


 【宗哲さん、堪忍袋の緒が切れそう】

 悪童二人を持て余している感じw


 【佐竹・里見】

 業正さんは『佐竹も里見も味方に付く。ただし兵糧の問題有るから短期決戦。駄目なら里見と北条で潰しあわせろ!』と判断。

 主人公は『佐竹も里見も保身から向こうに着く。ただし軍神が帰ったら、北条領内で暴れるだろう。兵糧くれてやるから、適当に口実つけて国人衆始末しながら、追い払いなよ』と唆す。

 邪魔な国人衆始末すれば、領地が空く。自国防衛戦なのに、何故か恩賞として与えられる領地が増えてしまうんですよ!なんと不思議な事でしょう!

 ……はい、落ち着きましょうね?この章は『謀略編』ですからねえw


 【初々しい娘の真似事】

 変な事を想像した氏政さん二十三歳w


 【後田ひょっとこ斎、陣借り参戦】

 苗字を穀蔵院にしようかと思いましたが、止めました。武芸大会で流派の名前に使っていたからです。


 今回もお読み下さり、ありがとうございました。


 それでは、また次回も宜しくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前回のシリアスから突然の主従漫才www 大好きです! 長老殿は血圧を下げるお茶をどうぞ(苦笑 そして相変わらず的確な慶次郎の取説♪
[気になる点] 長尾に着く は 長尾に付く につくが正しいのでは?
[一言] 歴史作家の加来耕三さんによると 「前田慶次郎ほど使い易い者は珍しい」 と。 「漫画で有名になった。 槍の達人という事は間違いない。 だけど何処で何をしていたのか、どんな人物だったのかがよく分…
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