第91話 雷獣の咆哮
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第91話~雷獣の咆哮~
炎と雷。
深青の灼熱の炎と天より飛来する雷が丘陵でぶつかり合う。炎がうねりをあげて燃やし尽くそうとすれば、それを無数の雷が折り重なることで防ぎ、その隙をついて雷が敵を穿とうとすれば、同じように炎が防壁となりその侵入を拒む。
まさに一進一退の攻防が繰り広げられるその場所で、俺は敵に近づくことすらできずに回避に精一杯となっていた。
「くそっ!」
四方八方から襲い掛かる雷はどれも光の速さでもって俺を貫こうと襲い来る。いかに人の領域を大きく逸脱した俺とはいえ、流石に光速の攻撃に対処することは出来ない。
それでもギリギリで雷に対処できているのは、最近取得した未来視のスキルのおかげだった。
スキル:未来視。未来を見通すことのできるスキルだが、今の俺のスキルレベルで見通せるのはわずか3秒先まで。それ以上になるとあまりに無数の選択肢がある未来を確定しきれず、間違った未来を見通す結果になる可能性があるのだ。
だが今はその3秒が俺の命を救っていた。
「次から次へと忌々しいったらねぇなっ!!」
3秒先の未来を見通し、どこに雷が着弾するかを判断する。それを脳内で何とか処理し、紙一重のところで現在の雷を回避する。
綱渡りの回避でなんとか生き残ってはいるものの、このままでは俺が攻撃に参加することが難しいのは言うまでもない。
「うっとうしい雷です!!全部燃やし尽くしてあげますよ!!」
『俺の雷に対抗するとは大したものだが、お前の魔力でどこまで持つかな!?』
カナデとトールが叫びながらすさまじい勢いで魔力をぶつけあう。お互いにお互いの攻撃を全方位の防御で防いでおり、トールの言う通り、魔力の消費は激しいものとなっているだろう。
「ふむ、さすがはカナデじゃな。封印されているとはいえトールの雷を対処するあたり、流石は根源に近い存在といったところかの」
そんな中、エリザはと言えば、戦闘を行う俺達のはるか後方でそんな様子を眺めて感想を漏らしていた。雷はエリザにも落ちているはずなのだが、何かの結界のようなもので身を守っているようでまったく意に介している様子は見られない。
むかつくほどの圧倒的なスペックに、自分が強くなればなるだけその差がはっきりとわかる様で腹が立つ。
今エリザが戦闘に参加していないのは、あらかじめ俺がそう頼んでおいたからだ。まずは俺とカナデが戦うからお前は手を出すな。この場所に来る直前にエリザに言った言葉。
これから先、伝説の魔物と戦う機会はまだ何度かあるだろう。もしかしたら封印の解けた状態の相手と戦うこともあるのかもしれない。
そもそも俺達は最終的には神と相対しようとしているのだから、その手下たる魔物に勝てないようでは話にならないのだ。
『どうした!?段々とついてこれなくなってきているのではないか!!』
「やかましいですよ!!犬は犬らしく大人しく伏せとけばいいんです!!」
雷を纏い突進してくるトールに対し、カナデは炎を自身に纏わせることで正面からその攻撃を防ぎきっていた。最初こそ遠距離で炎と雷を打ち合っていた両者だったが、いつしかお互いの属性を自身に付与した肉弾戦に移行しているようだった。
トールが鋭い爪を振り下ろせば、カナデは蹴撃でそれを迎撃する。カナデが手刀を振り下ろせば、トールが牙でそれを受け止める。
カナデの戦闘スタイルがだいぶ違うことに突っ込みたいのは山々だったが、そんな余裕がないことが悔やまれてならなかった。
“検索結果:『雷獣トール』 伝説の魔物の一柱。降りやまぬ丘陵に封印されていた雷を纏うフェンリル。
名前:トール・ドンナー
種族:幻獣族
適正魔法:雷鳴魔法
スキル:落雷 雷鳴支配 打ち砕く者
状態:封印
ステータス 攻撃:94387
防御:88675
素早さ:123218
魔法攻撃:65733
魔法防御:72689
魔力:104756”
流石は伝説の魔物。封印された状態とはいえこのステータスなのだからやはり計り知れない。だがそれでも今の俺達なら、このステータスは圧倒的とまではならないはずだ。
種族が龍戦士に進化し、ステータスが軒並み上昇した俺と、スキルの進化により魔法に関しては破格のステータスを誇るカナデ。それでも二人がかりでも勝てないのは、やはり相手の戦い方が上手と言わざるを得ないからだった。
俺に対しては回避がやっとの雷によって迎撃をし、カナデとの1対1に持ち込むことで有利な状況を作り上げている。
現状互角の戦いを演じている二人だが、いずれ状況はトールに傾くだろう。
カナデの拳が空を切る傍ら、トールの爪による斬撃は的確にカナデを捉えている。
幽体であるカナデに物理的なダメージは薄いが、魔力による攻撃は別だ。いずれ蓄積されたダメージは両者に決定的な差となり現れるだろう。
そもそもいつも遠距離からの焼却で敵を燃やしていたカナデが、近接戦闘などできるはずがないのだ。それが曲がりなりにもああして戦えている理由はわからないが、それでも攻撃が当たらない以上、カナデに勝ちの目は薄い。
だからこそ俺がなんとかしなければいけない。
後方から向かってきた雷を紙一重で回避し、トールに近づくために一歩距離を詰める。今度は左右同時に飛んできた雷を後方にスウェーすることで躱す。
未来視の使用に慣れて来たのか、躱すことに問題はなくなってきていた。だがそれ以上が何もできない。
「ちくしょうがっ!!」
このままではカナデがやられるのをここから見ている事しかできない。最悪はエリザがいるので大丈夫だが、それでは意味がないのだ。ここで俺達だけで勝てなければ、この先につながらないのだから。
『なぜ過去視を使わない?』
打開策が見つからない防戦の中、突如脳裏で響く声に思わず動揺する。そのせいで雷が一つ顔面すれすれを掠めることとなった。
『私が与えた力は未来視だけでなく過去視もあったであろう?なぜそれを使わない?』
つい最近聞いたはずの女性の声。それは確か、サイモンに力を与え、そしてその後になぜか俺に力を与えた悪魔の声だった。
「お前、アスタロスか!?」
『我を呼び捨てとは本来なら八つ裂きにするところだが、まぁお前ならよかろう。その通り、先日お前に力を与えてやったアスタロスだ』
「なんで急に?てかどうやって話しかけてきてんだよ!!」
『何、お前に力を与えた時に、軽くリンクを繋いでおいたのだ。言っただろう?神に抗おうとするお前に興味が湧いたとな』
そう楽しそうに話すアスタロスに、俺は内心で毒づきたい気持ちでいっぱいだった。勝手に人にリンクを繋げるとかまじでやめてほしいことこの上ない。
力をもらえたのはありがたいが、悪魔と繋がっているなど冗談ではないのだ。
「何勝手なことやってんだよ!!」
『別にお前の許可などは我にはいらぬからな。それよりも質問に答えよ。なぜ過去視を使わん?』
こちらの都合など関係なし。まさに悪魔としかいえないような発言だが、今の状況ではそれ以上悪態をつく余裕もない。それよりもアスタロスの問いのほうが重要だ。
「過去視だろ!?過去を見るのは便利かもしれないけど、今の状況じゃ使ってもしょうがないだろ!!」
上から落ちる雷を右に躱し、真正面から飛んできた雷を飛槍で払いのけた。未来視の感覚に慣れてきたからか、先ほどまでは避けるので精いっぱいだった雷に対し、今は槍に魔力を通すことで払いのけることができるようにまでなった。
だがこれではまだ足りない。雷に対しての対処能はあがってきたが、これではトールに戦いを挑むことなどできはしないのだから。
『どうやらお前は勘違いをしているようだ』
「勘違い!?何に対してだよ!!」
『未来視と過去視の本質をだよ』
上がる息を無理やり整えながら、そのアスタロスの言葉を噛み砕き考える。未来視は未来を見るもの。過去視は過去を見るもの。それ以外に一体何があるというのか。
インデックスの検索でもそれ以上の回答は得られなかったというのに、それ以外の何かがまだあるというアスタロス。
『本来ならお前自ら気づくべきなのだがな。ここで死なれても興ざめだ。一つヒントをやろう』
「ヒントだと!?」
『そうだ。お前がそれに気づけば、この状況を打開するきっかけになるかもな』
その言葉に一気に俺のテンションが跳ね上がる。向かってくる雷4つを、2本の飛槍で処理しながらアスタロスに聞いた。
「早く教えろ!!」
『本当に無礼な奴だ。いいか、よく聞け。未来視とは流動する未来を見る力だが、その流動性ゆえ短い先しか見ることが出来ない。無限大に近い可能性のある未来の選択肢から、一番可能性の高い未来を掴み、それを確定する。それが未来視の力だ』
「過去視は!?」
『過去視は未来視とは決定的に違う点がある』
「それはなんだよ!!」
俺が雷に対して次第に対処できるようになってきているからか、さっきから一度に襲い掛かってくる雷の本数が徐々に増している。流石にそれをさばきながら深い思考をする余裕はないので、とにかくアスタロスに先を急かす。
誰かに教えられる力など真に自分のものとはならないので、本来ならそのヒントから気付くべきなのだろうが、今はその余裕も時間もない。だから先に答えを知り、その後で考察をすればいいのだ。
『未来と過去の決定的な違い。それは確定されているか否かということだ。流動的な未来と違い、過去はすでに起こったこと。その事実は動くことがない。ゆえに過去視は未来視とは違い過去に干渉することをその本質とするのだ』
アスタロスがそう言い切ったと同時、俺はある攻撃をひとつ行った。
それと同時、カナデ目掛けて向かっていた巨大な体がこの戦闘で初めて大きく揺らぐこととなった。
さて、反撃の開始といこうか。
未来視と過去視。どう考えてもチートスキルですが、相手が強すぎる故にそれを使ってもやっととか敵のインフレが止まりません。
主人公も強いはずなのに基本的に上限がぶっ飛んだ世界では成長が求められるようです。
さて、底辺卒業のブックマーク100人まであと少しのところまで来ました。少しずつ、本当に少しずつ増えていったブックマークの数。その一人一人の方が私の宝物です。人気作家の方と比べれば拙い作品かもしれませんが、皆様の評価に心から感謝しています。
もしまだブックマークをしていない方がいましたら、是非していって頂けると作者がとても喜びます。評価までして頂けると、作者が泣いて喜びますので是非お願いいたします。
それではまた次回をお待ちください。




