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第90話 降りやまぬ丘陵

いつも誤字の指摘誠にありがとうございます。

第90話~降りやまぬ丘陵~


 そこは一年中雨が降りやまず、満足に陽の光が届くことはない丘陵地帯。


 丘から一定の距離を取れば一気に天候は変化し、光が差し込むのだが、その一帯だけは決して雲が晴れることはなく、まるで何かを拒むように雨が降り続く。


 人々は最初こそ、その場所でなんとか生活をしていこうと努力した。


 浸水に強い建材で家を建て、水の豊富な場所でしか育たない野菜を栽培し、さらには大きなドームのような施設を設け、その中で家畜を飼育しようとしたのだ。


 だが結果はすべて失敗。


 原因は二つ。一つはほぼ絶え間なく降り注ぐ雷だ。雨が降るということは空には必ず雲が存在し、はるか上空の雲は氷のつぶを内包する。


 その氷の粒同士が静電気を引き起こし、雷を発生させるのだが、その原因たる雲が丘陵には嫌になるくらいに分厚く存在しているのだから、必然、雷の発生も多くなってしまうのだ。


 雷は周囲で高いところに落ちる性質を持つため、人々が苦労して建てた建造物に容赦なく落ちてしまう。いかに落雷による被害が甚大だったかは推して知るべしだろう。


 もうひとつの原因、それはやはり雨だ。


 ただでさえ雨というのは水分その物であるのだから、湿気によるカビや病原菌の発生を誘引させてしまう。加えてこの地域に降る雨は、ただの雨ではなく酸性雨なのだ。しかもかなりのPHの低い強酸だ。


 酸性雨と言えど、多少なら建物にいれば耐えられる。だがそれが四六時中やむことのないこの大地では話が別。あらゆるものが酸により腐食し、最後には朽ちていく。とてもじゃないがこの地で人が住むことなどできはしないのだ。


 ゆえに帝国内でも上位に位置する広大な面積を誇りながら、人が一人も住むことのできない場所。それが降りやまぬ丘陵であり、今俺達が足を踏みいれた場所に他ならない。


「なんか雷すげーなってないか?」


「そうじゃな」


「雨も心なしか強くなってません?なんだか横殴りな気がしますけど気のせいでしょうか?」


「気のせいではなかなろうな。さっきよりも風が出てきておるのは間違いない」


「その原因ってやっぱり俺達か?」


「というよりも儂じゃな。大方あっちも儂の気配を感じ取ったのじゃろうて。だからといって気候まで変化させんでもよかろうに。ほんとに昔から変わらんな、あやつも」


 などと呑気なことを宣うエリザだが、俺はどうやらここまで重要なことを見落としていたようだということに気づく。


「なぁエリザ。一応聞いておくが、お前とトールの仲ってどうなんだ?」


「当時はよくもなく悪くもなくじゃったとは思うぞ?頑固ものゆえ、儂の意見に噛みついてきたこともあったが、それは他の者もそうだったでな。じゃが、あの日、儂が神の命に背いてからは間違いなく嫌われておると思うぞ?何せあいつは頑固な上に義理堅くもあったからの。神に忠義を誓っておったし、今も儂が憎くて仕方がないじゃろうて」


 最悪だった。俺の性格がどうとかいう前に、もっと大事なことを俺は見落としてしまっていたのだ。


 そもそもエリザとスルトが再会したときに、スルトがいったいどういう反応を示したのかを考えれば、予想は簡単にたっていたはずだった。


 他の伝説の魔物から見れば、エリザは紛れもない裏切り者に他ならない。話のわかるスルトですら、納得するまでにそれなりの時間を要したのだ。トールがエリザのいう性格なのだとしたら、どうかんがえても歓迎されることはないだろう。


「カナデ、初手で燃やしつくす気持ちでいいぞ。封印されているとはいえ、こいつらにはそれくらいで十分だ」


「うむ、儂もそれがいいと思うぞ。この辺り一帯の気候から考えて、トールの封印はだいぶん弱まっておりそうじゃからな。後数年もすれば完全に封印もとけるじゃろうて」


「これまでにないほど全力で燃やしますよ。もともとこの雨ですからね。魔力を込めないと火力もでませんから」


「まじで頼むわ」


 途中でさらにいらない情報をよこすエリザの言葉に、俺とカナデは揃ってげんなりしながらも丘陵を進んでいく。


 サイモンとの戦いで嫌というほどに思い知った強者との戦い。どうやら俺はそう時間がたっていないのにも関わらず、また死闘を演じることになりそうだと感じていたのだった。


 ◇


 丘陵の中心地。その中でも一際大きい丘にそれはあった。一本の鉄塔。ぱっとみれば避雷針にしか見えないその鉄塔だが、明らかにそこに漂う魔力は異質のものだったのだ。


「カエルにあめんぼ、でっかいかたつむりにナメクジと、どうにも梅雨を連想させる魔物ばかりでましたけど、どうやらここがゴールでよさそうですかね?」


「出てくる魔物全部雷を纏ってたけどな。どう進化したらああなるのかは知らないが、魔力の規模も違うしここがそうだろうよ」


「てっきりレッサーフェンリルなんかが出てくると思っとったが、あんなのばかりが出てくるあたり、あやつの封印はまだ強固なのかもしれんの。封印が外れかかっておれば、眷属くらいは作ろうとするじゃろうからな」


 さっきからどんどん出て来るエリザの新情報は完全に聞かなかったことにして、俺とカナデは鉄塔に目を向けた。


 強かった雨はここだけは弱まり、心なしか雷も収まってきている気がしなくもない。


 だがそれが果たして歓迎なのかと聞かれれば、その答えはノーであろう。


 俺もこの世界に来ていろんな人や魔物を見てその魔力もたくさん見てきたが、あそこまで怒りに燃える魔力のうねりは見たことがない。


「ほぅ、どうやら生意気にも儂らに敵意を向けおるようじゃぞ?キョウスケよ、まずは一撃かますところからはじめてはどうじゃ?」


「いいからお前は黙っとけよ」


 なぜかその様子を楽しそうに感じているらしいエリザに余計なことはするなとくぎを刺し、俺達は慎重に丘を登っていく。


 中腹をすこし越えたくらいまで登った時だった。


『止まれ』


 腹の底から響く、スルトの時にも感じた圧倒的な力を持つ者の威圧感が俺達を襲う。


『裏切り者が一体何をしにきた』


 丘の上に視線を凝らす。さっきまでは鉄塔以外はなかったはずの場所に、なにやら大きな影が見えた。


「つれない言い方じゃの。昔なじみが会いに来たというのにその態度はないんじゃないかの?」


『黙れ。俺に裏切り者の仲間などいない!あの日からお前は仲間でなくただの敵だ』


 その言葉に、これまでよりもはるかに激しい雷が鉄塔に落ちる。その光に照らされ浮かび上がる影。


 その姿は狼というのが一番しっくりきた。驚くほどに艶やかな銀色の毛をなびかせる巨大な狼。その巨体はゆうに10メートルはあるように見えるのだから笑えない。しかもその巨体が帯電し、雷そのものを纏っているかのような光を放っているのだ。


「あれが雷獣……」


 小さく呟いた俺の言葉に同調するかのように、カナデが隣で魔力を高めていった。カナデはカナデで、トールに対してきっちり警戒心を抱いているのだろう。それほどに圧倒的な存在。あれでまだ封印状態だというのだからほんとに洒落にならない。


「別に儂をどう思おうがお主の勝手じゃがな。今回お主に用があるのは儂じゃなくてそっちの二人じゃ。そんなに威圧せんでまずは歓迎くらいしたらどうじゃ」


『ふざけるな!!お前と一緒に来た段階ですべて俺の敵だ!!お前たち全員ここから生きて帰れると思うなよ!!』


 言い終わるや否や、それまで不規則におちていた雷が、明らかな意志を持って俺達に襲い掛かってくる。


「おい、エリザ!?」


「すまんのう。儂なりに説得しようと思ったんじゃが、どうやら失敗したようじゃ」


「あれのどこが説得だよ!?挑発の間違いだろ!!」


「まぁ、そうともいうの」


 あっけらかんとそう言うエリザに文句を言いたかったが、そんな暇は残念ながらない。


 収納から3本の槍を全て取り出し、飛槍により一気に戦闘態勢に入る。カナデも深青色の魔力を全開にし、いつでも迎撃態勢がとれるようになっていた。


「文句は後回しだ!!カナデ、まずはあの犬を黙らせるぞ!!」


「合点承知ですよ!!少しくらい燃やしても平気そうですし、全力で燃やしてやりますよ!!」


 丘を駆ける俺とカナデ。こうして伝説の魔物が一柱、雷獣トールとの戦いが始まったのだった。


伝説の魔物三柱目、雷獣トールの登場です。もとは北欧神話で最強とまで言われた雷神と同じ名前ですが、こっちのトールさんはフェンリルです。でっかい狼なのでお間違いなきように。


底辺卒業のブックマーク100人まであと少しのところまで来ました。もしまだブックマークをしていない方がいましたら、是非していって頂けると作者がとても喜びます。評価までして頂けると、作者が泣いて喜びますので是非お願いいたします。


それではまた次回をお待ちください。

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新連載を開始しました。 【『物理特化ですがなにか?~魔術は苦手だけど魔術学院に入学しました~』 是非こちらもよろしくお願いします!!
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