第87話 天からの襲撃
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第87話~天からの襲撃~
街の外に出た時には、すでにスルトの炎牢は勢いを失い、襲撃者たちは自由の身となっていた。
いち早く襲撃者たちと相対していたスルトの表情は険しい。いや、土偶に表情があるのかという問いには何度も言うが答えかねるが、とにかくそう感じてしまうほどにスルトは威圧感を放っていたのだ。
「あなた達は自分が何をしているのかわかっているのですか?」
俺達がそこに着くや否や、先頭に立つおそらく今回のリーダーと思われる奴がそう言った。主語も何もないただ事実確認だけを行う一方的な言葉。
銀色の髪に真っ白な双翼。無表情な顔から察するに、こいつも天使なのだろう。だが後ろに引き連れている天使達よりも、背中の羽が立派なところを見るに、階位が上と見るのが妥当なところだ。
『先頭のあいつ、あれは大天使、いわばアークエンジェルってやつだ。階位は一介天使であるエンジェルの一つ上。多分この辺りの統括者だと思う』
襲撃者から目を切ることなくスルトがそう言った。
“検索結果:大天使。別名アークエンジェル。階位としては下から2番目であり、人に守護天使を遣わせたり、神のお告げを伝えるなどの役割を持つ。メッセンジャーとしての役割が強い一面がある”
スルトの説明にインデックスが補足を付け加えてくれた。つまりこの大天使という奴は一介天使の上司であり、会社で言えば係長のようなものなのだろう。
上司からはパシリのように扱われ、部下からは突き上げを喰らう。メッセンジャーなどと言っているが、言ってみれば使いっぱしりというのが正しいところだろう。
「もう一度聞きます。あなた方は自分が何をしているかわかっているのですか?」
「この街に蔓延していた黒死病をを治療した。それがなんだ?別に特別なことでも何でもないだろ?」
「あなたはこの街が陥っていた状況が神の裁きと知ってそれを行ったと?」
「だったらなんだ?仮にあのアウトブレイクが神の裁きだったとしたら大したこともないな。たかだかグラム陰性菌による感染症だ。抗生物質さえ投与しちまえばあっという間に治ったからな。神とやらもどうやら大したことないらしい」
俺の言葉に大天使の表情が分かりやすいくらいに歪んだ。無表情を張り付けたような奴だと思ったが、この程度の煽りでそんな表情を見せるあたり、どうやら感情は豊かなようだ。もっとも、俺の挑発ともいえる煽りによって後ろに控える一介天使たちが武器を構え始めたが、其の辺りはご愛敬だろう。
「よくわかりました。あなた方は神の裁きと知りながらそれを軽視し、加えて神を愚弄する者であると判断します。これより速やかな排除を……」
開始します。後に続くのはきっとそんな言葉だったのだろう。だがその言葉は最後まで紡がれることはない。
『消し炭すら残すものか』
誰が動くよりも早く行動を起こしたのはスルトだった。大天使の言葉に一斉に動こうとしていたはずの一介天使たちは、スルトの放った真っ赤な炎により文字通り形すら残さずに灰になる。
炎華。スルトが短く放ったその言葉を相手は聞くことすらできなかっただろう。一介天使たちの足元から湧きあがった無数の炎の柱は、まるで踊るかのように大天使を除くすべての一介天使を燃やし尽くしたのだ。
「どうにもスルトさん、虫の居所が悪いみたいですね。何か嫌なことでもあったんでしょうか?」
「さあの。じゃが察するに、あいつも外の世界に触れていろいろと思うことがあったんじゃろうて」
「ははぁ。難しいお年頃と言ったところでしょうか?」
「そうじゃの。無駄に年は食っておるが、ようやく精神年齢も成長し始めたといったところかの」
非常にのんきなカナデとエリザだが、恐らくその発言は的を得ている。心の奥まで見通せるわけではないが、それでもスルトがこの大天使に非常に腹を立てているということだけはわかった。それはきっとエリザの言う通り、スルトの内面の変化に起因しているはずだ。
「……、これは、あなた達は一体……」
驚愕に彩られる大天使の表情。それはそうだろう。神の使いでもある大天使、その部下の最下位の天使とはいえ、人類とは隔絶した力を持つはずの天使たちが一瞬にして塵になったのだ。多分大天使は今の状況を正確には把握できていない。だからこそこのタイミングで畳みかける。
「さて、お前の仲間は全員消えたわけだが、同じようになりたくなかったら質問に答えてもらえるか?」
「質問……?」
「そうだ。なぜこの世界では病気が神の裁きだなんてことになっている。病気は科学的な原因があるものであって、神なんていう超常的なものが関わる余地は一切ない。にもかかわらずどうしてお前たちはそれを裁きだなどと言い、それを治そうとする者を殺そうとする?」
俺の知りたかった質問を大天使に問う。このおかしなシステムは一体どんな理由から成り立っているのか。地球で生きて来た俺にはそれがまるでわからない。
もちろん全ての病気が治せるわけではないが、適切な介入を行えば治癒することは可能なのに、この世界にはその知識がない。そのせいでこれまでにどれだけの人が死んでいったことだろう。
「なんでだ?」
だからその原因を知っていそうなこの大天使に問う。普通なら答えないかもしれないが、命の危険が迫るこの状況ならば話は別。ロボットのような奴だとしたらそれも無駄だったかもしれないが、さっきの反応を見るにこいつらにはしっかりと感情があることはわかった。だとしたら聞き出すことが出来るかもしれないのだ。
「私がそれに答えるとでも?」
「答えなきゃここで殺すだけだ。どう考えてもお前たちは人類の敵だからな」
収納から槍を取り出す。カナデとエリザが一歩前へと出る。そしてスルトが魔力を練り始める。
実力の底が見えない相手と相対する。きっとこれまでになかったであろう状況に、大天使が焦る様子が手に取るように伝わってくる。
「選別です」
「なに?」
「選別と言っているんです」
大天使がそう短く告げた時、俺の脳裏になぜか非常に嫌な予感がよぎった。追い詰められたものというのは何をするかわからない。だからこそ狩りをする時の最大の危険は、獲物をしとめる時にこそあると言われるが、今がまさにその時だったのだろう。
視界を埋め尽くす光景は凄惨なものだった。ようやく取り戻したはずの平穏を謳歌していたはずのロータスの人々。その平穏は奪われ、多くの人が再び死に伏している。建物は原型をとどめないほどに破壊され、誰もが逃げ惑うような地獄絵図。最後に見えたのは、高笑いをしながら死んでいく大天使の姿だった。
確信はなかった。だがそれでも放置はできなかった。大天使が構える間も、何をする間もなく槍を一気に引き放つ。
「龍連砲」
かつて乱れ突きとして使用していた技は進化し、新たなステージに至る技として昇華していた。
放ったのは槍による連撃。1秒間に千回を超える槍による突きは、もはや点による攻撃ではなく面による攻撃に変化する。知覚できないものに回避は不可能。回避できない者に待ち受けるのはただ死、あるのみ。連撃は黄金の龍となり大天使へと襲い掛かった。
「……え?」
間抜けな声が響いた次の瞬間には、大天使のいた場所はまるで砲撃でも受けたかのように衝撃で抉れ、残ったものはなにもなかった。
“検索結果:スキル、未来視の発動を確認。効果が判明。対象に関わる未来を見ることが出来る。見ることのできる未来の時間はスキルレベルに依存。スキルレベルの低いうちは流動的な未来を確定できない場合があり”
つまり先ほど俺が見た光景は未来の光景だったということだろう。追い詰められた大天使が、なんらかの攻撃を俺達ではなくロータスの街へ放った。
その結果が阿鼻叫喚ともいえるあの街の様子。確かに街への攻撃は予想していなかったため、俺達の動きは遅くなり攻撃を止められなかった可能性は高い。油断していたわけではないが、格下を相手にしているという慢心がなかったと言えば嘘になる。
「あいつらの目的は街の住人の皆殺しだったような気もするしな」
ミルファを再び殺せと命令してきた天使のことを考えれば、治療したロータスの住人を正しく殺すためにあの天使の軍勢がやってきたと考えてもおかしくはない。
結果的に答えを知ることはもうできないが、さらに情報を引き出そうとしてもたらされる可能性のあった被害を考えれば、これが最適だったのだろう。
「あの、恭介さん?一人でいろいろ納得しているようですが、ご説明願えると助かるのですが。でないと私達おいてきぼりですよ?」
「そうじゃぞ。お主が情報を引き出すというから手を出さなかったのに、その張本人がいきなり跡形もなく殺すとはどういうことじゃ?」
カナデとエリザがどこか不満げにそう聞いてきた。スルトも警戒態勢を解いてこっちに近づいてくるが、不満そうな表情を見るに、同じ思いなのだろう。
「わかったからそんな顔するな。今から説明する」
天使のレベルが一つ上がり、大天使がやってくるようになった。これが神へ近づくためのいいことなのか、それとも絶望の始まりなのかは分からない。
ここから先どうするか、一度しっかり話し合う必要があるだろう。
そう思い、俺は得られた情報を3人に話していくのだった。
このお話を書き始めてから天使や悪魔についていろいろ調べているのですが、天使にもたくさんの階位があって、ほんとに会社みたいだなーって思います。
天使って言う存在になっても縦社会って、なんだかすごく世知辛いですよね(汗
もしまだブックマークをしていない方がいましたら、是非していって頂けると作者がとても喜びます。評価までして頂けると、作者が泣いて喜びますので是非お願いいたします。
それではまた次回をお待ちください。




