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第83話 聖女の苦悩

誤字の報告いつもありがとうございます。そして評価をして頂いた皆様、本当にありがとうございます。これからも頑張って書いていきます。

第83話~聖女の苦悩~


 教会の中は静まり返っていた。今も外では病気に苦しむ人たちが助けを求めているのが嘘だと思えるくらい、この空間には音がまるでなかった。


「ことの起こりは3か月前です。帝都のすぐそばにある衛星都市、そこで今回の呪いが初めて確認されました」


 衛星都市で確認された呪いは今このロータスの街で起こっている呪いと同じもの。当然、帝国内の教会は浄化を試みた。


「ですが浄化はうまくいきませんでした」


「なぜだ?呪いとやらは教会の十八番なんだろ?どうして浄化できなかったんだ?」


「浄化自体はうまくいったのです。最初に発見された者はすぐに浄化され、その後は何不自由なくもとの生活に戻れるようになりましたから」


「ますますわからん。浄化できるならなぜこの街はこんなことになっている?出来るならとっとと街の人を治してやればいいだろう?」


「何も知らないやつが簡単に言うな!その方がこれまでどれほど頑張って来たと思っているんだ!!」


「お願いですからあなたは黙っていてください。話が進みません」


「ですがっ!!」


「隊長、その者が次に話に割り込んだら首を刎ねなさい」


「……御意」


 もう何度目かもわからない若い兵士の乱入だったのだが、このシスターはあろうことか制止するのみではなく、処刑の許可を出すと来た。


 どうやら俺の思っている以上に、セレスは地位がある者らしい。


「で、どうして浄化しないんだ?」


 セレスの命令に顔を青くしている兵士は放っておいて、俺は続きを促した。


「呪われた者の浄化はできます。ですが一人の浄化には時間がかかりすぎるのです」


 そう言いながら悔しさに顔を歪ませるセレス。その表情から、今置かれている状況が不本意だということが見て取れる。


 セレスの話をまとめるとつまりはこういうことだ。教会であれば呪われた者の浄化は行えるが、一人の浄化にかかる時間はおおよそ6時間。加えて一人の浄化に全ての魔力を使い切ってしまうため、回復を考えると一日に一人が浄化できる人数なのだそうだ。


 教会内に浄化を行うことが出来るのは1人、多くても3人。広大な帝国領でも総人数は100人にも満たない。とすれば一日に浄化を行える人数は100人足らずということになってしまう。


「ですが呪いを受けた人は日に日に増えていく一方でした」


 この呪い、もとい黒死病は感染病だ。もとはノミなどに噛まれた者が感染していくが、それ以降は飛沫感染で広がっていく。倒れた者を看病する者が感染し、またその看病をする人に感染していく。


 対策を施さなければ広がる一方だが、この世界には病気の概念が薄いのだからそれは行われない。感染者が時間とともに増えていったことは容易に予想が出来た。


「私たちはそれでも懸命に浄化を続け、一人でも多くの人を救おうと努力しました」


「その結果、浄化は追いつかず街には呪いが蔓延したってことか」


「おっしゃる通りです。ここに立てこもっているのは教会内が結界に守られているからです。ここであれば呪いは受けませんので」


「市民を犠牲にしても、浄化を使える者を救う選択か。まぁ、間違っちゃいないよな」


 話によれば、浄化を使える者は稀有な存在であるようだ。だとすれば帝国にとって、多数の市民よりも浄化の使い手を守る方が間違いなく価値は高い。


 一人のための多数の犠牲と思うと気分はよくないが、国という規模で見れば当然の判断と言えるだろう。


「セレスは最後まで街の人を救おうとしていたわ。だけどそれを私が止めて、その上でこの教会に押し込んだのよ。あなたの言う通り国のために。だからセレスを責めないであげて」


 事実をつきつけられ、意気消沈するセレスに黙って話を聞いていたナターシャがそう言った。


 先ほどまでは威厳を保とうとしていたのか、固い口調だったが今はそれを崩している。これまでの一連の流れで俺達に皇女の威厳は関係ないと判断したのか、それともセレスを思うゆえなのかは分からないが、どちらにせよこっちの方が話が早く進みそうなのだからそれでいい。


「責めてるつもりはないが、そういやあんたにも質問してたな。皇女ともあろうやつがどうしてこんなところにいるんだ?皇族ともなれば、、こんな危険なところにいること自体おかしいだろ。護衛も大して連れてないみたいだし」


「それについても理由があるのよ。簡単に言えば外遊先から帝都に戻れなくなった。それが私がここにいる理由よ」


 ナターシャによれば、どうやら呪いが発生し始めて少しした後、皇女はもともとの予定だった隣国へ外遊に向かったのだそうだ。


 その頃は呪いもまだそこまでは広がっておらず、時間が経てば浄化しきれるものと誰もが思っていたからだ。


 だがさっきセレスが言っていた通り、呪いは収束を見せるどころかどんどんとその猛威を奮い広がっていった。事態を重く見た帝都は、ついに帝都に被害が広がる前に帝都全域に結界をはってしまったそうだ。


「城の宮廷魔導士が総力を挙げて張った結界だけあってその効果は絶大。呪いを完全にシャットアウトしたはいいけれど、外に出ていた私は帝都に戻れなくなってしまったというわけよ」


「それでもあんたは皇女、しかも第二皇女なんだろ?助けのひとつもなかったのか?」


「確かに私は皇族で皇女だけれど、国の未来を考えれば切り捨てるのも当然の選択でしょうね。所詮私は次女で加えて女。帝位を継ぐのが代々長男である以上、私を切り捨ててもそこまで困ることはないでしょうからね」


 そう言うナターシャの表情に怒りの感情などは感じられない。皇族として生きてきたものだからだろう。国のために自分がどう振舞うべきかを理解している。だからこそ切り捨てられても、あからさまに感情を出すことはしないのだ。内心でどう思っているは知らないが。


「それでも私も死にたいわけではない。どうにか生き延びる手段を考えて、その結果、教会内でも聖女とまで言われるセレスのところに来たのよ」


「姫様もまた、長旅の中で呪いに侵されてしまった。ゆえに我々はセレス様を頼ることにしたのだ。まさかロータスの街がこのようになっているとは思いもよらなかったがな」


 悔しさに顔を歪ませて兵士の隊長がそう絞り出すように言う。


 ナターシャが呪いを発症したのはロータスの街に着く1日前のことだと、隊長は言った。


 なんでもナターシャとセレスは昔から仲が良く、そこに向かう最中に発症したのは不幸中の幸いだったようだ。


 聖女とまで呼ばれるほどの浄化の使い手であるセレスは、ナターシャたちが到着するまでに多くの人を浄化していた。それでも増え続ける感染者にセレスが焦り始めていた時に、ナターシャが到着したのだ。


 友人であるナターシャの来訪に喜ぶもその友人までもが呪いに侵されていた。当然、セレスはすぐに浄化を行うが、度重なる浄化のせいで疲労がピークに達しついに倒れてしまう。


 ナターシャは考えた。浄化を待つ者はまだまだ大勢いるし、なにより増え続ける一方だ。いかにセレスとて、一人でこの量を浄化しきれるはずもない。


 自分を治したことで倒れてしまった友人を見てナターシャは無慈悲な決断をする。


 ロータスを放棄すると。


 セレスを一度休ませるという名目で教会に入ったナターシャたちは、すぐに教会の結界を起動させ教会を封鎖。この呪いの猛威が収まるまで籠城を行うことを決めたのだ。


「私はきっと大勢に恨まれるでしょう。その上で処刑されるのかもしれない。それでも私は皇女として、そして友人としてセレスを守らなければいけないの。例えその友人に恨まれたとしても」


「ナターシャ……」


 状況はわかった。誰もが自分にできる最善の選択をした上の結果がこれというわけだ。


 聖女として、皇女として、そして国として。各々がしたくもない選択をし、少しでも未来に希望を残そうとした。それなのにこのままでは数多くの人が死に、苦しい決断をした者も罪の意識にさいなまれることになる。


「笑えねぇな」


 あの天使は病気は神の裁きと言った。それを治すことは神に反することだと。だとすればこの状況は神が作り出したものであり、神が人を大量虐殺しようとしているに他ならない。


「おい、よく聞け。俺にはこの状況を治す手段がある」


 ならとことん俺は神に反することにしよう。その結果、神に狙われるのならそれごと払いのけてやる。そう決めた俺に、もはや恐れるものなど何もなかった。


黒死病に関してはいろいろと矛盾があるかもしれませんが、ファンタジーということでそんなものと思ってみて頂けると助かります。

現在ストックを溜めている最中なのですが、最近1話が長くなってきていてストックが減っていて内心焦っています。一応2か月分はあるので問題はありませんが、これからも途切れないように頑張りますので是非これからも読んでくださると嬉しいです。


もしまだブックマークをしていない方がいましたら、是非していって頂けると作者がとても喜びます。評価までして頂けると、作者が泣いて喜びますので是非お願いいたします。


それではまた次回をお待ちください。

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新連載を開始しました。 【『物理特化ですがなにか?~魔術は苦手だけど魔術学院に入学しました~』 是非こちらもよろしくお願いします!!
― 新着の感想 ―
[一言] 「ですがっ!!」「隊長、その者が次に話に割り込んだら首を刎ねなさい」 この時点で、その者の首を刎ねなさいと言っていいのでは、何度も話の途中で割り込んでいるのですから。
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