第84話 ロータスの街を救え
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第84話~ロータスの街を救え~
ロータスの街に住む人の数はおよそ1万人。今回の黒死病の蔓延により実にその3分の1の人がすでに死に絶えてしまったというのだから、感染病の威力のすさまじさがわかるというものだ。
しかも現在進行形で患者は増えているのだから、このまま放っておけばこの街がゴーストタウンになるのも秒読みといったところだろう。
「いいか、今回の騒動の原因は呪いなんかじゃない。これは黒死病というれっきとした病気なんだよ。だから適切な治療を行えば浄化なんかせずとも病気は治るんだ」
「病気?それってなんなの?」
俺の言葉に首をかしげるナターシャ。だがその反応とは逆にセレスの表情は驚きに染まっていく。
「病気とはまさか病のことですか!?」
「その病気だよ。神の裁きとかふざけたこと言っているそれだ」
「だとすれば私達にそれを治す手段はありません!病は神によって下される罰、人である我々はそれを受け入れる他ないんですよ!!」
神に仕える修道女として、神の裁きである病は決して癒すことのできないものというのが基本的な考え方だ。だがそれならおかしな矛盾があることにセレスは気づいていない。
「ふざんけんな!病気が治療出来ないなんてことがあるか!!ならお前の浄化はなんなんだ!制約があるとはいえ、しっかり病に侵された人を治してんじゃねぇか!今更そんな言い訳が通じると思うなよ!!」
「そ、それは……」
「いいか!病気は神の裁きでもなんでもねぇ!れっきとした物理的現象であって魔法も神も関係なんかないんだ!都合の悪いことを全部神を言い訳に目を逸らすな!治したいんだろ!?助けたいんだろ!?だからここまで街が荒廃しても逃げずにここにいたんだろ!?だったらあがけよ!助ける手段があるって言ってんだから、最後まで諦めんじゃねぇ!!」
怒鳴る俺の言葉にセレスが押し黙る。何か言いたいことはあるのだろうが、結局言葉がまとまらずに口を閉ざし俯いてしまう。
そもそもおかしいのだ。神の呪いは治せないと言いながら、なぜ浄化などというものが存在しているのか。もし神の裁きがあの天使の言う通り神の領域にあるもので、それを使うことが許されないのであれば、教会にいるという浄化を使える者は真っ先に殺されていなければおかしいのだ。
だが実際そうはなっていない。病気を治療した俺の所には天使が来た。魂の研究を行っていたサイモンのところにも来ている。だがセレスにはなにもない。これはどういうことなのか。
“検索結果:対象のスキル『浄化』 対象の病気を治療する効果を持つ。行使するには一定以上の魔力が必要。制約によりどれほどの魔力があろうと、行使すれば魔力は枯渇するスキルではあるが、分類は天恵に属するものである”
そこに疑問を持った俺が調べた結果がこれだ。
つまり浄化は病気に対する治療行為。しかもご丁寧にも神から与えられたものなのだ。だが全魔力をもってでしか行使できないという制約もあり、ここから察するにおそらく神に全ての病に侵された人を救う気はない。
なぜこんなことになっているのか。これでは救う人を取捨選択しなければいけなくなってしまう。そこに一体なんの意味があるというのか。なぜこんな回りくどいことになっているのか。ここまでの情報ではこれ以上はわからない。だがひとつだけ言えるのは、神というふざけた存在がここでも関与しているということだけだ。
「あなたはこの状況を救う手段を持っているの?」
神と街の人の間で揺れ動くセレスの前に、ナターシャが口を開いた。
「ああ、現にこの街に来る前にもある少女の治療をしてきたからな。別れた時は元気に母親と笑っていたよ」
「そうですか」
笑顔で母親と一緒に手を振っていたミルファのことを思い出す。あんなにいい顔で笑える子が、神の理不尽な裁きなどというもので死んでいいはずがない。この街に住む人も、中には死んで当然のやつもいるのかもしれないが、それでも何もせずに全員が死んでいいなどと言うことはないはずだ。
「キョウスケさん。勝手を承知でお願いします。報酬はどれだけでも出させて頂きます。私たちに、この街を救う方法を教えて頂けないでしょうか?」
「ですがそれは……!?」
「セレス、神に仕える身としてあなたが躊躇う気持ちはわかるわ。だから皇女として私がやるのです。あなたは自分のするべきことをしなさい。私は皇族として民を守る使命があります」
「っ……」
民のことを案じながら、自身の立場として神に逆らえないセレスを気遣いそういうナターシャ。毅然としたその視線は、やはり皇族ならではのものなのだろう。
「なら早くやるぞ。俺よりも皇族であるナターシャが説明してくれた方が話も早いだろうからな」
未だに葛藤の中にいるセレスを残したまま、俺達は街を救うために動き出したのだった。
◇
抗生物質は錬金術で量産が可能だ。だがそれを感染者に飲ませるのは容易なことではない。
まずこの世界では病気という概念が薄いのだから、そもそも薬に至っては知っている者が圧倒的に少ないのだ。そんな人たちにどうやって抗生物質を飲ませるか。それが一番の課題となってくる。
見ず知らずの俺が飲めと言ってもまずダメだろう。力づくという手もあるが、そこまでして拒む奴を救う程俺もお人好しではない。
「いいか、全員救えるかどうかはお前の説得しだいだ。皇女であるお前の言葉なら俺よりもはるかに届くはずだからな」
「わかってる。きっとうまくやるわよ」
皇女の説得という手札。常時なら圧倒的な強さを持つその札も、ことこの場においてはどう作用するかはわからない。
何せナターシャは国の利益を優先して、教会にセレスをかくまったのだ。死にかけている人たちにとって、もはやそれは憎悪の対象となる行為だ。最悪、教会から出た瞬間に殺しにかかってくるなんてこともあるかもしれない。
「おい、いつまでそこでうじうじしているつもりだ。この場で一番の発言の強さを持つお前がそんなんじゃ助けられるものも助かんないぞ」
だからこそこの場において最も強いであろう札を動かす必要がある。自分が力尽きるまで力を使い、最後まで民を守ろうとしていた聖女による説得が。
「私は……、神の教えに反することはできません……」
「だから言ってんだろ。このアウトブレイク自体がその神のせいだとすれば、神が大量虐殺をしようとしてるんだぞ?」
「だとすれば神には何かの理由があるのです。私たちが犯してはいけない罪を犯したのだとすれば、それを甘んじて受け入れなければならないのです」
「……、お前、この場で今すぐに殺してやろうか」
神というふざけた奴に敵対する俺としては、このセレスの発言はどうにも受け付けない。理由もなく人を殺すことはやめると心に決めたが、今まさに大勢の人を見捨てて神の裁きを受け入れようとするこいつは、殺す対象となってもいいのではないだろうか。
「待って!今はそんなことをしてる時じゃないわ!あなたにとってセレスの言っていることは理解できないかもしれないけれど、セレスには神しか信じるものがないの!!神こそがセレスの唯一の心の拠り所なの!!」
殺気をまき散らし始めた俺に、ナターシャが慌てて止めに入る。もちろんはい、そうですかと殺すつもりはないが、それでもこの殺気は紛れもない本物だ。
そこに割って入るのだから、ナターシャがセレスを思う気持ちは本物なのだろう。セレスにも何かしらの神に縋りたい事情があるのだろうが、俺にはまったく関係もないし聞く気もない。
「好きにしろよ。だがその分お前の役割は重くなる。そこを自覚しろよ」
「わかっているわ」
「ならいい。それからもうひとつだな。エリザ、悪いが上空の警戒をしてくれるか。またあの馬鹿どもが来る可能性があるからな」
『キョウスケ、その役目、私がやる』
続く懸念事項をエリザに頼もうと思ったのだが、それに答えたのは意外なことにスルトだった。その声には、今までにないほどに決意に満ちた意志が込められていたのだった。
王族の中でたまにいるまともな人ってファンタジーの定番ですよね?
ナターシャさんみたいな人が偉い人ならきっといい世界になるんでしょうねと、書きながら思っていました。
お正月が明けてなかなか執筆の時間が取りづらいですが、頑張って更新をしますのでどうぞよろしくお願いします。
もしまだブックマークをしていない方がいましたら、是非していって頂けると作者がとても喜びます。評価までして頂けると、作者が泣いて喜びますので是非お願いいたします。
それではまた次回をお待ちください。




