第72話 神の目的
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第72話~神の目的~
北部地方での戦いが終結した後のことを少し話そう。
俺達とサイモンの戦いは、その余波で屋敷とその周辺を全て吹き飛ばしてしまっていた。途中結界すらも壊していたのだが、どうやらそこはエリザとスルトが二人で周辺への被害を食い止めていてくれていたらしい。
『あなた方には驚かされてばかりですよ』
戦いが終わってすぐにやってきたマリオット公爵の疲れ切った顔は今でも忘れられない。ここに来るまでにも急いできたようなので旅疲れもあったのだろうが、主な原因はこれからの復興作業にむけての精神的疲労だろう。まぁ、俺は知ったこっちゃないがな。
北部地方はシュライデンが暫定的ではあるが統治をしていくこととなった。サイモンの儀式のせいで、北部地方の有力貴族はほとんど全員が死んでしまったので治める人が誰もいないのだ。
もっとも、事が起こる前に反旗を翻し、いち早くクジョウを掌握していたこともあって、こんなめちゃくちゃな状況であってもシュライデンが市民から受け入れられるのは早く、むしろ好意的に受け入れられていた。
暫定的とは言ったが、恐らくこのままシュライデンが北部地方の新たな領主となるだろう。適任者も他にいないし、何よりここまで乱れた北部地方を再建させるなど誰も引き受けたくはないのだ。
公王に北部地方の領主として任命されたシュライデンは、その未来を思ってか若干顔を引きつらせていた気がする。こっちを恨みがましく睨んでいたが、俺には関係のないことなのだから仕方がない。
そういえば、この国に来て初めて公王とやらにも会った。ドワーフにして初めてアーネスト公国の公王に選出された彼だったが、俺達と会った時にはマリオット公爵と同じく非常に疲れた顔をしていたのが記憶に新しい。
『お前たちの働きに国を代表して礼を言わせてもらう。お前たちの話の通りであれば、あのままリッチモンド伯爵を放置していれば、わが国どころか本当に世界が滅んでいた可能性すらあった。北部地方の甚大な被害のみで済んだのであれば、幸運だったと思うべきなのだろうな』
お礼の最後にどこか恨みがましさを感じたが、これもまた俺にはまったく関係がないのだからスルーをしておいた。だって仕方がないだろ?あくまで俺は冒険者で、この国どころか世界を支配しようとしていた魔族を討伐したんだ。感謝されこそすれ、そんな視線を向けられる筋合いなどどこにもないのだから。
公王とマリオット公爵から報酬も支払われ、俺達がこの国ですることは全て終わった。いや、正確には違うな。これからが本題と言ってもいいかもしれない。この話次第で、俺達の今後が決まるのだから。
「すまんな。少しばかり遅くなったかの」
「いや、俺はてっきり逃げ出したのかと思ったよ」
「人聞きが悪いの。儂が逃げ出す理由がどこにあるんじゃ?」
「お前がまだ話してないことのせいで俺達は死にかけた。場合によってはただじゃおかないぞ」
公王によって用意された小さな家。仮の宿としてあてがわれたこの場所に、俺、カナデ、スルト、そしてエリザがいた。
サイモンと戦った後、軽い状況の説明はお互いにしあったが、こうしてゆっくりと集まるのは久しぶりだ。なぜならエリザとスルトはどういうわけか俺達と行動をともにしていなかったのだ。そしてその行動が意味することは一つしかない。
「話す気になったのか?」
「話すも何も、儂は話さないなんて一言も言っておらんぞ?あの山で話すつもりであったが、空気の読めない魔物達のせいで中断されただけじゃからな」
今回の戦いで俺は新たな情報をたくさん得た。
神が自分の権力を用いて世界に干渉している可能性があること。もともといた伝説の魔物という存在に加え、天使という新たな脅威がいること。悪魔という、これも人外の存在がいること。そしてその悪魔がエリザとスルトを知っている事。
どれも最終的には神に繋がり、全てが神という存在の手のひらで弄ばれている。きっとサイモンのような存在は世界を探せばいくらでもいるのだろう。理不尽に押しつぶされ、この世を恨むものがいくらでも。
「どこまで話したかの?」
エリザがとぼけたような口調で話し始める。だがその表情が口調と対称的なところを見ると、これから話す内容が重要だということを表している。
「儂が神の命に背き人へ攻撃を行わなかった後の話じゃ。あの後、人類はほとんど絶滅の寸前まで追い詰められたがそれでも全てが死ぬことはなかった。そうして生き残った人類は、勇者と呼ばれるものを筆頭とし、破壊の限りをつくしたスルトを始めとした伝説の魔物を封印したのじゃ」
エリザの静かに語られる話にスルトが少し顔をしかめた。土偶が顔をしかめられるかと思ったが、そこを器用に行うのだからさすがは伝説の魔物だ。
「伝説の魔物がいなくなった世界では人類が再び繁栄を取り戻していった。そんな中、神が再び行動を起こしたんじゃ」
また神。あまりにも気安く現れる神というワードに、言葉の意味が暴落している気がしてならない。
「勇者とは、お主のように異世界からやってきた者の総称じゃ。そして神は勇者に力を与えた。それが天恵であり、人類にとって唯一無二の力の事じゃよ」
今まで欠片として知っていた言葉が繋がっていく。つまり俺達は神の都合によりこの世界につれてこられたということなのか?一体何のために?どういった目的で?
「神はあらゆるものを創造することは出来るが破壊することはできない。理由はわからぬがそういうものらしい。じゃから自身で創造した人類を滅ぼすために伝説の魔物を作り、伝説の魔物を滅ぼすために勇者を召喚したんじゃ」
「ちょっと待て。そこまではこの前も聞いた。俺が聞きたいのはそこからだ。なんで神はそんなことをする?神の目的はなんなんだよ?」
自分で作ったものを壊したいのはわかったが、ここまで話を聞いても神のやりたいことがまったく見えてこないのだ。
「この世界をよくしたいのか?それとも壊したいのか?自分の都合を押し付けるばっかりで、行動が意味不明じゃねぇかよ」
「そうじゃな。お主の言う通りじゃ。スルトたちが封印されて後、儂も同じことが気になったんじゃ。神はそれからもことあるごとに世界に混乱を起こし、創造と破壊を繰り返す。魔物を大量発生させたり、異世界からの勇者をまた召喚したり、時には自身の側近である天使に国を滅ぼさせたりもしたの」
エリザがそこで言葉を切った。長い時を生きて来たエリザは、これまでに見てきたものをひとつずつ思い出すかのようにそう語る。きっとたくさんの人が死に、魔物や天使も死んでいったのだろう。神の号令の下に。
「儂は調べ続けた。神の目的を。そんなある日、神の一番の側近である熾天使、ルシファーが堕天した。儂はすぐさま理由を聞きに行ったよ。一体何があったのか、神は何をしたいのかとな」
ルシファー。俺でも知っている大悪魔の名前。神に反旗を翻したそいつは一体何を見て、何を感じたのか。俺はエリザの言葉の続きを待つ。
「何があったのかを聞く儂にルシファーはこう言ったんじゃ。『神はこの世界をひとつの盤面としか見ていない。自分の理想通りの世界にするため、創造と破壊を繰り返しているにすぎないのだ』とな」
世界を自身の手のひらで転がす神。それは俺にとって、どうしても許せない事実だと言わざるを得ないものだったのだ。
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