第68話 雛は成長し、人は戦う意思を得る
誤字の指摘いつも本当にありがとうございます。まもなく長かった第1章が終わります。最後までお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
第68話~雛は成長し、人は戦う意思を得る~
大ホールの中に深青の炎が躍る。
炎柱が立ち上り、四方から標的に向かい燃え盛り、収束された炎が貫いていく。ホールの中の酸素はあっという間に使いつくされるが、それでも尚燃え盛る炎はサイモンの体をことごとく焼いた。
「くくっ、実にいい。実にいい痛みだ!!だがそれも無意味!!私の受けた痛みはこんなにぬるいものではない!!私の再生の前には意味をなさないのだ!!」
「なら燃え尽きるまで燃やしてあげますよ!!」
どれだけ燃やされようがすぐに再生をしてしまうサイモンの前に、カナデの攻撃は通らない。しかしサイモンの攻撃は徐々にカナデを追い詰めていく。
「いかに幽霊とはいえ、魔力を込めた攻撃を無効にはできまい」
炎に構わず突っ込んでくるサイモンの斬撃がカナデを襲う。いかに物理耐性を持っているカナデと言えど、サイモンの言う通り魔力を帯びた斬撃はダメージを受ける。
しかし、通常なら敵のステータスが低く、カナデがダメージを負うことなどないのだが、今回は相手のステータスが圧倒的に上だ。ノーダメージはありえない。
「そんな蚊が止まったような攻撃じゃ、永久に私は倒せませんよ!!」
「よく吠えた!!それでこそ私の相手をするにふさわしい!すぐに折れたそいつとは大違いだ!!」
言ってくれると思ったが、俺が半ば諦めたことも事実。体力の残りは少なくダメージもでかい。おまけにさっきからめまいや吐き気もしてきた。
多分だが、サイモンのスキルである猛毒支配のせいだろう。アスタロスはその特性上、毒を支配する一面を持っている。その特性がサイモンのスキルにも反映されているのだ。先ほどの一撃に、毒を仕込んでいたと考えてまず間違いないだろう。
症状も一致するし、あのタイミングで追撃をやめた理由にもそれで説明がつく。
ほんと、なめられたもんだよ。
「恭介さんが折れた?あんまり馬鹿なこと言わないでください!!」
どこか自棄になりかけた俺の耳に届くのはカナデの声。
「恭介さんは今ちょっと休憩してるだけです!!今にあなたを一瞬で殺す方法を思いつきますから、それまで大人しく私に焼かれていればいいんですよ!!」
「その男が私を倒す方法をか?面白い。すでに力量の差を感じ、格付けがすんだ者がどうやってあがくのか見せてもらおうじゃないか!!」
何勝手なことをと思ったが、俺の声は激闘を繰り広げている二人には届かない。
「もっとも、そいつがその方法とやらを思いつくまで、お前が持てばだがな!!」
サイモンのその言葉に一層二人の戦いは激しさを増していく。すでに大ホール、いや、屋敷は原形を失いつつあった。カナデの炎で辺り一帯が燃え盛り、サイモンの斬撃は屋敷の原形を破壊していく。
屋敷の周囲にはいつの間にか防御結界のようなものが展開されていて、今のところ一般市民に被害はないようだがそれも時間の問題だろう。
カナデは俺を信じている。あの目はそう言う目だ。それにさっきの言葉。死骨山脈でのことを思い出す。
あの時俺は死を覚悟したし、実際ほとんど死んだようなもの。エリザのおかげで奇跡的に生還したが、あれは運がよかったにすぎないのだ。
その時の想いを二度としたくないとカナデは言った。
自分の前で誰かが、俺が死ぬ。それはカナデにとっては忌避することなのだろう。
想像をすれば当然なのかもしれない。自分がなぜ死んだのかもわからぬまま、永久の森で数百年も漂い続けていたのだ。そこに現れた俺と一緒に旅をし、きっとカナデは楽しかったのだろう。
刷り込みのような感情なのかもしれないが、それでもその気持ちはきっと本物で、絶対に失いたくはないもの。逆の立場になって考えてみれば、そんなことは容易に想像が出来た。
「ここは私がもたせますから、恭介さんはゆっくり休憩してていいですよ!!」
幽体化しているはずの体の至る所から血を流すカナデが、心からの声で俺にそう叫んだ。
もはや勝敗は決している。カナデの魔力は残り少ない。それを分かったうえでサイモンは手を抜きながら戦っている。万が一にも逆転はない。それでもカナデは俺を信じて戦っている。
「不倶戴天……」
こんな展開、そこらに腐るほど転がってるファンタジーの展開にそっくりで、できれば避けて通りたかった。
だが逆に考えればそんな展開が溢れているというのは、それだけこの状況が諦めるわけにはいかないということだ。
「確かにこれだけ信頼されて諦めるわけにはいかないよな」
折れかけた主人公が再起する。ありふれた展開が多用されるのにはそれなりの理由がある。主人公になったつもりはないが、すくなくともこんなところで諦めるわけにはいかないのだ。
「地獄に落ちやがれ!!」
迫るサイモンにカナデが距離を開けるために圧縮した炎を爆発させた。少しだけできた二人の距離。その隙を使って俺は渾身の一撃をサイモンに放った。
“グングニル”
キング・ワイバーンに使い、ステータス差にも関わらず一撃で葬り去った俺の最大攻撃。
不倶戴天を使用した時にしか使えないこの技は、正確にサイモンを捉え、その体を押しつぶしていく。
「っく!?こんなものでっ!!」
残り全ての魔力、体力を込めて放つ一撃は、いかに暴力的ステータスを持つサイモンといえどそう簡単には止めきれない。
受け止めることには成功したようだが、いまだ衰えない槍の突進力に徐々にサイモンの体が後退していく。
「突き破れ!!」
もはや何も残っていない体から、最後の一滴まで魔力を振り絞りグングニルにのせる。不倶戴天を使い、魔力も全て使いきった。この後に待つのは死かもしれないが、それでも諦めるつもりはない。
「そのスキルは使っちゃダメって言ったじゃないですか!!」
「うるせぇ!」
「死んじゃうかもしれないんですよ!!」
人がありったけの力を注いでいる横でわめくなよ。そう思ったから俺はカナデにこう告げてやった。
「死なねぇよ!!俺を信じろ!!」
槍がサイモンを貫くまであと一歩。一度貫けばその余波で相当量のダメージを与えることは想像に難くない。流石のサイモンもただでは済まないはずだ。
「約束ですよ?」
「あの時だってちゃんと戻って来ただろう?」
「知ってます。恭介さんは嘘つきませんから」
そう言ってカナデは槍に魔力を込め続ける俺の腕にそっと触れた。
「私の魔力も使ってください!!」
「言っとくが遠慮なく使うからな!!」
「構いませんよ!!早くあんな気持ち悪い奴倒して、しっぽりと二人で楽しもうじゃないですか!!」
「ほんと台無しだよお前!!」
言葉は軽い。だが伝わってくる魔力はどこまでも重い。俺の魔力にカナデの魔力が重なる。
「こっ、こんなもので!?」
「いいからとっとと死んどけよ!!」
「くっそ、がっ!!」
あふれ出す魔力の奔流がグングニルを包み、そしてついに敵に届く。
「っあがぁぁぁぁぁああああ!?」
サイモンの体を、グングニルが真正面から突き破った。
“検索結果:新規スキルの取得。あらたなスキルを獲得しました。また、個体名:カナデのスキルの進化を確認しました”
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