第67話 不屈の闘志は理解を超える
前回の誤字の指摘ありがとうございます。なかなかなくならない誤字に対する修正に非常に助かっております。
第67話~不屈の闘志は理解を超える~
「なるほど、別動隊か。あそこはそれなりに重要な場所だったのだが、やってくれるな」
引き抜かれた剣から血が滴り、同時に俺の胸から血が噴き出した。
どこか遠くですさまじい爆発音が聞こえるが、サイモンの言ったのは多分そのことだろう。方角的にエリザとスルトが向かった強制労働所だろう。
「どうして私がこの定例会議を儀式の日に選んだかわかるか?」
一気に薄れていく視界をなんとか保ちつつサイモンの言葉を聞く。
「悪魔の召喚は魔族の秘術。生贄を与えることで悪魔を呼び出し自身の力の糧とするのだが、通常召喚できるのは下級の悪魔のみ。しかしそれでは私の目的には遠く及ばない」
言葉を切るサイモンは攻撃をしてくる素振りはない。その隙にカナデが俺に近寄ってくる。
「傷口を焼いてくれ」
「でもっ!」
「いいから早くしろ!血がとまればまだ動ける!!出来ることに戸惑うな!」
なおも躊躇うカナデだが、無言で睨みつけるとゆっくりと傷口にそっと手を当て炎で焼き始めた。
「私の目的を果たすには上位の悪魔。しかも最上のものが必要だ。神に挑むのだから当然と言えるだろう」
肉の焼ける匂いが立ち込め、俺は苦痛に顔をゆがめる。それでも数秒後には焼けただれた皮膚と引き換えに、止血はなんとか得られていた。
「私は考えた。どうすれば最上級の悪魔を召喚できるか。どうすれば力を手に入れられるのか。そして気づいたんだ。悪魔を呼ぶには生贄ではなく、魂が必要だということにな!!」
血は止まっても失った血は戻ってこない。動かすことが億劫になるくらいに重い体をなんとか引きずり、足元に落ちた槍を持ち直す。
「魂の研究は私の本業。いかに強い悪魔を呼び出すかに重きを置き一年が経ったところで私は気づいた。魂の強度は人により違う。強い魂と弱い魂があり、その強さは魂の器、しかも魔力の総量に比例していることに気づいたのだ」
講釈を垂れるサイモンに俺は感謝した。攻撃をしかけてこないならちょうどいい。今の俺の状態では、先ほどまでのようにサイモンの攻撃を捌くことは出来ない。ならどうしたらいいか。必死に頭を働かせ、打開の一手を探っていく。
「命魂石があれば神でなくても魂への干渉が可能。上位の悪魔の召喚にはより多くの魂が必要。その二つをクリアするためには、この北部地方はまさに私にとって理想の地だったよ」
勝てる見込みはほぼない。ダメージを多く受けた俺は言うまでもなく、カナデの攻撃も通らない以上どうにかなる可能性は低いと言わざるを得ないのだ。
「貴族というのはそもそも魔力が高い。しかもこの北部地方は紛争地域ゆえに他の地方に比べて魔力が高い貴族が多い。私は思ったね。これを使う以外に他に何があるのかと」
残存魔力。俺にあるスキル。カナデの焼却魔法。すべてを頭の中で組み合わせて勝ち筋を探るが、何度シミュレーションしても攻撃力が足りない。サイモンの再生力を打ち破る手段が見つからない。
「今回の定例会議までにそれはもう念入りに準備したさ。街の防壁は完成した。神を打倒するための戦力を得るために、この先広げていく領土を得るための土地に楔も打った。あぁ、そういえば言っていなかったな。私はお前たちのような者でも、多少の戦力となるように作り替えることが出来る。私がこの世界を支配する足掛かりは十分にそろったんだよ」
エリザとスルトが破壊した労働所はその一端。サイモンは支配した土地に住む人たちを人造悪魔にし、戦力の底上げをはかろうとしたのだ。
「やっと準備が整った。後は私が力を手に入れるだけ。そして今日、定例会議という北部の貴族が集まるこの場で、全ての貴族の魔力と魂を使い、こうして私は何(者?)にも負けない力を手に入れたのだ」
負け戦。その言葉が頭によぎるが、表情には出さない。ここで負けるわけにはいかない。負けてしまえば全てが終わる。理不尽に抗うと決めた旅がここで終わってしまうのだ。
「カナデ、お前はエリザとスルトを呼んで来い。ここは俺が抑えるから」
勝ち目があるとすれば残すはそれだけだ。伝説の魔物たるあの二人が来れば、勝ち目も出てくるはず。最悪間に合わなかったとしても、カナデは逃がすことが出来る。
「言っておきますが私は行きませんからね」
だがカナデは俺のその指示に従うことはなかった。
「恭介さんが諦めるのは勝手ですが、私は諦めません!恭介さんを一人で死なせたりもしません!!あの時、あの死骨山脈でのあんな思いをするのは一度でたくさんなんです!!」
大ホールに、カナデの決意を込めた叫びが響き渡ったのだった。
◇
破壊しつくされた地下の強制労働所跡にたたずむ影が二つ。
『どうするんだ?あいつら負けるぞ?』
エリザの逆鱗に触れた魔族は自身もろとも施設と共に塵と消えた。当然だが、そこで働かされていた人たちは全て外に逃がしている。
残念ながら、すでに人造悪魔に変えられた者を救うことは出来なかったが、自分たちは別に英雄でもなんでもない。あくまでキョウスケに頼まれたからしたことであり、結果としては上出来だろう。
「そうじゃな」
『そうじゃなって。お前あいつらのこと気に入ってたんだろ?いいのか?』
伝説の魔物とまで呼ばれる二人だ。例え距離が離れていようと、戦う3人の力量差くらいは容易に把握できる。だからこそスルトは聞いたのだ。手助けに行かなくていいのかと。
「負ければそれまでじゃったということじゃよ」
しかしエリザの答えは冷たいものだった。
「儂は確かにあやつらに興味を抱いたから一緒におる。ここまでの道中が楽しいことも否定はせん。じゃがな、それでも儂はあくまで魔物であって人ではない。弱き者に興味を示す理由はないんじゃよ」
それはまさに弱肉強食の世界で生きる者の言葉。それをスルトも理解しているからこそ、それ以上は何も言わなかった。
「のぉスルトよ」
『なんだ?』
3人が戦う方を見つめスルトを呼ぶエリザ。意外なことにその表情には笑みが浮かんでいたのだ。
「儂はの。あやつらがそう簡単に負けるとは思っておらんぞ?曲がりなりにも儂の血を受け入れた者と、魔導の根源に近い者達じゃ。諦めない限り、まだまだ結果はわからんよ」
そう言いリッチモンド伯爵の屋敷を見つめるエリザ。スルトもまた、黙ってそれに倣うのだった。
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