第62話 邂逅
誤字がなくならず本当にすみません。いつもご指摘ありがとうございます。
第62話~邂逅~
時は少し戻り、エリザとスルトが強制労働所へと踏み込んだころに遡る。
「妙だな」
「何がです?確かに趣味が悪い装飾品ばかりですけどねー。見てくださいよ。これなんかなんの彫刻かわからないですよ?人にも見えますし、それともオークとかでしょうか?」
屋敷の上空を介してバルコニーから侵入した俺達は、廊下を静かに進んでいた。流石は北部の領主。内装は文句のつけようのないほどに豪勢なものとなっていた。床は絨毯が敷かれていて、左右の壁には壁画や鎧などの装飾品が置かれている。
カナデの言っているのは、その中でも一際目立つ彫刻のことだ。俺とほぼ同じくらいの大きさで、頭部のパーツなどは人を思わせる形をしているのだが、これを人と呼ぶには流石に違う。
現代アートと呼ばれるものにこういった物があるので、芸術と言われればそれまでなのだが、この彫刻はそれとは一線を画しているように感じてしまう。
話がそれたが、今重要なことはそこではない。
「警備が少なすぎるんだよ。仮にも北部の貴族が会する会議のはずだ。実際そう言った奴らが屋敷に入るのも確認した。それなのにこの警備の手薄さはありえない」
確かに俺達が侵入したのは目立たない屋敷上部のバルコニーであり、その付近の警備が薄いのはわかる。わかるがゼロということはありえない。これでは好きに侵入してくれと言っているようなものだ。
「まさか、誘い込まれたか?」
「それならそれでいいじゃないですか。何をされたところで燃やせば全部解決です!それに誘い込んでくれるなら、手間も省けて一石二鳥ですよ!!」
これを本気で言っているのだからカナデには恐れ入る。だが、カナデの言葉に一理あるのもまた事実。
リッチモンド伯爵が、何かよからぬことを企んでいるのはもはや疑いようのない事実。目的こそわからないが、状況証拠は十分にそろっているのだ。
ここで仮に戦闘になり、北部地方に重大なダメージを与えることになったとしても、俺達が悪者になるということはない。なんならマリオット公爵を巻き込めばいい。それにだ。あくまで俺達は冒険者であり、この国の人間ではない。最悪、力でごり押して国外に逃げてしまえばそれで終わりだ。カナデの言う通り、この状況は逆にラッキーだと考えるべきなのかもしれない。
「そうだな。とっととリッチモンド伯爵を見つけて、このくだらない問題を終わらせちまおう」
「その意気です!そして夜は私とたまには二人でしっぽり楽しみましょう!!」
「全部終わったらな」
最後で台無しなカナデだったが、いい感じに俺の緊張をとってくれた。
不自然な廊下を歩く足に迷いはない。俺とカナデはリッチモンド伯爵がいるであろう屋敷の中心部に向けて進んでいくのだった。
◇
屋敷の造りはそれほどおかしなところはなかったが、この一番大きな部屋だけは別だった。
大会議室、大ホール。言い方は様々あるだろうが、とにかく大きな部屋。そこには北部地方の有力貴族たちが集い、何やら熱心に話し込んでいるようだった。
「恭介さん。やっぱりこの部屋の下は空洞になってます」
「そうか。あいつ何を企んでやがる」
俺達がその部屋に侵入したのは2階から。屋敷の1階に設けられた大ホールだが、収容人数に考慮してか、2階部分まで天井をぶち抜いた造りになっていたのだ。
そのおかげか、2階部分には部屋をぐるりと取り囲むように観覧席が設けられていて、俺達は今、そこに繋がる一つの扉から部屋に入ったというわけだ。
入った瞬間に感じたのは違和感。階下の席に座る貴族たちが時折席を立った時に聞こえる足音がどうにもおかしいのだ。
龍人に進化したことにより聴覚が強化されたからか、以前では聞こえない音がよく聞こえる。
その聴覚によって聞き取ったのは、人が歩いた時に響く足音がどうにも高く、まるで空洞音のように聞こえてきたのだ。
「言われた通り空洞の確認しかしてないですけどいいんですか?ご用命とあればもっと細かく見てきますよ?」
「いや、今はいい。ますますきな臭くなってきたからな。戦力を分散させるよりも一緒にいたほうがいい気がするんだ」
「それは私とずっと一緒にいたいということです!?これはまさか!俗に言うプロポーズという奴なのでは!?」
「どうしてお前はそう緊張感に欠けるんだよ」
何をどう解釈すればその考えにいたるのかは知らないが、一人で百面相を始めたカナデは放置だ。もし何かあればすぐにスイッチを入れてくれるはずなので今は放っておくが一番いい。
カナデを放置した俺は思考を巡らせていく。
リッチモンド伯爵のこれまでの行い。そして目的、俺達がここに来ることを分かったうえで行う定例会議。
そこから導き出される結論はなんなのか。さらに深く思考を展開させようとした時、ついにその人物が現れる。
「皆、今日はよく来てくれた」
綺麗に整えられた口ひげとオールバックにまとめられた髪。一言で言うなら英国紳士。その表現がぴったりくるような男が大ホールの一階部分扉から悠然と姿を見せる。その額には、これまで見た誰よりも大きな角があることから、そいつが鬼人族であることは間違いない。
「初めて会う者もいるだろうから一応自己紹介をしておく。私がアーネスト公国北部地方領主、ジェイド・リッチモンドである」
静かだが、それでいて全員に届く声。どうやら北地方の領主とはだてではないらしい。南部地方領主であるマリオット公爵とはまた違うカリスマ性。その片鱗が一言言葉を発しただけで会場中に染みわたっていく。
リッチモンド伯爵の言葉を盛大な拍手で迎える会場内。その拍手を制するかのようにリッチモンド伯爵が片手を挙げた。
「今日は歴史的な日になる」
静まり返った大ホールの中に、リッチモンド伯爵の声が響いた。
「北部地方は新たに生まれ変わり、そしてこのアーネスト公国は変革の時を迎えるのだ」
言葉の真意がわからず戸惑う貴族たち。だが、その真意を汲み取った者は驚きの声を上げる。
「それはまさか、この国を乗っ取るつもりでは!?」
「乗っ取りとは言葉がすぎるな。これは国を正しい形に戻すにすぎん。弱り切った公国を、元の屈強な国へと再びよみがえらせる!!」
今度こそ全ての貴族がその意味を理解した。つまりリッチモンド伯爵はアーネスト公国をまるごと自分の支配下におこうとしているのだ。
それが何を意味するのか。剣と魔法という戦闘手段があるがゆえにこの世界では争いが簡単に起こってしまう。もしそんなことをしようとしていることが知れれば、起こる結果は一つしかないのだ。
「戦争になりますぞ!!」
「すべて承知の上。だからこそ私はこの数年軍備の強化を行った。防衛機構はすべて整った。そして今日、攻撃手段も揃うのだ!!」
まさに狂気。誰もがリッチモンド伯爵が完全に狂っていると認識した時にはもう遅い。
この場所、この大ホールに来てしまった段階ですでにリッチモンド伯爵の計画は完成していたのだ。
「さぁ、私の礎になるがいい!!」
不意に開く大ホールの床。突然の事態に誰も回避などできるはずもなく、部屋の下に用意されていた空洞へと落ちていく。
「ついに、ついに私の願いが成就する時が来たのだ!!これで進める!この先の領域に進むことが出来るのだ!!」
登場したときの冷静さをまとった紳士的な雰囲気などもうすでにどこにもない。そこにいるのは、ただ自分の願いが叶ったことに狂喜する、腐った男の姿だった。
「私は次に進む!そして私のやり方を否定した全てに復讐するのだ!!」
血走らせたぎょろつく目が、ぽっかりと大穴を開けた大ホールを見渡し、そして最後に2階、つまり俺達の方へと向いた。
「招かれざる客よ!!お前たちが何をしたところでもう遅い!!私は今宵、神の領域へと足を踏み出したのだからな!!」
俺達に気づき、それでも尚狂気じみた笑みを浮かべる伯爵。この部屋までの警備を薄くしたのも、俺達がここに来るのを邪魔しなかったのも、全てはこの光景を見せるための物だったのだろうか。
「面白いじゃねえか」
それならそれでいい。そっちにどんな目的があって、どんな思いで動いているのかは知らないが、全部叩き潰してやるよ。
正面から全て叩き潰してな!!
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