第52話 掌握
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第52話~掌握~
クジョウの街を落とすに当たり、その後の展開を考える必要があった。
アンダーソン子爵亡き後、誰がクジョウを統治していくのか。いかにアンダーソン子爵やリッチモンド伯爵の流れをくむものを排除しても、ぽっと出の者では民衆が納得しない。すぐに反発者が現れて失脚するのが目に見えていた。
誰もが納得し、かつ暫定的にクジョウを統治しても問題ないと考えられる者。
俺がそのポストに推したのはシュライデンだ。
もともとリッチモンド伯爵の息子であり、立場としては申し分ない。加えて伯爵のもとを離反してこの街に来ているのだからリッチモンド伯爵に味方することもない。
前提条件が揃えば後は修飾を施していくだけ。アンダーソン子爵の死とともに敵が出てくる、しかも非常に強力で強い敵が出てくることはわかっていた。だったらそれを使わない手はない。
リッチモンド伯爵の切り札。それを逆手に取り、シュライデンに討伐させるのだ。そうすれば肩書だけでなく、名実ともにクジョウの街を救ったという箔が付く。暫定的であれクジョウの街を統治したところで何の問題も起きなくなるというわけだ。
「負傷した者の治療を急いで!動けるものは手を貸してやってください!!グノッシュ男爵は私と来てください!!」
シュライデンが未だ混乱する会場内へ指示を次々と出していく。
大した被害は出なかったが、魔物と化したアンダーソン子爵の咆哮や威圧などで精神をやられたり、騒動で転倒し怪我を負ったものはそれなりにいる。
誰もが状況の変化についていけずに動き出せずにいる中、それらをまとめあげるシュライデンはさぞかし頼もしい存在に見えることだろう。
こうなることを予測し、筋書き通りに動いているだけなのでこちらとしては難しいことではないが、他の者にはそうは見えない。
「後は任せるぞ」
「もちろんです。流石にここまでお膳立てをしてもらって失敗しては僕に未来はありません。2日で掌握してみせます」
そう言うとシュライデンは清々しい笑みを見せて、呼びつけたグノッシュ男爵と一緒に奥の部屋に向かっていった。
これでクジョウは掌握した。さぁ、リッチモンド伯爵。次の手はどう出る?
◇
シュライデンの宣言通り、そこから2日後にはクジョウの街は落ち着きを取り戻していた。
暫定的なトップにシュライデンが収まり、アンダーソン子爵のこれまでに行ってきた悪行の後始末をつけるという名目のもと、実際の政権を掌握した。
アーネスト公国の政治は連邦制に似ており、各地方によって法律が違ってくる。この北部地方においては、街のトップはその街に住む住民が投票によって決めるという制度が敷かれているのだ。
しかしそれは形骸化しており、実際は最初から決まった候補者が当選するという出来レースとなっている。
なのでシュライデンがトップの座に収まるのにそう難しいことはなかった。もとから手をまわしていたことと、今回の件の功績もあるのだから、誰もその当選を止めることなどできなかったのだ。
「てなわけで、北部地方の交易の拠点は掌握した。ついでにアンダーソン子爵の書斎からリッチモンド伯爵の悪さの証拠も掴んだし、いい加減動ける材料は揃ったんじゃないか?」
『何をどう言えばいいのかわかりませんが、あなたが味方でよかったとだけ言っておきます』
「誉め言葉として受け取っておくよ」
通信魔石の向こう側でマリオット公爵が頭を抱えている姿が目に浮かぶ。
本来、北部地方の領主という大貴族の悪事など大々的に裁けるものではない。
領主ともなれば、その人が失脚するだけで地方の政治や財政が一気に傾く場合もあるし、悪ければ公国全体が影響を受けてしまう可能性も否めない。
だからこそ周囲を固め、影響を最小限にしたうえでトップだけを挿げ替えるというのが定石なのだ。
もちろんこの方法にはデメリットもあり、時間がかかってしまうため敵側に手を打たれる場合もあるし、過去には周辺国を味方につけ国同士の戦争になったという事例もあるくらいだ。
なので領主へ仕掛ける場合というのは、これ以上向こうに出来ることは何もないという状況でないといけないのだ。
『幸か不幸か、ここまでも動きがあまりにも早すぎ流石のリッチモンド伯爵も初動が遅れているのが救いでしょう。東部と西部にもあらかじめ声はかけているので動いてくれるはずです。後は公王の許可さえでれば、北部を除くすべての地方が一斉に北部へ攻撃をしかけるでしょう』
「公王の許可とやらはどれくらいででそうなんだ?」
『早ければ3日後ですね。すでに使者の派遣はすんでます。証拠もあれだけあれば、公王としても動かざるを得ないはずです。いかに北部地方が帝国との防衛の拠点であるとはいえ、国家に害をなす可能性が高い以上、手を打たないということはありえませんから』
そう答えるマリオット公爵の言葉に込められた思いは強い。きっといろいろと思うところだがあるのだろう。俺には関係ないがな。
『あなた方はこれからどうされるのですか?依頼した調査は期待以上のものをこちらにもたらしてくれました。私からはこれ以上望むものはありませんが』
「リッチモンド伯爵に会いに行く。もともと俺の目的はそれだったからな。あんたから受けた依頼はそのついでにすぎなかったわけだし」
『そう、ですか……。わかりました。私にあなたを止める権限はありません。何より止める力もありません。ですが一つだけお願いしをしてもいいでしょうか?』
「一応聞いておく」
『できれば殺さないでください。どういう理由でリッチモンド伯爵がこのようなことをしているにせよ、公国の人間である以上、公国の法で裁かなくてはなりません。死という一瞬の苦しみで終わることなどあってはならないのです』
言っていることはもっともで、俺とてそっちの方がいいことは重々承知だ。
だけどどうなるかはわからない。俺の中でひとつの予感がしているのだ。
リッチモンド伯爵との邂逅は、一筋縄ではきっといかないだろうという予感が。
「善処するよ」
だから俺はそう答えるに留めた。マリオット公爵との通信が切れ、部屋の中に静寂が戻る。
「行きますか?」
「そうだな、行くか」
カナデの言葉に静かに頷いた。次なる目的は北部地方の都、カムイだ。
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