第50話 策謀と策謀
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第50話~策謀と策謀~
会場内の壁際に追い詰められる子爵。その周りを取り囲むように包囲網を形成する招待客たち。もはやアンダーソン子爵に逃げ場はない。
「お、お前たち?!わ、私に手を出せばリッチモンド伯爵が黙っていないぞ!!」
「黙れ!いかなリッチモンド伯爵と言えどこの映像を見れば納得される!!貴様が悪であるとな!!」
もはやアンダーソン子爵の言葉に従う者など一人もいない。聞く耳もなければ信じる者もいない。
万策尽きた。誰もがそう思う状況のはず。だがアンダーソン子爵の表情からは動揺をしながらも薄い笑みは消えない。
「ならば仕方がない。そちらが暴力で物事を解決しようというのなら、こちらも同じようにさせてもらおう」
懐に手を入れ、魔石を取り出す子爵。遠目に見えるそれは通信魔石であり、それを使ってどこかへ指令を出す。
「反逆者だ!!全ての兵よ!フロア内の反逆者をすべて殺せ!!」
その言葉に会場内が怒りから一転凍り付く。アンダーソン子爵の私兵、それはつまりこの街随一の精鋭たちなのだ。
街を盗賊や魔物から守る戦闘のエキスパート。信頼すべき兵士たちが、自分たちに牙を剥いたとしたら。
その光景を想像し、招待客たちに戦慄が走った。
「ふは、ふあははっはああ!!もう遅いぞ!泣いて謝ったところで手遅れだ!!せいぜい逃げ惑いながら死んでいくがいい!自分たちの息子たちのようにな!!」
一手で逆転を決めたアンダーソン子爵は高笑いしながら、壁際から壇上へと悠然と歩いていく。
それとは対照的に我先にと会場の出口へと殺到する招待客たち。
だがそれは遅かった、一つしかない出口にはすでに重装備に身を包んだ兵たちが立塞がるように立っていたのだ。
「さぁ殺せ!!反逆者どもを全員血祭りにあげるのだ!!」
アンダーソン子爵の指令に兵が動く。その様子に先頭にいた招待客が腰を抜かししりもちをついた。もはや逃げられない。兵士の剣が招待客に向けられるかと思ったその時だった。
「立てるか」
招待客に向けられたのは剣ではなく兵士の手。倒れた招待客は兵士の力強い腕により助け起こされる。
招待客はどういうことだが訳がわからない。だが、それ以上に動揺をしていたのはアンダーソン子爵だった。
「き、貴様ら!!それはどういうことだ!!なぜそいつらに手を貸す!!貴様らも反逆するというのか!!」
「黙れ!!もはやお前に仕える気などないわ!!これまでの非道と暴虐の数々。お前のせいでどれだけの友が死んでいったと思っている!!もはや許す気など微塵もない!この場で成敗してくれる!!」
屋敷に常駐している100人以上の兵士たちが会場へとなだれ込む。
逆転に次ぐ逆転。切り札を切り優位に立ったと思ったアンダーソン子爵は、再び訪れた窮地に目を白黒させながらまた後ずさっていく。
『作戦成功です』
「よくやった、カナデ。エリザとスルトも完璧だ」
通信機の向こうでカナデの嬉しそうな声が聞こえて来た。そう、この兵士たちの裏切りも当然だが事前に俺達が仕組んだことだったのだ。
事前に兵士たちの隊長に話をつけ、こちら側に抱き込んだ。執事長と同様に、隊長もまたアンダーソン子爵には腹に据えかねていたのだ。
おかしな命令であっても兵士たちは従わざるを得ない。そのせいで何人の兵士たちが殉職していったことか。
執事長達から得たネタを餌に、俺達は隊長を説得し味方につけたのだ。
「待て!待ってくれ!!金ならやる!!地位もくれてやろう!!ど、どうだ!?クジョウの一等地に屋敷もくれてやるぞ!?」
醜い命乞いを行うアンダーソン子爵に対し、誰も助けようと思う者などいない。
これが俺の作戦。自身の手を汚すことはなく、周囲の者を使って追い落とす。
もちろん俺が自分でアンダーソン子爵を殺すことなど朝飯前だが、それではその後が立ちいかなくなる。
当然だが俺が殺せばそれは暗殺だ。犯人探しが始まり、政権が荒れるのは目に見えている。出世欲にまみれた者が次のトップの座を巡り争い、アンダーソン子爵に与する勢力も消えることはない。
最悪リッチモンド伯爵が出張ってきて、クジョウを実効支配してもおかしくはないだろう。
だが今回のように、アンダーソン子爵の悪行を暴露し、民衆による反乱であれば話は変わる。
一人の敵に対しまとまった集団は、その後もしばらくの間はそのまとまりを保つ。
しかもアンダーソン子爵が敵と認定されたうえでの失墜なのだから、そこに与していた者は必然的にはじきだされることになる。
「どうしてだ!?どうして誰も俺を助けに来ない!!」
叫ぶ子爵。おそらくアンダーソン子爵が言っているのは、地下に常駐させていた近衛のことだろう。
誰も彼もがひとくせもふた癖もある強者ばかりの集団で、この場に乱入されては邪魔になる。なのでカナデ達に頼んで、ここに来る前に全て潰してもらったというわけだ。
「覚悟!!」
隊長の剣が、命乞いを続けるアンダーソン子爵に突き刺さる。飛び散る血液が、周囲を赤く染めていく。
「ぅあっ、あっ……」
引き抜かれる剣と共に崩れ落ちるアンダーソン子爵。怒りに包まれていた会場内が、ひと時の静寂に包まれた。
『まったく、やってくれたものだな』
しかし、確かに死んだはずのアンダーソン子爵から、そんなこえが聞こえてくる。その声に後ずさる隊長と招待客たち。先ほどとは違った意味で会場がざわつきだす。
どうやらクライマックスはここからのようだ。まぁ、その方が楽しめるけどな。
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