第49話 手を汚さずとも出来ることはある
第49話~手を汚さずとも出来ることはある~
大勢の来客が、思い思いにドリンクを飲み、食事を食べ、他の客と歓談を行う。
歓談の内容の中には、黒い話も混じっているのだろうが別にそこに目くじらを立てるつもりなど毛頭ない。
古今東西、人が密集した場というのは密談が交わされる場所の定番なのだ。しかも貴族という秘密と後ろ暗さの多い連中が集まった場所。そういった話が出ない方がむしろおかしい。
招待客は各々の時間を過ごし、そして夜が更けていく。今夜の主役であるアンダーソン子爵もまた、フロアで多数の貴族たちと歓談に興じていた。
その両側には自分の半分の年齢にも満たないのではと思われる若く、そして綺麗な女性を侍らせ、時折手がいやらしく動いているさまは嫌悪しか催さない。
背後の権力者の力を盾に好き放題に振舞う馬鹿。それが子爵に対する裏での正しい評価だった。
「フロアの皆様、ご歓談中大変申し訳ありませんがこちらにご注目ください。これよりこのパーティ―をより盛り上げるための余興を行わせて頂きたく思います」
執事長の一言でフロアの視線が再びステージに向けられる。ステージにはいつ用意されたのか、大きなプロジェクターの幕が用意されていた。
招待客は余興という言葉と、見たことのない機械に期待を見せる。
逆にアンダーソン子爵と言えば、聞かされていなかった突然のプランとこれまた見たことのない機械に目を白黒させていた。
当然だがこの世界にプロジェクターなどというものがあるわけがない。カメラですらないこの世界だ。動画を映し出す機械などあるわけがないのだ。
では一体どうしたかといえば、これももちろん俺がインデックスによる検索と錬金術によって用意した。これこそが今回の計画の要になるからこそ、スキルを惜しみなく使ったのだ。
「アンダーソン子爵様はクジョウの街の長にして皆様の期待を一身に受けておられるお方です。そこで、その功績を皆様にもさらに多く知っていただくために短くはありますが映像をご用意させていただきました」
映像という言葉に会場内から歓声が上がった。科学技術のない世界ではあるが、その分魔法が席捲している世界だということは周知の事実であるが、映像もまたこの世界では魔法によりみることが可能となっている。
残しておきたい映像を、魔力に変換し魔石へ封入する。それによりほぼ永久的な記録の保管が可能となるのだ。
だがこれは結構なコストがかかり庶民には難しい。まず記録できる容量は魔石の大きさに依存しており、弱い魔物の魔石ではほとんど映像の記録などは出来ないのだ。
加えて魔石に映像を封入するにはこれまた長さに応じて魔力の量が変わってくる。
つまりより長く、より多くの映像を記録するためには大きな魔石と膨大な魔力が必要となるのだ。
そのせいか魔石による記録保管を用いているのは王侯貴族に限られる。庶民はもちろん、子爵や男爵クラスの貴族では一生見ることは叶わない。
だからこそのこの歓声。皆魔石による映像を期待しているのだ。だが俺が作ったのは磁気記録によるいわゆるHDD方式の記録のため原理はまったく違う。違うが今回の目的はそこではないのだ。
俺の目的はその映像の中身だ。この映像の中身を見て、果たしてこの会場がどうなるか。想像するだけでも口角が上がってくるのを抑えられないというものだ。
「趣味が悪いですよ」
「自覚はあるさ」
シュライデンが目ざとく俺の表情に突っ込みを入れるが、その一言で流すことにした。
「それではご覧ください」
そして執事長がプロジェクターの再生ボタンに手をかけた。スクリーンに映し出される映像。
映像が始まって尚、不思議そうな顔をしてスクリーンを眺めるアンダーソン子爵の表情は、非常に滑稽であったとここに添えておく。
◇
映像が終わったフロアは、俺が事前に想像していた通りの地獄絵図の様相を呈していた。
「どういうことだ!あの案件はまかせろと言ったじゃないか!!」
「ふざけるな!息子は、息子は戦死だと言ったのは嘘だったというのか!!」
「家の娘をあんな慰み者にしただと!?貴様!ただで済むと思うなよ!!」
スクリーンに映し出された結果、招待客の貴族の怒りがアンダーソン子爵へと突き刺さる。
それはもはや権力や力でどうにかなるものではない。それほどに大きく純然たる怒り。その全てがアンダーソン子爵へ向いているのだ。
「ま、待て!?これは何かの間違いだ!!私はあんなこと一度も……」
「嘘を言うな!!あれほどの映像が虚偽だというのか!!魔石と魔力という膨大なコストを使うのが記録映像だぞ!!映像に虚偽はないというこの世の理をよもや知らぬとは言わせんぞ!!」
言い逃れようとするアンダーソン子爵に別の貴族が詰め寄る。そう、先にも言った通りこの世界において映像は膨大なコストが必要となるのだ。
それゆえ地球では当たり前のようにあったフェイクニュースの様な虚偽の映像を作ることは叶わない。ゆえに映像は常に真として扱われる。今回はそこを利用させてもらったというわけだ。
俺が用意した映像は、簡単に言えばアンダーソン子爵の悪行暴露集のようなものだ。
この3日間、執事長の協力のもと、屋敷の各所に監視カメラをしかけ、加えて他にも協力者を募りアンダーソン子爵を記録した。
その結果がこれだ。出るわ出るわの悪行の数々。最悪捏造映像でも作ろうかと思ったが、むしろ素材が余り過ぎて編集に苦労した。
例えば書斎で行われた商人と会話では、地方貴族と共同で行っていた事業が失敗。それを自分はまったく関与していなかったことにし、地方貴族へすべて押し付けたり。
またあるときの軍の幹部との会話では、有力商人の息子が軍の分隊長であったのだが、自分の指示に不満を覚え意見を述べたという理由で処刑した事実を揉み消した。
さらには教会の司祭の令嬢を、住み込みでの礼拝ということで屋敷に送らせ、実際は自分の夜の相手にしていた。
などなど、それはそれは多くの衝撃映像が記録されたのだ。
「貴様、貴様許さんぞ!!」
招待客であった貴族、商人、司祭というクジョウの街の有力者がほとんど全てアンダーソン子爵へ牙を剥く。
これが俺の計画。映像という真実を突きつけることにより、この街のトップであるアンダーソン子爵を失墜させる。武力ではなく、知略による攻撃。
さぁ、仕上げに入るとしよう。そしてまずはこの街を手中に収めるのだ。
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