第39話 リッチモンド伯爵領へ
第39話~リッチモンド伯爵領へ~
ルグナン村はアーネスト公国の南部に位置している。そしてこれから向かうのは真逆である北部のリッチモンド伯爵領、その中核である都、カムイと呼ばれる都市だ。
『あなた方にお願いしたいのはリッチモンド伯爵の目的を調べて頂きたいのです』
リッチモンド伯爵の治める北部は、キュリオス帝国と国境が接していることもあり、独立後から今日まで紛争の絶えない地方となっているそうだ。
国防の最前線を抱える地方なのだから、当然他の地方に比べて軍の数、質ともに上であり、その地方を代々治めてきたのがリッチモンド家ということらしい。
そもそもアーネスト公国は、地方を東西南北の四つの地方で治めているのだが、治めている地方によって暮らす種族が違う。
南部であればエルフ、東部のドワーフ、西部の獣人、そして北部の鬼人である。
そして公王の選出は、各地方の領主が数年おきの選挙でえらばれる形となっているのがこのアーネスト公国の王政というわけだ。
国防を担う北部は、他の三地方に比べ公王への選出率が高かったそうなのだが、先代のリッチモンド伯爵が自領内での政策に失敗し失脚。現領主である息子のジェイドに家督が引き継がれたものの、民衆の不信は大きく前回の公王選では大敗を喫することとなった。
今回はタイミングが悪すぎたと、大人しくしているように見えたのだが、腹の底では相当の怒りを抱えていたらしく、先代の側近を全て粛正するなどの行為を裏では行っていたそうだ。
そんな怒りを抑え、次の公王選を見据えていたところで、南部のマリオット公爵が近頃勢力を拡大してきているとの報を受ける。
国最大の第一次産業を抱える南部だが、保炎石の発掘など近年の発展が目覚ましい。資金面でも潤沢になってきているとの噂まで出る始末だ。
もちろん南部領主であるマリオット公爵に裏の考えなどあるわけもなく、ただ南部地方、ひいては公国のために農業改革を推し進めていただけなのだが、リッチモンド伯爵にはそうは思えなかった。
次の公王選、南部地方が狙っているのではないか。
一度疑念に駆られればその考えは止まらない。疑念は確信へと変わりついには南部への攻勢という自国内での暴挙に発展してしまった。
『これはあくまで私の推測であり、証拠があるわけではありませんが、この推測に至った根拠はあるのです。北部には私の協力者もいますので』
どちらにせよ、このような状況を放置は出来ない。かといって直接的に抗議をしたところではぐらかされるのが落ち。
そう考えていたところで今回の事件であり、俺達の存在が弟のグローインから知らされる。これを千載一遇のチャンスとおもったマリオット公爵は、俺達にリッチモンド伯爵の調査を依頼しようとルグナン村までやってきたというのが今回の事の真実ということのようだった。
「利用されるみたいでなんだかいい気はしませんね」
「まあな。だけどどっちみちやろうとしてたことは変わらないんだ。そこに報酬が追加されるって言うんだから、冷静に考えれば美味しい話ってとこだろ」
「そうなんですけどねー。どうも釈然としないっていうかなんというか。うまく使われてるのが気に入らないんです」
北部までの行程は、普通の人が移動すれば移動法にもよるが、2日から3日。だが、俺達のスピードであれば余裕を持ったうえ1日でたどり着ける距離だ。
その道中でカナデがそう愚痴った。結論から言うと、俺達はマリオット公爵の依頼を受けることにしたのだ。
リッチモンド伯爵の調査という、普通の冒険者であればまず引き受けないであろう依頼をだ。
この国有数の貴族に対する調査など、個人の生業を主とする冒険者は絶対に引き受けない。メリットに対するリスクがあまりにも大きすぎるからだ。
それでも俺達が引き受けたのは、もともと頼まれなくともそうするつもりだったからに他ならない。そこに公爵による報酬が追加で乗るというのだから、特に断る理由もないというものだ。
もっとも、仮に俺達がへまをしたところでマリオット公爵は後ろ盾になることはないだろう。当てになど最初からしていないからいいのだが、そう言う意味ではやはり利用されているという側面は強い。カナデが不服に思っても仕方がないのだ。
「それにしてもお主、ふっかけたのう。報酬としてゴウロン山の利権をよこせとは。了承した公爵も公爵じゃがな」
そう、俺は今回の調査の報酬を向こうが指定する前に、エリザが言ったようにゴウロン山の利権をこっちから指定したのだ。
利権と言っても、何も山の全てを寄越せと言ったわけではない。あくまでゴウロン山の所有権を報酬として指定したのだ。
山で採掘できる保炎石の採取や洞窟の調査など、そういったことはこれまで通り行ってもらって構わないし、入山者をギルドが管理するのも構わない。
だがその管理の制約に俺達は縛られることもないし、何よりもし新規で何かをするときには俺達を通したうえで話しを進める程度の物だ。
元の世界で例えれば、株式会社における会社運営が近い。俺が株式の過半数を所持した状態であり、最高決定権は俺にある。俺が報酬として指定したのはそういうことだ。
もちろん最初、公爵は難色を示した。
『それではあなた方が保炎石を独占してしまうことになりませんか?何せあなた方は洞窟の最深部まで行ける実力を有する方々だ。その気になれば保炎石の大規模採掘も可能じゃないですか?』
その懸念は当然だ。今や保炎石は南部地方の特産品として、国内だけでなく国外への輸出も行われている鉱石。もし俺達が独占してしまえば、南部地方の経済は傾くことにもなりかねない。
だが俺は保炎石の独占など興味はないし、はなからそんなことをするつもりは全くないのだ。
俺の目的はあくまで洞窟の奥、最深部にあるスルトの本体。それにちょっかいを出さないようにさえできればそれでいいのだ。
何せ精神体は俺達と一緒にいるとはいえ、またあの魔族のように余計なことをしようとする輩が現れない保証はない。だったらこの際全部を俺の管理下にしてしまえばいいと考えたというわけだ。
『それでしたらまぁ。洞窟の最深部なんて、あなた方くらいでなければたどり着けないでしょうし。ですが所有権の譲渡の段階で、必ず保炎石独占の禁止だけは明記させていただきます』
というわけで、俺は公爵からの依頼を正式に受諾したのだ。
もっとも、あの山には保炎石の他に炎鉱石というさらに希少な鉱石もあるのだが、それは言わぬが華だろう。あくまで利害の一致による依頼の受諾であり、向こうも俺を利用する気なのだから、わざわざ教えてやる義務などないのだから。
「それはいいんじゃがな。儂にはどうにも目的地から方向がずれているように思うんじゃが、お主は一体どこに向かっているのじゃ?」
疑問を呈するエリザに対して、俺は何も言わずに目の前に見えて来た平原を指さした。
『何ここ?』
「“帰らずの平原”。それがこの場所の名前なんだとさ」
「帰らずの平原ですか?」
「ああ。ちょうど北部へ行くルートの傍だったしな。いい加減、ストレスもたまって来たところだし、少し憂さ晴らししようかと思ったってわけだ」
そう言うと、俺は収納から槍を取り出し、不敵に笑った。俺の意図を正確に理解した3人も同じような笑みを浮かべる。
さぁ、楽しい狩りの時間の始まりだ。
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