第40話 平原の主
いつも誤字の指摘をいただきましてありがとうございます。読み直しはしているのですが、どうしてもおちてしまうところがあるため非常に助かります。
第40話~平原の主~
この一見穏やかそうに見える平原が、“帰らずの平原”などという物騒な名前をつけられているのにはわけがある。
アーネスト公国、南部地方と北部地方の間には山脈があり、その一部にぽっかりと開けた場所があるのだが、それがこの平原だ。
当然山を越えるよりも平地を行く方が楽なので、かつては交通の要所として使用されていたのだが、現在は全くと言っていいほど使用はされていない。
代わりにわざわざ険しい山に山道を作り、旅人や商人はその道を利用して南部と北部を行き来しているのだ。
「いやー、これは絶景ですねー」
『右をみても左を見て上を見ても魔物。おまけに地中の中にもいそうだな』
その理由は今カナデとスルトが説明してくれた通り。この平原は、魔物が溜まるのだ。
魔物の発生はその場所の魔力からの自然発生というのはすでに知っているが、どうやらこの平原は魔力が停滞しやすい性質を持つらしい。
左右を山脈が囲み、その出入口も小規模とはいえ森に阻まれている。いかに森に道を通したところで、魔力が溜まるのを防ぐには心もとない。結果、この場所には魔物が多く発生することになっているようなのだ。
「俺達なら回り道をして平原を通るよりも、山を突っ切った方が早いんだけどな。ここ数日、どうにもストレスが溜まり気味だし、ここらで魔物に八つ当たりでもしようと思ったってわけだ」
「八つ当たりで殲滅される魔物の不憫なことよの」
「ならエリザは参加しなくてもいいぞ?」
「そうは言うとらん。たまには魔力をしっかり使わんと、暴発でもしたら大変じゃろ?」
訳の訳らない屁理屈を言いながらも、エリザもしっかりと参加する様だ。もちろんカナデはすでに深青色の魔力を迸らせて準備万端だし、スルトも上空に浮かんで偵察をこなしている。どこに攻撃をするか検討でもしているのだろうか。
「そんじゃはじめるか。真っ直ぐ北部に進みながら殲滅だ!!」
こうして俺達の八つ当たりという名の魔物の殲滅が始まったのだった。生息する魔物にとっては不運以外の何物でもない殲滅行為だが、俺達には関係がなかった。
◇
この平原が帰らずの平原と呼ばれるのは、まだ魔物の全体的な生息数が分からなかった頃、この平原を通ろうとした者が、誰一人として帰ってこなかったことに起因する。
旅人も、商人も平原から帰らない。彼らの身を案じた冒険者が平原に捜索に出たが、彼らもまた帰ってはこない。
誰もがこの平原がおかしいと認知し始めた時、一人の冒険者が平原から命からがら逃げかえって来たのだ。
全身に傷を負い、腕は片方しかなく、そしてひどく憔悴した状態で戻ってきた。
みなが彼に聞いた、一体何があったのかと。そして彼はその質問にこう答えたのだった。
『あの平原は地獄だ。いや、魔物にとっては天国なのかもしれない。あれだけ多くの魔物があの平原にはいるのだから。それにあいつも……』
その言葉が彼から聴取できた最後のまともな言葉となった。その言葉を最後に彼は発狂したように笑い出し、そして最後には死んでしまったのだから。
平原唯一の生存者の不気味な言葉と非業の死。彼が当時腕利きの冒険者だったこともあり、以後この平原には誰も近寄らなくなったのだ。
そして踏み入った者は誰も戻らない。“帰らずの平原”と呼ばれるようになっていたそうだ。
“以上がこの平原のいわれとなります。実際は魔物が多いだけの平原であり、それ以外におかしなところは発見できません”
というのがインデックスから聞いたこの平原の予備知識だ。もっとも、俺達にとって魔物など当然だが脅威になるはずもなく、平原に入ってから1時間、魔物を殺しに殺しまくり現在平原の半分ほどを踏破していた。
「燃やしても燃やしてもどんどん湧いてきますよ!!燃やしがいがありますねー!!」
『カナデ!私の獲物を取るなよ!!私も燃やしたいんだぞ!!』
「早い者勝ちですよー!!ほらっ、無駄話してると獲物がいなくなりますよ!?」
『あぁーーーっ!!そのオークは私が狙ってたのに!?』
予想に反することなく、仲良く魔物を燃やすのはカナデとスルト。スタンピードの時もそうだったが、同じ炎系統の魔法を使うことでうまがあうのか、一緒になって競うように魔物を燃やし尽くしていた。
二人が通った後に残るのは灰になった魔物と、わずかに残る炎の道。魔物にとって問答無用で火葬されるという恐怖以外の何物でもないだろう。
「魔法に頼り切っておると体がなまって仕方がないでの」
などと言いながら、腕の先に大きな爪という名の凶器をぶら下げたエルザが向かってくる魔物を切り刻んでいく。
なんでも部分的に龍化できるそうなのだが、今回はその中でも腕、しかもさらに先っぽの爪の一部だけを龍化させたのだそうだ。
振るわれた爪は連なって襲い来る魔物をまとめて引き裂き、さらにははるか後方の魔物までをも切り裂いた。これでも力加減をしているらしいが、振るわれた余波で平原に無数の深い溝が出来ている辺り、龍の力という物を再認識するにはあまりあるだろう。
「とはいっても、これじゃあ弱すぎてストレス解消にならないな」
俺はと言えば、相変わらず飛槍を使って遠隔で魔物を屠っていた。
あまりにも飛槍を使っていたせいか、どうやら練度が上がったらしく今では槍3本をまとめて操作することも可能だ。さすがにカナデやスルトのようなペースで魔物を殺すことは出来ないが、それでもこちらに気づき、襲って来ようとする魔物をその段階で殺すことくらいは出来るようになった。
こちらを意識した段階で首が飛ぶ。認識したときにはすでに死を叩きつけられるのだから、もはや魔物はどうしようもないのだ。
「恭介さん!!なんかあっちの方におっきいのがいますよ!!」
肉が燃える匂いと血の香りでむせ返る平原を自由気ままに進む俺達だったが、カナデの声に全員の意識が久しぶりに同じ方向を向いた。
カナデの方向に目を向ければ、進行方向から少し西に向いた方向に何かがいた。
距離にしておよそ1キロ。それなりに距離があるはずなのに、はっきり見えるそれは、遮蔽物のほとんどないこの平原においてはまさに異様。
「岩山か?」
『でもなんか動いてない?』
「うむ。儂にも動いているように見えるの」
最初でかい岩か何かと推測したそれは、確かに動いていた。その動きは緩慢でここからでは遅く見えるのだが、あの巨体が動くのだ。近くにいれば相当の迫力があることだろう。
「もしかしたら平原の主かもしれんの」
エリザによれば、魔物が溜まる場所には必ず主となる魔物が存在するらしく、その場所の魔物は主により統治されているとのことだ。
確かに死骨山脈でもキング・ワイバーンが他のワイバーン達を従える形だった。とすれば、明らかにおかしな威圧感を放つあの岩山は魔物であり、かつ強力な主であると考えるのが自然という物だ。
「やるか」
このままではストレス発散に来たはずなのに、魔物が弱すぎて目的が果たせなくなると思っていたところだ。
恐らく全員がそう思ったのだろう。次の瞬間には4人が一気に岩山に対して距離を詰めていく。
目標への到達まで後数十メートル。わずか1秒でその距離まで巨大な何かに近づいた時だった。
「だ、誰かっ!!助けて……!!」
巨大な何かの進行方向。その真下で必死に叫びながら逃げ惑う人影が見えたのだった。
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