第38話 ちょっとした推理
第38話~ちょっとした推理~
「グローイン?」
「短いながらも一緒に依頼をこなした仲だろう?俺は役には立たなかったとも思うが、今回だけは兄貴を許してやっちゃくれねぇか?頼むこの通りだ!!」
突然の来訪者たるグローインと領主による謝罪。
そもそもそこまで腹を立てる内容でもなく俺の八つ当たりによるところの大きい今の現状だ。これでへそを曲げ続けるのは流石にばつが悪い。
「わかったよ。わかったから頭を上げてくれ」
ひとまずは収まった場の空気に安堵する兵士と領主、そしてグローイン。俺はと言えば、どうにも御しきれない自分の感情に、ひどく窮屈な思いを強いられることになるのだった。
あぁ、背後からの視線が痛いことこの上ないな。
◇
部屋を移動し再度初めから行われる領主との面会。流石に自己紹介等は省略されたが、あんな態度を示した俺に再び領主は頭を下げたのだから、器の違いを余計に思い知らされてしまう。
「俺と兄貴は腹違いの兄弟でな。兄貴は純血のエルフなんだが、俺の母親は人間なんだよ。その影響か、俺の見た目はほとんど人間よりに見えるってわけだ」
突如として現れたグローインがどうしてこの場に来たのか。その説明は実に驚くべきものだった。
「だから俺も一応は公爵の家系なんだけどな。妾の子どもってのとエルフに見えない容姿のせいで家に居づらくなった。だからこうして家を出て冒険者をやってんだよ」
「それについては本当に済まないと思っている。なんとか家の古いしきたりを変えたいと思っているのだが、なかなかうまくいかず。お前には苦労をかけてすまない」
つまりはグローインと領主は腹違いの兄弟というわけだ。この世界の雰囲気がファンタジーの例に漏れなく中世頃の時代を舞台にしているのだとしたら、一夫多妻制というのはそれほど珍しいものではない。
まして領主の家系は貴族なのだ。跡取りの問題などを考えれば、むしろ妻は多い方が望まれるのだろう。
「兄貴は俺とは違って出来た奴なんだ。親父の頃に傾きかけていた南部の財政を一人で立て直し、今の豊かな基盤を作り上げた。そんな兄貴はこの地方ではみんなの尊敬の対象なんだよ」
「その割に部下の躾はなってないみたいだけどな」
「それについてはお詫びのしようもなく。本当に申し訳ない」
ついいらないことを言ってしまった俺の背中を、なにやら土偶が小突いているような気がするが無視だ。すでに大分立場が悪い気もするが、俺にも引けない時だってある。ただ意地を張っているだけな気がするとは言ってはいけない。俺自身がしっかりとそう思っているのだから。
「なぁ、サイトウ。スタンピードの原因って魔族だったんだろう?」
場にそぐわないくだらないことを考えていると、グローインがそう聞いてきた。
「カナデから聞いたんだよ。火口の洞窟付近に魔族がいて、そいつがスタンピードを誘発してたってな」
カナデに視線を向ける。
いけませんでした?という顔をして見返してくるが、別に口止めをしたわけでもなし。それに言ってはいけない理由もないのだからそれはいい。
「だったら?」
だがどうしてそれを今聞いてくるのかがわからなかった。領主がここに来たのは、スタンピードを止めたことに対する労いだと思っていたのだが、グローインが原因を知っていて、領主との間に関係があるとすると話は変わってくる。
「魔族の雇い主、リッチモンド伯爵じゃなかったか?」
まさに核心をついた問い。いや、これはもう最初から答えを知っていたと考えるべきだろう。
これで点と点が繋がった。
なぜ領主がこんなところまでやってきたのか。どうしてグローインがこの場に来て、尚且つ自分と領主の関係を明かしたのか。全てはこの問いが物語っている。
「内部も一枚岩じゃないってことか……」
「ここまでの情報でそれを読み解くあなたが私は恐ろしいですよ」
俺の言葉に領主が苦笑いを浮かべる。そう言われてもそれほど難しい話ではない。ここまでに手に入れた情報と現在の状況、それらを組み合わせれば自ずと答えはでるのだから。
「あの恭介さん。何が何やら私にはよくわからないので説明を求めます」
『そうだそうだ!!私もわかんないぞ!!』
カナデとスルトがそう訴える。
「いいか。そもそもこの村に領主がわざわざ来るのがおかしな話なんだ。確かにスタンピード自体は非常事態だったかもしれないが、とりあえずは何の被害もなく収束したんだ。だとすれば、領主のするべきことは混乱の収束であり俺達のような一介の冒険者をねぎらうことじゃない。もし感謝の意をしめしたいのであれば、自分が来るんじゃなくて呼ぶはずだしな」
話のおかしな点を一つずつ紐解いていく。こういった込み入った話というのは、どこかを理解しないまま進んでいくと本質が見えなくなってくるものだ。
だから一つずつ話題を整理して、その上で関連する話題を繋げていく。そうして初めて本質に辿り着くことが出来るのだ。
「次にグローインがいきなりここに来たのも変なんだ。兄弟の件が本当だとするなら、たかだが数日の付き合いの俺達にいきなりそれを明かすのは変だ。領主家の御家事情なんて、本来隠しておきたいもののはずだ。それでもそれを明かした。それはつまり、そうすることがメリットにつながるからだ」
ばつの悪そうなグローインの表情が視界に入る。俺に思惑を言い当てられたからなのか、はたまた別の理由なのかは知らないが、俺は話しを進めていく。
「領主の突然の来訪とグローインの乱入。それにグローインがスタンピードの原因が魔族だと知っていることを合わせて考えれば、何らかの方法でグローインが領主にそのことを知らせたことは間違いない。だから領主がわざわざこの村にやってきたと考えれば筋が通る」
「確かに、点と点が繋がって来たの」
「俺はリッチモンド伯爵が今回の事件の黒幕だと知っている。実行犯は知っていても、その事実は知らないはずのグローインがそれをほぼ確信してるかのように予想した。ここから導き出される答えはリッチモンド伯爵が、この南部地方に何らかの攻撃を加えたい思惑があると考えるのが妥当だろう」
どんな理由があるのかは知らないが、俺達がいなければ間違いなくゴウロン山をはじめ、ルグナン村、ひいては周辺に甚大な被害が出ていたことは予想に難くない。リッチモンド伯爵が南部地方にダメージを与えたかったのは間違いないのだ。
「そう予想ができればグローインが領主との関係を明かしたメリットも生きてくる。少なくとも俺とグローインは顔見知りだ。領主が一人で頼むよりも、一緒に頼んだ方が心証がいいと考えたんだろ?」
「どういうことです?グローインさんは恭介さんに何を頼もうとしたんです?」
「ここまでの事実から考えられるとすれば、俺達を利用してリッチモンド伯爵に反撃したいってところだろうさ。だから領主がここまで来たんだよ。どこまで話すつもりかは知らないが、事情の説明と協力の要請をするためにな。俺の推測はこんなところだ。訂正があるならしてくれよ、領主さん」
自分の考えを話した俺は、ほとんど挑発するかのように領主の言葉を投げた。
対する領主はと言えばやはり苦笑を張り付けた表情を崩すことはない。その上で、俺にこういったのだった。
「やはりあなた方にかけようと思った私の考えは間違っていなかったようだ」
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