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エリート先輩の異世界でも大魔導士【エリート】様伝説  作者: 史重
第二章 続きは異世界で待っている
23/24

各務氏 チートの片鱗をぶっ放す

 難産・・でした。よろしくお願いいたします。


 早暁。鎧戸の隙間からは冷気が染み出し、小さな隙間から覗き見るまだ明けきらない東の空は、仄かな朱と藍を混ぜたような色で雲を染めていた。

 横にあるベッドから寝息は聞こえない。そこで寝ていた各務さんは夜明け前には部屋を出ていた。出て行くときに俺の様子を探っていたが、起こすつもりはなさそうなのでそのまま狸寝入りしていた。他の面子も消えていたから目的は知れていたのだ。

 冒険者をする以前から眠りが浅くなっていた。仲間といても安心できなかったわけじゃない。『誰か』を犠牲にしないために俺たち全員がそういう体質にいつの間にかなっていただけだ。

 鎧戸(よろいど)を下ろした部屋は真っ黒で、指先さえも見えない。これも、無機物である家具の配置からの位置関係でどこに何があるのかは分かる。起きる気の無い俺と、問題なし(・・・・)と判断した後は轟音の鼾をかいて爆睡中の悪友以外は部屋を出ているようだ。

 昨夜遅くに帰って来た3人は、各務さんとのお話(・・)については何も聞かずにいてくれ助かったが、3人が3人とも酒臭くて、酒に大して強くない俺は匂いで酔っぱらって気絶するようにいつのまにか寝ていたことも有ると思う。

 いつの間にかしめし合わせていたのか、勝田に頼んで何やら始めるみたいだけれど、真崎はきっと面白づくに違いない。勝田がスーンを連れて行ったからな。真崎とスーンの組み合わせは嫌な予感しかしないけれど、俺は見ない振りをした。

 基本風の精霊王らしくヒト如きの人間関係に対する機微なんてお構いなしなスーンだが、俺を色々な意味で危険な目には合わせない筈だ。筈だ・・よな?

 ここは大商人が経営する超高級宿だからな?しかもアマンダさんの定宿で(くだん)の大商人自ら接客しいつ来ても最上級のスイートルームを無償提供してくれているらしいんだぞ?大商人は兎も角、アマンダさんのご機嫌だけは損なわないで欲しいんだけど。

 駄目だ、楽天的な予想が全くできない。自分が誤魔化せない。やっぱり俺も行こう。

 寝ているのに頭から爪先までざっと血の気が引いて俺はやにわにベッドから飛び降りた。

「行くのかー?」

 工事現場の様な鼾をかいていた悪友から声が掛かる。寝てないなら鼾を止めろ。難聴になるわ!

「不安だ」

 ぼりぼりと何かを掻くような音がする。悪友のクセは考えるときに両手で交差するように胸や腹を掻くことだ。それこそ蚯蚓腫(みみずば)れができるどころか皮が剥けるんじゃないかというレベルなので聞くだけで痛々しいのだが、止めたって止められないからスルー一本だが。

「何が不安?」

 不思議そうに聞き返してくる。

「勝田と各務さんとスーンだけなら問題はほぼ無い。

 スーンも精霊王の位階が1位になってから一応は分別が付くようになってるからな」

「ふむふむ」

 実際、界渡りと言う大法術でレベルアップしたのかはたまた各務さんの魔力を吸い続けたからか、位階が上がってからのスーンは、見た目が大学生くらいになったヴィジアルもあって落ち着いている。

 頼りない契約主の俺にも時折は(・・・)配慮してはくれるようにもなった。

 が、こと天敵の真崎に対しては、精霊力の増加もあって自信が付いたのかガチバトルが勃発するのだ。

 対して真崎はオモチャが少々成長したって躊躇しない。命懸けで悪戯をすることが信条の男なのだ。無敵化からの『仁者無敵』というスキルは精霊王にも効果が適応されるらしく、両者間のバトルは自然災害クラスになることも有るのだ。

 それがこの宿で勃発したら?お、おおう。何よりもアマンダさんが怖いわ!

「あー・・・だなあ。俺も行くか?」

「止めろ。火に油を()すつもりか!!」

 何を言い出すんだこの男。今までお前があのバトルに介入して平和裏に収まったことがあったか?大体お前が何故か究極に恐れているアマンダさんを始めとしたギルドのお姉さま方に何かしらお灸をすえられた切欠も同じ状況だったじゃないか。その頭には記憶能力は備わっているのか?

 身も蓋も無く思い出させてやると、奴は何と悲鳴を上げて布団に潜り込んでどうやら震えているらしい。

 悪友()よ。本当に何があったんだ?



 漸く色付いたばかりの東の空を見上げると、もう行かなくてもいいんじゃないか?行っても間に合わないだろうから『寝てました!』でいいんじゃないかと後ろ向きな考えになってくる。

 肌寒さから二の腕を擦りながら裏庭へと向かっている。

 俺たちの部屋の前は裏庭で、まあ裏庭と言うよりは、裏口から大きな荷物が搬入できるように屋根の無い土間がある状態になっているのだ。

 明け始めていたとはいえまだ昏く、3歩離れた人の顔の判別が難しいくらいだ。

 宿の中は厨房の辺りに気配が増えているが、活動する者は少ない。その中を奴らがいる筈の裏庭に出た瞬間戻りたくなった。

 スーンが勝田に頼まれたらしい風の結界を半円状に展開しているのが先ず視認できた。

 スーンは結界の外で、勝田と各務さんはどうやら内部に居るらしいことは確認できる。が、真崎が、真崎がやっぱり大人気ない事をやらかしていることが確認できたのだ。

 スーンの側で一見大人しく世間話でもしているように見える真崎。

 だが片手間とは言え結界を展開しているスーンの神経を逆なでするようにニヤニヤと話しかけている、様に見える。スーンは最大の怒りマークを顔に張り付けながらも口で応戦しているようだ。大人になったよな~感慨深いぜスーン。

 本当に駄目なのは真崎だ。

 あの結界は俺たちの誰が何をやっても壊れないような強力なものの筈だ。だからこそ小指の先の乱れでどう転ぶか分からない代物だぞ?スーンを怒らせて内部の二人を危険な目に合わせて宿に深刻な被害を出しかねないその行為には呆れを通り越して戦慄する。

 真崎本当にお前馬鹿だろう。低血圧のお前が自分どころか他人巻き込んで迄する悪戯か?


「うっさいハゲ!あっち行ってろ」

 あ~相当怒ってるな。動詞だけで済ますことの多いスーンがまともに(?)喋ってる。

「へっ。こんなことぐらいで集中切らすなんて本当に位階が一位になったんでちゅか~?」

 し、小学生かお前は!段々此奴の精神年齢が幼児化していっているんじゃないか疑惑が確信に変わる。

「小学生ってなんだよ阿呆。知らんわ!」

 ごもっともです。いうに事欠いて知らんわと返される野次を言うとか。聞いた関係者が草生やしまくるわ。もうそろそろ介入しないとヤバイか。

「これこれ童子(わらし)たちよ。こんな早朝からもめるでないよ」

 ゆっくりと近付きながらそんなことを言ってみる。

「「うっさい!」」

 ・・・君たち息が合ってるね。スーン。俺ちょっと涙が出そうなんだけど。俺お前の契約主だよね?あれ?本当に泣きたくなっちゃった。

「真崎。本当に頼むから、スーンにちょっかい止めろ。お前の命懸けの悪戯に俺たちを巻き込むな。

 イノチダイジホント」

 もうね、土下座してもいいから止めて欲しい。

「もう少し寝てればいいのに。

 ちょっとくらい遊んだからって、精霊王の1位であられるスーン様が自分ごときの揶揄に動じられるわけがないだろう?

 それとも御守り(お前)が居なけりゃ何もできない赤ちゃんだったかなあ?」

 止めろよもう。

「スーン。止しなさいって。アマンダさんに来てもらうぞ」

 冷や汗ものの魔力がスーンから膨れ上がった時、俺は伝家の宝刀を抜いた。抜くともさ。こういう時こそ効き目があるんだから。

「「!!!!」」

 この世界は言霊に近い力がある。しかも、世界に準じる精霊王であるスーンは元より世界を構成するマナや魔力によって力を得ている俺たちも例外では無いのだ。アマンダさんを呼ぶと言われればそれが拘束力として二人を縛る。所謂『契約』になるのだ。

 劇的に固まる二人に恨めし気な視線を射られるが知ったことか。

「卑怯だぞ」

 ぐぐぐと真崎が唸る。

「お前もいい加減にしろ。どうにもなっていない現状にイラついているのはお前だけじゃない。

 ・・・お前と設楽との間の事は正直気が付いて無かったから、あんな結果になって、今こんな状態になってることは俺が悪かったんじゃないかと思ってる。

 だから間接的(スーン)にじゃなく直接俺に当たって欲しい」

 今迄言えなかったことを言う。二人の間に芽生えていたものを知らずにその間を切り裂いてしまった。

 後に迫田から聞いた話では返ってきた当初の真崎の荒れようは酷かったらしい。真崎の方が意識的に俺を避けていたから、俺が自分の事で手一杯だったから。

『なんで自分じゃないんだ』と俺に言うことが出来なかった真崎の血を吐くような叫びを迫田は聞いていてた。

「!・・・そんなんじゃねえよ」

 表情を無くした真崎は絞り出すように言うと、踵を返して宿に戻っていく。その後ろ姿にどうしようもなく切なくなったが、それこそどうしてあげようもない事だった。設楽を取り戻す日までは変えようも無い瑕疵。

 くいくいと袖が引かれる。振り見ればスーンが眉を下げて口を尖らせている。

 小学生くらいの時ならともかく、大学生くらいの美青年にそれやられるとクルなおい。ぞわぞわを取り繕いながらもなんだと聞いてみると、ぼそぼそとスーンは言う。

「あの阿呆の中は嵐が吹き荒れている。いつもいつも、何もかも捥ぎ取っていくような嵐が。

 ボクは風の精霊王なのにその嵐に呑み込まれてしまう・・・ごめんなさい」

 スーンが謝った。真崎の雛型とまで言われたあのスーンが!動揺が俺を硬直させるが、はたと思い至る。

 スーンはまだ(わか)い精霊王だ。精霊が何度も繭化を経てマナや魔力を貯めてその才能も加味して精霊王に成る。俺と出会い契約し神力に曝されて極端に速く位階を上げてしまった。

 シーラの様に上皇にはなれないが、その力は図抜けた精霊王になってしまったのだ。

「スーンは何も悪くない。けど、物を壊したりしただろう?それを迷惑に思ったり悲しんだりしたりする人の事も考えて欲しかったんだ。

 毎回、真崎の方が悪いんだからな本当に。気にするな」

 俺が気にするなと声を掛けてスーンもほっと・・・していない?

 何故か額に汗を浮かべて筋肉痛の様にプルプルと結界に翳した手を震わせている。何か拙い事態か?そうじゃないと良いなそうじゃないと言ってくれないかな?

「はふッ!あ、あの・・・言ってもいい?」

 半笑いで俺を見てくる。こ、心の準備ってもんがあるんだけど?

「結構、可成り、緊急にヤバイかも」

 脚を踏ん張っているスーンのそのサンダルの先が深くえぐれ始めた。やや前傾姿勢になったスーンが必死に支えている。

「・・・待て?待て待て!それって、バーンと行く感じ?」

 恐る恐る聞いてみる。何が起こるか分からないから結界どころか踏ん張るスーンの背中すら支えられない。

「え・・っと、ドーンな感じ?」

 不味い!いや拙い!気は急くがどうすれば良いのか分からない。頑張るスーンの後ろで右往左往するしかない。目に見えて結界が膨張を始める。どうすれば?どうすればいい?そんなパニック状態の俺に天啓のように解決策が浮かんだ。

「勝田!上手くやってくれよ!

 スーン、結界を解いてくれ!」

 俺の叫びにこれもパニック状態になっていたスーンが考える間揉まなく結界を解いた。

 その瞬間。光の奔流が俺たちを襲った。

 吹っ飛ばされたスーンを抱き止め諸共に地面へと叩き付けられる。瞬間息が止まりかはっと肺の息が吐き出される。ひっくり返り見上げた空には俺たちを襲った光が青い火花に巻き付かれるように渦を巻き、一瞬で収束される。

 な、何をやってたんだあの二人。宿どころかこの国全体が一瞬で消し飛ぶぞ。

 半ば怒りに任せて二人がいるだろう向きへ視線をやる。

 そこには大の字に倒れた勝田と、呆然と立ち尽くす各務さんが立っていた。

 

 

 ギリギリ、ギリギリタイトル詐欺にはならなかった筈!

 スミマセン。


 読んで戴き感謝感激。

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