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怪人二人  作者: 赤山省
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第二話・前編

地の文の視点を変えてみました。ご了承くださいませ。

朝九時四十分。

町の廃車置き場に型の古そうなバイクに乗った一人の少年が訪れる。

彼、日村秋彦は廃車置き場のスクラップから部品を調達し、バイクを自作する事を趣味としていた。今日、ここへ来たのも日課の調達のためであった。

 秋彦はバイクから降り、積んであった工具箱を片手に持ち、多くの廃車から部品を取っていった。

その作業の中、ふと廃車の内の一つから何か気配を感じた。

 後部座席の窓をおそるおそる見てみると、誰かが中にいるようだった。

身体が薄汚い毛布で覆われており、その下から見える肌は白かった。だが、脚の方を見てみると裸足の上、泥で汚れている。どうも眠っているようだが、靴も履かずに泥のある所を歩いてきたのだろうか?

 秋彦は少し疑問に思いつつも、次に顔の方をじっと見る。

……綺麗だ。歳は同じか少し下くらいだろうか。どこかあどけなさも残っている気がする。

それにしても、何でこんな可愛い子がこんな所で眠っているんだ……?

 秋彦がそう思った矢先に少女の瞼がパチっと開く。

少女は身体を起こすなり、トロンとした眠たそうな目で秋彦の方を見た直後、覆っていた毛布がはだけて胸元が露わになった。

「!?」

その少女は身体に何も身に着けていないようだった。秋彦は思わず心臓が高鳴った。

「……? …………え!!!?」

 少女が自分の状態に気がついたのか、咄嗟に毛布を掴み身体を隠す。赤くなった耳と顔は羞恥心で悶えているようだった。直後、車のドアが開き、少女がそろりと顔を出す。

「あ、あ、ああの……その……その……」

 少女は思いっきりドモっていた。

 秋彦は思わず『可愛い』と感じ、生唾をゴクッと飲み込んだ。

「す……すす……すみません……」

「え……あ……は、はい」

「ふ……服……ください」

「……はい」

 ……当然ですよね。

秋彦はそう思った直後、服を取りに一旦家まで戻った。


 ** **


彼女―須藤羽矢が何故、廃車置き場にいるかは、まず話を昨夜まで巻き戻す。


 暗闇で覆われた樹海を二人の少女が駆け抜ける。

 雨宮リウが先導し、須藤羽矢がその後を行く。

羽矢は自分の身に降りかかった事態をまだ把握しきれていなかった。

「あたし達はもう普通の人間じゃない」

 リウが言うには自分たちは謎の組織に拉致され、身体をあちこちいじくられ、異形の『怪物』へと作り替えられてしまったとの事だった。

信じられるハズが無かった。信じたくなかった。

だが、先ほど見たリウが怪物と戦う光景を直視した以上、羽矢はそれらを信じざるを得なかった。

 森の中を黙々と進む中、羽矢は疑問についてリウに尋ねる。

「あの……さっきの事なんだけど……普通じゃないって、どういう事……?」

「知るか」

 あまりにも見事に一蹴された。

「知るかって……無責任すぎるよ! 一体どういうことなのよ!?」

「私だって全部知ってるワケじゃない。あの施設が何で人を捕まえたり怪物を生み出しているのか、その目的は何なのか、何故この力を植え付けられたのか……未だに知らないんだよ、情けないことにね」

 リウはフッと自嘲めいた笑みを浮かべる。 

「でも……あんた、私に付いて来てよかったかもよ。もしあのままだったら、あいつみたいにああいう風になっていたか、あのままあの部屋で処分されていたかのどっちかだったろうし…いや、あんたの場合確実に処分されてたか」

「しょ、処分……? どういう事なの、それ……?」

「そのままの意味だよ。あんた、何であの部屋で手枷も無しで放置されていたと思う?」

「え……」

 その言葉に羽矢は、考えを頭の中のあらゆる箇所へと張り巡らせる。

 言われてみれば確かに(身ぐるみを剥がされていたとはいえ)、あの部屋に一人でいたのか不思議だった。状況が状況だっただけにあの時はそこまで頭が回らなかったのかもしれない。

 そういえば、小さい頃に見たテレビ番組(再放送なのか凄く古そうだった)とかだと主人公の目が覚めたら謎の組織により身体が既に改造されていて、次に洗脳されそうになる場面が描かれていたけど……それでその後、その主人公は反乱を起こして一人で組織に立ち向かうというあらすじだったはず。

 ……洗脳?

 そういえば謎の組織が洗脳させるのは、当人が裏切らないよう確実な戦力にするための保険の意味合いがあるんだっけ。

 フィクションと現実を一緒にするのもどうかとは思うけど、現に私はその番組の主人公のような目に遭ったのに洗脳されていない。そして『処分』ときた。

 ……まさか。

 羽矢は頭に浮かんだ答えを口に出す。

「……答えは二つほど浮かんだ。一つ、洗脳は受けたけど大丈夫だった」

「おめでたい答えで……」

 リウが小馬鹿にしたような笑みでこちらを見る。

 そりゃ、理想としてはその方がいいとは思ってるけど、そんな目で見なくてもいいのに……。

 羽矢は苦々しく思いつつ、次の答えを口に出す。

「二つ目。私たちは洗脳させるほどの価値が無い……」

「それな。実際、私たちは価値無しと判断された身だそうだしね……実を言うと、さっきの大丈夫というのもあながち間違いじゃない。まずは私が何故ここへ連れてこられたのかを説明する」

 リウの顔つきが飄々としたものから鋭いモノへと変わる。

「私が高校の時、部活の大会に出るためバスに乗ってたんだけど、その時に交通事故が起きた……いや、正確には事故と見せかけて奴らに連れてこられたって事だろうな。一緒に乗り合わせた大勢の部活仲間を犠牲にしてね」

「高校って……貴方、私と同じくらいじゃない」

「これでもアンタよりは年上だよ。それに、今となっちゃもう高校生じゃない」

 リウの顔と声が少し強張った。触れてはいけない事かも……と、羽矢は思った。

「次に目が覚めた時はアンタがいた部屋みたいなトコにいた。胸とか腕とかに注射とか切ったみたいな痕が出来てたりと、とっくに色々された後みたいだった。その後は私の他に連れられた子達と顔を合わせたよ……。どうも連れ去られてくるのはアンタぐらいの若いのが多いみたい。おっさんもその場にいたけど、たぶん職員あたりだと思う。白衣着てた人もいたし、妙に悟った顔だったしね。

 その後は、その子たちと一緒に体力だの能力だのの訓練や適応と称しての再手術だので日々を過ごしていった。で、訓練はどうも手術で付けられた力を身体に馴染ませるためのものらしい……まだよくわからないけどさ」

 そう言った直後、リウの調子がますます強張った。

「ここからが本番。この流れで『期待値』に届かなかったとされる奴らが出てくる。そうした奴らは『失敗作』に認定されて、大勢の職員に連れて行かれて……そのまま次に見ることはなかった。いわば、最初の『ふるい』にかけられるって事さ。訓練の途中で音を上げたりしても即座に役立たず認定されて処分……。

 何となくだけど奴ら、まだ安定した技術があるわけじゃないらしい。手術を受けた後に拒絶反応が出て、それが原因で死んだ奴が出てきたり、早々に処分された子たちの方が多かったから。あたしらみたいに五体満足でピンピンしてる方のが珍しいみたい。個体差、って言えばいいのかな?

 で、この『ふるい』のせいで最初は大勢いた仲間たちも少なくなっていった。残った奴も『ふるい』にかけられていくたびに人がどんどん変わってった。最初はオドオドとしてて大人しかったのに、口と態度がどんどん悪くなってったよ。あいつは変わった事に喜んでたみたいだけどね」

 その様子を思い出したのか、リウはフッと鼻で笑う。

「つまり……その『ふるい』とかが洗脳って事……?」

「まぁ、だいたいはね。洗脳なんて思ったよりも簡単なものだよ。予想以上の力を持ってしまった、自分は特別な存在だ……そう思い込ませるだけで、嫌な奴の出来上がりさ」

 羽矢はリウの淡々とした説明から来る事実に薄ら寒さと気持ち悪さを感じていた。

「で、ここで最後の『ふるい』、改造の完成だ。あのデカブツみたいに姿が大きく変われば成功。そうならず、力も出せないようだったら失敗。変わっても人としての姿を保てず、ずっとああいうバケモノみたいな姿のままだとしても失敗……。

 私は期待こそ高かったけど、結局予定していた結果と違っていたからと晴れて失敗作認定……ま、ずっと反抗的な態度だったしね。で、処分されそうになって、そのあと何やかんやであんたを連れて命からがらここまで逃げてきたってわけ。以上、私の話は終わり………………ふざけてるだろ?」

最後にそう言ったリウの顔は歪んだような顔つきをしていた。

「長いこと訓練訓練訓練改造とやってきたのに、この扱いだよ……ふざけんな、あたしらはモノじゃない!!」

 リウが力強く握った拳を側の木に撃ち突けた。その木は衝撃で地へと倒れていった。

「クソッタレめ……!!」

 リウはそう言った直後、唾を吐き捨てた。

 羽矢はその事実を到底信じられないと感じていた。自分の知らない所で、そんな非人道的な事が秘密裏に行われている事に。

 だが、今は信じるべきでもあった。目の前にいる少女だけでなく、自分自身もそれの対象へと選ばれた被害者なのだから。

 同時に一連の経緯を話したリウの様子に心底驚いた。あんな飄々としてるのに、想像以上に過酷な日々を送っていたんだ……と。

「でも……その『奴ら』はなんでわざわざそんな事を? 一体何の意味が……」

「知らないよ。奴らにとっちゃ意味があるんだろうけど、私らには何の意味もない。ただ、普通の人生を奪われた。それだけしかない」


 ―奪われた。


 今の羽矢には実感こそあまり無かったが、言葉の響きは特に重く感じられていた。


 ** **


 その後、二人は山道を走り抜いた結果、森の奥から一筋の光を見つけた。

 その先には車道があった。辺りに車は走っていなかった。遠くに見える看板には日本語が書かれてあった。どうやら、外国ではなく日本国内のようだった。

「良かった……良かったよ……」

 やっと、人気の有りそうなところへと辿り着いた事で羽矢は安心したのか、力が抜けるように地べたへと座り込んだ。目元にはうっすらと涙を浮かべていた。

「安心するのはまだ早い。もっと遠くの……」

 リウはこめかみを人差し指で掻きつつ、自分の服装を見ながら考える。

「そう、町とか村とか、人気のある所まで行こう。それに、こんな格好でウロウロしてたら目立つし……特にアンタ」

 リウが羽矢に対してビシッと指を差す。

「公然わいせつ物陳列罪で確実に捕まる」

「……ッ!! す、好きで裸でいるわけじゃないのに……!!」

 羽矢の身体が頭から足の爪先まで一気に赤くなった。

「怒りの矛先はあたしじゃなく、あいつらに向けようや」

 ポンポンと羽矢の背中を叩き、リウはまたケラケラと笑った。

「…………もういい。疲れる……」

 こうして二人は近くの集落へと向かっていった。


 ** **


現在―朝十時半。町へと到着した二人は廃車置き場にて車を宿代わりとしていた。

リウは衣服などを調達してくると言って出かけていた。場に残った羽矢は拾ったボロ毛布で体を包み、車内で寝転がっていた。寝ようとは思っていたが、あまり寝付けられず、ようやくまどろんだのもつい先ほどの事だった。そして今、秋彦と出会っていた。

程なくして秋彦は洋服を持ってきてくれた。Tシャツにハーフパンツと動きやすそうなもの中心だった。恐らく衣料量販店あたりで買ったものだろう。

羽矢はそれらを手早く着る。やっと裸から抜け出せて、惨めな思いをしなくても済みそうで、ようやく人間へと戻れたような気分だった

「ありがとうございます。見ず知らずの私にここまでしてくれて……」

 羽矢は思わず涙ぐむ。人の親切がこんなにも暖かいものだったかと感じたからだ。

「い、いいよいいよ。ただ放っとけなかったからさ……。ところで、なんで……君、そんな……その……刺激的な格好、してたワケ?」

「………………」

羽矢は色々な意味で言いたくなかった。

というか何故そんな事を聞いてくるのか…と、思った。

「あ、ごめん……言いたくない事あるよな。それより、君一人だけ?」

「……ううん、もう一人いるんです。今、この場にいませんけど……あの、こっちも質問いいですか?」

「なんだい?」

「その……今は何月何日でしょうか?」

「? 九月の八日だけど」

「そうですか……ありがとうございます」

「日付なんて聞いてどうするの?」

「その……長旅をしてきたものでして、テレビも新聞も何日も触れてなくて、それで曜日の感覚がちょっと無くなってきたものでして」

即興で作った嘘が口から素早く出てくる事に驚きながらも『ちょっと嘘くさいかな……?』と思い、羽矢は少し心配になった。

「へぇーそうなんだ……。本当にテレビ番組みたいな事やってる人っているもんだな」

「あの、もう一つ質問いいですか?」

「? いいけど」

「ここで何をやってるんですか?」

 羽矢は秋彦の片手に持った工具箱を見て答える。

「ああ、これ? 日課のスクラップ漁りだよ」

 秋彦は右手に工具箱を持ち、左手を辺りへと差し向ける。

「ここ、まだ動けそうな車とかあるだろ? 動かなくても使えそうな部品もある。そういうのを探して、ちょっと拝借しているんだ。それで、部品と部品をくっつけてみたりとか、色々やるんだよ。最初は単なる暇つぶしで始めたけど、これが面白くってさぁ。ちょっと車に詳しくなれる気分にもなるんだ」

「ふーん……そうなんですか……」

 羽矢は車にはあまり興味がなかったので言っている事は正直解らなかった。

ただ、嬉しそうに話す秋彦の顔は眩しく見え、少し羨ましいと思った。

「で、入口に置いてあるあのバイクがここにある廃車とかのジャンク品をかき集めて修理した奴だよ」

「そんなプラモデル感覚であっさりと……」

「でもこれがなかなか楽しいんだぜ。あのバイクだってまだ使えそうなのに、捨てられてちょっと可哀想だと思ったんだ。趣味と実益を兼ねてって奴だよ。こうすれば、まだまだ使えるしさ」

 羽矢は続けて嬉々として話し続ける秋彦の調子に感化されたのか、顔に少し笑みがほころんだ。

「……?」

 と、ここで自分の名前を呼ぶ声が微かに聞こえてきた。

「どうしたの?」

「すいません……ちょっと今、声が聞こえたような気がして……」

声がした方を見てみると、リウが妙に清々しい顔をしつつ、丈の合わないジャンパーを着た姿で帰ってきた。下の服は泥にまみれたせいでかなり汚れていた。

「おーい、羽矢ー。軍資金手に入れたからちょっと買い物にでも……って、あらお客さん?」

「は、はじめまして」

 秋彦が咄嗟に挨拶をする。

「あ、こ、こちらこそはじめまして」

 リウは律儀に秋彦へと挨拶を返す。

「……意外と律儀なんだね」

「うっさい、ちょっと緊張しただけだよ」

 羽矢はリウの顔を見て少し照れているんだなと思った。

「ところで……なんで裸足なんですか?」

 秋彦は思わず質問する。

「靴無くしたから」

 リウは即答した。


** **


 リウは秋彦に顔を合わせるなり、嬉々として(ある事ない事を大幅に含めて)自分たちの道程を語っていた。

「いやね、あたしら旅してんの旅。二人だけの小旅行というか、その旅路の途中でコイツがヘマやらかしてドブん中にドブンと落ちちゃって、それで着てた服ダメにしたんで服捨ててハダカで寝てたの。あたしも色々あって泥まみれになってたし、食べ物も尽きてたからこれからどうしようかなーと、ここを宿代わりにして話し合いしてたってワケ。あんたちょうどいいからあたしらにご飯とか恵んでくれない? 結構困ってるんでイヤホントマジで」

 羽矢がリウに小突き、耳打ちする。

「……ちょっと、図々しくない? 初対面の人にそんな無茶ぶり言うなんて……」

「でも困ってるのは事実でしょ? このまま着の身着のままでいるのもしんどいし。もしこの子が来なかったらアンタ今も素っ裸だったかもしれないよ?」

「それは……そうだけど……」

 羽矢はまた顔が赤くなった。

「ていうか、私の服はどうなったの?」

「ああ……ごめん、忘れてた」

「………………」

 羽矢は呆れて何も言う気になれなかった。

 一方で、秋彦は顎に指を乗せ考えていた。

程なくして、秋彦が閉じていた口を開く。

 「……わかった。俺に任せてくれ」

 羽矢は秋彦の調子に思わず口がポカンと開いた。

「……い、いいんですか? 見ず知らずの私たちに何もそこまで……」

「いいのいいの、面白そうだし……あ、そうだ。よかったらさ、うちに来ない? ご馳走するよ」

「え……」

 思わず驚く羽矢に対し、リウは間髪入れず、秋彦に応える。

「……イヤ、気持ちはありがたいけど、そこまでしなくていいよ……これでも急いでる身だし、雨宿りと腹八分くらいのご飯があればそれで十分だよ」

「そう? 確かに、今思いついた事だし、急すぎるかもしれないけどさぁ……」

 今思いついたの……と、羽矢は心の中で突っ込んだ。

「でも……女の子二人がこんなところに居続けるのも、ちょっと心配だよ」

「いいのいいの、こう見えてあたしたちすっごい強いからさ。怪しい奴なんかぶっ飛ばしちゃうからさ」

 リウは蹴り上げる動きをしておどけてみせる。

「貴方の場合、あまりシャレにならないんだけど……」

 昨夜の闘いを見た羽矢は心の底からそう思った。

「あ、そうだ。ちょっと……無茶なお願いするけどさ」

 リウは思いついた事を秋彦に尋ねる。

「? 何だい」

「その作ったバイクちょうだい。どうせジャンク品なんでしょう?」

「確かにポンコツからレストアしてる奴だけど、その言い草はどうなんだよ……」

 秋彦は苦笑した。

「ま、趣味で結構作ってあるし一台くらいならいいかな……俺が乗ってきた奴は一番新しいからダメだけど」

「本当?」

「ああ、好きな奴をあげるよ」

 リウはやった―とバンザイして喜ぶ中、羽矢は疑問を口にする。

「あの……お気持ちは有り難いのですが……なんで、そこまでしてくれるのですか?」

「ああ、安心していいよ。特に何も考えてないから」

「え……」

「だって面白そうじゃん。こういうの一回やってみたかったし」

 それだけの理由でわざわざ自分たちに協力するなんて、お人好しと言えばいいのか……。

 羽矢は唖然と思いながらも、秋彦のあっけらかんとした性格にどこかで安堵も感じていた。

「もう一度言うけどさ、私たちはあんたの家に上がらないつもりだから。ご飯だけよこしてくれればいいよ」

羽矢と秋彦は何でわざわざ釘を指すんだろうと少し不思議そうな顔をした。

やがて、秋彦は荷物とバイクを取るために再び自宅へと戻っていった。

「な? 言ってみるもんだろ」

 リウは羽矢へ向けて、口元をニッと曲げた笑顔で言う。

「運が良いのか悪いのか……でも確かにそうだね」

 羽矢は率直な感想を言う中、疑問をリウへと問う。

「でも何であそこまで泊めてもらうのを嫌がるの? 確かにちょっと人が良すぎるし、こっちも図々しくなっちゃうと思うけど、素直に泊めて貰った方がいいんじゃ……」

「甘い」

 リウがまた鋭い目つきをして、羽矢を見る。

「でも、今の世の中どうなってるか詳しく聞けれるかもしれないし、お風呂にも入れるかもしれないし……」

「気持ちは解るけど、甘い。もし、あの子の家に泊まって寝てる最中にでも追手が来てみろ。下手をしたら巻き込んで大惨事になるのが明白だよ」

「それは……そうだけど」

「ま、これは実際に経験してみれば解ることかな……あいつら、近いうちにあたしらを襲いに来るからね」

「何で?」

「さあね。大方、証拠隠滅とか暇つぶしとか……何にせよ、あたしらにはあいつらの事情なんて知ったこっちゃないわ」

 リウは苦々しく、『敵』に対して毒づいた。

 と、ここで羽矢はふとリウが持っている長財布に目が向いた。

「ちょっと待って……そういえばさっき軍資金って言ってたけど、その財布と上着はどこで手に入れたの?」

「ああコレ? その辺のチンピラとかワルガキとかヤンキーとかボコって没収した」

 リウはドヤ顔かつあっけらかんとした態度で答えた。

「それカツアゲじゃないの!! ってかやっぱりカツアゲしてたの!?」

「やっぱりって何だよ……ああ、安心していいよ。カード類とか重要そうなのだけは返しといたから」

「そういう問題じゃないでしょ!!」

「いーのいーの。あの手の奴らは一回痛い目見ればビビッて何にもしなくなるものだから。実際、絡んできたのは向こうからだし思いっきりカツアゲする気満々だったし。見ての通り返り討ちにしてやったけどね……あ、この上着、あいつらのものだよ」

 リウはケラケラと軽い調子で笑うが、羽矢は全く笑えずむしろ疲れが増したように感じた。

「……ハァ。あんたのその性格どうしようもないんだね……」

「うっせぇ、ほっとけ。あんなトコにいたら嫌でもこうなるっつーの。それにあれでも自重した方だ」

 リウはスネたような口調でそう言った。

この人、妙に肝が座ってるのに子供っぽいなぁ……と、羽矢は思った。


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