二章 27 油断
今話はルシーリア視点です
どうぞ(・ω・)
─ルシーリア視点─
婿殿に言われた妾は出現した三つの気配のうち、一番強そうな気配に向かっていの一番に駆け出した
朱姫が小さな舌打ちをした気がしたが、獲物は早い者勝ちじゃ、ふふふ
しかし婿殿は別としても妾や朱姫に気配を悟られない敵…興味があるのぅ
これだから婿殿と一緒にいるのは楽しくもあり退屈しないのじゃ
現れた気配に肉薄すると背に背負っていた大鎌を掴み力任せに振るう
この大鎌も長い付き合いじゃが、そこそこガタがきているからのぅ…
婿殿に打ち直してほしい
もしくは新しく作って欲しい
惚れた男が作った武器を持つ、これほど嬉しい事はない
良い武器と言うのは鍛冶師が魂を込めて武器を作る
武器には造り手の魂が宿るというではないか
と言うことは、婿殿が作った武器には婿殿の魂が宿っているわけで…
万が一婿殿と離れる事になっても魂は一緒と言う事じゃ
ふふふ…たまらんではないか
これは絶対婿殿に作ってもらわないといかんな…
っとまずは目先の敵を排除せねばな
奮った大鎌は敵の首を瞬時に落す、はずだった
「──なに!?」
殺った、と確信した瞬間相手の姿は一メートル程の丸太に替わっていた
その丸太をぶった斬ると辺りの気配を探る
どこへ…と思案する間もなく妾は直感に従って前方へ身を投げたす
素早く体勢を立て直し振り向いてみれば…
そこには全身黒装束の男が武器を手に立っていた
性別は正確にはわからんが、目を見れば恐らく男であろうとわかる
「妾に気配を悟らせないとはなかなかやりおるの」
妾の言葉にも相手は何も答えずにこちらを見据え、こちらを警戒しているのか直ぐには動いてこない
だが、ジリジリと間合いを詰めてきている
手にはクナイと呼ばれる武器を両手に持っていて、刃の部分は液体が塗られているのか鈍い光を放っている
恐らく毒が塗ってあるのであろう
だが、残念ながら妾には毒は効かない
仮にも元魔王を名乗っていたのじゃ
力で叶わない輩は裏で色々やってくる
料理や飲み物に毒を混ぜた毒殺なんかは当たり前なのじゃ
しかし妾はともかくこの黒装束が他に意識を向けるのは些かよろしくないの
「イルフリーデ、ベアトリス。結界を張るのじゃ。張った後は他を警戒、何かあれば婿殿の指示に従うように」
「わかりました」
「了解」
即座に二人は結界を構築する
さすがは長年妾の側にいただけあって阿吽の呼吸じゃな
この二人にも辛い思いをさせた
今度その償いをせねばな…
さて、妾が思案している間に結界は完成した
ただの結界ではない
隔離結界という奴で、主に相手を別次元に閉じ込めたりするものじゃが…
所謂牢屋と同じであるが、結界の範囲などの大きさ景色ーーまぁ内装じゃなーーは術者が好きなように変えたりできる
まぁ普通の人間がここに入れば数日で気が狂うであろうがな
今回は少しいじってある
妾と相手──黒装束のどちらかが死ねば結界は解ける仕様に変わっておる
もちろん負けるつもりもないが、万が一妾が負けても婿殿がいる
今回は死の高野、草木一本も生えない生物は生きて行けないと言う高野じゃな
身長をゆうに超える岩がゴロゴロしていて殺風景じゃが妾は好きな景色でもある
魔族領にある場所にある場所を模しているようじゃ、懐かしいのぅ
それにここなら思う存分暴れられると言う物であろう
ふふふ、久しぶりに全力で暴れられると思うと楽しみでしょうがないわ
せいぜいしぶとく逃げまくって妾を楽しませて欲しいものじゃな
相手はご丁寧にも動いていない
まぁ妾がずっと睨みを利かせていたと言うのもあるのであろうが
そう思っていたら黒装束が突っ込んできた
なかなか速い動きじゃ…が
「その程度なら問題はないのぅ」
左右から繰り出されるクナイの連撃を大鎌の柄で、刃で受け弾く
懐に入られると大鎌では不利になる
なので中距離以上を保たなければいけないが攻撃スピードも動きも単調で妾には欠伸がでる程じゃ
しかし何度目かの攻撃を受けた時に気づいた
上段から振り下ろされる左右のクナイを大鎌を水平にして受ける
その時に何かの破片が飛び散った
「これは…!?」
慌てて大鎌をかち上げてクナイを弾くと横に一線
相手が後ろに飛びすさったのを見てこちらも間合いを開ける
そして改めて大鎌を見ると…
クナイを受けた部分が赤茶けた色に変色しており、触るとボロボロ脆く崩れる
「腐食…」
道中朱姫から聞いたのじゃが、武器を腐食させる魔族がいると…
しかし我ら魔族にはそんな能力を持った者はいない
そして目の前の腐食を使う敵…恐らく人間であろうが…
そしてアルス教…
どれ程頭がバカな奴でも関連性を疑わずにはいられない
妾は大鎌を握りしめる
我ら魔族を実験体に…
許すまじ
しかし思考は途中で打ち切られた
相手が再び間合いを詰めてきたのだ
先程よりも段違いな速さで…
「──!?…くっ──」
咄嗟に回避をするもスカートの部分が切り裂かれた
妾の服を──
これは普通の服で自然に直るものではないのに…
「おのれ…」
怨嗟の言葉を呟くが、敵の攻勢で防戦一方になってしまう
先程の速さよりも二、いや三段階程速い
まずは妾の武器を狙ったわけか…
[将を射んと欲すれば先ず馬を射よ]と言う言葉があるが、敵は妾にとって大鎌が馬だと思ったようじゃな
それはあながち間違いではない…
そう考えてる間も敵の攻撃は続く
アップした速さに最初は面食らったが慣れてくればそれほど脅威ではない
脅威となるはその攻撃の手数じゃ
足の爪先にも何か仕込んでいるのか厄介じゃ
両手、両足の攻撃を回避だけではちと難しいか…
何撃かは武器で受けざるを得ない…
その度に受けた場所は腐食が進み、脆くなる
足の攻撃は死角から飛んでくることが多く、回避し切れずに服を斬られる
反撃をしたいのだが、最小限の動きで攻撃してくる為隙がない
妾の力任せの大振りとは正反対じゃ
「む──しまっ…」
─バキッ─
クナイを受けた大鎌の持ち手が腐食によって真ん中から折れた
一瞬できた間を敵が見逃すはずはなく、踏み込んで返す刀でクナイを下から斬りあげた
「……舐めるでないわ!!」
左手に残った柄でクナイを力任せに弾くと、右手に持つ短くなった大鎌を片手で力一杯振り回す
しかしこれは敵に余裕でかわされてしまった
モーションが大きいから読みやすい…
そんなことはわかっとる
ただ、怒りに任せて振り回しただけじゃ
敵は大きく後ろに飛ぶとそのまま間合いを開けて対峙する
しばらく睨み合ったが、今度は仕掛けてこない
ふむ、先程の攻勢は大鎌狙いだったのか…
その狙い通りに行って多少気分を良くしたのか余裕、という雰囲気が見て取れた
面白くない…
なんじゃその余裕ぶった態度は
妾は──
途中で言葉を飲み込む
もう過去の話じゃ
今はただの魔族、それで良い
今度はこちらから敵との間合いを詰めに行く
妾のスピードに敵は一瞬目を見開いたがすぐに迎撃の体勢を取る
ふん、防御ごと叩き斬ってくれるわ
折れた大鎌を持ったまま敵に接近した妾は敵の得意な接近戦を展開する
幸か不幸か折れたお陰で振るいやすくなった
しかし武器の代償は払ってもらうぞ
貴様の命でな
敵は妾の攻撃をわざとクナイで受けているように見える
完全に武器を破壊するつもりのようじゃな
しかし構わずに大鎌を振るう
コンパクトになった分軽くなり、速さも増したのか時折敵にヒットする
まぁ錆びた武器なぞ大したダメージにならんだろうがの…
そろそろ大鎌も限界か…
妾はさらに一歩踏み込んで体が密着する程接近する
敵とこんなに接近するのは良い気分ではないのぅ
婿殿なら喜んで飛び込んでいくのじゃが…
敵は上からクナイを振り下ろすが、それを大鎌で受ける
持ち手がさらに短くなったが構わない
もう片方から迫るクナイは左手の柄で弾く
弾いた後柄はそのまま捨てる
さらに下から膝が顔目掛けて飛んでくる
これは空いた左手で受け止めた
膝には武器は仕込んでいない
さすがにこう密着された状態ではつま先は使えないだろうからのぅ
「ふんっ!」
掴んだ膝を瞬時に脇に抱えるとそのままジャイアントスイングよろしく振り回し、相手を投げ飛ばすと、同時に右手の大鎌を全力で投擲する
投げられた敵はすぐにくるりと体勢を立て直し着地する
が、すぐ目の前に大鎌が迫る
「──っ」
首を狙うつもりで放った大鎌は既で防がれた
しかし無傷とはいかなかったようじゃな
見ると左肘から先がなくなっている
油断大敵じゃな
錆びた大鎌にそんな切れ味はない
投擲する時に一時的に魔力を込めただけじゃ
そのままでは出血多量で近いうちに死ぬぞ?
さて、どうする
しかし傷口はすぐに塞がり、血は一滴も滴ることはなくなった
身体能力強化を施しているのか?
後は痛覚を遮断する何かをしているか…
再び思考を遮られた
黒装束がまた突っ込んできたのじゃ、ええぃ鬱陶しい…
右手のクナイと足に仕込んだ武器を振るってくるが、左手がなくなった分対処が楽になる
最小限の動きで突き出されたクナイの一撃を相手の左に回り込みかわし、手首をガッチリ掴み動きを止めると右手に魔力を込め、手刀を振り下ろそうとした
「む…」
しかし相手はそうはさせまいと無理やり体を捻り蹴りを放ってきた
掴んだままそんな体勢を取れば…
バキッと耳障りな音が聞こえた
肩の関節が外れたのだが、敵はお構い無しに蹴りを放つ
咄嗟に掴んでいた手を離し、間合いから飛びすさる
敵を見遣れば肩が外れてダランと垂れ下がった状態だった
クナイも手から滑り落ちている
表情は無表情だが、目の周りに脂汗が浮かんでいる
痛みはあるようじゃな…ならば…
動こうとした時、敵は何を思ったか外れた左肩を巨大な岩に打ち付けた
ガゴっと鈍い音が聞こえる
無理やり骨をはめ込んだようで、一瞬妾は呆気に取られた表情をしてしまった
「無理やり嵌めたか…しかし筋も伸びて力がろくに入らないはずじゃ」
現に腕は垂れ下がったまま、痙攣もしているようだった
しかし敵はゆっくりと懐に手を入れる
それを見た妾は警戒態勢を取る
が、取り出したのはピンポン玉くらいの真っ黒な玉だった
「──それはまさか!?」
敵は手にとった真っ黒な玉を震える左手で握りしめると、パキンと簡単に割れてしまった
すると割れた玉から瘴気が立ち上り、瞬く間に敵を覆い尽くす
「……魔族化」
昔の血の気が多かった時の声音が自然と口から出て、内心自分でも驚くが…
「許さんぞ」
カーナと婿殿から聞いていた物と大きさが若干違うが、改良されているのやもしれんな
吹き出した瘴気はすぐに収まると徐々に敵の姿を表した
元々黒装束だった為にそこまで変わりはない
だが、瞳は深紅、頭には捻くれた角が被っていた黒頭巾から突き破る形で出ている
そして斬りとったはずの右腕があった…
「やはり再生したか…自我は──あるようじゃな」
敵の瞳をチラリと見、その目に正気の色が見えるのを確認する
敵は再生した腕を確かめるように動かしていたがすぐに妾に視線を向けた、と…
「──っつ……」
敵が消えた、と思った瞬間背後に禍々しい気配が生まれる
咄嗟にしゃがみ込むと、頭上を何かが通り過ぎた
しゃがむと同時に反転しながら足払いをかけるが、ガンッと何か硬い物に当たる音
「いっ…!?」
たい、と叫びだしそうになるも頭上から右手を振り下ろす姿が見え、慌てて転がって回避する
間合いを取り素早く立ち上がると、すぐ目の前まで敵が迫ってきていた
「何という硬い身体じゃ……」
文句を呟きながら繰り出された左手の剣?をバックステップで交わすと、敵が右手を引き戻すのに合わせて飛び込む
「どれ、これならどうかの」
飛び込みに合わせて魔力を纏わせた左手を心臓目掛けて突き出した
しかし敵はなんと左手で妾の繰り出した貫手をいとも簡単に掴む
「な、なん──」
言葉を発するより速く敵は掴んだ手を支点に妾を放り投げた
しかし途中で翼を出し急停止、敵を睨みつける
「やはり魔族化して身体能力があがっておるの…目は追いつくが身体が追いつかん。どうするかのぅ……」
ゆっくり下降し、着地すると同時に翼を消す
接近戦をする上で翼は邪魔になりおる
弱点にもなるしの…
これは婿殿に言われた事じゃが……
他にもいくつか言われた覚えがある…
しかし敵が再び間合いを詰めてくるのを見、妾は考えるのをやめる
「せっかちな敵じゃな…」
向かい来る敵を見据えるとクナイではないが、両手には何か鋭利な物が見えた
「爪を伸ばして硬質化させたのか。魔族化すると能力も使えるようだの」
指先を真っ直ぐ伸ばした先は爪が合わさり鈍色に光っている
長さは30センチ程か…
伸縮できる可能性も捨てきれんな
妾も両手に魔力を通わせ臨戦態勢を取る
間合いに入る瞬間敵が加速した
「──!?」
的確に急所を狙ってくる攻撃を避け、魔力を纏わせた両手で弾く
が、速さは敵が上なので完全には捌ききれない
致命傷は避けるが服を斬り裂かれる
「おのれ、フリルを…」
若干膨らんでるゴスロリ服のフリル部分が斬られる度、怒りがこみ上げる
この服はお気に入りなのじゃぞ!!
つい怒りに任せた大振りの一撃を放ってしまい、無論それは当たらずに敵は両手の武器で綺麗に反らす
「しまっ……」
打ち込んだ瞬間に我に返るも敵はその隙を逃さぬはずはない
左右に広げた両手を交差させるように振るう
反射的に交わそうとするも、やはり遅く腹部を左右から斬られパッと紅い飛沫が飛び散る
さらに追撃をかけようとする敵だが、妾は瞬時にソフトボールくらいの魔力の塊を数十個周囲に生み出すと、追撃を止めて自ら間合いを取った
それを見た妾はガクッと片膝を地面に付く
咄嗟に魔力を纏わせたお陰ですぐに死ぬような一撃は防げた、が…
「……このままでは死ぬの…」
腹部への攻撃は深く上半身と下半身はなんとか切り離されずに済んでいるといった状態だった
人間ならこれで事切れているだろうが、妾は魔族
これしきではやられん…
滴り落ちる血を無理やり止め、魔力で致命傷になる傷だけは塞いだからすぐにどうこうはないであろう
周囲に張った魔力弾も後少しで消える
さて、どうするか…
その時ふとある言葉が頭に浮かんだ
「お前はどっかしら相手を見下す傾向がある。元魔王で敵なしだったから仕方ない部分はあるだろうが。油断は死を引き寄せるぞ。[獅子はウサギを狩るのにも全力を尽くす]って言葉があるくらいだからな。まぁその驕りさえなくなればお前に勝てる奴なんてそうそういないぜ」
「婿殿…」
妾は想い人が紡いだ言葉を思い出す
やはりどこか侮っていた…
驕りは捨てる
ここからは全力で相手をする
妾は身体の隅々まで魔力を通わせるように集中する
すると脳内にガラスが割れるようなパリンと言う音がいくつか響いた
瞬間妾の身体は闇に包まれる
お読みいただきありがとうございます
次話は朱姫視点です
21日(午前9時)更新予定です
よろしくお願いしますm(__)m




