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十二話

「甘々デレデレパパボイス流出事故」の切り抜き動画が数百万回再生され、『#世界で一番可愛いねぇ』が世界トレンド1位を獲得してから数週間。

新米パパママの佐藤陸と結衣の日常は、葵(あおい)の成長とともに、さらに賑やかでカオスなものとなっていた。

そんなある日、事務所からとんでもない企画のオファーが届く。

「二人とも! 次の配信だけど……【完全リアルタイム・子育て体験配信〜赤ちゃんの機嫌を損ねずにゲームクリアせよ!〜】をやろう!」

「「正気かマネージャー(にゃん)!?」」

驚く二人に、マネージャーはニヤリと笑う。

「大丈夫! 葵ちゃんはリビングでベビーシッターさん(※安全確保済み)に見てもらいつつ、二人には防音室で『赤ちゃんのお世話シミュレーションゲーム』をやってもらう企画だから! ……ただ、本物のベビーモニターを繋いで、葵ちゃんが泣いたら即中断してお世話に行く特別ルールね!」

「……まあ、それなら安心か」

陸は胸を撫で下ろした。が、それがフラグだということを忘れていた。

◇

同日、20時。生配信スタート。

画面上には、子育て仕様(抱っこ紐を装着した)カナタとルナの3Dモデル。

『きたああああ!』

『パパママ爆誕企画!』

『葵ちゃん元気〜?』

『今日の陸パパのデレボイスに期待』

「みんなこんカナタ〜! 今日は夫婦で最新の育児ゲームに挑戦します!」

「こんルナ〜! 陸に本物のパパの威厳があるのか、今日ハッキリさせるよにゃん!」

ゲームがスタートする。

画面内の赤ちゃんキャラクターがギャン泣きし、あやすための選択肢が表示される。

「よし、ここは『優しくトントンする』だろ!」と陸。

「ちがうよ陸! お腹が空いてるんだから『ミルクをあげる』だよ!」と結衣。

ゲーム内でも相変わらずの夫婦漫才。陸が「いや、おむつ交換だ!」と操作した瞬間、ゲーム内の赤ちゃんがさらに大泣きし、画面に【失敗!】の文字が躍る。

『wwwww』

『陸パパ間違えてて草』

『リアルでもこうなの?www』

「くそっ、リアル育児とゲームの仕様が違いすぎる!」

頭を抱える陸に、コメント欄は大爆爆笑。

その時だった。

画面の隅に配置された本物のベビーモニターから、「ふぇ……ふぇぇ……!」という葵の声が響いた。

「あ、葵ちゃんが起きた!」

ゲームの手を止め、素早く立ち上がる結衣。

「よし、ルール通り配信は一時中断——」

そう言おうとした陸だったが、葵の鳴き声がいつもと違うことに気づいた。

寂しくて泣いているのではない。なにかを訴えかけるような、力強いぐずり声。

「……待て結衣。俺が行く」

「え? 陸?」

陸はヘッドセットを外し(※今回はしっかりマイクのミュートを確認し)、防音室を飛び出してリビングへ向かった。

画面の前には、残された結衣とリスナー。

『陸パパ走った!』

『ミュート確認よし!』

『さすがパパの勘』

数分後。

防音室のドアがそっと開き、陸が戻ってきた。

その腕には——すやすやと心地よさそうに眠る葵を抱っこして。

「……しーっ」

陸はカメラに向かって人差し指を口に当て、静かに椅子に腰掛けた。

ミュートを解除し、小声でマイクに向かって囁く。

「……シッターさんによると、ちょうどお腹が空く時間だったみたいでさ。ミルクあげたら、俺の腕の中でコテッと寝ちゃった」

画面上のカナタのアバターが、腕の中の小さな存在を壊れ物を扱うようにそっと抱きしめている。

画面の前の結衣が、愛おしそうに目を細めた。

「……陸、すっかり様になってるね」

「まあな。毎日抱っこしてっから」

陸は少し照れくさそうに鼻をかき、画面の向こうのリスナーに向けて、囁くような声で語りかけた。

「ゲームの赤ちゃんはおむつだのミルクだの選択肢が出るけどさ……リアルは言葉が通じねえから、全身で感じ取るしかないんだよな。でも、こうやって腕の中で安心して眠ってくれると……疲れたのなんて全部吹き飛ぶわ」

静まり返るコメント欄。

いつもの爆音デスボやハプニングとは違う、本物の「家族の温もり」が画面越しに溢れ出していた。

『うわあああん泣く』

『陸パパかっこよすぎる』

『最高のパパじゃん……』

『てぇてぇ通り越して尊い』

『葵ちゃん健やかに育ってね』

温かい言葉で埋め尽くされるコメント欄。

「よし、葵ちゃんも寝たことだし、今日のゲーム対決は俺の勝ちでいいな?」

陸がドヤ顔で囁く。

「えー! ずるい! 葵ちゃんを盾にするなんて!」

結衣も小声で抗議するが、その表情はとても幸せそうだった。

最高にエモく、心温まる雰囲気のまま配信はフィナーレへ——

……と、ここで終われば完璧な神回だった。

眠っていた葵が、むにゃむにゃと小さな口を動かし、陸の胸元で小さな腕を伸ばした。

そして、陸の装着しているトラッキングセンサーのコードを力一杯引っ張った。

「あ」

ガシャーン!!

トラッキング機材がズレ、画面上のカナタのアバターが首が180度回転した状態で物理演算エラーを起こして固定された。

静寂。

『!?!?!?!?』

『カナタの首がああああwwww』

『ホラーwwwww』

『感動を返せwwwwww』

「あ、葵ちゃん力強すぎぃ!?」

「静かに! 葵ちゃん起きちゃうから爆音デスボも出せないよ陸ぅぅぅ!!」

首が曲がったままのアバターで、声を出さずに全力で身振り手振り(口パク)で焦り倒す陸。

画面の中の「ホラー演出」と、実際の「静かな育児空間」のシュールすぎるギャップに、リスナーは腹を抱えて大爆笑した。

『声の出せないデスボwwww』

『新感覚のオチ草』

『やっぱりこの夫婦最高wwww』

大爆爆笑と、静かな祝福の中、子育て体験配信は幕を閉じた。

◇

配信終了後。

無事にベッドに葵を寝かせた二人は、暗くした寝室のドアを少しだけ開け、愛娘の寝顔を並んで覗き込んでいた。

「……ふふっ、葵ちゃん、パパの首折っちゃったね」

結衣が小声でくすくす笑う。

「笑い事じゃないだろ……明日首のトラッキング直すの大変なんだぞ」

陸も苦笑いしながら、葵の小さな頬に優しく触れた。

「でも……楽しかったな」

「うん。……これからも、三人でたくさん笑っていこうね、陸」

「ああ。任せとけ」

ドタバタで、事故ばかりで、でも世界で一番温かい佐藤家の日常。

幼い新メンバーを迎えた二人のVtuber物語は、これからも笑顔とハプニングに満ちあふれて続いていく。

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