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盗賊の剣が、盗賊の腕ごと舞っている…。
凄まじい血飛沫の量だ。
思わず気が遠くなりそうになったが…
(気を引き締めよう。私はか弱いご令嬢じゃないんだから!)
と自分自身を叱咤した。
騎士見習いではなく、本物の騎士達が駆けつけてくれた事で戦況は一気に好転したとは言え、気は抜けない。
(それにしても、さっきの盗賊達も、この騎士も距離の詰め方が異常だった。瞬間的に移動速度を劇的に引き上げたのか?)
所謂「縮地」スキルのようなものだろうか…。
(身体強化に風属性魔法を掛け合わせたようなものかしら)
謎だ。
どうせ、その手の切り札は尋ねても教えてはもらえない。
尋ねる事自体戦闘職の人間に対するマナー違反だと取られる。
助けてくれた騎士に
「助けていただき有り難う御座います」
と声をかけておいて、すぐさま他の敵へと意識を割いた。
盗賊の数は多い。
盗賊が商隊の方へ辿り着いてしまっているので、護衛が盗賊と入り乱れて戦っている。
下手に水刃を放つと味方に当たるので、もう遠距離攻撃は使えない。
死体で怪しまれる事になろうとも
「心臓を亜空間収納庫へ転移する」
殺し方で殺していくに限る。
どうやら筋金入りの戦闘狂やら殺人狂の類だけが心臓を抜き取られても十数秒動き続けるが、普通の人間は抜き取られた瞬間に激痛で無力化する。
(さっきの連中が異常だっただけで、普通はこうやって倒れてくれるのね。良かった…)
と思いながら、調子に乗って殺しまくった。
心臓を抜いてから、短槍で心臓部を一突き。
何の罪悪感もないのが自分でも意外だった。
「殺された経験」
の記憶がある人間は、他人を殺す事に迷いがなくなるものなのかも知れない。
自分が殺された状況が脳裏に浮かぶ度に
「二度と殺されてやるものか!」
という激しい怒りが湧くのだ。
「殺されないために殺す」
という正当防衛殺人は戦争や凡ゆる戦いにおいても当てはまる心理なのかも知れない。
盗賊団アスクアンドレシーブ。
死傷者150人強。
本来なら討伐隊を組んで戦うべき数と戦力だったが…
奇跡的に騎士見習い10名、護衛冒険者27名、精鋭騎士20名の合わせて57名で殲滅できた。
勿論、逃げた者達も多い。
というか、半数くらい逃げてくれて150人という事は300人ほどの大集団だったという事だ。
よくもそれだけの数の人間が犯罪者になったものだと呆れる。
騎士団の入団資格は
「魔力のある国民」
だ。
見習いであっても、魔力のない冒険者より強い。
盗賊団も殆どの団員が魔力を持っていない。
幹部クラス、隊長クラスの連中が、元貴族などの魔力持ちだ。
5人1組の小隊で団体行動するパターンらしいので、150人中30人ほど魔力持ちが居た計算になる。
味方に大怪我をした人も死んだ人もいないのは、正直、私が水刃で削ったお陰だと思う。
水刃で怪我をして落馬した盗賊が後続の馬に踏まれて死んだパターンも多い。
その際に馬も骨折して転倒。
転倒した馬に乗ってた盗賊も後続の馬に轢かれるという負の連鎖による大惨事。
盗賊団は私が居たお陰で散々だったと思う。
報復されないかと、少し不安だが…
こちとら長い呪文を唱えた訳でもないので
「誰が水刃を放っていたか」
など、余程観察力が優れていなければ分からない筈。
盗賊に報復で狙われるとしたら…
「私が魔法で露払いしてあげました」
などと手柄を自己申告して目立ってしまう場合だ。
「護衛代金の基本料金は旅に便乗する事で相殺して、トドメを指した人数に対する歩合制の分だけ支払ってもらう」
事になっている。
年若い低ランク冒険者なので
「大した戦力にならない」
と思われているのだ。
目立つとロクな事にならないので、水刃で削った分は
「私がやった」
という自己申告はせずにおいた。
すると中堅冒険者の弓士が
「俺がそれなりの数を削ってやったんだ」
と言い出した。
(「活躍した」と評判になったら盗賊団の生き残りから報復されるだろうに…)
と他人事ながら心配になったが…
「60人は俺が削った」
だのと、明らかに私の手柄を横取りしてる数を自己申請してるので
(うん。こういうヤツが盗賊団に狙われても同情しない)
と決意した。
騎士達は
「逃げた連中を斥候に尾行させたので、じきに盗賊団のアジトの位置も発覚するだろう」
「ご協力感謝する」
「見習い達はこのまま付けるので、どうか王都までご無事で」
などと言って、一人を残して去っていった。
「ディーン・クロックフォードです」
と名乗ってくれた騎士が
「丁度、王都へ出向く用事ができてしまったので」
と言って私達に随行する事になった。
私を助けてくれた人だ。
騎士見習い達が
「クロックフォード様が…」
「一体、王都に何の用事で…」
などとコソコソ言っている。
(騎士団内で派閥とかあって、仲が悪かったりするのかしら…)
そう言えばーー
騎士見習い達はランドル人とバルシュミーデ人の混血児っぽい容貌なのに対して、ディーン・クロックフォードは典型的ランドル人だ。
騎士達は
「露骨にバルシュミーデ人」
「露骨にランドル人」
な人達が入り乱れていたが…
見習い世代だと混血児が主流のようだ。
微妙なジェネレーションギャップのようなものがあるのかも知れない。
商隊の人達は見るからにランドル人なのに、バルシュミーデ系の騎士だけでなく同じランドル人の騎士に対して態度がぎこちなく、騎士見習いへは親しそうに接している。
ランドル王国では今後は
「バルシュミーデ人はいつまでも侵略者」
「ランドル人文官・武官は売国奴」
「混血児だけが批判されずに済む新支配者層」
という価値観へ変化していくのかも知れないな、と思った。
「侵略者を許せない」
「侵略者から守ってくれなかった元上流層を許せない」
という思いがあるから…
「環境の産物として生まれた混血児しか受け入れてやれない」
という心理が、ランドル人の大人達の中に在りそうに思えたのだ。
商隊主の商人は私を見て
「若い娘さんが無事で良かった」
とホッとした顔をした。
「盗賊は残虐な性癖の者も少なくないからね」
と心配事を口にしてくれて、何故自分が心配されたのか分かった。
「残虐な性癖、ですか…」
「盗賊団に攫われた女性は拷問を受けたかのような死体で発見される事が多い。特に外国人の女性は」
「そうなんですね…」
「悪党は仲間内で『どこまで敵に残虐になれるか』を競うように、攫った弱者を皆で痛ぶる遊びに興じて『俺は甘くない』と虚勢を張る生き物だ。
そんな嗜虐心を競う遊びの犠牲にされる側はたまったもんじゃない。早く盗賊が撲滅されるのを祈るよ」
「私も、そう祈ります」
盗賊達を殺して罪悪感のない自分が自分でも不思議だったけれど…
もしかしたら、この世界には「鬼畜を殺しても罪悪感が湧かない心的仕様」が施行されているのかも知れないな、と思った。
前世では「正当防衛で鬼畜に反撃する事にさえ、鬼畜の人権に配慮して、鬼畜に対して罪悪感を感じなければならない」といった「鬼畜に優しい人倫」が推奨されていた。
「ざまぁ」がない、或いは「そんな緩いざまぁでは悪人は改心しないだろう」と断言できるような「鬼畜に優しい展開」の物語がやたらとコミカライズ・アニメ化されていた社会だった。
苛烈なざまぁを支持する者達は周りからドン退きされて、白い目で見られていたのだ。
そのせいか、社会の主流派が望む通りに「正当防衛で鬼畜に反撃する事にさえ罪悪感を感じる」心理へと私も嵌り込んでしまっていた。
なので、この世界においてーー
鬼畜な盗賊達を殺して罪悪感を全く感じないという
今の自分自身に対して私は
(魂が自由でいられる状態なんだな…)
と自覚した。
思わず
「異世界転生、してみるものだね…」
と小声で呟きが漏れた…。




