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挿絵(By みてみん)


町から町へと移動するのも、徒歩で朝から夕方までの10時間ほどの時間でつく距離なら、気配隠蔽して歩いた方が安全だし早い。


困るのは日を跨ぐ程の時間がかかる距離だ。

1人きりの野営は心許ない。

「寝ている時間」

の私は無防備だからだ。


なので離れた距離の移動は商隊の馬車に便乗させてもらう事になった。

大所帯に加わる事で

「盗賊に襲われる可能性が高くなる」

のは仕方ない。


騎士見習いらしき少年達が

「冒険者の護衛に擬態して商隊に随行する」

のも、今のランドル王国では慣例行事。


騎士見習いらしき少年達は

「バルシュミーデ人とランドル人との混血児」

の特徴を示す容姿の者達ばかりだ。


露骨にバルシュミーデ人の容姿の騎士に対して警戒心を持つランドル人国民達は、混血児に対しては多少受け入れている姿勢を見せる。


というのも、戦後数年の間は

「バルシュミーデ人貴族と婚姻を結んだランドル人貴族」

「バルシュミーデ人との間の混血児を産んだ女性」

「バルシュミーデ人とランドル人の混血児」

といった枠の人達はランドル人庶民の皆様から嫌われ差別されていたとかで…


それに対しての罪悪感もあって

ここ数年は

混血児への視線は少し優しくなっているらしい。


(私と同じくらいの歳の子達が「混血児」として、今後、この国で成り上がっていくんでしょうね…)

と思った。


ふと、クリストフとジョスランの事を思い出した。

(「混血児」のジョスランは、生粋のバルシュミーデ人のクリストフよりは国民から受け入れられやすそうね…)


生粋のバルシュミーデ人で、アザール人の婚約者を押し付けられたクリストフ。

(私がクリストフにしがみついていたら、彼の人生を不利にしてしまうところだった…)


国民感情は大事だ。

祝福されて好意を向けられ協力してもらえる人生と、呪われ悪意を向けられ非協力な人達に足を引っ張られる人生とでは落差が大きい。


(クリストフはランドル人の女性を娶ると、領民の皆様からも受け入れられるのかも知れないわね…)


そんな事を思っているうちに

「出発だ!」

と号令がかかり、商隊が動き出した。


******************


先頭近くにいると、魔物が出る度に戦闘になる。

魔物との戦闘では

「馬を護る」

のが最優先事項。


一方で盗賊相手だと

「馬は盗賊から逆掠奪できる」

事もあり

「とにかく盗賊を一人でも多く戦闘不能にする」

のが最優先事項。


敵次第で心得が変わる。


斥候役の索敵班が

「馬を護れ!」

と怒鳴る時は魔物が出たのだと思って良い。


騎士見習いの少年達が商隊の行列の先頭と末尾に居る他は、冒険者達は私を含め、ローテーションで休憩の度に護衛位置をずらし続けている。

私は最初は先頭付近に付いていたが…今は真ん中くらい。


他の冒険者の皆様が馬車に並行して早歩きしながらお喋りしているので、この近辺の盗賊団の情報に関しても、少しずつ耳に入ってきた…。


ここら一帯を荒らしまわっている盗賊団アスクアンドレシーブ。

その団名は

“Ask and you shall receive."

という、この世界の諺が由来になっている。


直訳すると

「尋ねよ。そうすれば答えが返ってくる」

という意味だが…


暗喩としては

「何もしなければ何も与えられない」

という意味。


つまり盗賊団は

「行動せよ!(それがたとえ犯罪であろうが)」

という社会的メッセージを発している訳である。


「盗賊って生き物の生き方をそのまま表してる主張だよな」

と中堅冒険者のオジサンが呆れたように評しているが…

本当にその通りだと思った。


(人間の犯罪って、大半が「愚かなまま行動的になる」ところから発してる気がする…)


そんな私達の思念を引き裂くべく

「盗賊だ!!!!」

という声が上がった。


(うわぁ〜…。やっぱり出たか…)

と思いながら、片手で短槍を構えつつ、水刃をいつでも放てるように準備する。


「来たぞ!!!」

と言われた時には


「どわぁぁぁ〜っっっ!!!!」

と盗賊達が何か喚きながら騎馬状態で突進してくるのが見えた。


その背後からは矢がビュンビュン飛んでくる。


(とりあえず弓兵の姿が見えるように、弓兵の前を走ってる盗賊どもを水刃で遠距離攻撃しておこう)

と思った。


敵味方が入り乱れて乱戦に突入すると迂闊に魔法を放てない。

魔法による遠距離攻撃は今のうちに撃てるだけ撃つに限る。


私の周りの冒険者達は水刃が見えてないらしく

「どうしたんだ?あのバカども」

「勝手に馬から転げ落ちてくれてるぜ」

「楽勝だな」

などと調子に乗ってくれてる。


(今は削れるだけ削ろう…)

我が身の安全が一番だ。


手柄は私のものです、と主張する必要はない。

他の者達に自分がしている事を説明する間に敵に近づかれて攻撃を受けたらと思うと、喋る暇さえ惜しい。

ひたすら盗賊を攻撃する事しか考えられない。


(手柄より、自分の命優先!)

「水刃、水刃、水刃、水刃、水刃、水刃、水刃、水刃」


連発しても魔力消費はそこまでない。

水魔法には毎日飲み水でお世話になっている。

熟練度はそれなりだ。


盗賊達のどわぁぁという声が実は

「死ねぇ〜!!!」

「全部奪う!全部だ!」

「絶対殺す!」

だのと言ってる声なのだと判別できるようになった頃には…

私の方でもだいぶ削ってやれたと思う。


馬を攻撃するのは可哀想なので馬上の盗賊達を狙って水刃を放ち続けたのだ。


水刃は矢よりも正確に飛び、大剣よりも切れ味が良い。

盾を構えて馬で突進して来られても傷つけて落馬させるのは難しくなかった。


ただ人数が多過ぎた。


盗賊団が少数だったら私だけで対処可能だったかも知れないが…

削っても削っても、キリがないくらい大所帯の盗賊団だったようだ。


「魔法の刃を放ってやがるヤツがいるぞ!」

「いつもと違う!」

「引け!退却だ!!!」

と盗賊の中から声が上がっているが…


指令系統の命令遵守精神が緩いのか、退却の指示など受けていないかのように突入してきて大剣を振り回す者や両刀で暴れ回る者がいる。


その手の輩の周りでは血飛沫が上がっているので、私にもよく姿が見えない。


「魔法の刃だと?!卑怯者の戦い方だな!」

「殺れるもんなら殺ってみろよ!魔法使い野郎!」

と挑発しているようだが…


私はそういった挑発には反応せず

水刃を飛ばしやすい角度や距離の者達を狙った。

着実に一人でも多く怪我をおわせて落馬させてやるに限る。


「何処だ!魔法使い野郎!」

「って、おい!あの女だろ!野郎じゃねえ!魔女だ!」

と声が聞こえたかと思うとーー


背筋の凍るような殺気が瞬時に迫った。


「えっ?」

(何かのスキルか?)


咄嗟に敵の心臓を亜空間収納したが…

心臓を抜き取っても数秒、長ければ十数秒、生き物は動き続ける。

槍で刺す暇もない。


凶悪極まる盗賊が二人、一気に距離を詰めて襲ってきたのだ。

一人目の心臓を抜いてすぐ、こちらの首を飛ばそうとした大剣を仰け反って避けつつ、二人目の心臓を抜いて、転がりながら二連撃の両刀の刃を避けた。


(早く死ね!!!!!!!)

と怒りながら、土をガリッと握り寄せて、投げつけてやった。


しかしーー


心臓が無くなっても執念で十数秒の間攻撃を続ける二人組の狂人。

いざ、それを相手にすると

(ヤバい!殺されるかも!)

と弱気になった。


ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!!!!!


半ば死を覚悟していたのだと思う。

脳裏には前世の死の瞬間を思い出していた。


何の前兆も予兆もなく

突然、激しい衝撃と痛みが襲いかかり

ドクドクと血が流れ出て

視界が暗くなっていった。

あの時の記憶。

不条理の極地。


(何故私がこんな目に!!!!)

と世の中を恨みながら涙が滲んだ…。

あの瞬間を思い出していた…。


目の前に迫っていた凶刃ーー

それは不意にーー


私を傷つけるより前に

加勢に駆けつけた騎士の剣により

盗賊の腕ごと斬り飛ばされて宙を舞った…。



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