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第7話 新パートナーの誕生(前編)

第7話は「夢/現在/過去」の三軸で描く都合上、少し長くなったため、今回は前編・中編・後編に分けています。

内容はひと続きです。

◆夢編


「願いは群れ、祈りは道になる」


風が止んだ。

世界が息をひそめるような

音の消失。


アリオンとフィアは、

ただ前を見てたたずんでいた。

朽ちた大地。

荒れ果てた森。

そして、

闇の牙を剥き出しにした魔王城。


そのすぐ手前に、

一本だけ―

枯れた世界樹が立っていた。


幹は裂け、

枝は乾き、

生命の気配など

どこにもないはずなのに、

まるで世界が

この木を軸に

回っているような

存在感だけはまだ残っている。


アリオンは小さく息をのむ。


「…ここが、最後の場所なんだな。」


フィアは隣で

静かにうなずいた。

声は出ない。

けれど、

その仕草だけで

気持ちは十分伝わる。


そのとき―


風が吹いた。


いや、風ではない。

空気そのものが震え、

世界樹の枝先から

何かが溢れ始める。


枯れた葉が一枚、

ひらりと舞う。

それは茶色でも灰色でもない。


―光。


葉はひとつ、

ふたつ、十、百、

やがて数えきれないほど

舞い上がった。


その光葉には――


人の顔が映っていた。


アリオンは息をのむ。


戦いの途中で出会った旅商人。

村で薬をくれた老婆。

剣の振り方を

教えてくれた無骨な兵士。

傷ついた自分を

救ってくれた教会の少女。


モブでもない。

英雄でもない。

すれ違っただけの人々。

けれど確かに

この世界を共に生きた人々。


それが

光となり、

風となり、

願い

となって二人を包む。


フィアの目に涙が浮かぶ。

声がないかわりに、

光がその瞳に宿る。


さらに――

アリオンは気づく。


その中には、

見覚えのない笑顔も

混じっていた。


氷の国の兵士。

砂漠を歩く旅人。

まだ生まれていない未来の誰か。

数えきれない

“まだ会っていない人々”。


そして―


深い赤茶色の髪の少女。


表情は優しく、

でもどこか迷いを抱えた瞳。

手には紙と筆。

風に髪が揺れ、

こちらを静かに見ている。


(…誰だ?)


問いは浮かぶ。

だが言葉より先に理解がくる。


これは未来。

俺たちが歩いた世界が、

誰かにつながった証。


願いは一人ではない。

戦うのは二人きりではない。

支えてくれるのは―


過去と未来、

すべての人々の祈りだ。


アリオンは震える息を吐いた。


「…そっか。俺たちは、

一人じゃない。」


その言葉に応えるように、

光の葉が一斉に舞い上がる。

まるで空そのものが

勇者を送り出す儀式のように。


その瞬間、

フィアがアリオンを―

強く、後ろから抱きしめた。


声はない。

でも伝わる。


「怖い。でも、信じてる。

あなたは負けない。

私は祈る。

だから歩いて。」


―そんな想い。


アリオンはその抱擁を

そっと受け止め、

それから、ゆっくりと

フィアの手を前へ回し、

向かい合った。


「…ありがとう。」


彼はフィアの両手を

しっかりと握る。


「言葉じゃなくていい。

祈りで十分伝わる。」


フィアは涙を流しながら、

震える手でアリオンの

指を強く握り返す。


アリオンは微笑んだ。


「俺は行く。

でも―1人じゃない。

みんなの願いと、

君の祈りと一緒に。」


光の葉が空へ戻り、

世界樹が静かに光を灯す。


二人の影が、

魔王城へ向かって伸びる。


「行こう、フィア。

終わらせるためじゃない。

―未来を繋ぐために。」


そして、二人は歩き出した。


願いを背負い、

祈りに導かれ、


未来へ。

---


◆2025年 現在編


資料管理室には

夜だけ宿る空気がある。

昼はただの

倉庫みたいな部屋なのに、

夜になると音が吸い込まれて、

世界がゆっくり考えてくれる―

そんな感じだ。


俺は、

自分のPC画面と

にらみ合っていた。


画面に開かれているのは

異動願いフォーム。

入力欄が空のまま、

「送信」

ボタンだけ点滅している。


押せと言ってくる。

でも、押した瞬間、

何かが壊れる気もする。

正直、

それが何なのかは

まだ言語化できない。


―ここは始まりの場所よ。


昨日、白木先輩が

ぽつりと残したその言葉が、

耳の奥にまだ熱を残していた。


始まりって何だ。

スタートって何だ。


俺は、

“進むふり”

をしてただけなんじゃないか―

そんな考えが胸の中でうごめく。


Enterキーの上で止まった指は、

呼吸とは別のリズム

で震えていた。


その静寂に割って入ったのは、

遠慮の欠片もない声。


「…またその顔?」


有村だ。


片手に缶コーヒー。

もう片手にはいつもの

スケッチブック。


座る気もなく俺の机に

腰かけながら画面を覗き込む。


「はい出た、

悩んでるふりして

“考えてる風男子”。

鑑賞料取ったほうが

いいレベル」


「そのセリフ、

夜だと刺さり倍増するから

自重しろ」


「うん、してない。

でさ、送るの?」


「…わからない」


「送らない理由は?」


「それも…わからない」


自分の言葉なのに、

聞いてて情けない。

でも、それが本音だった。


「ねえクウマ。

押せないならさ――」


有村はスケッチブックを閉じ、

指で机をトン、と叩く。


「“こっち”押そ。」


いつもと違う有村のシリアスな声に

俺は息をのんだ。


(前編・終わり)

物語もクライマックスになってきました。

本作は「夢」「2025年の現在」「開発室の過去」の三軸で進んでいますが、第7話はその三つがいよいよ強く噛み合っていく回になります。

その分どうしても長くなったので、読みやすさ優先で前編・中編・後編に分けて更新します(内容はひと続きです)。


中編は17日(水)夜、

後編は19日(金)夜

の更新を予定しています。

続きも楽しんでいただけたら嬉しいです。

感想やブックマークで応援していただけると、

とても励みになります!


最後にひとつだけ。

今回の前編/中編/後編の分け方、

読みやすかったですか?

「このくらいが助かる/一話でまとめて読みたい」どちらでも、ひと言もらえたら次の更新の参考にします。

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