~始の章まとめ~もつ鍋やで白木先輩とアカネの巻
~始の章まとめ~
もつ鍋やで
白木先輩とアカネの巻
いつ会社を
やめようかばかり考えていた
新入社員の俺は、
白木先輩に励まされて、
ようやく少しだけ
前を向こうとしていた。
そして桐谷に宣言した。
◆俺が桐谷に宣言した日の帰り
俺はさっき、
桐谷さんに宣言した。
ゲームを
つくるのを支える側じゃなくて、
ゲームをつくる側になりたい…と。
言えた。
言ってしまった。
その帰り道、
白木先輩と有村と、
三人で飲みに行くことになった。
(…俺、
宣言しただけなんだけどな。
でも、三人で行くの、
ちょっと嬉しい)
夜なのに曇天の雲が
はっきり見える。
いつ雨が降っても
おかしくない空だった。
「駅の近くにしようか」
誰が言い出したわけでもなく、
それが三人の
暗黙の了解になった。
俺が言う。
「焼き肉飲み放題とか、
どうですか」
有村が速攻で却下する。
「却下! 服に臭いがつく。
クウマは女子心、
もっと勉強して」
あきらめず、
俺は続けて提案する。
「じゃあ、焼き鳥飲み放題!」
「却下。オヤジくさい。
話にならない」
バッサリだ。
「却下ばっかりだな…
じゃあイタリアンレストラン?
でも、そんな金あんのか?」
有村は「ふふん」と得意顔で、
指を立てる。
「わかった、
わかった。
じゃあ正解おしえてあげる!
正解は…
モツ鍋屋!
飲み放題付き!
はい、優勝!」
(確かに魅力的だけどさ…
でも、こんなにムシムシする
六月にモツ鍋?
本当にそれが正解か?
いや、まて。
こいつ、ただの
“おこちゃま”で、
堅いもの食えねーだけなんじゃ…?)
ふと気になって、
俺は白木先輩に聞く。
「白木先輩は、
モツ鍋屋とか行ったことあります?」
白木先輩は少し首をかしげてから、
ふわっと笑った。
「ううん。初めてかな。
でも、行ってみようかな」
(この清楚なワンピース…
モツ鍋のスープで
汚れないといいけど)
◆モツ鍋屋にて
席につくと、
店員さんが注文を取りに来る。
俺と白木先輩はビール、
有村はカシスウーロン。
お通しとグラスが
運ばれてきて、
三人で軽く乾杯したあと―
ふっと、さっきまで忘れていた
“夢”のことを思い出した。
◆これまでの夢
俺の夢は、
いつもラスボス戦から始まった。
世界を救うような最後の戦い。
そこで戦っているのは、
アリオンという剣士と、
言葉を奪われた少女・フィア。
次の夢では、
過去のアリオンが描かれていた。
牢屋に閉じ込められていた
フィアを、アリオンが
助け出すところから始まる。
二人で旅に出て、
精神攻撃を得意とする
中ボスみたいなやつに出会う。
(あいつ、
本当にタチ悪かったよな…)
そいつは最後に
「プレゼント」とか
意味深なことを言い残して、
一旦去っていった。
そのあともアリオンとフィアは
冒険を続け、泥臭く、
ボロボロになりながらも、
とうとうその中ボスに勝つ。
勝ったはずなのに、
なにか引っかかるものを
残したまま…
そこで、夢はいつも終わる。
気づいたら、
俺はテーブルの前で
我にかえっていた。
アリオンは泥臭くても
前に進んで、
ちゃんと勝った。
でも俺は、
まだ「やりたい」と
宣言しただけだ。
(俺は、
まだスタートラインに
立っただけか…)
少し惨めな気持ちになって、
ビールの泡ばかり
見つめてしまう。
◆再びモツ鍋
「おーい! クウマ!!
おーい!」
現実世界に、
容赦ない声が飛んでくる。
有村だ。
「おまえ、
なにボーっとしてる?
こんなに可愛い女の子と、
美女引き連れて
飲みにきてるのに!
チートか!!」
(“可愛い女の子”と“美女”で
分けるな。そこは素直に
“どっちも女の子”で
統一しろよ。失礼だな…)
白木先輩は
そんなやり取りを見て
クスッと笑っている。
目笑ってない気もするが…
そして俺の方を見て、
ふわりとした声で言った。
「でも、とうとう
言えたじゃない。
これから、
ゆっくりやればいいよ」
有村が、
そこで一気にギアを上げる。
「甘い! 今日からだよ、
今日から!
今日から徹夜で、
企画、プロット、
ラフデザイン!
連続徹夜だ!!」
(今日から徹夜って…
いや、絶対ムリだろ)
有村のグラスは、
いつの間にか
カシスウーロン濃いめ
二杯目になっていた。
その上カシスウーロン超濃いめ
を追加注入を。
そこにモツ鍋の鍋が
運ばれてきて、
店員さんが火をつける。
ジュウッと音がして、
にんにくとダシの匂いが
立ちのぼる。
白木先輩が、
少しだけ真面目な声に変わった。
「有村さん。煽らない。
“今日から徹夜”なんて言葉、
簡単に使っちゃダメ。
やっぱり、時間かかってでも、
ゆっくり積み上げなきゃ」
その言い方が、
どこか自分にも
言い聞かせているみたいで、
俺は一瞬だけ不思議な
気分になる。
◆1985-1987年の話(黒瀬さんから聞いた伝説)
前に黒瀬さんから聞いた
“伝説”がある。
俺と白木先輩、
胸が熱くなったっけ。
1985年。
新興勢力として
ファミコンが現れ、
ゲームの勢力図が
大きく変わろうとしていた頃。
厳しい規制と
参入条件がある
コンシューマーゲームと、
比較的自由に作れるPCゲーム。
ゲーム業界は、
どうやって生き残るかを
常に突きつけられる、
変化の時代だった。
そのころ、
黒瀬さんと赤木さんは、
当時のPCメーカーで働く
新人だった。
自由度の高いPCゲーム。
だけど会社の判断はこうだ。
―生き残るためには、
売れなきゃいけない。
だから、まずは
アダルトゲームを作る。
それが現実。
みんな、その判断を
飲み込むしかなかった。
だけど赤木さんだけは、
どうしても割り切れなかった。
彼は本当は
「世界を作るファンタジーゲーム」を
作りたかった。
誰かの心に残る、
物語と世界を持ったゲームを。
そんな赤木さんに関わることで、
黒瀬さんもまた、
一緒に新作ファンタジーの
企画書を書くことになる。
二人で、こっそりと。
でも本気で。
それでも上司の御影さんは
NOを出した。
御影さん自身もまた、
PCゲームで
生き延びさせるための
苦い経営判断―
アダルトゲーム中心の路線を
苦々しくも
受け入れていたからだ。
それでも、
赤木さんはくじけなかった。
「だったら、
仕事のあとに作ればいい」
そう言って、
本当にその夜から、
赤木さんと黒瀬さんの
「世界を作る
新作ファンタジーゲーム作り」
が始まった。
仕事が終わったあとのオフィス
明かりの落ちた開発室の片隅で、
二人は少しずつ、
でも確実に、
自分たちの“イーム”を
積み上げていった。
その姿に、
一番近くで現実を見ていた
御影さんも、少しずつ
心を動かされていく。
そして―世界を作る
新作ファンタジーゲーム。
やがて『イーム』と
呼ばれるその作品は、
1987年6月。
会社全体を巻き込んだ
一大プロジェクトとして
動き出し、ゲーム業界を
変える革命作として発売された。
…俺も白木先輩も誇らしい
気持ちになったな…
◆再びモツ鍋屋にて
だから俺にはわかる。
今、目の前でモツ鍋を
前にしている白木先輩が、
少しだけ真剣な顔になった理由。
俺に火をつけようと、
ハイテンションで
「今日から徹夜!」
と煽りまくる有村の声を、
白木先輩の声が
やさしくさえぎる。
「空真くん。
ゆっくりでいいんだよ。
赤木さんも、
黒瀬さんも、
二年以上も、
もがき続けて、
ようやく形になったんだって。
二人とも“天才”って
呼ばれてるけど、
それでも二年だよ。
今の資料管理室には、
きっと、空真くんが
新しいゲームを作るヒントが
たくさんある。
だから、絶対にあわてないで」
突然そこまで言われて、
俺も有村も、
きょとんとするしかなかった。
「それにね、わたしも…」
白木先輩がなにか言いかけて、
ふっと言葉を濁す。
その間を、有村が
お構いなしにぶった切った。
「まあ、いい。
逃げたくなったら、
まずは私に相談しろ。
それでもダメなら―
退職代行もある!」
「やめろ!」
俺と有村は、その瞬間、
同時に爆死した。
笑いすぎて。
白木先輩はそんな二人を見て、
締めくくるみたいに
言葉を重ねる。
「みんな元気に、
レジェンズソフトを
盛り上げよう。
元気が一番。慌てず、
あせらずね」
その一言で、
テーブルの空気が
ふわっと明るくなる。
三人とも笑って、
鍋の中身をつつき合う。
モツ鍋の締めは、
もちろんチャンポンだ。
白木先輩がレンゲを
手にしながら言う。
「モツ鍋、
初めて食べたけど…
このチャンポン
が一番おいしいね」
そう言ってから、
有村の方を見る。
「ところで有村さん…?」
意味ありげな笑顔を向けて、
もうひと言、重ねてくる。
「このモツ鍋のニンニクって、
“女子心”的にOKなの?」
有村の動きが止まる。
(…帰り、ガム買ってこ…)
心の声が顔に出ていたのか、
有村はバッと顔を赤くして、
慌ててグラスをあおった。
その様子がおかしくて、
俺も白木先輩も、
また笑ってしまうのだった。
〈ここから作者より〉
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
第1話から追いかけてくださっている方は、4万弱+このモツ鍋幕間まで、お付き合いいただきお疲れさまです……!
今回の幕間は、
第1章「始の章」のざっくりおさらい
空真・白木先輩・アカネ、3人の距離感おさらい
そして、第2章で効いてくる“ささやかな種”を少しだけ
詰め込んだ「一粒で二度おいしい」回のつもりで書きました。
どこか気になる会話や一言があったら、ぜひ頭の片隅に置いておいてもらえると嬉しいです。
この幕間から来てくださった方へ:
ここまで読んでいただければ、だいたいの立ち位置や関係性はつかめるようになっています。
気になったら本編の第1話〜第4話に戻ってじっくり読むのもアリですし、このまま第2章(第5話)から合流していただいても大丈夫です。
本編の続きとなる第2章は、【12/9(火)夜】から更新再開予定です。
夢の世界と現実、そして1980年代の開発室の出来事が、もう一歩だけ深くつながっていく章になります。
もしよろしければ、
白木先輩派か、アカネ派か
女の子の描き方で「ここが好き/ここが気になった」
など、一言でも感想をいただけると、とても参考になります。
ブックマークや評価も、今後の展開やヒロインたちの見せ方を考えるうえで大きな励みになります。
原稿はスマホでぽちぽち打っているので、ときどき誤字などあるかもしれませんが、あたたかく見守っていただければ幸いです。
第2章からの『ゲームチェンジャー』も、引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。




