閑話:記章
「シーちゃんって、すごく綺麗だよね」
ドライヤーをかける彼女の絹のような艶を放つ髪を眺める。黒くて艶やかな髪は、まさしく一枚の布のようだ。
私がそう言うと、シーちゃんは得意げな表情を浮かべて私を横目で見る。乾かし終わったのか、スイッチを切って私へそれを渡した。
「当然でしょう?私は美貌を保つための努力は厭わないわ」
「さすがだなあ。あ、もしかして食後に飲んでるあれも?」
シーちゃんはいつもご飯の後にカプセル状の何かを飲んでいる。大きなサイズのそれをすんなりと飲み込んでいるので、すごいなと思っていた。私はいつも薬を飲む時引っかかってしまう。
「そうよ。あれは肌のためのサプリね」
「へえ……」
こんなに若いうちから気にしてるなんて、すごい。というか、こんな世界なのに美容のことまで気にしてサプリまで。シーちゃんのいるところって結構普通に暮らせてるのかな? うちでも結構贅沢だと思っていたけれど、しーちゃんの方がいい生活を送っているのかもしれない。
私がそう思っていると、シーちゃんは笑って首を傾げる。
「気になる?」
「うん、私外で作業してるから、肌は気になるよ。シミとかさ〜」
「でもホノカ肌綺麗じゃない?」
「えー嬉しい!」
シーちゃんに褒められて、私は嬉しくて跳ねたくなる気持ちになる。そして彼女は私の髪をチラリと見た。
「ただ、髪ちょっと傷んでるね」
「あー、やっぱり?」
「髪も日光にあたるとダメージ受けるよ。頭皮に日焼け止め塗ってる?日焼け後のダメージケアは?」
「え、してない。何なら帽子邪魔で外してたかも」
私はシーちゃんに見られていた頭頂部を隠す。そんなところまで気をつかうんだ。
やれやれ、と言うように溜息を吐かれた。あれ、おかしいな私年上なのに。
シーちゃんはポーチを開けて、中からカプセルが入ったアルミのシートを取り出した。それをパキッと一錠分切り取って、私へ差し出す。
「ん」
「これは?」
「飲む日焼け止め。一個あげる」
「えー!嬉しい!ありがとう、シーちゃん!」
この前まで私を見下して邪険に扱っていたシーちゃんが、私を思ってサプリをくれるなんて。仲良くなれた証拠みたいで嬉しい。
「へへ、私これ飲まないで取っておくかも」
私がそう言うと、彼女は眉を吊り上げ唇を歪ませる。
「せっかくあげたのに。なんで?」
「だって、私とシーちゃんが仲良くなれた記念みたいだもん」
キョトン、と目を丸くした後、シーちゃんはプイッとそっぽを向いてしまう。散らばった化粧水や乳液の類をまとめてポーチに入れた後、立ち上がって扉を開けた。
「ホノカって、ちょろい!」
「え〜」
私の顔は見ずにそう言って、扉が勢いよく閉められた。
その後ろ姿を見送って、私は顔を緩ませる。輝く銀色が友情の証のようで、嬉しくてしばらく濡れた髪のまま眺めていた。




