第四話 小さくても日輪の如く
「テメェら・・・よくもやってくれたなぁ・・・!!」
声の主は日輪ちゃんがライフルで撃ち抜き、直志が滅多刺しにした稲葉空海だった。
「い、稲葉っ!?どうして・・・!?」
信じられないと言わんばかりに直志が稲葉に問うが、それに答えたのは別の人物だった。
「―――私のスキルで、彼を健康体にしたからです。」
稲葉の血で真っ赤に染まった通路の奥の曲がり角から一人の男性が姿を現した――――
「私は泉刻といいます。私のミッションの都合上、彼に死なれては困るので―――――――」
――――――ドォンッ!!ガコッ、ドォンッ!!
泉と名乗る男が話切る前に、銃声が二つ響いた。
第四話
小さくても日輪の如く
「――――じゃあ、殺すね。」
硝煙をショットガンの銃口からくゆらせ、発砲した日輪ちゃんが当然の様に言いきった。
「・・・そんな・・・生命をあっさり・・・竜胆さん、君は・・・」
「ん?宮内さん、どうかしました。」
「あ、いや・・・やらなきゃ私達が殺されていたかもしれませんから・・・」
「うん、そうだよ。これでも私、厳選して殺してるんですから。・・・あ、他のプレイヤーを殺すと少しポイントが増えるんだ・・・。」
直志の心配を大げさと言わんばかりに日輪ちゃんは殺した二人のことを気に留めずに自らのスマホを見てそんなリアクションを取る。・・・まぁ、底層区画出身の人間にモラルなんて概念は存在しない。目的を果たすことを最優先に行動するのだから、俺らを殺さない日輪ちゃんはむしろ理性的な方だ。
「直志さんがこの男を懲らしめたかった様に、私にだって、生きて帰って叶えたい願いがあるんですから、ここで死ぬわけにはいかないの。」
『コイツは――――私が殺さないといけない・・・!!正義の・・・・裁きをっ!!』
直志が稲葉を殺した時の必死の形相がリフレインする・・・そうだよな。願いがあってこの場にいるんだもんな。それは日輪ちゃんだって同じ・・・
「竜胆さん、その、君の願いは・・・何なんですか・・・底層区画から脱走したことは知っています。・・・やっぱり、底層区画脱却ですか?・・・でも、竜胆さんは他者を殺してまで底層区画から出たいと思っている様に見えないんです。・・・差し支えがなければ、教えてくれませんか・・・アナタはいったい・・・?」
「そうですね・・・」
日輪ちゃんが話す内容を思い返しているのか、目を伏せる――――
「・・・宮内さん、私の下の名前は憶えてます?」
「え?・・・日輪・・・ですよね。」
「そう、だよ。・・・きっと宮内さんはその名に何の疑問も持たないんだよね・・・。」
――――――っ・・・・・・そういうことか・・・・・・日輪ちゃんは―――――
「え・・・はい・・・・・・?」
「自分は何者か・・・なんてニヒルで難しいことを考えたりはしません・・・けど―――――――」
――――――――
―――――
―――
―
Another View
竜胆日輪
日の当たらないジメジメした廃墟の街の片隅、簡単には人目に付かない物陰に私は母と“生きて”いた。
「―――ゲホッ!!ゴブッ!!」
数日前に移動してきたこの場所はそれまで住んでいた地域よりも治安はマシだったが、衛生面が最悪だった。移動のきっかけは前の地域で私が強姦にあったことだった。上層とかでの強姦ならまだ我慢できた。でも、底層区画は違う。常に病気をうつされる前提でそのリスクに怯えながら耐えなければならない。苦痛だけではないのだ。生命に関わる問題で・・・さすがに母も私の身を案じて身を置く場所を変えてくれた――――――
「ハァ・・・ハァ・・・」
昨日見つけた露の溜まり場・・・泥水を啜ったのが悪かったのだろうか、それとも、しばらく前に食べた鼠の死骸がマズかったのか・・・母はぐったりと横たわり、吐血していた・・・知識のない私は、それを見ても、どうすることもできず、ただ衰弱していく母を心配することしかできなかった。
「あぁ・・・日輪・・・私の、太陽・・・」
「お、お母さん!?えっ!?た、たいよう?」
「そう、よね・・・ね、ねぇ、日輪・・・どうか、生きて・・・スラムの外には、あなたの様な・・・眩しくて、暖かい・・・アナタの名の、元になった、太陽っていうのが、空に、あって・・・それを―――――」
力尽きたのか、母はそれ以上言葉を発することはなかった。
「たいよう・・・それが、私の名の元となったもの・・・」
生まれて物心ついた頃からずっと日輪と呼ばれていたが、それが意味する所をわからずにいたけど・・・あぁ・・・私は知らないことばかりだ・・・大切な人が病に倒れた時の対処も、何が安全な飲み物で、何が危険な飲み物かも、世界がどうなっているのかも、そして、太陽も・・・
――――――タタタタタタタタタッ!!
弱肉強食の底層区画で弱者の私は、欲求というものを持てるとは思わなかった。でも、その瞬間、私は知識欲に駆り立てられ―――――底層区画の中を走り出した。向かう先はもちろん底層区画の外―――――
「オイ、ガキィ・・・人の縄張りに何勝手に―――――」
――――――タタタタタタタタタッ!!
「クソッ!!オイ!!逃げんなっ!!」
底層区画の実力者を潜り抜け――――
「そこの少女、止まれ!!止まりなさい!!」
―――――――タタタタタタタタタッ!!
底層区画と外の世界の境界を護る門番も躱して必死に走った―――――けど・・・
「構わん。撃て――――」
―――――――パンッ!!
「きゃっ!!――――――ああああああっ!!―――――くぅっ!!」
破裂音とほぼ同時に右脚に激痛が走る―――――何をされたかわからなかったが走る度に右脚が激痛で力を入れることを拒んだ・・・それでも、私は走るのをやめなかった――――――けど、それにも限界が来た。それもそのはず、満足に食べることすらできなかった私に十分な血液が、体力があったはずないのだから・・・
「―――――ぁ――――」
―――――ズザァ!!
底層区画の境界門を越えた先・・・外の世界に出た瞬間に、私はバランスを崩し、転倒した。
「いたぞっ!!」
――――――ダダダダダダダダダッ!!
追ってはすぐそこまで来ていた――――――でも、それでもよかった。私は底層区画を出て・・・今、空を見上げれば、外の世界で太陽を―――――――
―――――――ポタッ
「え・・・?」
空を見ようと仰向けになった時、私の頬に冷たい何かが当たった。
――――――ポタポタポタポタ・・・サァァァァァァァァ
あぁ・・・水ってこんなにも透き通っていたんだ・・・また一つ知ることができた・・・でも・・・
「うっ・・・あああああああああああっ!!」
分厚い雲に阻まれて・・・私は太陽を見ることができなかった。
・・・世界はどうして私にこんなにも厳しいのだろうか・・・母を亡くし、その最後の言葉である太陽を見ようと必死に走り抜け、片足を犠牲にしてまで外の世界に・・・全てを差し出して、太陽を見ようとして・・・どうしてそれを許してくれないのだろうか・・・それが悔しくて悔しくて・・・私は綺麗な雨に打たれながら大声で泣いた。
涙と血を流し、動けない私は、追って来た門番に連れ戻され、底層区画の罰則施設に入れられた。
Original View
天城 純夜
「そうして、私は私の名の由来となった太陽を見ることができずにここに居ます。・・・だから、願ったの・・・あの時に雨雲に阻まれても太陽が見える様に、って・・・」
全てを語った日輪ちゃんに俺も直志も驚きを隠せない・・・
「なんという境遇でしょうか・・・それに、太陽が見たい、って・・・たったそれだけを願って・・・」
「たった・・・宮内さんから見ればそうなのかもしれないけど・・・私からすればそれはかなりの贅沢なんですよ。」
「それは・・・」
日輪ちゃんの圧に直志がたじろぐ・・・俺にはわかる、俺だってかつては日の当たらない底層区画で生きていたんだ。初めて太陽の光を浴びたあの日のことは忘れない。底層区画の外で生きる人には『たったそれだけのこと』だが・・・その価値は人それぞれで―――
―――願いに善も悪も無い様に、大小だって無いんだ。
「・・・竜胆さん、もしキミさえ良ければだが、このゲームをみんなで生きて戻れたのなら、私の元で暮らさないか・・・私は医師だ、人を一人養う程度の稼ぎはある、今、正式に登用はできないかもしれないが、それでも、太陽なんて飽きるほど見てもいい。他にも、いろんな幸せを教えてあげられる。」
直志が同情か、日輪ちゃんにそんな話を持ち掛ける・・・俺にもそんな財力があれば・・・
「生きて帰ったらって、直志、それ死亡フラグだぞ。」
悔し紛れにそんなことを口走る――――――――
―――――――ゴウッ!!
そんなことを言った瞬間、俺達の目の前で炎が上がった。
「なっ!!何事ですっ!?」
「敵かっ!!」
「チッ、死ななかったか・・・」
「天城さんっ!?本気で言わないでもらえますかっ!?」
間一髪回避に間に合ったのか直志も日輪ちゃんも無事だった。
――――――ガガガガガガガガッ!!
炎に向けて日輪ちゃんがアサルトライフルを連射するが―――――
――――――ボッ!!ゴアアアアッ!!
炎の勢いは増すばかりだった。
「ダメ、炎で敵が見えないと・・・」
「一度退こうっ!!」
――――――ゴウッ!!
俺達が退くのを見たのか炎は追って来る――――――その炎の少し奥・・・人影が、見えた。
「アイツか―――――」
俺はダメもとでその人影を睨む――――――
――――――ドサッ
すると、銃声もせず、その人影は倒れた。
Another View
宮内直志
「えっ?」
炎に追われていたと思ったら、いつの間にか追ってはいなくなっていた。
「今、何が・・・」
竜胆さんも状況がわからない様で戸惑っている。・・・が、私の中では、なんとなく検討はついていた。
「天城さん、スマホを確認してみて下さい。」
推測の確認をすべく天城さんに問うと――――
「あれ?残りポイントが増えてる?しかも40ポイントも・・・」
やはり―――――――即死スキルは実在した。それもそうだろう、ゲームバランス調整のためのポイントで、スキルを与えられずにポイントも無いなんてことが起きるはずがない。
では、どうして彼は実在しないと思い込んでいたのだろうか・・・
「すいません、もし良ければ、そのポイントで『スキル一覧』のアプリを交換してもらえませんか?」
「え?まぁ、いいけど・・・ホレ・・・」
だいぶスマホの扱いに慣れたみたいですね。パパっと操作して私に画面を見せてくれます。
「・・・この方は天秤座の方でしょう『念発火』のスキルを持っていたみたいです。」
口ではそんなことを言いつつ、私は他のプレイヤーのスキルを見る。
分身・・・回復・・・創造・・・・・・不死!?
間違いない、この不死のスキルを持ったプレイヤーを殺そうとして死ななかったから、天城さんは誤解したんだ。もう向き合うしかない。
「・・・天城さん、恐らく天秤座の彼は、天城さんの即死スキルで殺したはずです。」
「・・・やっぱり、そうなのか?」
「ええ、話してくださった、前に殺せなかったのは、不死のスキルを持つプレイヤーだったからでしょう。」
「不死・・・死なないってことか。」
「天城さん、キミは以前、私に『願いには善も悪もない』とおっしゃってくれましたね。私もそれは同意します。ですから、教えてもらえませんか、キミに何があって、どうして“あんなこと”をして・・・そして、何を願ってそのスキルを得たのか・・・」
私は開けてもいいのかわからない箱に手をかけ―――――
「・・・仕方ないか、俺も思い出したくない、忘れたい記憶なんだが・・・」
その箱が、開いていった――――――
どーも、ユーキ生物です。
この辺からプロットにも熱が入っていて文章を起こしやすくなってます・・・なってますが、仕事が忙しく帰宅後にPCに向き合う気力がなくなってあんまり進行は変わらないです。前回投稿された金曜日、次の土・日でこの話の8割は書き上がってたんですけど、残り1割をかけたのが翌土曜日という始末・・・ええ、平日は一切書けてません。
ちなみに前回の投稿も仕事の昼休みに後書き書いて投降したので妙に素っ気ないというか、簡素になってました。さらにこの後書き書いているのが6月17日の夜ですが、日中は休日出勤してやや疲れの状態で本文を書く気力がないということで後書き書いてノルマ達成にしようとしてます。
別に書きたくないわけじゃないんです。仕事中も展開とか設定とか考えてむしろ書きたいくらいです。AIとかが私の思考を読み取って文章起こしてくれれば毎日投降とかできそうなくらいです。まぁ、AIはビックデータ解析とかの用途なんで、今のところは難しいと思いますが・・・
第五話が予定通り投稿させられる可能性はかなり低いです。はい、当面は忙しさMAXが見通せてますし、土日に結構予定があったりその皺寄せで掃除とかしなきゃだったり・・・どっか有給取れればなぁ・・・チャイルドケア休暇とかのノリで執筆休暇とかあればいいのに・・・まぁ休暇取ったところで仕事の納期は変わらないんで密度が更に濃くなるだけなんですけどね・・・
愚痴はこの変にして物語に関してですが・・・ですが・・・特に語ることが・・・以前、この太陽の章になる変更前の章タイトルをいつか、みたいな話してましたが、前作でも同じようなこと言ってましたね。心の章は直前で章タイトルを変えたとか、あれは一応「扉の章」という予定でした。コミュニケーション的な意味で扉です。「Original Viewで良かったっけ?」という確認で読み返していて見つけました。完全に忘れてました。ハイ。
そんなわけで、次回できるかわからない投稿予定は7月6日です。




