第二話 悠かなる里を想って
「ーーーえ···悠里?」
「ーーー唯っ!?」
そこにはショートなポニーテールにフォーマルな格好、エリート臭がものすごくする幼馴染の姿があったーーー
ヤベェ、俺今、人を燃やして踏みつけてるんだ···完全に悪役だよな···唯は乙女座、ミッションのために協力してもらわなければならないのに、これは警戒される···
「あー、唯、とりあえず落ち着こう。」
「なんで悠里がここに···」
あ、そうか。俺は唯が参加していることを知っていたから驚きはしなかったけど、唯はそうじゃない。事態を飲み込むための時間が必要なのだろう。
「唯、とりあえず部屋に入ろう。廊下で突っ立っているだけだと恰好の的だ。」
「え、ええ、そうね。」
俺たちはとりあえず近くにあった部屋のドアを手に取るーーー
ーーーガチャガチャ···
「あれ?開かない···」
扉は鍵がかかっているのか開かなかった···
「開かない?ちょっと代わって。」
男の俺で開かないドアを小柄な女性の唯が開けられるはずもなくーーー
ーーーピッ
「開いたわ。」
電子音がしたと思ったら扉が開いていた。
「唯···どうやって···」
「アプリよ。『解錠アプリ』」
唯は手に持つスマホをヒラヒラと俺に見せる。
そういえばそんなアプリがポイント交換の画面にあったな・・・俺は不要かと思ってたけど・・・唯のお陰で開いた扉に俺たちはひとまず部屋に入ることにした。
ーーーガチャ
閉まった扉に施錠される音がする。オートロックか···なんなんだ、この建物は···
「···悠里もこのゲームの参加者だったのね···」
少し落ち着いたのか、唯から口を開いた。そういえばコイツは結構仕切りたがるというか、いわゆる委員長な性格してるんだよな···
「まぁな。それで、いきなりで悪いけど、唯には俺のミッションに協力して欲しいんだ。」
あまり唯のペースになるといつまでも頼めなそうだったので、早速頼むことにした。
「え?協力?アタシが?」
「そうだ。お前以外じゃダメなんだ。」
「ゆ、悠里!?」
そう、俺のミッション"Virgoと24時間手錠で繋がれて行動する"は乙女座である唯の協力なくしてはクリアなどあり得ない。それに俺は"願いを叶えに行かなければならない"早々にミッションをクリアする必要があった。
「···こ、これが吊り橋効果···実在したのね···」
唯は何やら迷っているみたいだ···
「もちろん唯に迷惑はかけない。お前が危険に曝されるなら俺が全力で護ってやる。」
俺には念発火のスキルがある。このゲームでは武力は多いに越したことはないだろう。魅力的な条件をチラつかせる。唯は俺たちの村では秀才として有名で最年少で村の役人になった程だ、冷静に判断させれば断るとは思えない。
「わ、わかったわよ···そこまで頼まれたなら仕方がないわね。つ、付き合ってあげてもいいわ。」
「そうか!ありがとう!···それじゃあ早速···」
ーーーカチャン、カチャン
こうして俺たちは手錠で片手ずつを繋いだーーー
「え?」
唯が手錠を見てキョトンとする···何が疑問なのだろうか?
「どうかした?」
「え!?いきなりっ!?しかもなんてハードコアなっ!?でも悠里がそういうのがイイって言うなら///」
ハードコア?唯は何を言っているのだろうか。
「それで?唯のミッションは?」
「え!?ここでそんな話題!?」
コイツは何を動揺しているのだろうか···もしかして“天秤座の殺害”がミッションだったとかか?
「そりゃ聴かないことには協力もできないし・・・」
「そ、そうよね。二人で生きて戻らないといけないもんね。・・・あたしのミッションは“各階に存在する宝の取得”なの。」
「・・・宝?」
「あたしもまだこの階の宝を見つけたわけじゃないからどんなものかはわからないんだけど・・・」
「あ、だから『解錠アプリ』なのか」
「そうよ。だから悠里には一緒に宝を探してほしいの。」
「その程度なら当然協力する。」
「・・・それじゃあ、まずは・・・キ・・・」
「お互いの情報交換からだな。」
「え?・・・あ、うん。そ、そうよね。大事よね。情報は・・・」
なんだがぎこちない唯・・・どうかしたのだろうか・・・
「とりあえず俺のスマホだ。」
情報は大切だ。いくら協力を得られるとはいえ気安く見せるわけはない・・・赤の他人なら、だが。唯は真面目で、みんなの幸福のために動く、そんなお人好しだ。昔からそんな姿をみていたんだから信頼しない手はない。それに、俺よりも圧倒的に頭がいいし・・・。
唯は俺のスマホを見る・・・
名前 :黒川悠里
星座 :天秤座
願い :復讐
経歴 :工場放火魔
スキル :念発火(80)
ミッション :Virgoと24時間手錠で繋がれて行動する
残りポイント:10
「あ···た、ただのミッションだったの···」
「え?何が?」
「う、ううん。何でもないわ···ちなみにアプリと武器は?」
「アプリは『タイマー』、『連絡』と『名前一覧』そんな役に立つもんじゃない・・・武器はスキルで十分だと思って『手錠』だけ。」
「あぁ・・・ミッションは手錠で繋がれることを強要するけど、手錠とか時間は自分で用意するのね・・・」
「・・・それで、唯のはどんなだ?」
俺は唯に問う。
「えっと、あたしはスキルで回復ができるわ。疲労も、怪我も死んでなければ大丈夫よ。ほら―――」
そういうと唯は俺の肩に触れる――――
「お、おぉ・・・肩が軽く・・・へぇ、お前らしいスキルだな。」
人のためになるようなスキル・・・こいつは願いまで優等生かよ・・・
「それで、アプリはさっきの『解錠アプリ』と『地図』・・・武器はコレを一応・・・」
そういうと控え目に唯は黒い塊を俺に見せる・・・
「拳銃・・・マジで手に入るのか・・・」
別にマニアとかじゃないから細かいことは分からないが、それが素人にも暴力を与える物であることは俺にもわかる・・・
「い、一応護身用にと・・・」
「ま、そらそうだよな。俺だってスキルで攻撃できなければきっと持っていただろうし・・・そんな申し訳なさそうにすんなって。」
気まずい雰囲気になっていると、足元が濡れていることに気付く―――
「おい・・・なんだこれは・・・」
「これ!!ここから水が・・・!!」
唯が床に開いた穴を見つける・・・
これはどういうことだ・・・?俺らが、他のプレイヤーが何かをしたからか・・・?
「先に進めってことなのかな・・・」
「唯?」
「地図には階段があったはず・・・つまりは・・・」
「時間制限・・・!?」
「“各階にある宝の取得”・・・思ってたより難しいミッションみたいね・・・」
「のようだな・・・水の流量はそこまで多くはないから、今すぐ最上階って訳じゃなさそうだが、モタモタしてる時間はない。水が上がってきてまともに行動できるのは水位が膝下くらいまでだ、そっからは行動が著しく落ちるだろうし、俺の発火も、唯の持つ拳銃も水中じゃ役に立たないだろう。急ぐぞ。」
「そ、そうね。」
宝のありそうなところ・・・んなもんわかるわけないし・・・片っ端から部屋を調べるしかないだろう・・
そうして俺と唯は手錠で繋がれたまま部屋を後にする――――
結果から言えば宝を見つけるのにそこまで苦労はしなかった。十部屋ほど探していったら、V系メイクガンギマリな顔した海パン一丁でポージングしているボディビルダーという奇妙な銅像が部屋にあった。そのぶ厚い大胸筋の上にメモリーカードが置いてあり、それをスマホに読み込ませることで一階の宝は取得したことになったようだった。「メモリーカードがおけるほどの大胸筋を誇らしげに見せてくるツンツン頭のさわやかな笑顔が脳裏から離れない・・・もうホント、このゲームの主催者がいたらぶん殴ってる。殺すとかじゃなくてぶん殴ってる。・・・だって、俺は主催者に一応感謝している・・・復讐の機会と力をくれているのだから・・・
「・・・・・・。」
・・・っと・・・そんなことより二階を目指さないと・・・
「唯、階段まで案内よろしく」
「・・・う、うん。わかったわ。」
歯切れの悪い唯に案内され俺たちは急ぎ足で二階を目指す――――その道すがら・・・
「ゆ、悠里がさっき踏んでたのって・・・人、よね・・・?」
やっぱ見てたか・・・まぁ、隠しても仕方がない。むしろこれは、理解を得た方がいいかもしれない。
「・・・あ、ああ。そうだ。俺を騙してたから燃やした。」
「騙したからって・・・」
「・・・この機会だ。お前には話しておこう。俺のスマホ、願いが書いてあっただろ。」
「あ、うん。“復讐”って・・・」
「そうだ。お前も知っての通り、俺たちの村は、公害でほぼ滅んだ・・・その復讐こそが俺が公害にやられなかった意味だと思っている。」
「悠里・・・」
「だってそうだろ?『工場が栄えれば村も潤う』『工場の製造物は必ず売れる。』『労働によって賃金も潤沢に支払う。』そう言って村にもたらしたのは病と死だけだった。お前はまだ役人になって間もないころだ、止められなかったはず・・・老獪の役人を騙し、工場を建てた輩どもを俺は絶対に許さない。それが俺の願い“復讐”だ。このゲーム色々と言いたいことはあるが、俺に復讐の機会をくれたんだ。見ろよ。」
そう言い俺は唯にスマホのアプリ参加者名簿を見せる。
「この射手座の男・・・岩畑巧・・・こいつが俺らの村を壊した張本人だ。その調べまではついていたが奴も重大犯罪者、そしてかなりの権力を持つ者・・・殺したくても近付けず、殺せないというのが実情だった・・・それを、手の届くところに用意してくれるとは・・・俺はこのゲーム、ミッションをクリアしたら仇討ちに出る。ついでに俺は工場建設に関わったヤツらの様な人を騙す奴を・・・許すことなく葬り去ってやる・・・!!」
俺は同郷の唯に説明するとともに、その怒りを露わにしていた・・・きっと唯も近い感情を持っていてくれているだろう。俺はそう思い浮かれていた。唯から大切なことを訊ね忘れていることにも気付かずに・・・
俺は先を見過ぎていた・・・そう、俺にはゲームクリアの次があるんだと・・・こんなところでモタモタなんてしてられない。俺たちは二階へと急いで向かった。
Another View 栗原唯
あたしと悠里は手錠で繋がれ二階を目指す。ヒールの中に水が入って歩きにくいし気持ち悪い・・・どこかに運動靴があればいいんだけど・・・
そして悠里は進みつつ語る・・・彼の里を想う故の歪んでしまった感情を・・・悠里はあたしたちの村で工場を建て、公害をもたらした人たちを憎んでいる・・・悠里の言葉に嘘があるとは思わない・・・でも、悠里がその恨み言を言うときは歪んだ内容なのに視線が真っ直ぐで、本当に活き活きしていた。・・・もちろん本人にそんなことは言わないけど・・・。
そして、あたしはまだ迷っている・・・悠里にあの事を伝えてもいいのか・・・
どーも、ユーキ生物です。
二話もお読みいただきありがとうございます。一話を投稿したのが出張中の新幹線の中という回線不安定な状況で焦っていたのか、まさかの公開にしておらず、それに気付いたのが投稿してから数時間後・・・何というか、大失態を犯しました。テヘッ
さて、更新ペースですが、二週間に一回は遅いですね。ただ、二話も一週間で投稿できたわけではないので・・・10日くらいがちょうどいいんですかね・・・毎回遅れるのは避けたいですが、物語が進まないのも何とかしたいので、その辺はもう少し調整、そして毎週投稿できるように生活ルーティンに組み込めるように改善努力をしていきます。
次回は11月17日㈮の投稿を予定しております。




