第五話 彼は己を智る
―――――リーン
「私が、殺るよ。」
ゴオオオオ――――
燃え盛る炎に照らされて身体が火照ります。
炎の壁を前に手を拱く智己君と2.0を見て私はその歩を進めました。
―――――リーン・・・リーン・・・
当然歩きながらその存在を別次元に移します。まだ炎が上がっていなかった時間軸に次元を移動すればこの程度・・・というより何もかもが容易く突破できます。
「・・・この辺でしょうか・・・」
念のために物質としての存在は別次元にとどめておき、意識、視界のみを元の次元に戻します。
「くっそおおおっ!!何でだよ!!俺は何のためにっ!!」
荒れ狂うプレイヤ―だけが見えます。何があったのでしょうか。その自棄になった姿は獣そのものでしかなく・・・復讐のために生きて、その復讐を果たそうとしたら誰かに先を越された、そんなことでもあったかのような狂い方ですね・・・まぁ、適当な予想ですが。
「うーん、万が一があるとまずいですし、念には念を入れましょうか。」
荒れた人を相手にすると予想のつかない反撃にあうかもしれませんし――――私はナイフだけを元の次元に戻します。これはこの男性から見たら浮いてるナイフですよね・・・いるけどいない、いないけどいる・・・まさにゴーストですね。
「――――っ・・・」
ナイフをこの男性に突き立てることは簡単です。私は逡巡します。本当に刺してもいいのかと・・・私自身の選択なのだから、この選択には責任がついて来るのですから・・・あぁ、私、生きてる!!
そう思うと自然と口角が上がってしまいます。やっぱり私には悪魔が住んでいるのかもしれません。・・・でも、以前の悪魔の笑みから見れば、そこまで悪い気はしないですね。
「・・・ごめんね。」
私が殺すのですから、目を逸らすなんてことはせず、全力をもってナイフを彼に突き立て――――――
―――――ゴオオオオッボッ・・・ボボッ・・・ジュァ・・・
燃え盛っていた炎が徐々に消え・・・智己君と2.0が見えてきました。
「深堀さん・・・無事みたいですね。」
「まぁ、私が選んで、相手を無事じゃなくしたわけですからね。」
智己君の言葉に冗談を返し――――
「ははは・・・」
「ふふっ・・・」
自然と笑みがこぼれてしまいます。今までの悪魔の笑いよりも、さっきの悪魔の笑いよりも、当然こちらの方が幸せに感じます。
「・・・・・・おい」
2.0が不服そうな視線を向けます。
「何なんだよ、お前ら・・・オレの方がこんなポンコツよりも優れてるのに・・・何でお前らだけで通じ合ったみたいに・・・」
どうやら嫉妬みたいです。まぁ、2.0が智己君のなりたかった姿であることは変わりないみたいですが、彼には経験が不足しています。青年として扱われる赤ん坊の不憫なこと・・・ちょっと同情します。
「まぁ、アンタもその内わかるさ。」
「―――っ!!ポンコツ・・・お前、欠陥品のくせに生意気だぞ。」
「その欠陥品に鼻で笑われるアンタって何なんだろうな。」
「オレは、アンタのなりたかった姿なんだ。もっと敬えよ。」
「・・・そうだな。確かにアンタはオレのなりたかった姿だよ。オレにお前の身体能力があれば、迷いなんかしなくって、こんなゲームに参加する必要だってなかっただろうよ。・・・でもさ、もういいよ。オレはオレの傷を理解してくれる人を見つけられたから、アンタみたいなりたくないとは言わないけど、なれないのなら、それはそれでいいよ。そうじゃなかったら、オレは深堀さんの傷をわかってあげられなかっただろうし。」
「おい・・・」
「オレは、オレでいいよ。・・・お前は?」
「オレは、ポンコツが羨ましいよ。・・・仲間を得られるお前が・・・」
――――ポーン
智己君のスマホから何かの音が聞こえてきました。
「・・・・・・。」
智己君はそのスマホを見て――――
「それじゃあ、白黒付けようか。」
スマホを私と2.0に見えるようにして言いました。
――――その画面には―――――
『アップデートが行われました。スキルとミッションが書き変わりましたのでご確認下さい』
名前 :藤原 智己
星座 :双子座
願い :望まれた自分になりたい→目の前の自分に勝ちたい
経歴 :墓荒らし
スキル :修正品創造(20)→決闘(20)
ミッション :自分自身の生存→自分自身の殺害
第五話
彼は己を智る
「へっ・・・ゲームの運営側もわかってるじゃねぇか・・・」
「こうなったからには生き残るためにはアンタを殺すしかないんだ。恨んでくれるなよ。」
「ポンコツの癖に言うじゃねぇか。欠陥品が修正品に勝てるなんて、つけ上がるなよ。」
なんて言うか、一触即発・・・? いえ、もう始まってしまったのでしょうか・・・でも、止めるべきですよね。折角ここまでやって来たんですから。
――――リーン
「ふ、二人とも止め――――」
「邪魔、しないで――――」
――――スゥ
「―――!?」
突如、智己君と2.0の姿が消えて・・・これは、私のスキル『次元移動』ににていませんか?
もしかして、これが新しい智己君の新しいスキル・・・『決闘』?
・・・もし、仕組みが私の『次元移動』と同じなら、他の次元を探せば見つけ出せるかもしれませんね。
――――スゥ
二人を探しに次元移動を始め・・・数多の次元を行き来する中で、私は考えました。二人を見つけたらどうすべきかを・・・さっきは安易に止めてしまいましたが、本当に止めるべきなのでしょうか・・・だって、どちらかが死なないことには二人ともミッション失敗で生きて戻れないのですから・・・でも、あの身体能力の差ですから、欠陥品の智己君は勝ち目ないでしょうし・・・
「――――がはっ・・・ごほっ・・・っ・・・」
「・・・弱すぎて逆に情けなくなってくるな・・・オレのルーツがこんなだったなんて・・・」
――――あ、いました。予想通りといいますが、オリジナルの智己君が2.0にボコボコにされて地面に倒され、その頭を踏みつけられていました。
――――スゥ
鈴の音を鳴らさぬように、私の存在の次元を移し――――
―――――ドンッ
「――――おぁっ!?」
2.0の背後で次元を戻し、2.0を体当たりで押し、倒れたところに――――
―――ガチャ
何時ぞやの手錠を2.0の両手にかけ――――
「なっ・・・!?」
「何度も戦って、助けてもらったけど、ごめんね。」
オリジナルだからとかじゃなくって、私が、智己君に生きて欲しいと思ったから・・・
「深堀さんっ!?」
「コイツッ・・・どうやって!?」
2.0が立ち上がれない様にその肩に手を置き、押さえ付け――――
「さ、智己君」
「ひ、卑怯だぞっ!!」
「修正品のアナタは身体能力が高いのが長所のように、智己君は私を味方にする魅力があった、ってことで。」
「・・・悪いな。オレ、オレとして生きたいんだ。」
「待てっ!!お前っ、生きて帰っても―――」
「どんな現実が待っててもいいよ。もし、深堀さんと巡り会えなくても、きっとどこかにはオレの傷をわかってくれる人がいるだろうから・・・みんなから、世界から愛されなくても、たった一人でも愛してくれる人がきっといてくれるだろうから・・・だから、憧れたオレは・・・ここで、さよならだ。」
――――ドスッ!!
智己君はボロボロで全身に激痛が走っているでしょうけど、強く、ナイフを2.0へ突き立てました。
エピローグ
愛された子
「藤原智己――――遅咲きの英雄、サラブレッドの遺伝子を超えた天馬・・・」
最近発売された雑誌を読み上げ―――目の前のテレビに目を向けると、そこには智己君の姿が映っていました。
ゲーム終了後、私達はそれぞれに代償を払って元の生活に戻されました。智己君は結局、元々欲しがっていた身体能力を手に入れ、2.0と同じパフォーマンスができるようになって・・・そして、今に至ります。
世間では記事にあった様に遅咲きの天才だの、超大器晩成型だとか持ち上げられています。・・・そんな持ち上げられ方にリアクションに困っている様から「コミュ症王子」なんて呼ばれたりもしています。
――――でも、智己君のリアクションの理由は困っているのではないのだと、私にはわかりました。
だって、欲しがっていた2.0の身体能力を得て、それをもって世間から注目されたワケですから・・・そこには以前の、ポンコツだった智己君は存在していない。・・・死んでしまったも同義なのですから・・・世間はポンコツの智己君には目を向けてくれなくて、輝かしい成績を持つ新しい智己君には目を向ける・・・。
まるで2.0なら目を向けてもらえるかの様で・・・でもそれは、努力しないで成果もあげない人と、努力をして成果を上げる人で評価が同じじゃ、努力した人が報われない世界になってしまうという、むしろ世間では正当な評価で・・・。
間違っていないことは私にも、智己君にもわかることで・・・でもそれはやはり智己君の存在価値を否定されるということで・・・そのやり場のない感情のモノなのでしょう。
もうこの世界にあの頃のポンコツだった智己君の存在がいられる場所はない――――
望まれて生まれて来て、望まれる様に生きられない智己君は、ゲームに参加して、望まれるように生きられるようになったけど・・・望まれるように生きられない智己君はそのまま消されてしまいました。
テレビに映る智己君はもう智己君ではないのでしょう・・・あの憂い顔以外は・・・
実家で両親と同じテーブルで智己君が載っている雑誌を読み、智己君が取り上げられている番組を両親と見てはいますが、二人は私に目を向けてはくれません。そのテーブルには私の捜索に関する報告がまとめられています。
私はゲームが終わった後、常時スキルを発動している様になり――――世界に居ながら、世界に居ない存在となりました。これも智己君と同じ、望んだ通りになったのです。
少しは生きてみようかな、なんて思えましたが、もうそれは意味のないこととなってしまいました。
「じゃあね・・・ありがとう。」
次元のズレた一人だけの世界にその声は響き――――消えていきました。
――――リーン・・・リーン・・・
私が歩くと鳴る鈴が、私はまだ存在していると確かめられる数少ないモノとなっていました――――――――
――――――――リーン―――――――――
「―――――っ!?」
「―――――おい・・・」
「今、あの子の鈴の音がしたような・・・」
「・・・オマエも聞こえたか・・・?」
「「愛子・・・」」
どーも、ユーキ生物です。
何とか4月中に「存在の章」を終えることができました。このエピローグがずっとしたかったんです。満足度で言えば80%くらいでしょうか。やっぱり文章力が不足していてアレですが、まぁまぁイメージに近くかけたかなと・・・
あいかわらず後書きのネタは曖昧ですが・・・
このDesire Gameシリーズのメインテーマは「生死」と「願い」、そして2ndのテーマが「善悪」となっていて、この存在の章は「生死」を推した章です。次の章もこの辺のテーマを推した章になっております。・・・次章の章タイトルを最終話で予告するのがいつもの流れですが、次章の章タイトルはギリギリまで悩ませてください。一応暫定で置いてはあるのですが、「こっちの方がいいかな?」みたいな案もあるので、勝手ではありますが、もう少し書いてから決めさせてもらいます。
章タイトルの代わりにメインキャラ情報を・・・次回は最も凶悪な彼がメインのお話になります。お楽しみに。
次回は5月11日㈮に投稿予定です。




