第四話 生きる許可
Anothe View
藤原 智己
―――――ピチャ・・・ピチャ・・・
深堀さんを修正品と待っていると、階下から水音と共に誰かが上がってくる足音が聞こえた。
「来たか・・・・・・ん?」
オレと同じ格好で座っていた修正品が腰を上げ、登って来た人物を見ると疑問の声を上げる。
―――――リーン・・・リーン・・・
鈴の音も聞こえてきた。上がって来たのは深堀さんだろう。・・・修正品は何を疑問に思ったのだろうか。
誰が来たのか、というより何が気になったのか、ということを確認するためにオレも立ち上がる。
「・・・・・・・・・はぁ・・・・・・。」
ドヨーーーーーーーーーンッ
びしょ濡れで、鈴を鳴らして上がってくる深堀さんの表情は思い詰めているというか・・・とにかく暗かった。
「ふ・・・深堀さん?」
「あ・・・あぁ・・・智己君、ですか・・・」
「な、何かあったんか?」
その暗さについて訊いてみる。
「え?・・・まぁ・・・気にしなくていいですよ。・・・ただ、私の中の整理がつかないというか、そんな感じですから・・・」
うーん。自己嫌悪ってヤツだろうか。
「それより、私、ミッションをクリアしました。」
「ミッションを・・・」
「じゃあ、俺らはあとは生き残ればいい訳だ。」
修正品が気楽に言う・・・彼女のミッションは「射手座の溺死」・・・つまりは・・・
「・・・そういうことか・・・」
オレは深堀さんの落ち込んだ理由がわかった。・・・この辺は生まれたばかりの修正品には劣らないのかもな・・・
「・・・おい。何二人で納得してんだよ。」
修正品が不満気に漏らす。・・・少しだけ優越感・・・こんなことでそれを感じてもいいもんか疑問は残るが・・・。
「ミッションをクリアしましたけど・・・私は・・・生きて帰ってもいいのでしょうか・・・」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
わからない修正版のためか深堀さんはその本音を漏らす。
そしてオレも修正品もそれに答えることができない・・・だって普通に考えたら・・・
・・・・・・普通?・・・普通って何だ?・・・オレは・・・普通なのか?
・・・そもそも・・・オレって何なんだ?
オレは・・・みんなが望む藤原智己ではない・・・じゃあ、オレは何者なんだ?
その答えが欲しくて、このゲームに参加させられる前、オレは自分探しに出た。
求めている自分がその辺に落ちていることもなく、未踏の地になんて尚更いるわけもなく・・・それもそうだ。「オレとは?」という問いが“未来”にあるわけがない。自分を知るのなら“過去”だ。
そう考えたオレは・・・先祖の墓を掘り起こしていた。死人が何かを教えてくれるわけないことくらいわかっていたのに、どうしていいかわからなくて・・・でも・・・その答えはこのゲームにあった・・・笑えるよな・・・ホント、オレのこれまでの人生は何だったのか・・・期待に応えようとしてもできなくて・・・自分を探そうとしても空回り・・・結局他人にその答えをもらって・・・オレの人生にオレはいなかったんだ・・・オチまでついて・・・もはや喜劇だよな・・・
―――――――ピュオッン!!
―――――――タァンッ!!
――――!?
過去に浸ることすら許されず、オレの目の前を何かが高速で通り過ぎ、遅れて銃声が轟いた――――
「敵かっ!?」
修正品が臨戦態勢に入り――――オレも楯を銃声のした方へ構える。
「・・・・・・・・・。」
「・・・見えないな・・・。」
階段を登った先、銃弾が飛んできた長い廊下の先を見るが、その姿を確認できない。廊下の部屋か、曲がり角か・・・それとも・・・
・・・・・・なんかもう、どうでもよくなってきた・・・どうせオレの人生なんて空回りの連続なんだ・・・
「おおおおおおっ!!」
楯を構えて走りだす――――やけっぱちってレベルの特攻――――
「おいっ!!」
修正品が制止する声を上げるがオレは無視をする。
オレの人生は、オレの思うがままに!!棒に振ったって、それがオレの選択なら――――
――――――ドゴッ!!
「キャッ!!」
「ぐえっ!!」
しばらく走ると何かにぶつかるーーー
――――ゴトッ!!
楯でその姿がはっきり見えなかったが、ぶつかった誰かから、黒く重い何かが―――――あ、これ、長距離ライフルだ・・・
ぶつかった少女は勢いに負けて倒れる――――
「お手柄だ!!ポンコツ!!」
修正品はその隙を見逃さず――――倒れた少女に飛び掛かり、その首にナイフを突き立てた―――。
「はぁ・・・はぁ・・・オレ・・・やったのか・・・」
呼吸を忘れていたのか、走って上がる息の中、オレは一つの解答を得た気になれた。
「はぁ・・・ふ、深堀さん・・・今、わかったよ・・・オレも、キミも・・・・・・価値の無い存在だろう・・・それを否定なんてできない。いなくてもいい、いない方がいい・・・間違ってないだろうさ・・・でもさ・・・自分くらい、生きてみようって思ってもいいだろうよ。どれだけ他人に迷惑をかけようとも、オレもキミも・・・間違って生きようなんて思ってすらいないんだから・・・・・・正しく在ろうとして、それでも間違ってしまう人を世間の誰一人として認めてくれなくても、自分だけは胸張って生きていいだろう。―――――真っ直ぐ歩けなくても、歩くことを、否定してどうする?」
ただ歩くだけでいい。間違えることに怯えて立ち止まることは生きているとは言えないのだから。
「・・・・・・歩くだけで。」
「それで人に迷惑かけても、その結果自分が死ぬことになったっていいんじゃないか。その選択を自分でできたのなら。オレも『どうして生んだんだ』って親に言ってやりてぇけど・・・まだ、そう言うには早いんだろうな・・・誰にも構うことなく、やりたいように生きて・・・それでも生きてると感じられなかったら、その時に、今度こそ言ってやろうと思うよ・・・。アンタだってそうだ、アンタには悪魔がいるかもしれない、でも、普段のアンタは間違っちゃいないんだ。だから正しく在ろうとしなくていい。そんなことに雁字搦めになって生きてる実感が得られないのなら、アンタが思うように生きてみろよ・・・その結果、やっぱりロクでもないと思えば親に恨み言を言えばいい。反対に、何かを得られたなら・・・いや何も得られなくったって、納得できたのなら、そん時は親に感謝の言葉くらいかけてもいいんじゃないか。オレもアンタも別に疎まれて生まれたわけじゃねぇんだから・・・なんて、偉そうなこと言える立場じゃねぇけど。」
へっ・・・こんな説教じみたことオレが言う日が来るなんて思わなかった。照れ臭ぇ・・・
第四話
生きる許可
「真っ直ぐ歩けなくても、歩くことを、否定してどうする?」
智己君が何かを悟ったかのように私へ言ってくれました。
「アンタには悪魔がいるかもしれない、でも、普段のアンタは間違っちゃいないんだ。だから正しく在ろうとしなくていい。そんなことに雁字搦めになって生きてる実感が得られないのなら、アンタが思うように生きてみろよ。」
そうよ・・・誰よりも間違ってしまう私は、誰よりも正しくあろうとしたの・・・でも、正しさが何なのかわからなくて、どうして間違ってしまうのかわからなくて・・・正しくあろうとしても、その生き方に私は存在してなくて・・・
「私は・・・生きて戻っても・・・いいのでしょうか・・・それを、否定しなくても・・・」
「そうだ。世間はそれを否定するだろう。でも、アンタだけは深堀愛子という人間を肯定してやれ。信じろなんて言わん。ここまで間違って生きてきて、そう簡単に信じられるとは思わない。オレだって、これまでポンコツだったんだ。信じたところで修正品のようにはなれないさ。それでもオレは、オレとして生きようと思えたんだ。自らの選択で・・・空気を読むとか、セオリーとかに捕らわれないで・・・あの時オレは初めて生きてると感じられたんだ。深堀さん、アンタにもきっとそう感じられる時がくるから・・・」
智己君は私の感情を本当によく理解してくれます。彼の言う「生きている実感」が何なのか私にはまだわかりませんが、それでも、そんな彼の言うことには希望を持ってしまします・・・とにかく、生きてみて、その生きている実感とやらを探してみようか・・・。
「おい、そろそろ行くぞ。」
階段の先で語り合っていた私達に不満をあらわにして2.0が促しました。
智己君の言葉に自分が今置かれている状況を忘れてしまってました。
私達がどうこうすることはもう必要ありませんが、他のプレイヤーはまだ私達に用があるかもしれませんから、気を抜くのはマズかったですね。
「・・・下から水も迫ってきてんだ。とっとと上に行かねぇと。」
「そうでしたね。行きましょう。」
再び私達は2.0に先導されて上を目指し歩を進めることにしました。
さっきは2.0にタイミングを持っていかれてしまいましたが、これは、助言をくれた智己くんにお礼を言っておくべきですよね・・・
なんか一度タイミングを逃すと言いにくいですね・・・
「と・・・智己君、その・・・ありがとう、ございます・・・。」
「え・・・あ・・・おう。」
歩きながら、照れくささを感じつつ言うことができました。
「アンタら、なんかゲームの終わりみたいな空気出してるけど、そうはいかねぇみたいだぞ・・・」
2.0が何かを察知し私達に警告をします。
―――――ゴオーッ・・・パチパチパチパチ・・・
周囲に集中すると、その熱気と音に気付きます・・・これは、火事、でしょうか・・・?
「この先だ・・・ん?誰かいるぞ?」
2.0の察知通り、曲がった先は炎で埋め尽くされていました。
「おおおおおおおっ!!殺してやるっ!!全員っ!!残らずっ!!燃やし尽くしてやるっ!!」
炎の中から物騒な怒号が響いてきます。何があったんでしょうか?
「・・・これは、マズイな・・・」
「何がです?」
2.0が炎の壁を見て顔をしかめ、そうつぶやきました。
「いくらオレが優れているといっても炎で埋め尽くされたこの空間は突破できねぇ・・・逃げるか?」
まぁ、そりゃそうですよね。ごもっとも・・・でも・・・
「折角だし――――――私が殺るよ。」
「―――!?深堀さん!?」
「智己君、心配しなくていいよ。これは、私の意志で殺すの。悪魔の所業じゃなくて、私が邪魔だと感じたから、私の意志の元で殺すの。・・・まずはそこから始めてみようと思ったの。」
そう。これは私の・・・深堀愛子としての選択。正しくなんてないでしょう。でも、こういう、自分で選択することは初めてで、いつもの衝動とは違う昂りを感じます・・・
―――――リーン
さっき射手座の人を切り刻んだナイフを再度握り――――炎と対面して、私は歩を進めます―――――。
どーも、ユーキ生物です。
結構な頻度で発生する「後書き何か書こうとしてたけど、書こうとしたら忘れた現象」が発生しております。
あ、ちなみに次の投稿の目標は4月中です。正直、間にあう気はしません。小説全然関係ないですけど、大型バイクを買いまして・・・これが投稿される次の週末も一泊ツーリングです。別に忙しい訳ではないですが他の遊びに時間を取られそうです。勝手をお許しください。
4月中の理由としては、次回が「存在の章」最終話だからです。・・・今更ながら、後書きで「次は最終話」告知ってどうなんですかね?ネタバレ的な要素として控えるべきなんですかね?私はやったりやらなかったりですが・・・反対の声がなければ自粛する気はないですが・・・なぜなら後書きのネタに困った時に使えるからです。
と言う訳で、次回は4月30日投稿予定です。




