第二話 欠陥品と修正品
藤原壱成――――攻守ともに一流の技術を持ち、世界に名を響かせる男子サッカープレイヤー。
藤原百花――――こちらも相手の隙を鮮やかに突く攻撃で世界に名を知られた女子サッカープレイヤー。旧姓:本間
スター選手の二人が結ばれ、男児を授かった。
それがオレ、藤原 智己
サラブレッドとサラブレッドの子として生を受けたオレは、両親からはもちろん、世界中から望まれて、期待をかけられて、この世に生まれてきた。
両親の輝く姿を、幼いころから見て来て、憧れて、期待されるままにサッカーの道へと進んだ―――――
――――だけどオレは両親の様な才には恵まれなかった。
両親に、世界に、望まれて生まれてきたオレだけど・・・・・・両親から、世界から、望まれた様には生きられなくて・・・・・・オレがなりたかった憧れの姿に・・・望む様にも生きられなかった・・・。
―――――何を欲する。
誰かが問い掛けてくる―――――オレはもちろんこう答えた――――
「望まれた姿に・・・」
目が覚めた灰色の部屋で、オレはオレなんかではないオレに出会った・・・
第二話
欠陥品と修正品
「・・・双子座の藤原さん・・・」
「「そうだ。」」
「・・・・・・ごめんなさい。二人とも藤原さんでしたね。」
――――ピチャ、ピチャ・・・
――――パシャ、パシャ・・・
衝撃的な(私だけ)出会いをした二人と私はお互いのことを知るために言葉を交わしながら歩いていた。
「早いところ上の階の階段までは行こうか。」
「なんか申し訳ないですね。私に合わせてもらってしまって・・・お二人だけならどんどん上へ行けたのに・・・。」
二人のミッションは「自分自身の生存」。それを聴いた時から、そのミッションの本当の意味はわかりませんでしたが、二人とも生きていれば問題はないわけですし、二人のミッションは「お互いの生存」と置き換えても差し支えはないのだと思います。
「そう言えば、お二人はどちらがコピーなのかは把握なさってるんですか?」
・・・同じ名前だと呼び方の差別化ができませんので、コピーとオリジナルとで別けようとして尋ねました。
「オレのスキルは複製じゃない。」
「・・・ん?」
「複製だとオレとコイツはまったく同じ性能になるけど、オレ達は違う。」
・・・複製でないとすると・・・劣化した―――――
「・・・というと・・・レプリカ・・・ですか? ポンコツ、とか言ってましたし・・・」
「模造品でもない。それだと後期型の方が原型に近づけようとして作られる。」
「コピーでも、レプリカでもない・・・というと・・・どうなるのでしょうか?」
「オレの願いは『望まれた姿になりたい』・・・望むように生きられない欠陥品のオレを修正した姿・・・それが・・・」
「修正品だ。」
「さしずめニューバージョンといったところか。」
「修正品・・・」
「バージョン2.0って言った方がわかりやすいか。オリジナルがオレに勝ってるのは年齢くらいだ。」
自信満々に語り出す2.0・・・そう言えば、この人は生後数時間なんですね・・・
「とりあえず見分けるためにオレは拳銃を持つことにして、オリジナルには楯を持たせるから。」
――――クルクル・・・ヒュンヒュン・・・
そう言って拳銃を手で華麗に躍らせる2.0・・・対して少し重たそうに楯を持っている智己君・・・
「修正品はスゲーんだぜ・・・例えば・・・」
―――――パンッ!!
躍らせていた拳銃をいきなり通路の方へ向けて発砲する2.0―――――
「――――がぁ!!」
その先には男の人がいた――――額を撃ち抜かれていた――――
「どや?」
この2.0は少しナルシストかも知れません・・・
「あの・・・さっき、私のミッションの話をしたと思うんですけど・・・この人が射手座だったらどうするつもりだったんですか・・・」
調子に乗っている2.0を少し威圧的に窘めます。
「・・・一応、この人は蠍座みたいだけど・・・ヒヤっとしたよ。」
智己君の方が死んだ男性のスマホを確認してくれています。
調子に乗っているとか、ナルシストっぽいから、というのもありますが・・・私は智己君の方が気に入りました。
「あの・・・智己君。」
「「なんだ?」」
私の呼び掛けに二人とも応えてしまいます。
「オリジナルの方の智己君です。」
「・・・何?」
その瞳に私は期待してしまいます・・・別に好きとかそういう明るい理由なんかじゃないですけど・・・智己君の願い・・・私と似ていて・・・この人は自分のことが嫌いで、誰にも理解されない私の苦悩を少しは理解してくれるんじゃないかと期待してしまったからなんでしょう・・・
だから私は訊かずにいられませんでした・・・
「智己君は・・・幸せでしたか?」
人の不幸を期待してしまう私は、やっぱり悪なのかもしれません・・・
「んー・・・恵まれていたとは思うよ。両親もいて、経済的にも豊かで、愛情だって注がれて育てられた・・・友達も多くはないけど、一応いたし・・・」
誰が聴いてもそれなりに幸せな環境・・・でも、それを語る智己君の表情は暗くて・・・
「・・・そんな環境にいたオレが、こう言うのは贅沢というか、望みすぎっていわれるかもしれないけど・・・ちっとも幸せだとは思わなかった。オレは何一つ納得できる人生じゃなかった。」
――――――きっとこの人は、私の痛みの理解者になれる―――――
「オレの両親はかなり有名なサッカー選手でさ、父も、母もだから、その間の子であるオレも期待をすごく掛けられた。その期待に応えられなかったオレが、大嫌いで、そんな思いするくらいなら――――えっ?」
語る智己君の手を取る――――
「私も、同じです。」
「・・・同じ?」
「はい・・・立場とか、望むことは違うかもしれませんけど・・・私も、私のことが、大嫌いで・・・消えてしまいたかった・・・」
「・・・・・・話して・・・」
智己君が何を思ったかはわかりませんが、私が握った手を握り返してくれます。
「私は、ごく普通の家庭で、おそらく一般的以上に愛を受けて育てられました・・・けど、私の中には鬼がいて・・・思わず・・・わけもわからず人を殺してしまうのです・・・両親も私がそうする理由を探ったり、専門家に相談したり、いろいろ手を打ってくれましたが、結果は振るわず・・・キチンと愛を受けていてこう言うのはワガママかもしれませんけど・・・言わずにはいられないのです・・・『どうして私なんかを生んだのか』と――――」
それを聴いた時、私の手を握る力が強くなりました。
「・・・たぶん、経過は違うけど、オレとアンタは同じことを思ったはずだ。」
「・・・・・・。」
目を合わせる――――――そして、同時に口を開く―――――
「「自分を生んだ親を恨まずにはいられない――――」」
境遇は違うけど、やっぱりこの人は今までの誰よりも私のことをわかってくれるはずです。
「フッ・・・ハハハ・・・」
「ウフフ・・・」
「えっ・・・アンタら・・・今の流れでどうして笑えんの?」
2.0が怪訝そうな顔をして私達を見ます・・・
今までこの感情を思ったり、話したりした時は涙しか出ませんでしたが・・・こう、わかってくれる人がいると、思わず笑いが出てしまうものなんですね・・・私も初めて知りました。
コンクリートと水と死体と、そして奇妙な、それでいて心安らぐ笑いがその空間にあった。
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宮内 直志
――――――ピチャ・・・ピチャ・・・
水の中を大きな銃・・・ガトリング、というのでしょうか・・・それを持って歩く人が私の方へ向かってきます。
どうしたものか・・・私のミッションはスマホの取得ですが、医師である私が人を殺めることなど論外です。しかし、見るからに殺意を発する彼と話し合いは難しいと予測されます。
麻酔銃で眠らせるのが一番でしょうか・・・ゲーム開始直後に強力な武器を持っているということはスキルはそこまで協力ではないはずですし、眠らせて拘束し、起きたら話し合いに持っていくのが最善でしょう。
通路の曲がり角に私がいるので、彼の意識が進行方向から逸れた時、通路の扉を開けて部屋を調べるタイミングで行きましょうか・・・
――――ピチャ・・・ピチャ・・・カチャ・・・
扉を開けた―――――今です!!
―――――パンッ!!
銃声が一つ鳴り響きました。
投降が遅くなり申し訳ありません。ユーキ生物です。
日頃は納期優先で書けさえすれば投稿していたのですが、今回はあまりにひどかったので書き直しを行わせていただきました。今の状態が完璧、と言う訳ではありませんが・・・まぁ、これでもマシにはなりました。
あとは、今回一週間で投稿予定にしていたは、投稿までの期間に仕事で出張があって、新幹線の中で書けると思ってノートPCを持って行ったのですが、新幹線内にコンセントがなく(私のノートPCはバッテリーが死んでるのでコンセントが必須)スマホでしか書けず、しかも帰りは会社の幹部クラスの上司同伴だったのでスマホを弄ることすらできず(私は入社〇年のぺーぺー)ほとんど執筆作業が進みませんでした。その辺の読み違いが延期の原因です。すみません。
さて、本編に関してですが、智己と愛子の類似性の補足になります。愛子が智己を似ていると思ったのは「目標値とかけ離れている点」です。例えば、愛子は0(標準)を基準にしていますが、謎の殺人衝動という大きなマイナスを持っていて-100。智己は基準が100だが、本人は0。その差が気になる二人、という感じです。生まれたことを、生んだ親を恨む二人の物語になります。
次回は4月6日投稿予定です。




