第五話 空よりも、海よりも、自由に
「刻、お前、いい事考えんだな。」
「そうでしょう?ロクでもない人生なら右に出る者はいないと自負してます。生命の使い方なら任せて下さいよ。」
「―――――オレも、なんてことの無い地味な、崩れてからは本当にクソッタレな人生だったけど、こんな生命でも、なずなに見せられるような、誇れる使い方をすべきだったな・・・。・・・いや、ロクでもないからこそ、その低い価値をこのゲームで投げ打てる・・・。」
「・・・ふ、二人とも・・・」
「命、起きたか。」
「お前の旦那いいなぁ。」
「そ、そんなことより・・・だ、誰かがこっちに来てる・・・足音が――――」
――――――カンッ
扉から投げ入れられた物体を見た直後――――部屋は轟音共に赤い炎に包まれた――――
第五話
空よりも・・・海よりも・・・
「空海さんっ!!無事ですかっ!?その扉を開けて下さい――――!!」
無事だったのか炎の先にいるであろう刻から指示が来る――――
オレは指示通り扉を開け――――
「―――開けたぞっ!!次は――――」
「次は―――相手が怯むので、その隙に相手を仕留めて下さい―――――それと」
「・・・なんだ?」
炎で刻の姿は影しか見えないが、何かを飲み込む――――
「いえ、時間がないので早く獣化を―――」
何だったのかわからないが、襲撃を受けたのだから時は一刻を争う事態、オレは指示通り獣化する―――――
―――――ダッ!!
その横を刻が炎を厭わずに走り抜けた――――
そうだよな、オレ達のロクでもねぇ生命は、こういう時に使うんだよな。
――――ダッ!!
獣化を済ませたオレもその後に続いた――――
――――その視線の先には――――
「ぐっ・・・くうぅぅぅっ!!」
「クソッ!!何なんだっ!?何で俺までっ!?」
炎に包まれた刻ともう一人の男――――
これは、刻のシンクロ―――
「―――相手が怯むので、その隙に相手を仕留めて下さい―――――」
なんでそんなことがわかるんだと思ったが、これはそういうことだったのか―――――わかったぜ。
「ガァッ!!」
お前の生命、その最後の輝きを無駄にはしねぇ!!
「うおっ!!なっ!?獣っ!?」
「―――――ゴアッ!!」
炎に包まれ、それを振り払おうと必死な男に獣となったオレは飛び付き―――――その喉笛を噛み千切った――――。
「・・・刻君・・・。」
男の死を確認したオレは人の姿に戻り、刻の元へと向かう。そこには無事だったのか命がいて、黒焦げになった刻を抱きしめていた。
「・・・・・・。」
オレは複雑な思いでそれを見ていた。
確かに刻の作戦は、この男を確実に仕留めるための最善手だったかもしれない。刻の生命の使い方としてもかなり有効だったのだろう・・・でも・・・
その懸念材料を頭のいい刻が考えなかったとは思えない。
オレは刻に向けていた視線をさらに下に持っていく――――そこにはオレのスマホがあって・・・その画面に映っていたのは・・・
残りポイント:94
今、目の前にいるのは10ポイントを持つ命・・・
刻・・・アイツはオレのことを信用したのか・・・?オレが命を殺してゲームをクリアするとは思わなかったのか?刻、とんでもないモン残していきやがった・・・
「・・・稲葉空海さん、私を・・・殺しますか?」
その言葉は刻を抱きしめた命から発せられた。その視線は刻に向けられていたが、間違いなくオレに向けられて言葉を紡いでいた。
「・・・わ、私は、抵抗はしません・・・刻君と共に逝くのも、わ、悪くはありませんから・・・」
命を殺してオレは生きるか。それをしないでまだこの地獄で戦うか・・・
この夫婦はオレにそんな選択を迫る・・・なずなの生命を奪った理不尽を、この土壇場で、この奪われ過ぎた夫婦にしろと・・・
本当に、人間ってめんどくせぇな・・・何も考えずに生きたいように生きられたらどれだけ楽か・・・
・・・いや、考えてもみればこの生命懸けのゲームに参加した時点で誰が殺しても、殺されても文句は言えないはずだ。生命を賭してゲームに参加しているんだから。
プレイヤーであるオレが、プレイヤーである命を殺したところで誰が俺を責られるだろうか・・・そうだ。オレが命を殺すことに躊躇いを感じる必要なんてないんだ・・・
そうだよ。今このゲームの場では人間の、社会のめんどくさいルールなんてねぇんだから、自由に、思うがままに生きればいいんだよな・・・
「・・・おい、オレは、お前を殺すことを当然の流れだと思っている。」
「え、ええ、その通りです。・・・い、生きるために最善を尽くす、それが獣の本能なのですから。」
「・・・お互いに生命をかけたゲームの参加者同士だ・・・だがな―――――」
オレは・・・この夫婦から・・・
「―――――だが、その子は、殺せない・・・これから生まれて来るその子から、それ以上周りの都合で奪うことがあってはいけない。」
奪うことを拒んだ―――――
今まで散々他人から幸福を奪ってきたオレだったが、十分に奪われてきたこの夫婦から更に奪うことは・・・したくなかった。
「・・・い、いいのですか?」
「別に生きることを諦めた訳じゃねぇ。まだ戦うことを選んだだけだ。」
「・・・ありがとうございます。」
「別にお前に感謝をされることはねぇよ。オレは一人になったお前に生きることを強要したんだ。」
ロクでもなかったオレの復讐だったけど、ここからやり直せるだろうか・・・少しはなずなに顔を見せられるようになったろうか・・・
「おら、まだゲームは終わっちゃいねぇんだ。お前のミッションの重複星座とやらを殺しに行くから探せ。」
柄にもねぇことしたもんだから照れくさくてしょうがねぇ・・・あーあ、人間って、ホントに面倒だな・・・
Another View
泉 命
ほとんど答えは出ていた。『重複星座』に『自らの分身の生成』というスキル・・・間違いなくこの双子座のプレイヤーのことでしょう。
「・・・・・・・・・。」
私はスマホの画面盗み見のアプリで双子座のプレイヤー情報を盗み見ようとしましたが、それができません。通信系の防御アプリがポイント交換で手に入るみたいでしたし、それを持っているのかもしれません。
「・・・いました。」
定点カメラの映像を見るアプリで探して全く同じ人が二人映っているのを探し出しました。
「コイツらか・・・」
隣で空海さんが双子座のプレイヤーを見て頷いています。
「それじゃあ、早速殺しに・・・」
「・・・ま、待って下さい。」
この人は本当に単純で困ります。まぁ、人間らしい判断をすることもあるみたいですが・・・
私は画面を食い入るように見て、この双子座のプレイヤー、藤原智己を観察する・・・
刻君がいなくなって、私は必死に探した。刻君が私の前から姿を消した理由が知りたかったけど、優しい刻君がそれを素直に言ってくれるとは思わなかった私は・・・彼を観察し続けた。とにかく刻君を付け回し、すべての行動を観察し続けた。そうするうちに刻君に何があって、何を思って私の前からいなくなったのかが見えたし、そうするうちに人には癖というか習性があることに気がついた。歩き方一つで行き先が解かったり、体調が解かったりまでしていた。
刻君が自棄になって身に着けた詐欺の技術をこのゲームで活かしていたように、私も、ストーカーの泉命としてゲームに選ばれたのだからその技術を活かそうと目を皿にして相手を観察していきます。
相手は二人、もとい、二星座の三人、双子座はどちらが分身かはわかりませんでしたが明らかに身体能力に差があることがわかります。分身したところでオリジナルには及ばない、ということかもしれません。もう一人の男は宮内直志という蟹座のプレイヤー、彼も何か・・・いえ、誰かを探しているそぶりが見て取れます。まだミッションを達成していないのでしょう。『スマホ三個の破壊』のミッションですから刻君とこの黒川という男のスマホをチラつかせて交渉するのが良いのかもしれません。
「空海さん、お待たせしました。大体相手の行動や戦力はわかりました。」
「そうか。それじゃあ、打って出るか。」
「はい。細かいことは向かいながら話します。」
そうして、私たちは刻君の亡骸を置いて、前へと歩き出した。
どーも、ユーキ生物です。
次はラブコメでいきます。
まだこの2nd playersは続きますし、しばらく終わりそうもないですが、そんな決定をしました。(決定とは言ってない)
いえ、ふと良さそうな設定が思いついたもので。ここのところDesireGameを書かずにそっちのプロットとか書いてました。この2ndの最終章のプロットすらまだ書き上がってないのに。はい、ラブコメのプロット書いてる時にプロットノートを見ていて思い出しました。
まぁ、まだまだ先の話なんで、どうなるかはわかりませんが、そんなフラグをツイートしておきます。
さて、本編ですが、いよいよって感じですね。さらっと言ってましたが、命はストーカーです。夫限定の。2ndの悪レベルは低い部類ですね。私は法律とか全然詳しくないので適当ですが、夫婦間でストーカーって成り立つんですかね?中学生の頃先生が「夫婦でも強姦は成立する」的なことを言っていたのできっと成立すると思って悪認定にしました。人間ってめんどくさいですね。
次回は2月23日投稿予定です。(二週間開けたら3月でヤバい感で満たされたので頑張って書きます。)




