第六話 彼女は命を―――――
「・・・ここが、双子座のいる部屋だな。」
「は、はい。カメラに今も映ってます。相変わらずスマホの情報は妨害されているようで、く、空海さんのアプリのマップ上には誰もいない様に表示されていますが。」
オレ達は最後の獲物、双子座がいる部屋の前まで来ていた。
「・・・誰もいない表示?」
「い、いつの間にか同行者の、おそらく蟹座の宮内という人がカメラからもマップからも、いなくなってます。」
「オレ達がここに来るまでに仲違いでもしたのか?」
「・・・いえ、そこまでは・・・」
「・・・どうする?行くか?」
「・・・・・・い、行きましょう。それしかできませんから。」
――――――キィ・・・
オレは目の前の扉をゆっくりと開いた。
「お、やっと入って来たな。」
そこにはカメラで見た通り、まったく同じ顔をした二人が立っていて、そこはかとなく傲慢さを持った片方がオレ達が入ってくることをわかっていた様に言う。
「お前、オレ達がいるのがわかってたみてぇな口ぶりすんじゃねぇか。」
「ああ、わかっていた。二つの気配がしたし、内容まではわからんが、話し声だって聞こえてたしな。」
気配って・・・おいおい漫画じゃねぇんだから・・・
「・・・・・・。」
傲慢そうな藤原を見据えた視界の端に、無言で佇む同じ顔した人物も映る。ソイツはオレ達がいたことなんて微塵も感じ取れなかったのか驚きの顔をしていた。
・・・これがスキルで生み出されたコピーなんだよな。なんていうか、役に立たなそうなスキルだ。
「それで・・・?」
「ん?」
傲慢そうな藤原が何かを聴いてくる。
「アンタらは何しにここに来たんだ?」
・・・あぁ、それか。
オレは交渉を担当する手筈になっている命を見る。
オレは交渉を上手く進められる気がしねぇし、何よりこの場において最も戦闘力を持っているのはオレだ。コイツらが妙な動きをした時に対応する脳のリソースを取っておくべきだという理由から命が交渉役となった。・・・刻がいりゃあ良かったんだが。
「わ、私は牡牛座の泉命といいます。た、単刀直入にいいますと、わ、私のミッション『重複星座を一人以下にする。』に協力していただきたいのです。」
刻のような秀逸な言い回しなんてできない。だからオレ達は真っ直ぐ行くことにした。戦力で勝っているわけだし。現に、今この場にも命のスキルを発動して、この藤原共を逃がさない様にしている。
「・・・断った場合は?」
「ぶ、武力行使となります。その場合は、こ、コピーの方を消せる自信はありません。オリジナルの方を・・・こ、殺してしまうかもしれません。」
一応脅しのつもりだ。まぁ、間違いなくオレたちの気配に気付いた傲慢そうなオリジナルよりも、コピーの方が殺しやすそうだが。
「ふむ・・・」
「あ、アナタ方のミッションが『自分自身の生存』ということも、し、知っています。・・・それが意味するところが、お、オリジナルと、こ、コピー両方の生存かもしれません・・・で、ですが、お、オリジナルの生存という意味、かもしれません。あ、アナタに多少の、リ、リスクは負ってもらいますが、オリジナルが、し、死んでしまっては、全てが、は、破綻してしまうはずです。」
命の武器は情報だ。それを存分に発揮した断れない交渉。理屈が通った交渉は承諾を勝ち取るのも容易なはず。
「なるほど、アンタらの言い分はわかった。どういう手段かは知らないが、よく調べて来てるみたいだ。」
これにはこの傲慢そうな藤原も頷く。
「・・・だが、オレ達の答えは『ノー』だ。」
――――なっ!?
「答え合わせをすると、アンタらは一つ情報を見落としている。・・・まぁ、入手できなくても不思議じゃないが。」
「み、見落とし・・・?」
一体が勘違いだってんだ・・・?
このオドオドした使えなそうなコピーを差し出せない理由があんのかよ・・・?
「・・・いや、訂正しよう。君らは二つ間違っているようだ。」
増えた・・・。
「アンタ、オレの願いを知ってるか?」
「ね・・・願い・・・?」
男の問いかけに命は首を振る。
「答えはな・・・無いんだよ。オレに願いは。」
・・・は?願いのないプレイヤーがいんのか?・・・じゃあ、コイツは何のために生命を張ってまでゲームに参加してんだ?
「それじゃあ、問いを換えよう。アンタ藤原智己の経歴は知ってんのか?」
「・・・は、墓荒らし・・・」
「正解」
・・・そんなもん聴いてどうすんだ?
「何を求めて墓を荒らしたのか・・・その答えが、オレだ。」
ドンと胸を叩いて誇らしげに藤原は言う。
「―――――!?」
命は何かを察したようだ。
「さすがにわかったみたいだな。」
「や、やっぱり――――」
・・・・・・全然わからん。
「藤原智己が欲したのは、オレだ。オレが、コピーで、そこの端にいるのがオリジナルなんだよ。」
――――――――!?おいおい、マジかよ。
「藤原智己に願いはあっても、コピーのオレに願いなんてねぇよ。生後数日しかたってないからな。」
なんて傲慢なコピー、そして、なんて傲慢な生後数日の人間。
「オレ達はコピーのオレが生きてこそ願いが達成されるんだ。・・・だから当然アンタ達の交渉は断る。」
こうなりゃもう殺すしかない。オレは獣の姿に――――――
―――――――パンッ!!
破裂音と共にオレの身体に衝撃が伝わる――――
藤原はコピーもオリジナルも銃なんて持っていなかった―――――つまり―――――
「お前が稲葉かあっ!!」
背後から男の怒号が俺に飛ぶ―――――
――――まさか――――コイツが宮内―――――!?
「空海さんッ!!」
命がオレに近付くが――――
「キミに用はない。下がってください。でないと、キミは殺しますよ。」
宮内が倒れたオレに近付きながら命に銃を向ける。
・・・というより、さっきっから身体が動かない・・・撃たれたダメージじゃねぇな・・・手足が痺れる感じ・・・
「これが・・・罰だあっ!!」
―――――ドスッ!!
「――――がぁっ!!」
宮内がオレにナイフを突き立てる・・・そこから熱とドロリとした水の感触・・・どうやらオレはここまで見たいだ・・・
「・・・・・・・・・痛だだだだっ!!何だこれっ!!痛ぇ!!」
「っ!!っ!!ううぁっ!!」
――――――ドスッ!!グチャ・・・ドスッ!!グチャ・・・
ナイフを抜いては刺され、抜いては刺されを繰り返し、オレの意識は遠く―――――
・・・・・・・ならないっ!?何だよコレ!?痛ぇ!!痛さだけがオレを支配する――――
「簡単に死ねると思うなよっ!!貴様には死んだ子の恨むことすらできなかった恨みを味わってもらうっ!!」
・・・・・・あぁ・・・そうか、宮内はオレのことを知って・・・
「空海さんっ!!」
命がオレを呼ぶ・・・激痛の中その声に目を向けると――――
「アンタも願いを殺そうとしたんだ。これは正当防衛だ・・・死ねよ。」
さっきの男、藤原が迫っていた―――――その手には拳銃が握られていて―――――
――――パンッ!!パンッ!!
銃声がなった―――――
――――――――ザッ!!
オレは痛みを忘れて目を疑った――――――命が銃弾を避けていた。その動きに目を奪われた。
―――――――!!
思い出した。確か刻が言っていた―――
オレは刺されてなのか、痺れてなのかは分からないけど、いうことの効かない血塗れの手に鞭を打ちスマホに手を伸ばす――――
―――――確かこの辺にあったはず・・・
「・・・まだ何かするつもりか?鬼畜外道はゴキブリのようなしぶとさだなっ!!」
――――――ザクッ!!
内臓の何かが抉り取られているが、今はそんなことに構っている場合じゃない。
―――――あの世に行った時に、胸を張れなくてもいい、オレは地獄逝きで会えないかもしれない・・・それでも、もしもまた会えた時に、なずなに顔を合わせられるように・・・あの子だけは生かさなきゃいけないんだ・・・!!
オレは最後の気力でスマホを操作し――――――
―――――ゴトッ!!
何かがオレの手元に落ちる――――――――――
「何をしたかと思えば・・・稲葉、そんなもので何ができる!?」
へっ、言ってろ・・・コイツを使うのはオレじゃねぇ・・・
―――――――――――――
―――――――――
―――――
―――
―
「命との馴れ初め?」
「聴かせろよ。刻、オレだけ嫁との出会いを話すなんて不公平だろ。」
「別に面白くもねぇけどな。」
「んなこと言ったらアイツが起きた時に怒られんぞ。」
「ハハハ・・・まぁ、別に特別な運命とかじゃなくて、命とは同じ高校でさ、全国大会の猛者とそのマネージャって関係だったんだ。」
「へぇ、刻ってすげぇヤツだったのか・・・」
「・・・? あぁ、逆だよ、逆。私がマネージャーで命が選手。部活に打ち込む命の姿に私が惚れたんだ。」
「以外だな。何の競技だったんだ?」
「剣道だよ。命の実家は武家の家系で命も幼少期から剣術を教わっていたんだって。」
「・・・剣術?」
「そ、剣道はスポーツ、競うためのもので叩く動作・・・そして剣術は戦い、相手を斬り割く技。」
「マジか・・・つーことは命は・・・」
「うん、ああ見えて、すっごく強いよ。」
――――――――――――
――――――――
―――――
――
ー
「何をしたかと思えば・・・稲葉、そんな刀で何ができる!?」
「命っ!!戦えっ!!・・・お前が生き抜いて・・・その子を―――――護れっ!!」
もはや動くことができないオレはそれを言うことで後の全てを命に任せる――――――
「空海さん・・・・・・・・・ハイ!!」
―――――スタタタタッ!!
命は一瞬でオレの傍まで詰め、ポイント交換で取得した刀を手に取り――――――
第六話
彼女は命を断ち切る
――――――――斬っ!!斬っ!!斬っ!!
そして一瞬の煌めき・・・オレの視界に刃の銀と血の赤が鮮やかに映っていた。
刻がこの姿に惚れたのも無理はない。それほどまでに強く、美しく命は刀と共に舞っていた――――
「へっ・・・やりゃできんじゃねぇか・・・」
「空海さん・・・どうして私のためにポイントを・・・」
「何度も言わせんな。お前のためじゃねぇよ・・・まぁ、どの道オレはもう死が確定してたからな・・・」
オレはあくまで宮内のスキルで生き永らえ・・・いや、死ねなかっただけだ。それが解ければ―――――
「―――――ぅっ!!」
―――――思っていた通り、急に意識が―――
「空海さん!!」
命がオレを呼ぶ―――――――目が霞んで、もうその顔は見ることができない――――
「・・・もう・・・その子が・・・奪われないように・・・い、きて・・・護っ・・・て、や・・・れ・・・」
―――――どうしてオレは護れなかったのだろう・・・どうしてオレは・・・こんなになってしまったのだろう・・・オレが悪かったのか・・・社会が悪かったのか・・・つーか、死ぬ時までこんなこと考えてるなんて・・・なんて・・・人間ってめんどくさいんだ・・・もっと、簡単に・・・もっと、上手く生きることができたら・・・・・・・・・
――――――――――――――
――――――――――
――――――
―――
ー
エピローグ
彼は彼の時を刻む
―――ポーン
私だけが取り残された赤に染まった部屋でスマホから気の抜けた音が響き、ゲームが終わりました。
それから私は元の社会に戻されて――――――
――――それから十数年後・・・
日も落ち切った我が家の扉が開く。
「母さん、ただいま。」
「おかえり、時成。」
時成、それが私達の子の名。
「あ、母さん聴いてよ。店長が僕の時給を来月から50円も上げてくれるんだって。」
「あら、凄いじゃない。頑張ってるみたいね。」
父を奪われた私達は裕福とは程遠い生活ですが、それでもこの子は精一杯に生きてくれています。この子の健気な姿と真っ直ぐの心は社会で味方を多く作っているようです。
「まぁね。それより、今日は稽古つけられそう?」
「私は大丈夫だけど、時成は大丈夫なの?アルバイトで疲れてない?」
―――これ以上、奪われない様に強さを身に着けさせようとして教えた剣術も弛まず努力してくれています。
「僕は大丈夫。むしろ稽古した方がぐっすり眠れて次の日の調子がいいんだ。」
この真っ直ぐな心が、何かに奪われて曲がらない様に・・・
「それじゃあ、たまには本気で相手しようかな。」
「母さん強いからな・・・この間考えた新しい詰め方を試させてもらうよ。」
人並みの幸せを手に入れて、引き剥がされないように・・・この生き難い世界で、上手く生きられるように・・・
獣の章 完
どーも、ユーキ生物です。
これにて獣の章は完結となります。なんて言うか、ハッピーエンドに感じますね。DesireGameシリーズは後味の悪いエンディングを入れる気満々なのでこのエンディングはかなり幸せな方かと。空海も刻も死んでますが。
後味の悪いエンディングを狙ってやる理由としては、やはり趣味の物語だからですかね。よく見るエンディングはハッピーエンドが当然ですし、とはいえバッドエンドだとマルチエンディングじゃないと可愛そうですし、せっかくだからやりたいようにやってます。私自身が一読者として心にモヤモヤが残るエンディングを楽しんでます。
ちなみにこの獣の章ですが、最終話を書きながらエンディングを変更してます。ちょっとご都合主義が過ぎると感じたので。前作をお読み頂いた方は「2ndはアップデートはないのかな?」とか思われたかと思います。そのアップデートをエンディングで使用しようとしていたのでやめました。アップデートはそんな都合のいいものじゃないことをギリギリで思い出しました。ちなみにアップデートは今後出てくるかもしれません。2ndのプレイヤーは基本的に願望が強いのであまり見られないとかいう理由が一応あります。
さて、次回から新章です。章タイトルは「存在の章」です。この章は前作(便宜上1stとします。)1stで入れたかった話です。1stを書く前から構想はありました。やっと形にできるとワクワクしてます。
ちなみに「存在の章」は久しぶりに女性主人公です。だからどうということではありませんが。
この辺からプロットが濃くなってきますので、ご期待下さい。
次回「存在の章」は3月9日投稿予定です。




