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過ち~リーリア目線~

―本当はずっと後悔していた。ずっと時間を巻き戻したいと思っていた。でも、進むしかなかった。手に入れたものにしがみつくことしか出来なかった。それが愛なのか執着なのか、今となってはもう分からない。―



リーリアの願いと裏腹にエミリアが視察に同行することになった時は、心底嫌だと思った。エミリアの顔を見ると閉じ込めた記憶が嫌でもよみがえるからだ。エミリアへの牽制も含めて、リーリアは舞踏会でわざと酔っぱらった。アルフォンスはリーリアを選んで送ってくれたが、それは部屋までではなかった。代わりにリーリアを部屋まで送るよう言われたマルコは、「他国で酔った姿をさらすとは何事ですか。」とリーリアに苦言を呈した。『酔わないとアルフォンスは自分を構ってくれないからだ。』とリーリアは心の中で反論することしか出来なかった。


視察でエミリアは自分の立場をわきまえ、リーリアを常に立てていてくれた。エミリアの優しさに触れる度、リーリアは強い罪悪感にさいなまれた。またお酒で酔わないようにしている姿は、淑女の手本だと思った。舞踏会等で、女性が男性に酔って甘えることは皆している。それをお酒が弱いにもかかわらず決してしないエミリアは、リーリアに自身が馬鹿な女だと自覚させた。


さらにエミリアは視察から戻ってからは、アルフォンス達と会おうとさえしなかった。会食に誘うリーリアに、「私が一緒では色々気を遣わせてしまいますから。ですが、それ以外はすべてご一緒しリーリア様をサポートさせて下さい。」と微笑んで言った。その言葉通り、他国で不慣れなリーリアを支えてくれた。観劇一つとっても、隣国同士の王女と王子の恋愛劇を選んでくれたぐらいに。


いい人ぶっている偽善者だと思いたかった。元婚約者がどうして現婚約者に優しく出来るもんかと思った。でもエミリアは違った。心からリーリアのことを気にかけていてくれた。そしていつだって綺麗だった。どうしてこんなに綺麗に生きられるのだろうと思った。自分もそう生きたかったと憧れ、一人苦しくなり涙が出た。


―私が間違っていた。婚約者のいる男性を奪うなんて道理に反していた。―


今更気づいたって遅い。


―エムが私に壁を作るなんて当たり前だった。アルにはエムのためと言い頼んだ行動は、全部自分のためだった。―


エミリアが壁をなくし、リーリアを大切な故郷の友人のように接するたび胸が強く痛んだ。アルフォンスと婚約してから、リーリアはずっと孤独だった。『リーリア様の方がエミリア様よりずっと殿下とお似合いです。』と言っていた人は皆離れて行った。表で平気なふりしても実際辛かった。皮肉なことにその孤独を癒してくれたのは、自分がそれを奪ったエミリアだった。


何度もエミリアに真実を話し、膝まついて詫びたいと思った。でも出来なかった。国家間の大問題になることを想像すれば、どうしても話せなかった。いや自分が大事だったのかもしれない。


だから、エミリアが泣きながらリーリアに事実を話すよう求めても、何も言えなかった。何度も考えた言い訳すら出てこなかった。唯一出て来た言葉は、「違うの。」だけだった。


『死んでやる!』と言うエミリアの言葉は、リーリアに刺さった。『殺してやる。』の方が何百倍もましだった。エミリアはリーリアを憎むのではなく、ただ深く悲しんだのだ。憎まれたかった。だってリーリアは、かつてエミリアを死ぬほど憎んだのだから。


そして、部屋に駆け込んできたアルフォンスはリーリアを一度も見なかった。リーリアが好きなその綺麗な青い瞳は、ただエミリアだけを見ていた。『エム。』と優しく語り掛けるアルフォンスは、全身でエミリアが好きだと言っていた。


―私は、エミリアが好きなアルフォンスが好きだったのね。―


いつか自分にもその視線を向けてくれることを信じていた。だが決してないということを理解すると溢れ出る涙が止まらず、ただ二人のやり取りを見つめることしか出来なかった。


エミリアを抱き上げたアルフォンスが出て行った後、シャイルが近寄ってきたのは分かった。


―何を言われるのだろう。―


一人俯くリーリアに、シャイルは優しく怪我はないかと尋ねた。


―私に怪我なんてない。怪我をしたのはエミリアなのだから。どうしてシャイルは残ったのだろう?いつもは一緒に行くのに。どう誤魔化そうか。エミリアが襲ったことにすればいいのだろうか?―


と考え込むリーリアに、シャイルは話し始めた。


「リーリア。アルフォンスのこと好きだったんだな。」


―そうよ。どうして今更そんなこと聞くの?―


「全く気づかなかったよ。いつから好きだったんだ?」


―6歳よ・・・。―


「俺は、エミリアのことがずっと好きだったんだ。」


―知ってる。知ってたわ。―


それからシャイルが黙った。エミリアの事故以来まともに口も聞いていないのに、ずっと疑った目を向けてきたのに、どうして何も聞かないのかと思った。どうしてそんなに優しく話すのだろうか。だから、何故聞かないのかを尋ねると、シャイルは謝った。


「エミリアが事故にあって以来、エミリアのことしか考えられなかったんだ。友人だったのに、他国の王太子の婚約者になったお前の支えになろうとしなかった。文化だって違う。苦労しただろう?」


そう言うシャイルは、今までで一番優しい目をしていた。シャイルは、『手に入れるだけが愛じゃない。側で見守り支えることも愛だと思う。』とリーリアに言った。そんなの辛すぎる。辛くて耐えられなかったから、奪ったのだ。


『想い合っている二人を引き裂き手に入れたとして、最初は良くてもだんだん辛くなるだけだろ?リーリアが一番よく分かっているはずだ。』と言うシャイルの言葉に、リーリアは何も言い返すことはできなかった。その通りだった。でも、今更引き返せない。今更罪を認めることなんて、絶対に出来ないと思った。


『リーリア。ごめんな。俺はエミリアの味方なんだ。』と言ったシャイルを見て、ようやくシャイルの真意を理解した。これが最後のシャイルの優しさなのだ。シャイルは本当はこう言いたいのだ。『アルフォンスはもう証拠を掴んでる。リーリアが話さないと、リーリアの立場はもっと悪くなるだろう。だからどうか話して欲しい』と。


―この地で初対面を装っていたのにも関わらず、アルはエミリアを選んだのだもの。きっともう私が犯人だと言う証拠を掴んでいる。私と婚約したのも、証拠を掴むためなのね。だから、シャイルは『アルフォンスはリーリアが思っているよりもずっと冷酷だ。』と言ったのだわ。―


―もういいかな。これ以上逃げきれないわ。―


「シャイル。私が・・・。私がエミリアを襲わせたの。」


思いの外しっかりした声が、リーリアの口から出た。




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