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波乱の幕開け

エミリアが住まわせてもらっているリベラルトの屋敷は、王城の近くにある。当初、エミリアは王城に勤める者全員に与えられる部屋で暮らそうと考えていた。いくら恩人の娘だらと言っても、妻子もない上に養女にもしてない若い娘と住んでいるリベラルトの世間体を気にしたのだ。だが、王城で暮らすものはメイドや騎士として働く者ばかりで、皆一人で住んでいた。一人で日常生活を送ることが難しいエミリアは、どうしてもアンなしで暮らすのは難しかった。そのため、『王城に住むのも屋敷に住むのも大した差はないのだから、一緒に暮らそう。』と言ってくれるリベラルトに甘え、今もそのまま屋敷に住まわせてもらっていた。


リベラルトの屋敷での生活は快適だった。自力で階段を上ることが難しいエミリアのために、一階の部屋を改造してまで用意してくれていたし、時々不調で歩けないエミリアのために車椅子も与えてくれた。なるべく自力で歩くようにはしていたが、車椅子は何かと便利でとても役立った。


また、職場でも多くの人の優しさに支えられていた。エミリアの働く部署は3階にあるため階段を上らなければならない。そんなエミリアのためにターニャや同僚たちは手を貸してくれたし、力のある男の人たちは嫌な顔一つせず抱き上げて上ってくれていた。休みの日になればターニャと一緒に街に出かけたり、同僚たちとお酒を飲みながら語り合ったりと日々充実していた。


そんな中、季節は夏を迎えようとしていた。コリン王国の夏は、エドガー王国の夏に比べてずっと涼しくて快適だ。夜になると、何か羽織るものがなければ肌寒く感じるくらいだ。そんなある日、エミリアはリベラルトと共に国王から身内だけの夕食に招待されたため、仕事を早く切り上げ、一度屋敷に帰り着替えると出かけた。


コリン王国の国王は御年50歳になるが、王妃はまだ40歳とリベラルトより若い。二人の間には、今年22歳になる第一王子のユルと第二王子で10歳になるフランツがいる。国王は弟が世話になった人の娘であるエミリアを何かと気にかけてくれていて、時間がある日はこうして夕食に招待してくれていた。当初エミリアは恐れ多くて断ったが、結局は王命だと押し切られてしまっていた。


コリン王国の王妃は少女のようにふんわりとした人で、エドガー王国の王妃と似ても似つかない人だった。また、第二王子のフランツは心優しい少年で、国王一家と夕食を共にするのは心温まるひと時だった。ただ一つを除いては。


実は、第一王子のユルはひどく女好きであった。そしてひどく悪趣味な男だった。何かとエミリアを困らせては、エミリアの困る姿を見ながらにやにや笑ってる男なのだ。女を見れば誰にでも歯の浮くような台詞を吐くし、エミリアが通るのを見計らって女の人とキスするのを見せつけたりしてくるのだ。エミリアが出会ったことのないタイプの人間で、最初のほうは半泣きになった。だが、そんなエミリアも今では適当に流すことができるようになっていた。


和やかに夕食会が始まると、国王が衝撃的なことをエミリアに伝えた。


「そう言えば、今度エドガー王国の王子殿下が来国することになった。」


エミリアはその言葉に驚き体が固まる。そんなエミリアにはリベラルト以外気づかず、「いらっしゃるのは初めてね。」など皆盛り上がっている。その後は平常心を装うのに精一杯で、気づけば屋敷に帰ってきていた。二人でリビングのソファーに腰を下ろすと、冷静になったエミリアが重い口を開いた。


「リバー様はご存知でしたか?」


「すまない。言おうと思ったんだが、他国訪問で忙しくてね・・・。なかなか君と直接話す時間がなくて・・・。昨日やっと帰国したから、今日こそは話そうと思ってたんだ。」と申し訳なさそうにリベラルトが言う。


「いついらっしゃるのですか?」


「来週の週明けだ。」


「あの・・・。」


「君の気持はわかっている。会わないように手を回そう。ただ、晩餐会は避けられないかもしれない。」


「・・・。」


「普通にしてれば会うことはないよ。」


「ありがとうございます。」


「また明日朝早いだろう?そろそろ休もう?」


そうリベラルトが言うと、エミリアも頷き立ち上がり、二人はそれぞれの寝室に行き別れたのである。


―アルが来る・・・。怖い・・・。大丈夫。会うわけないわ。私はただの官吏だもの。それに外務省勤務でもないわ・・・。―


そう思っても、エミリアはその日眠ることが出来なかった。


それから1週間経ち、アルフォンスが来国する日を迎えた。エドガー王国王子の来国に、国中が歓喜しにぎわっていた。王都に住む者は馬車道の脇に並び、同僚たちでさえ皆窓から顔を出して、王子の姿が見えるのを今かと待ち構えていた。誰一人、一人だけ机に向かっているエミリアの手が震えていることに気づく者はいなかった。


しばらくして、一際大きな歓声が聞こえた。どうやら、王城に到着したようだった。皆興奮して何か言っていたが、エミリアは途切れそうな意識を保とうとただ必死だった。しばらくすると皆仕事に戻り、それからはエミリアもただ必死に仕事に没頭した。


昼食をいつも通り食堂で食べている時だった。突然文部大臣から呼び出されたのだ。何か重大な失敗をしただろうか?と不安に思いながら、大臣室へ向かう。大臣室の前に着くと警備の者が、エミリアの来訪を告げ扉を開けた。


「失礼します。」そう言って部屋に入ったエミリアが見たのは、座っているアルフォンスだった。


1日も忘れたことのない、黄金の髪、真っ青な瞳、白くて滑らかな肌。


―どうして・・・。―


挨拶もせず茫然と立ち尽くすエミリアは、突然誰かに抱きしめられた。「エム!」そう言って抱きしめてきたのは、リーリアだった。あまりの驚きと衝撃に踏ん張れず、抱きつかれたまま床に倒れこむ。「ごめんなさいエム!」そう言うリーリアの声を倒れたままただ茫然とエミリアは聞いていた。

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