第一章 11 『あの娘は来ない』
強い日差しが、部屋の窓のカーテン越しに差し込み、僕の顔にまっすぐ当たってきた。
僕は数分間、その日差しを無視しようと横になったままだったが、やがて携帯電話に設定しておいたアラームが鳴り始めた。
土曜日の午前9時30分だった。
まだ眠気まなこで体を起こし、アラームを止めながらベッドの端に腰を下ろした。
数秒間その姿勢のまま、スマホの画面をぼんやりと見つめていたが、そこに何が表示されているかにはあまり注意を払っていなかった。
目を覚ましたばかりなのに、もう同じことを考えていた。
やがて立ち上がり、椅子の上に置いてあった学校の制服を手に取り、部屋を出てバスルームへ向かった。
昨日、あの女の子が最後に言った言葉のあと、一体何が起きたんだ?
彼女のAPAが背を向けると、彼女は接続を切り、そのAPAは自動操縦モードのまま歩き続けた。
僕は、どうすればいいのかよくわからないまま、そのAPAの後ろからついていった。彼女が誰なのかを知る方法は他になかったため、学校の廊下を進んでいくそのAPAをただ見ていることしかできなかった。
APAは2年生用の校舎まで歩き、階段を上がって3階へ行き、2-Bの教室に入った。そして、4列目の一番後ろ、廊下側の窓際の席に座った。
しばらく、そのAPAを見つめていた。
これで、その少女が2年生であることも、どのクラスに所属しているかも分かった。しかし、彼女の名前はまだ分からなかった。すでに自動操縦状態に入っていたAPAに、名前を尋ねることもできなかった。
結局、18時50分を過ぎて学校を後にした。その時点では、起きたことをいくら整理しようとしても、その少女が誰なのかを突き止めることは不可能だった。
しかし、ある言葉が頭の中をぐるぐると回り続けていた。
僕たちの短い会話の間、彼女のAPAが再生していた声が変わった。
歪んだ声ではあったが、一瞬だけ、普段とは違って聞こえた。まるで彼女が今にも声を詰まらせ、泣き出しそうになっているかのようだった。
なぜ彼女はあんな風に話したのだろう?
その瞬間、彼女に何が起きたのだろうか?
答えはまったく見当がつかなかった。さまざまな可能性を想像することはできたが、そのどれを考えても、そのAPAの向こう側で彼女が何を感じていたのかは理解できなかった。
前日の出来事をすべて整理しようと試みた後、シャワーを浴び終えて制服に着替えた。
僕の家は他の家より少し広かったが、住んでいるのは両親と僕だけだった。バスルームを出て2階の廊下を歩いていると、両親の部屋の前を通りかかった。
僕はドアの前で数秒間立ち止まった。
ドアが自動的にスライドして開き、顔を上げると、ベッドに横たわる母と父の姿が目に入った。
二人とも目を覆うリンカーを装着し、それぞれのAPAに接続していた。おそらくインターネットを閲覧しているか、ネット上で何か他の活動をしているのだろう。
二人は隣り合って横たわっていたが、どちらも本当にそこにいるようには見えなかった。
僕は小さくため息をつき、歩き続けた。
階段を降りて1階へ行き、朝食を作るためにキッチンへ向かった。料理をしながら、また待ち合わせの時間を考えた。
まだ時間はたっぷりあったが、遅刻するリスクは冒したくなかった。
突然、階段をゆっくりと降りてくる足音が聞こえた。
「土曜の朝、こんなに早く起きて何をしているの……?」
母だった。髪はすっかりボサボサで、目を細めて僕を見つめながら頭をかいていた。
「それこそ、僕がお母さんに聞きたいことだよ! 二人と違って、僕はいつも朝食を食べるために早起きしてるんだから」
母は抗議でもしようかというように少し眉をひそめたが、またあくびが出てしまい、すぐには返事ができなかった。
「そうね……」
まだ頭をかきながら、母はキッチンへと向かった。電気ケトルのスイッチを入れ、コーヒーを淹れるためにカップを取り出した。まだ完全に目が覚めていないようだったので、僕が何をしているかにはあまり注意を払わないだろうと思った。
しかし、もう一度こちらを見ると、母の視線は僕の服に留まった。
「そういえば、どうして学校の制服を着ているの?」
「あっ!」
まるで今になって自分が制服を着ていることに気づいたかのように、僕は視線を制服へと落とした。
その日、なぜ学校に行くのか、母に話すべきだろうか?
それが最初に頭をよぎった疑問だった。
起こったことをすべて話したら、母がどう反応するかわからない。おそらく、次から次へと質問攻めにしてくるだろうし、僕にはそれに答えるための情報さえなかった。
名前もまだ知らない女の子と会うことになると、どうやって説明すればいいのだろう?
数秒間迷った末、必要最低限のことだけ話すことにした。
「きょ、今日は学校で女子生徒と会うことになって……」
「……え?」
母は一瞬、固まった。
それから、大笑いした。
「ハハハハハ!」
「本当のこと言ってるんだぞ!」
僕は苛立ちながら叫んだ。
今言ったことのどこがそんなに面白いのか、僕には理解できなかった。母は僕の真剣な表情に気づくと黙ったが、また漏れ出しそうな笑いをこらえるために、思わず口元を覆った。
「わかった、わかった。もちろん、今言ったことは信じてるよ」
母の笑顔は完全には消えなかった。
「じゃあ、話をする予定のその女子生徒の名前は?」
「ま、まだ名前は知らないんだ……」
そう答えながら、僕は視線をそらした。声に出して認めるのは、自分でも恥ずかしかった。
1秒も経たないうちに、母はまた笑い出した。
「同じ学校に通う女の子と会う約束をしてるのに、名前すら知らないの? ハハハ! 夢でも見て、目が覚めたらそれを現実だと思ったんじゃないの?」
母は腹を抱えて笑い続け、目に溜まった涙を拭っていた。
僕は体の脇で両手をぎゅっと握りしめた。
あれは夢なんかじゃなかった。
あの女の子の言葉、声の変わり方、そして彼女が接続を切った後、彼女のAPAが座っていた正確な場所まで、すべてはっきりと覚えていた。
すべてが実際に起きたことだった。
「まさか、まだ学校の生徒と友達になろうとしてるなんて言わないでよ」
母の笑顔が消え始めた。
その言葉に、僕はすぐ苛立ちを覚えた。おそらく、似たようなことを聞くのが初めてではなかったからだろう。
「あの娘は今日、絶対にあなたに会いに来ないわよ」
今度は、まるで意見を述べているのではなく、避けられない出来事を告げているかのように、母は完全に真剣な口調で言った。
胸にわずかな圧迫感を覚えた。
心のどこかでは、その可能性をすでに考えていた。目が覚めてから、そのことをあまり考えないようにしていたが、母の口から直接聞かされると、それがずっと現実的に感じられた。
「どうしてそんなに断言できるの!?」
抑えきれずに声を荒げてしまった。
母がこの国の他の皆と同じ論理で物事を考えているのは明らかだった。母は、前日に何が起きたのかまったく知らなかった。あの少女の声を聞いたこともなければ、彼女が僕に心を開いてくれたことも知らなかったのだ。
彼女の気持ちは、本物のように感じられた。
僕は、それが本物だったと信じたいと思っていた。
そして、彼女が僕たちの待ち合わせに現れてくれると信じたいとも思っていた。
「どうしてそんなに確信を持てるかって?」
母はテーブルにカップを置くと、話を続けた。
「この国の人々がどう振る舞うか、そしてAPAが私たちの社会にとってどれほど重要かについては、あなたも自分の経験からもう知っているはずよ。名前すら知らない女の子が、あなたのためだけにその考え方を変えようとするなんて、どうしてそう思えるの?」
僕は答えなかった。
「それが冗談かもしれないとは、考えたことがないの?」
その言葉を聞いて、僕はただ唇をきつく結ぶしかなかった。
確かにそう考えたことはあった。
最初のメールを受け取った瞬間から、僕はすべてに疑念を抱いていた。冗談かもしれない、間違いかもしれない、あるいは単に僕をからかいたいだけの人かもしれない、と考えていた。彼女と話した後でさえ、その疑念は完全には消えていなかった。
だが、母の前でそれを認めたくなかった。
認めてしまえば、母が正しいと認めるようなものだからだ。
「またAPAを使ってみたらどう?」
母は疲れたようにため息をついた。
「もう16歳よ。学校でこんな態度を取り続けたら、将来は今と同じか、それ以上にひどい人生が待っているわ。大学に入ったらどうするの? 就職したらどうするの? それでも同じように振る舞うつもり?」
「ぼ、僕は……」
答えようとしたが、言葉が喉に詰まってしまった。
その時が来たら、自分がどうするかわからなかった。
高校を卒業したら、自分に何が起こるのかさえわからなかった。大学のこと、就職のこと、そして誰かと直接関わるよりもAPAを使うことを好む人たちに囲まれて残りの人生を過ごすことを考えるだけで、体がこわばってしまうほどだった。
「それに、学校から『APAがすでに配布されているのに、なぜ息子はAPAを使わずに授業に出席しているのか』というメールが届くのにも、もううんざりなのよ」
「もう行く!」
母が話を続ける前に、僕は口を挟んだ。
僕はキッチンを離れ、腹を立てたまま、リュックを置いてあったリビングのソファへと歩いた。背後から母がまだ僕を見つめているのが感じられたが、振り返る気にはなれなかった。
「もう行くの? でも、朝食もまだ食べ終わってないじゃない」
「食欲がなくなっちゃった……お母さんが食べてよ」
リュックを手に取り、片方の肩にかけた。
食卓にはほとんど手つかずの食事が残っていたが、もう食べる気は失せていた。もう少しそこに留まっていれば、母は聞きたくないことを言い続けていただろう。
玄関のドアへと歩き、別れの挨拶もせずに家を出て、後ろでドアをバタンと閉めた。
その音は、予想以上に大きく響いた。
僕はしばらくその場に立ち止まり、晴れ渡った空を見上げた。太陽は強く輝いていて、雲はほとんどなかった。穏やかな一日だったが、僕の中にある不安とはまったく対照的だった。
母の言葉が頭の中で繰り返し響いていた。
冗談かもしれない。
彼女は来ない。
僕のためだけに、誰かが考えを変えるなんてことはない。
歩き出しながら、そうした考えを頭から追い出そうとした。
「あの子は今日、きっと来るはず……だよね?」
その問いを誰に向けていたのか、自分でもわからなかった。ただ自分自身を納得させようとしていただけなのかもしれない。
約束の時間より数分早く学校に着いた。正門のあたりにはほとんど人影がなく、土曜日の静けさもあって、そこは平日とはまったく違う雰囲気だった。
僕は正門の近くに立ち、待った。
時計が12時を指すと、背筋を伸ばし、正門へと続く道に視線を向けた。
誰も現れなかった。
遅れているのかもしれないと自分に言い聞かせた。家で何か問題があったのか、あるいはここに来るのに予想以上に時間がかかっているのかもしれない。
数分が過ぎた。
必要以上に頻繁にスマホで時間を確認しながら、待ち続けた。画面の時刻がまた1分進むたびに、新しい理由を探そうとした。
しかし、正門には依然として人影ひとつなかった。
次第に、母の言葉が再び頭の中に浮かび上がってきた。今回は、以前ほど簡単にその考えを振り払うことはできなかった。
僕はスマホに視線を落とし、それを握る指に力を込めた。それでも、あの女の子が現れて、彼女を疑った僕が間違っていたことを証明してくれるかもしれないという可能性にすがりつき、もう少しその場に留まった。
だが、待っていた足音は、結局聞こえてこなかった。
その土曜日、学校の正門で待ち合わせようと言った少女は、結局現れなかった。しかし、その人影のない正門を見つめているうちに、無駄に待ったことよりもはるかに胸を締め付ける疑念が湧き上がってきた。
彼女の気持ちも、前日に僕に言ったことも、すべて嘘だったのだろうか?




