モブ職員は語る
【迷宮都市ビギナリア・冒険者ギルドモブ職員視点】
ここは、迷宮都市ビギナリア。毎年、多くの若者が夢を見て全国から集まる始まりの街。
だが、その多くは自分達の夢を叶える事が出来ずに、挫折したり残念ながら命を落とす事もある。
その中でも他とは違い、駆け上がっていく者達がいる。
そんな彼らは冒険者という特殊な職業の中で、更に洗練されより上位の冒険者へとなっていくだろう。
そして、今年もまた、他の冒険者パーティーを圧倒する『伝説の卵達』が誕生した……いや、彼らの冒険者パーティーが上げていた売上だけ見ると過去最高額。英雄級まで、まっしぐらと誰しも思っていたが……現在はそのパーティーが、崩壊の危機に陥っている。
「貴方達は、またこれだけですか? ダンジョンに、遊びに行ってるのですか?」
本日もその『英雄級』になるだろうと、予想されていた冒険者パーティーの専属受付嬢エマールが怒鳴っている。彼女は元々は、貴族令嬢……いや、現在もだ。そんな彼女が冒険者ギルドで働いているのも、その貴族が冒険者ギルドへの影響力を強めようと送り込まれたのだろうな。
「……すいませんでした。お嬢様」
「俺達はちゃんとやってるんです。でもコイツらが……」
剣士ブリッツと盾士エドガーが、指差す先には『リジェクテッド』の女性達二人がいた。
そもそも、リジェクテッドの大ブレーキの原因が、彼女達の能力低下なのだ。
その原因となる出来事を、ここにいる職員含め冒険者達も分かっていた。
【リジェクテッドリーダーの追放】
この迷宮都市ビギナリアの冒険者ギルドを舞台に行われた追放劇が、以前にあった事だろう。
フタを開けてみると、このリーダー……いや、リーダーの連れていたスライムのサポートのおかげで弱点の補佐をされていたが、自分達で追放したため元の実力に戻ってしまった。
なんとも皮肉な事だな。
「ウグッ、ウエ〜ン。ゴメンなさい。ヒクッ、でも怖くて……」
「エスナ、大丈夫よ……ワタシ達だって、好きでこうなったワケじゃないわ。そんなに私達だけ、責めないでよ」
言い争いを続けていた『リジェクテッド』は、既にこの迷宮都市ビギナリア冒険者ギルドの名物になりつつある。もちろん悪い意味で……
「おいおい、見ろよ。またやってるぜ」「ああ、アイツらは冒険者を引退して、芸人になった方が儲かりそうだな。笑わせてくれるよ」「あんな風には、なりたくない見本だよな」「もう、女達は身体を売った方がいいんじゃないの?」「あっ、俺なら買うわ。小銀貨三枚(三千円)でどうだ?」
「「「ギャハハ」」」
冒険者達は容赦ない。最高の酒のツマミだとばかりに、以前のエースパーティーの落ちぶれた姿を見ながら、エールを流し込む。
酒場の売上には、貢献してくれているな。
憧れから軽蔑へ、この急転落こそ……うだつの上がらない冒険者達にとっては、最高のショーになっているのだろう。
『リジェクテッド』が、落ちぶれても誰も庇わない。それはそうだろう。彼らは飛ぶ鳥を落とす勢いがあった時には、やりたい放題だったのだ。
剣士ブリッツは、元リーダーのルディを追い出してからリーダーを引き継いだ。それからは手当たり次第、女の子に手を出している。冒険者はもちろん、街の娘達もだ。
盾士エドガーはあの気性だ。ケンカはもちろん、エースパーティーという肩書を背に、暴力沙汰も度々おこしている。一般人に対してもだ。
エスナは一見普通に見えているが、手癖が悪い。スリ紛いの事をしている。ルディがいた頃は、やって無かった……というか、ブリッツやエドガーに教わったのだろうな。
ミラは気の強い女だ。それがノッてる時は見逃されているが、落ち目となると叩かれる。特に、周りの女性冒険者達に嫌われている。
そして今回の追放を画策したとされている、専属受付嬢エマールだ。彼女自身、貴族出身という傲慢さと周りを見下すクセもあり……職員はもちろん、冒険者からも嫌われている。
『リジェクテッド』が正常に機能していた頃には、受付嬢の中でも売上も一番になりギルドマスターでさえ、止める事が出来ない位に増長していた。
それが今は『パーティークラッシャーのエマール』という受付嬢にとっては致命的な二つ名をつけられ、元々の専属冒険者パーティーは彼女を見限り離れていった。
ここで、受付嬢のカウンターの話をしよう。受付嬢のカウンターは売上に応じて、配置が変わる。そう、順番があるのだ。売上が良い受付嬢は、入り口から一番近い場所を任される。これは当然だ。冒険者ギルドはボランティアではない。売上を上げてこそだからだ。
そして、売上が悪い受付嬢というと……一番隅の以前エマールがハメて追い出した『リジェクテッド』の専属受付嬢だったフィオナがいた席に、追いやられている。
その状況に耐えられないエマールは、常にピリピリしている。他の受付嬢も嘲笑い。受付嬢の輪からも弾かれたようだ。女性は残酷だな。エマールの貴族の親も、以前から冒険者ギルドへ色々と言ってきていたが……冒険者ギルドは、この貴族と手を切る事を選んだようだ。
『ここに一連のエースパーティーであったリジェクテッドの没落原因と、専属受付嬢エマールの悪行を記し報告とする。 冒険者ギルド総本部宛て』
私は、迷宮都市ビギナリア冒険者ギルドのただのモブ職員。私の仕事は、正確に情報を上に伝える事を目的に送られた内部監査員でもある。
報告書をまとめ終わり、ファイルを閉じる。
私は自分の席から立ち上がり、報告書を手にその場を立ち去る。
その後ろではいまだに言い争いを続けている、かつての『エースの残骸』がまた騒ぎを起こしていた。




