雨、その心と流れて
一週間のサバイバルを終えて成長した俺は、村を目指し走っている。
村に着いたら俺はジョブ因子を集めるつもり。アオイが存在進化して獲得したジョブ因子とは……
ジョブ因子吸引……人に宿ったジョブ因子を、時間をかけて吸い出す。因子を吸い出す時間は、そのジョブ毎に違いがある。あくまで因子だけを吸い出し増殖させるので、吸い出された人に宿ったジョブ因子は無くなる事はない。
まず、職業スキルとジョブでは違う。職業スキルは『勇者』や『賢者』のような複合スキル。ジョブはその人の特性で決まる。剣術が得意なら『剣士』とか……ジョブ因子吸引は、コッチの因子を吸引する。
まあ、スキル『勇者』なんかはそのままジョブも『勇者』になるんだけどな。強力なものほど、同じになる傾向があるらしい。
今回の吸引対象は、勇者パーティーを含めた村全体。俺が生きる上で必要になるモノを、村全体からかき集めるつもり。
罪悪感はないのかって? あるわけないじゃん。村人には、道を歩けば石を投げられる。
家族だと思って家に帰れば、イヤミを言われる。
仲間だと思っていたのに……俺の左腕は。
少しは俺の役に立って貰わないと……アイツらの存在価値を俺は見出せない。
怒りで走る歩幅が大きくなった気がした。
※スキル授与された後の回想です
アレは教会から派遣される大司祭様の祈りをもって、スキルを授けられた日だった。
村中のスキルが授かれる年頃の子供が集められて、一斉にスキルを授かっていくのだ。
小さな村で伝説のスキル『勇者』が現れた。
その中で俺に与えれられたのは、ハズレスキルと言われた『スライム』だった。
そこからの手のひら返しがすげーの。
この村は人口も三百人くらいの、小さな村だ。まぁ、村人全員が知り合いみたいなもの。あっという間に俺のスキルが『スライム』だったのは村中に広がる。
村の中心人物である、クソ親父にもすぐに伝わる。
神童だ、天才だなんて『ちやほや』されていた村の有力者の息子が落ちぶれていくのは、娯楽の少ないこの世界では最高のエンターテインメントなんだろうな。
みんな、良い笑顔で俺をバカにしてくれてたな。
全員が、アホ面だったけどな……まぁ、この頃はまだ『僕』だったけど。
案の定、鑑定を終えて帰った俺を待っていたのは、慰めでも、同情でも、無くてクソ親父の『鉄拳』だったけどな。
思えば……ここまで殴られたのは、アレが始めてかもな。まぁ、まだ記憶が戻る前の話だから、俺は恐怖で震えたよ。
そこからの俺の扱いは、村では最低に……罵声や嘲笑いなど一通り経験させて貰ったよ。
俺がそんな扱いされているのを知りながら、アイツは裏切ったんだ。
その日も子供から石などを投げられて目の上から血が流れる俺は、誰にも相手にされる事なく家に帰る道を歩いていた。
その日は今にも泣き出しそうな空模様で俺は、急いで家に帰る道だった。
ここ最近は雨が降らなかったから、今夜辺りに降るのだろう。心なしか空気もヒンヤリして、ブルッと身震いをした。
夕日が村を赤く染めていたが、家に近づく頃には辺りも薄暗くなっている。
「イテテ、コブが出来てるかな……」持っていたハンカチで目の上を押さえながら歩いていると、普段は倉庫にしている小屋の裏側から声が聞こえた……
「うあ、ビックリした、ここは倉庫にしている小屋だけど……声が聞こえる? なんだろう?」
すでに夕日は沈み、辺りは静寂に包まれる。普段は人が近寄る場所ではなかったので、ゆっくりと足音を立てないように小屋に身体を預けながら裏側を覗いてみた……今考えると二人は隠れてたんだろう。
う〜ん、よくは見えないけど人だね……二人かな?
人影が二つある? 一つは大きくてもう一つは少し低いかな……男の人と女の人なのかな?
なんだ……恋人同士の逢引か?
なんかこういうのって、覗いちゃうよね。
なんかエロい感じかと思っちゃうし……婚約者のクリスティはいるけど、まだ何もできないし。結婚は決まってるから焦ってないし……って、言い訳してみた。
おっ、二つの影が重なった。いいぞ〜、やったれ〜。
次第にどこまで行くんだろうと、興味が出て来た。
会話も途切れ途切れに、聞こえて来る。
「あっ、ウフフッ……何だか〜……」
「ああ、俺は……だから、大丈夫〜……クリスティ」
えっ、クリスティ? 村にはクリスティって名前は、一人しかいない。クリスティなのか?
じゃあ、男は誰だ? 婚約者は僕のはずなのに……
くそ〜、よく見えない。
話をしていた二人は、また一つに重なる。どのくらいの時間が経ったのだろうか?
突然、空がピカッと空が光る。
今にも泣き出しそうだった空は、遠くで雷が鳴ったのだろう……その光は一つに重なる二人を一瞬だが、姿を現した。
やっぱりクリスティだ。村でも一番の美人さん。
そして誕生日にプレゼントした、魔物の糸で織った赤いリボン。村でそんなモノを身に付けているのは、婚約者のクリスティだけ。
男の方は……ランドルフ? 婚約した時にはあんなに、喜んでくれていたのに。僕を裏切ったのか?
僕の心を代弁するかのように、雨が降り始めた。最初はポツポツだったが、すぐにザーザーと本降りになる。
乾いていた地面は、久しぶりの水分が染み込んでいく。
まるで心に憎しみが、染み込んでいくように……
僕はその場で立ち尽くしていた……二人は俺に気がつく事は無く、反対側から走って行った。
「あっ、リボンが……」
「泥だらけじゃん。無くした事にすれば? アイツはお人好しだからキミが言えば信じるし。それにいつまでも持ってるワケにはいかないだろう?」
「うん、そうだね……バイバイ、ルディ」
地面に落ちたリボンを見下しながら、クリスティは立ち去る。そこにランドルフは足でさらに泥をかけてから、クリスティと同じ方向に去る。
僕は地面に落ちたリボンをずぶ濡れになりながら、見ているしかなかった。




