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消えない理由

第二話です。


少しずつ、この世界の仕組みが見えてきます。

ミオが「なぜ消えないのか」も、ここから触れていきます。


引き続き、ゆっくり読んでいただけたら嬉しいです。


男の後ろを歩く。


少し離れて。


触れられない距離で。


それでも、


さっきより、自分の輪郭がはっきりしている気がした。


足の裏に、地面の感触がある。


私は、自分の手を見る。


まだ少し透けている。


でも、


完全に消えそうな感じは、ない。


前を歩く男を見る。


黒い外套が、わずかに揺れる。


私は、少しだけ歩幅を速める。


距離が縮まる。


その瞬間、


身体の中に、重さが戻る。


(……近いと)


分かる。


私は、試すみたいに足を止める。


距離が開く。


すぐに、


身体の感覚が、また薄くなる。


怖くなって、


すぐに歩き出す。


元の距離に戻る。


「近くにいろ」


前を向いたまま、男が言う。


「崩壊が遅れる」


私は、小さくうなずく。


そのとき、


音がした。


枝が折れる音。


男が止まる。


剣に手をかける。


空気が変わる。


私は一歩下がる。


身体が軽くなる。


怖くなって、


すぐに元の位置に戻る。


(……ここ)


ここなら、


消えない。


木の間から、


“それ”が現れる。


膨らんだ胴体。


短い腕。


裂けた口。


「……いらない」


かすれた声。


「……いらない、いらない」


その声を聞いた瞬間、


胸がざわつく。


(……違う)


そのとき、


一瞬だけ、景色が流れ込んでくる。


リビング。


テレビの光。


母の背中。


子どもが立っている。


「……ねえ」


声をかける。


返事はない。


少し近づく。


手を伸ばす。


そのとき、


声が落ちてくる。


「いるの?いらないの?」


早く終わらせたそうな声。


急かす声。


子どもの手が止まる。


迷う。


でも、


すぐに引っ込める。


「……いらない」


映像が消える。


私は、息を詰める。


(……これ)


分かる。


自然に、口が動く。


「……いらない、って」


男の動きが、わずかに止まる。


私は続ける。


「怖かっただけだよね」


空気が変わる。


“それ”の動きが、止まる。


ほんの一瞬。


私は、一歩だけ前に出る。


「早く答えないとって思って」


「怒られたくなくて」


「だから」


息を吸う。


「……いらない、って言った」


「……いらない」


声が揺れる。


私は、もう一度言う。


「でも」


「本当は」


「見ていてほしかったんだよね」


その瞬間。


“それ”の手が、ふっと緩む。


自分を掴んでいた指が、


ゆっくりと離れる。


初めて、


その目の焦点が合う。


まっすぐ前を見る。


ほんの一瞬だけ、


人の顔に戻る。


男の動きが、止まる。


完全に。


剣が、


振り下ろされない。


「……」


声にならない。


次の瞬間、


“それ”は崩れる。


歪まない。


ただ、


力が抜けたみたいに、


静かに落ちる。


音が、軽い。


森に、溶けるように消えていく。


しばらく、


誰も動かなかった。


やがて、


男が、低く言う。


「……ありえない」


その声は、


わずかに揺れていた。


私は、


その背中を見る。


(……今)


(戻った)


ほんの一瞬だけ。


風が、静かに揺れる。


私は、また一歩、


その距離に戻る。


触れられない、


でも、


消えない位置。


(……この人のそばなら)


まだ、


大丈夫な気がした。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


この世界では、人が壊れたものを「異形」と呼びます。


そして、壊れ方によって、姿や言葉が変わります。


この先も、異形との出会いを通して、

少しずつ輪郭が見えていきます。

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