消えかけた私
はじめまして。
この物語は、「存在が少しずつ薄れていく感覚」から始まります。
静かな始まりですが、少しずつ関係と世界が見えてくる構成になっています。
ゆっくり読んでいただけたら嬉しいです。
※本作品は一部にAIを活用しながら執筆しています。
最終的な構成・表現は作者自身によるものです。
気づいたとき、私は少し透けていた。
手をかざすと、向こう側の壁が見える。
指の輪郭が、ぼやけている。
(……なにこれ)
息を吸う。
ちゃんと吸えているのに、身体の重さがない。
床に立っているはずなのに、足の感覚が薄い。
私は、リビングにいた。
ソファには、母が座っている。
テレビを見ている。
笑い声が、画面から流れている。
私は、そのすぐそばに立っていた。
「……ねえ」
声を出す。
母は、振り向かない。
「……ねえってば」
もう一度。
返事はない。
視線も、動かない。
私は、少しだけ近づく。
手を伸ばす。
肩に触れようとして――
すり抜けた。
(……え)
一瞬、息が止まる。
もう一度、触ろうとする。
触れない。
そこにいるのに、触れない。
私は、立ち尽くした。
キッチンを見る。
何もない。
皿も、鍋も、ない。
流しは乾いている。
冷蔵庫の低い音だけがしている。
(……今日も)
胸の奥に、何かが沈む。
お腹は、空いているはずなのに
感覚が、はっきりしない。
私は、テーブルの椅子に座ろうとする。
体が、少し浮いて、ずれる。
ちゃんと座れない。
「……なんで」
声が、小さくなる。
母は、テレビを見続けている。
一度も、こちらを見ない。
私は、そこにいるのに
いないみたいだった。
(……前から、少しずつ)
思い出す。
呼んでも、返事がないこと。
食事が、用意されなくなったこと。
話しかけても、続かないこと。
気づけば、会話はなくなっていた。
気づけば、目も合わなくなっていた。
(……でも)
こんなふうに、
本当に“触れなくなる”なんて
思っていなかった。
足元が、ふらつく。
バランスが、うまく取れない。
自分の輪郭が、曖昧になる。
(……消える)
その言葉が、頭に浮かぶ。
怖い、と思った。
その瞬間、
視界が、歪んだ。
床が、遠くなる。
天井が、揺れる。
世界が、ほどける。
私は、何かに引き込まれるように
落ちた。
――――――――――
気づいたとき、
森の中にいた。
冷たい空気が、肺に入る。
土の匂いがする。
さっきまでいた部屋とは、まるで違う。
私は、ゆっくりと手を見る。
輪郭は、まだ曖昧だ。
少し、透けている。
(……どこ)
立ち上がろうとして、よろめく。
足の感覚が、不安定だ。
そのとき、
音がした。
何かが、擦れるような音。
私は、顔を上げる。
木の影の奥に、
“それ”がいた。
人の形をしている。
けれど、どこかおかしい。
体が、歪んでいる。
腕が長すぎる。
顔が、傾いている。
目だけが、こちらを見ている。
私は、動けなかった。
喉が、閉じる。
声が出ない。
“それ”が、一歩近づく。
ずるり、と足を引きずる音。
その口が、ゆっくり開く。
「……みて」
かすれた声。
「みて」
もう一歩。
距離が縮まる。
私は、逃げなきゃと思うのに
体が動かない。
「……みて」
その声が、頭に響く。
そのとき、
胸の奥が、わずかに引っかかる。
(……違う)
うまく言葉にならない。
でも、
何かが、ずれている。
(……見てほしい、のに)
どうしてか、
そう感じた。
その瞬間、
怖さとは違う何かが、
ほんの一瞬だけ混じる。
すぐに、消える。
(……いや)
そのとき
風が、走った。
次の瞬間、
音がした。
鋭い、金属の音。
“それ”の体が、崩れる。
一瞬で。
何が起きたのか、分からない。
ただ、
目の前に
一人の男が立っていた。
剣を持っている。
背が高い。
動きが、静かすぎる。
“それ”は、地面に崩れたまま動かない。
男は、ゆっくりと剣を振って血を払う。
それから、
こちらを見る。
その目の奥に、
ほんのわずか、
燃えるような橙色の光があった。
「……まだ、崩れきっていない」
低い声。
感情のない声。
私は、何も言えない。
男は、私を少しだけ見て、
それから言った。
「一人でいれば、いずれああなる」
足元に転がる“それ”を、わずかに示す。
私は、視線を落とす。
さっきまで動いていたそれは、
もう、形を保っていなかった。
(……あれに)
(……なる?)
男は、短く言う。
「ついて来い」
それだけ言って、背を向ける。
私は、動けなかった。
怖い。
でも
ここに一人でいたら
どうなるかは、分かる。
私は、小さく息を吸って、
一歩、踏み出した。
男の後ろを、追う。
その距離は、
触れられないくらいの、少し後ろ。
でも
その距離にいると、
さっきより
少しだけ、
自分が“ここにいる”感じがした。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ミオの「消えかける感覚」と、騎士の「感情を持てない在り方」が、少しでも伝わっていたら嬉しいです。
次話では、この世界の仕組みや「なぜミオが消えないのか」が少しずつ見えてきます。
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