保証人の壁―担保という武器#4
午後、俺は鐘楼に向かった。
鐘楼は街の中央にあり、石造りの古い塔だ。
入口には、守衛が立っていた。
「用件は?」
「鐘楼の管理者、ヴィクターさんに会いたいんですが」
「ヴィクター様に?用件を言え」
「鐘の時刻について、確認したいことがあります」
守衛は、少し訝しげな顔をした。
「お前、誰だ?」
「レギス・レジャーの行員です」
「ふむ……待ってろ」
守衛は塔の中に入り、しばらくして戻ってきた。
「入れ。三階だ」
「ありがとうございます」
俺は塔の中に入った。
狭い螺旋階段を上っていく。
一階、二階、三階——ようやく扉が見えた。
ノックをすると、中から声がした。
「入れ」
俺は扉を開けた。
部屋の中には、痩せた中年の男が座っていた。
髪は薄く、眼鏡をかけている。
机の上には、分厚い帳面と、砂時計のようなものが置かれていた。
「お前が、レギス・レジャーの者か?」
「はい。レオン・ミナトです」
「ヴィクターだ。で、用件は?」
「鐘の時刻について、確認したいことがあります」
「鐘の時刻?」
ヴィクターは眉をひそめた。
「何が問題だ?」
「最近、鐘の間隔が不規則な気がして……」
「不規則?」
「はい。たとえば、昼の六ベルから夜の六ベルまで——本来なら六ベル分の時間が経過してるはずですが、体感的にはもっと短かったり、長かったりします」
ヴィクターは、少し不快そうな顔をした。
「体感、だと?そんな曖昧なもので、文句を言いに来たのか?」
「いえ、文句ではなくて——」
「鐘は、この砂時計を基準に鳴らしている」
ヴィクターは、机の上の砂時計を指差した。
「砂が落ちきったら、一ベルだ。正確だぞ」
「砂時計、ですか……」
俺は、砂時計をよく見た。
確かに、砂が落ちている。
だが——この砂時計、本当に正確なのか?
砂の量が減っていたり、砂時計自体が傾いていたりしたら、時間が狂う。
「ヴィクターさん、この砂時計、いつから使ってるんですか?」
「十年以上前からだ」
「十年……ということは、砂の量が減ってる可能性はありませんか?」
「減る? なぜだ?」
「砂が擦れて、粉になって飛んでいくとか……」
「そんなこと、あるわけないだろう」
ヴィクターは鼻で笑った。
「お前、素人だな。砂時計は正確だ。疑うな」
「でも——」
「もういい。用がないなら帰れ」
ヴィクターは、俺を追い払うように手を振った。
俺は、少しムッとしたが——ここで揉めても意味がない。
「わかりました。失礼します」
俺は部屋を出た。
だが——廊下で、ふと立ち止まった。
ヴィクターの机の上に、もう一つ帳面があった。
帳面の表紙には、『評議会記録』と書かれていた。
——評議会記録?
俺は、もう一度扉の隙間から覗いた。
ヴィクターは、その帳面を開いて、何か書き込んでいる。
そして——机の引き出しから、小さな袋を取り出した。
袋の中には、何か光るものが入っている。
銀貨だ。
ヴィクターは、銀貨を数えて、帳面に記録した。
——何をしてるんだ?
俺は、その様子をしばらく見ていた。
そして——ヴィクターが席を立って、部屋の奥に行った瞬間、素早く部屋に入った。
机の上の帳面を開く。
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【評議会記録】
日付: 銀章暦三二年ムギサ月二五日
依頼者: (名前の記載なし、ただし星の印が押されている)
内容: 締め時刻を30ティク早める
報酬: シルバ5枚
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——やっぱりか。
全身の血流が速くなるのを感じる。
ヴィクターは、誰かから金をもらって、鐘の時刻を操作している。
締め時刻を早めれば、特定の商人が窓口に間に合わなくなる。
そうすれば——別の両替屋に流れる。
これは、明らかな不正だ。
だが、依頼者の名前が書かれていない。
——誰が依頼したんだ?
俺は、帳面の該当ページを頭の中に焼き付けた。
そして——部屋を出て心を落ち着かせる。
ガチャッ。
突然、部屋からヴィクターが出てきた。
「おい、まだいたのか!」
「いえ、今帰るところです」
俺はそう言って、階段を下りた。
心臓が跳ね、膝の力が抜けそうになる
だが——証拠を掴んだ。
ヴィクターの不正。
鐘の時刻操作。
これを、実務長に報告しなければ。




