採用試験と合わない帳面#4
倉庫は建物の奥にある小さな部屋だった。
中には、古い帳面や書類が山積みになっている。
ミラはその中から、一冊の分厚い帳面を取り出した。
「これです。五年前まで使われてた引き継ぎ簿です」
俺は帳面を受け取り、開いてみた。
中には、窓口の担当者が交代するたびに記録が残されていた。
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6ベル ダリウス→エリーゼ
処理済み商人:12名
受領総額:シルバ230枚
未処理案件:なし
備考:クラウン両替が一件保留中
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——これだ。
これがあれば、引き継ぎがスムーズになる。
処理漏れも、二重処理も防げる。
「ミラさん、なんでこれ、使われなくなったんですか?」
「……実務長が変わったからです」
「実務長が?」
「はい。五年前、前の実務長が引退して、今の実務長が来たんです。それで、『効率化』っていう名目で、いろんなルールが変わって……」
ミラは少し寂しそうな顔をした。
「引き継ぎ簿も、『時間の無駄』って言われて、廃止されたんです」
「なるほど……」
——つまり、今の実務長は、効率を重視しすぎて、記録を軽視した。
その結果、帳面が合わなくなった。
だが、実務長自身は、それに気づいていない。
「ミラさん、この引き継ぎ簿、もう一回使えませんか?」
「え?」
「試練で、俺が窓口業務をやるときに、これを使ってみたいんです」
「でも……実務長に怒られるかも」
「大丈夫です。結果が出れば、認めてくれるはずです」
俺はそう言って、ミラの肩を軽く叩いた。
「信じてください」
ミラは少し迷ったようだったが——やがて、頷いた。
「……わかりました。やってみましょう」
「ありがとうございます」
俺は引き継ぎ簿を手に、事務室に戻った。
そして、机の上に広げて、内容を精査した。
この書式は、よくできている。
誰が、いつ、何を処理したか——すべてが記録される。
これを復活させれば、帳面の不一致は大幅に減るはずだ。
だが——問題は、担当者たちが受け入れるかどうかだ。
ダリウスは理解してくれるかもしれない。
だが、エリーゼやグレンは、「面倒だ」と拒否するかもしれない。
特にグレンは、記録を嫌うタイプだ。
——どうやって説得するか。
俺は考えた。
そして——一つの案が浮かんだ。
まず、試練で俺が実際に引き継ぎ簿を使う。
そして、完璧に帳面を合わせる。
結果を見せれば、担当者たちも納得するはずだ。
——よし、それで行こう。
俺は引き継ぎ簿を閉じ、明日の試練に備えて、さらに準備を進めた。




