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ショートショート→ショートへ(AIに文字数を増やさせホラー)  作者: 斉藤一


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6/12

1等が当たり(ロングバージョン)

 借金の総額は三千万を超えていた。ギャンブルで身を持ち崩したわけではない。小さな印刷所を営んでいた父が急死し、保証人だった俺にすべての重圧がのしかかったのだ。必死に食らいついたが、不況とデジタル化の波は非情だった。

 家賃も払えず、電気も止まり、残されたのは空っぽの冷蔵庫と、小銭入れに転がっていた千円札が一枚。

「これで最後だ」

 俺は地元の駅前にある、くたびれた宝くじ売り場に向かった。どうせ死ぬなら、この千円を使い切ってからにしよう。俺は、神頼みですらない、ただの自暴自棄でロト6を五口購入した。

 発表までの七日間、俺はほとんど水だけで過ごした。

 空腹は二日もすれば麻痺した。だが、脳は冴え渡り、過去の失敗や自分を見捨てた連中の顔が、走馬灯のように浮かんでは消えた。

「外れたら、あの古い鉄橋から飛び込もう」

 そう決めると、不思議と心は穏やかだった。

 しかし、運命というやつは時に悪趣味な冗談を仕掛ける。

 土曜日、ふらふらする足取りでコンビニの端末を確認すると、俺の持っていた数字と、画面に表示された当選番号が、パズルのピースがはまるように一致した。

 一等、二億円。

 人生のどん底で、俺は文字通り「死ぬ権利」を奪われた。

 金が手に入ると、どこで聞きつけたのか、周囲の人間が豹変した。

「お前ならやってくれると信じていたよ!」と肩を叩いてきたのは、俺が借金をお願いした時に「うちは余裕がない」と鼻で笑った親戚だ。

 彼らは血縁という魔法の言葉を盾に、俺の懐を虎視眈々と狙ってきた。

 一方で、俺には報いたい人間もいた。

「返さなくていいから、これで何か食べな」と、なけなしの五千円を握らせてくれた元同僚や、古い友人たち。彼らの金は、実質的なカンパだった。

 俺は彼ら一人ひとりを訪ね、借りた額の十倍、二十倍の「お礼」を包んで手渡した。

 対照的に、恩着せがましく寄ってきた親戚連中には、別の方法で金を払った。

 俺は裏社会に精通しているという噂のある連中を雇い、彼らに多額の報酬を支払って、親戚たちの家を「巡回」させた。物理的な暴力は振るわない。ただ、黒塗りの車が毎日家の前に止まり、強面の男たちが門の前でただ立っている。それだけで、守銭奴たちは震え上がり、二度と俺の前に姿を見せなくなった。

 二億円。それは莫大な金に見えたが、使い始めると底が見えるのは早かった。

 フェラーリを乗り回し、銀座や六本木のキャバクラで一晩に数百万円をばら撒いた。一食数万円の寿司やフレンチを詰め込み、最高級のホテルのスイートに泊まった。

 だが、一億円を使い切る前に、俺の心に猛烈な「虚しさ」が襲いかかった。

 金で買った女の笑顔は、札束の厚みに比例しているだけだった。

 最高級のワインも、あの水だけで過ごした一週間に飲んだ一杯の水道水ほどの感動を与えてはくれなかった。

「俺は、何のために生き残ったんだ?」

 俺は残りの金をすべて、匿名で児童養護施設や震災の義援金として寄付してしまった。

 手元に残したのは、わずか百万円。

 日本にいても、また有象無象が寄ってくる。俺はその百万円で片道チケットを買い、アメリカへと渡った。

 アメリカのスケールは違った。

 俺はラスベガスの街角で、再び吸い寄せられるように宝くじ売り場に立った。

「パワーボール」

 キャリーオーバーが重なり、当選金額は天文学的な数字になっていた。

 俺は運命に問いかけるつもりで、残った小銭でチケットを買った。

 結果は、当選。

 金額は、日本円にして約100億円。

 悪夢の再来だった。

 今度は「見ず知らずの絶世の美女」が、俺の子供を身籠ったと言って弁護士を連れて現れた。

 さらに、以前俺が寄付したことを知った世界中の団体から「俺たちにも寄付しろ」「お前は救世主だ」という脅迫じみた依頼が殺到した。

 善意で行った寄付が、今度は俺を縛り付ける鎖となったのだ。

「もう、真っ平ごめんだ」

 俺は逃げるように日本へ帰国した。

 だが、今度はその莫大な資産を狙うのではなく、「利用」しようとする連中が現れた。

 俺は身を守るため、そして今度こそ金を社会に還元して自由になるため、地元の市や県に巨額の寄付を繰り返した。インフラの整備、奨学金の設立、老朽化した病院の建て替え。

 すると、奇妙なことが起きた。

 俺を「郷土の英雄」と祭り上げる後援会が勝手に組織されたのだ。

 彼らは俺を神輿に乗せ、いつの間にか知事選への出馬を画策していた。

「あんたみたいな、死の淵から這い上がって、私財をなげうつ男に政治を任せたいんだ」

 熱狂的な支持者たちに押され、俺はあれよあれよという間に知事になってしまった。

 知事の椅子に座り、俺は一つの統計データに目を留めた。

 この県の自殺率だ。

 かつての俺と同じように、経済的な困窮や将来への絶望から命を断とうとする人間があまりにも多い。

 俺は真っ先に、ある「前代未聞の条例」を議会に提出した。

【生活困窮者および自殺志願者の宝くじ購入禁止条例】

 当然、議会は紛糾した。「個人の自由を制限するのか」「根拠は何だ」と。

 俺は議場に立ち、自分の経験を、震える声で語った。

「宝くじは、絶望している人間にとって『毒』だ。

 当たれば有象無象に食い物にされ、外れれば死への最後の一押しになる。

 宝くじに夢を託さなければならないほど追い詰められた人間には、紙切れではなく、温かい食事と、やり直すための居場所が必要だ。

 死を覚悟した者が買う宝くじに、夢などない。それは単なる『死への抽選券』だ。

 私は、県民に死を賭けさせてはならない」

 俺は県内の相談窓口を強化し、自殺を考えていると申し出た人間に対して、宝くじを買う代わりに「公的な就労支援」と「生活再建資金の貸付」をセットで提供する仕組みを作った。

 もちろん、その原資には俺が寄付したあの当選金が使われた。

 結果は、驚くべきものだった。

 条例制定から一年。我が県の自殺率は、全国平均を大きく下回り、激減したのだ。

 絶望した人間が窓口に来る。

「宝くじを買う金もありません。死ぬ前に、一度でいいから夢を見たかった」

 相談員は俺の指示通りにこう答える。

「知事からの伝言です。『夢は買うものではなく、明日を生きることで作るものだ』と。宝くじは売れませんが、今日の夕飯と、明日からの仕事なら用意できます」

 俺は今も知事室の窓から、夕暮れの街を眺めている。

 一時は死のうと思ったこの人生。

 宝くじで手に入れたのは、札束の山ではなく、「人は金で救われるのではなく、人との繋がりで生かされる」という、あまりにも当たり前で残酷な真実だった。

 かつて俺が渡ろうとしたあの鉄橋は、今では自殺防止のライトアップが施され、夜の闇を優しく照らしている。

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