第68話 魔道列車の車窓から
現役Bランク探索者の描く冒険小説第7弾!
わしはハーフリングのアンバー、Bランク探索者じゃ。
今回の事件はわしが恋人と夜のデートを楽しんでいたところ、突然フードを被った怪しい人物が襲い掛かってきたのが始まりだった。
新たなこん棒の力で返り討ちにしたわしがそやつのフードを剥ぎ取ると、現れたのは忍者服を着たワーキャットの少女。
涙ながらに語るその少女の口から飛び出してきたのは、大国を揺るがす大きな陰謀劇の一端だった。
義憤に駆られたわしは救いを求める少女の願いを聞き入れ、巨悪に立ち向かうことを決意する。
荒野の旅、誘拐された歌姫、そして迷宮都市での決戦。
わしの新たなる冒険が今、始まる。
その日、俺はがたりがたりと揺れる魔道列車の個室席でアンバーの書いた新作自伝風小説「わしとこん棒7」の原稿を読んでいた。
向かい合わせに座れる豪華なソファ席の向こうでは、小さな引き出し式のテーブルを前にアンバーが書き物をしている。
そしてミュールは俺の膝を枕代わりにして昼寝をしていた。
しばらくして原稿に一通り目を通した俺は、アンバーに読んだ感想を伝える。
「いい感じだね。これならクロに怒られることもないかな」
「ようやくハルトのGOサインが出たか。ふー、大変だったわい」
「まあ会ったこともない人物を主要キャラに入れろって言われても困っちゃうよね」
今回の「わしとこん棒」はいつにも増して史実からの改変を加える必要があった。
王様の娼館通いが原因でティアラキングダムが世界に誇る歌姫サクレアが誘拐されることになったなんて話が国民に知られたら、それこそ歴史に残る大スキャンダルだ。
だから調停者のクロからその火消しの一環として、アンバーの出版する自伝風小説に敵役としてのキャラを追加するように頼まれていた。
それはティアラキングダムの上級大臣のエガルトという羊獣人の男で、彼が宝物庫から国宝のジャイアントオーブを盗み出してガルムに与え、迷宮都市ジャスティンから得た上がりで私腹を肥やしていたという形にして欲しいということだった。
これは架空の人物ではなく実際にいる人間で、彼がそういった行為に手を染めて処分されたという新聞の報道がなされている。
ティアラキングダムは大国だから汚職に手を染める人間はいくらでもいるらしく、スケープゴートには事欠かないようだった。
「次の目的地に着いたら、ギルド本部経由でタヌヨシに原稿を送るとしようか」
手紙や小包を送る時はバードマン郵便を使うのが一般的だが、安全性や確実性を求めるのならギルド本部に頼むのが一番いいからな。
その分高い金は取られるが、俺達にとっては端金だ。
「アクアマリンに帰るまでもう少し時間が掛かりそうじゃからのう。早速、タヌヨシ宛ての手紙でも書くとするか」
アンバーはポーチから大きな封筒と白紙を取り出してさらさらと書き始めた。
俺も親父さんに手紙を送ろうかな?
……まだいいか。
ジンギスカンのタレの賞味期限はまだまだ先だし、親父さんとは直接会って色々な土産話をしたい。
手紙を出すのを諦めた俺は窓の外に広がる田園風景を眺めながら、膝枕で眠るミュールの短く切り揃えられたショートカットの赤毛から飛び出た赤い猫耳をいじって毛繕いを始めた。
王都ラブオデッサで行われたサクレアのライブコンサートから1ヵ月が過ぎた。
アクアマリンに客を送る予定を組んだファルコと別れた俺達は、魔道列車に乗り込み中央大陸南部にあるアモロ共和国を目指していた。
ティアラキングダムは中央大陸東部を丸々治めている大国だから、国内を移動するだけで何十日も掛かってしまう。
とはいえ急ぐ旅でもないので、俺達は停車駅のある街で満足するまで観光してから次の街へ移動する、というルーチンを繰り返していた。
そしていよいよ、このティアラキングダムでの旅も大詰めになった。
次の停車駅はティアラキングダム国境の街、ユーストだ。
午後4時頃、俺達の乗る魔道列車は大きなブレーキ音を立てながら駅に止まった。
窓の外には駅のプラットホームを行き交う人々の姿が見えている。
俺はまだ膝の上で眠っているミュールを揺すり起こそうとするが……。
「おいミュール起きろ。駅に着いたぞ」
「んにゃ……もう食べられないにゃ……」
「こいつ、夢の中でも飯を食っているのか」
俺はポーチからドライイツカデーツの入った小袋を取り出した。
アクアマリンを出る時にちょっと買いすぎてしまったので、俺のポーチの中にはドライイツカデーツがキロ単位で詰まっているのだ……。
俺が小袋を彼女の鼻の上で揺すると、くんくんと鼻を鳴らしたミュールがバッと齧りつこうとしたのでサッと躱す。
何度かそれを繰り返すと、ようやく彼女は目覚めたようだ。
「ハッ、あちしのイツカデーツはどこに行ったのにゃ!?」
「はいこれ、あげるよ」
「ハルト、ありがとうにゃ!」
小袋を受け取って中に入っていたドライイツカデーツをパクパクと食べるミュールを無視して、俺はアンバーに話し掛ける。
「アンバー、準備はできた?」
「うむ。忘れ物はないはずじゃ」
「よし、行くぞミュール」
「分かってるにゃ」
個室席の扉を引き開けて外に出た俺達は通路を歩くと、魔導列車の出入口にある扉を兼ねた小階段を下って駅のプラットフォームに降り立った。
さて、この街ではどんな出会いが待っているのだろうか。




