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第24話なことに気がつかない

互いに重要なことに気がつかない

 俺の住んでいるアパートが破壊されたらしい。

 おそらく俺がさっき生み出した眷属がやらかしたのだろう。


 俺は詳しい状況を探るべく光の神と三楓さんの通話に聞き耳を立てる。

 盗み聞きばっかしてるな俺。


『……で、なんとか浄化はできたんですけどアパートがマグニチュード8みたいな状態になっちゃってて……』


 浄化を終えているということは明日にはアパートは元に戻るわけか。

 問題は今日寝泊まりする場所だ。俺は、この店を一晩貸してもらえるかもしれないな。店主の楠木さんは妙に懐の広い人だから。

 一応今日店に泊まりたい旨のメールを打っておく。


 デスナは……まあ大丈夫だろう。絡まれた黒空さんの方が心配だ。

 三楓さんと増戸さんはどうするのだろうか。


「私は野宿でも構わないが、アサは友人の家に泊まる当てはあるのか?」


 おっと、友達の話は三楓さん傷つくやつだぞ。


『……あー、はい、ちょっとよく聞こえないですね。と、ところでマストさん私に用があったんですか?』


 雑な話題転換。


「ああ、君が戦った淫戯文天(いちゃもんてん)について連絡したかったのだが、無事に倒してくれたようでよかった」


『全っ然無事じゃないですよ! 本当に死ぬかと思いました!』


 死ぬかと思った、その一言で増戸さんは押し黙った。


『あれっ、聞こえてませんか? もしもーし』


「すまない。聞こえている。それよりも一つ、私は君に謝らなくてはならない」


『なんですか? まさか……いや、違うよね多分』


「おそらく君が想像する通りのことだ」


『え……!ま、まさか、やっぱり、私のことを好きになっちゃったんですか!? だ、ダメですよ神様これは禁断の恋ぃ~』


「そう、君を生き返らせるための最後のエネルギーを……って、え?」


『あっいえいえ冗談です……って、んんっ? あれっ、なんか今、私の聞き間違いかな、マストさん今、ええっと』


「君を生き返らせるための最後のエネルギーを、他の人間に使ってしまった。本当に申し訳ない」


 衝撃発言に次ぐ衝撃発言で今ちょっと俺が話の流れをつかめてないんだが。

 え? 俺を生き返らせたのって三楓さんになにかあった時用のやつで、完全に無駄遣いで、おいなんだそれ。


『はっ? はあああああああ?????』


 ふすまが震度2くらいの感じでカタカタ小刻みに揺れ始める。


「ま、待てっ、アサっ、な、なんだこの力は」


 扉越しに凄いエネルギーを感じる。

 これは伝達術を介して三楓さんから発せられているのか?


『私、じゃあ、あの時本当に死んでたかもしれないの? ねえ、どういうこと? どうして後から生き返る一般人に』


「アサ、一旦落ち着いてくれ」


『いや答えようよ。訊いてるんだからさ』


 さらに強い圧を感じて俺はその場に座り込む。

 似たものをどこかで感じたことがある気がする。


「彼が闇の使いを目撃している可能性が高かったから……いや、ただの言い訳だな」


『はい?』


「私は神として失格だ。私情を挟むなど……。本当は大夜くんを見捨てられなかったんだ。最後のエネルギーは君に使うべきだと解っていたはずなのに」


 えっ。


『……大夜くんって、紅葉大夜くんですか?』


 三楓さんの圧が止む。


「あ、ああ。アサの知り合いか?」


『なあんだ。早く言ってくださいよ! 紅葉くんだったら仕方ないですね』


 俺だったらいいのか?

 友達が少ない人間特有の比重の歪みというやつだろうか。


「しかし私は君に……」


『もー。大丈夫だってば。気にしすぎじゃないですか?』


 三楓さんの手のひら返しっぷりに眩暈がする。

 闇の方が向いてるんじゃないのか?

 俺と代わってほしいくらいだ。


『それより今日泊まるとこの話なんですけど、マストさんが野宿なら私も一緒に野宿しようかなって。今ちょうど公園にいるんです』


「わかった。仕事が終わり次第そちらに向かおう、それでは」


『お早めに~。ガチャン、ツー、ツー、ツー』


 通話が終わったらしい。

 増戸さんが部屋から出てくるのを察して、俺は店の方に戻る。


「待たせたね」


「……いえ、スマホを見ていたので」


「私がどうやって通話をしていたか聞かないのかな?」


「別に」


「他にも気になることは山のようにあると思うのだが。変わっているな」


 ここで俺が興味を持たないのは不自然だと言いたいのだろうか。


「……険しいと判っている山に自ら突っ込む人間がいるとすれば、そっちの方がよほど変わっていると思います」


「その喩えは適切ではないな。君は自然が好きなように見える」


 確かに自然は好きだ。

 仮に山の大自然の中で死ねるというのならそれもきっと悪くはない。


「先に山に喩えたのは増戸さんですけどね」


「違いない。私からも聞きたいことがあるんだが、アサ……三楓有沙とは知り合いか?」


 三楓さんと俺の関係を気にしているのか。

 どう答えるのが正解なのかわからない。


「ええ……高校で同じクラスですね」


「仲は良い方かな?」


「……よく知らないです。会ってまだ2日なので」


「2日か。私と君は会ってから6時間程度だが……」


「仲が良いと思ってます?」


「厳しいな君は」


 笑って見せる彼の体調は未だ悪そうに見える。

 多分さっきの通話で悪化してる。


「やっぱり早退した方がいいんじゃないですか?」


「迷惑ではないか?」


 いやここでまた倒れられた方が迷惑だから早く帰ってほしいという気持ち。


「どうせ客も来ないんで。それにここ時給だから6時間分のバイト代は出ますよ」


 すなわち4800円。

 ほぼなにもしてないにしては充分な賃金だろう。


「悪いな。ではお言葉に甘えるとしよう」


 俺はレジの金を増戸さんに手渡した。

 この店では店員がレジから直接バイト代を抜き取るスタイルだ。

 めちゃくちゃ性善説に則ったシステムである。


「今日はいろいろと世話になった。ではまた明日」


 増戸さんが去り、再び店内には静寂が訪れる。

 それから数十分が経過した。


「ウイーン」


 自動ドアの開閉音を口で発しながら入店する男が一人。

 そんな奇特な人間は日本に3人もいないだろう。


「おおいっ! てめぇ俺になにしやがった!! 慰謝料を払え慰謝料を!」


 俺が淫戯文天に作り替えたクレーマーである。名前は忘れた。

 浄化されて戻ってきたんだな。


「お客様、どうされました?」


「トンボを蹴ってんじゃねえぞてめぇ! この店に入ってからいろいろとおかしいんだよっ! あぁっ?」


 男は俺の胸ぐらをつかむ。

 仮にも闇に飲まれていたのにこれほど元気だとは感服だ。

 三楓さんの浄化能力の高さゆえなのだろうが。


「失礼ですが今日はお客様が一人もいらしておりません」


「ふざけんなっ! ツヅッターに書き込んでやるからなぁ!」


 ツヅッターとは文章などを140文字以内でつづれるSNSである。

 要するにツイッターだ。


 こんな奴の戯言を信じる者などいないだろうが、不特定多数の人間の目に触れて、その中に夢を覚えている人間がいたら面倒過ぎる。消そう。


 俺は体内から闇を放出する。

 男のつかんでいた右腕はドロドロに溶けた。


「んああああ!!??」


 男が錯乱した声を上げる。


「こ、こうなったら医者に診てもらう! 医者料もよこせっ!」


 闇を放出した時に妙な違和感があった。

 自分の中にまったく違うものが混じっているような……。


「……確かめるか」


 男を闇の泡に包み込む。

 中の声は聞こえないが、出ようと必死にもがきだした。その姿は滑稽だ。


 俺の体内の異物を、泡に向けて放出する。

 緑色の衝撃波が発生し闇の泡を中の男ごと完全に消滅させた。


 これは……光の力か?


 考えられない。

 俺は闇の神に目をつけられる程度には闇の力の強い人間であるはずだ。

 光の力を得てしまうなんて信じがたいことだが……。

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